2096.総選挙の行方



「小沢VS小泉 総選挙の行方」

◆小沢の始動
民主党は、副代表小沢一郎の発案で、25日首相小泉純一郎に両党の党首討論の申し
入れを行った。
同夜、小泉は「政党は民主党だけではないから。他の党に失礼でしょう」と記者団に
語り、翌日自民党は文書で正式拒否を回答した。

8日の郵政民営化法案の参院否決を受けた小泉の衆院解散により始まった事実上の選
挙戦は、自民党が造反組へ刺客として著名女性候補の「くノ一」やホリエモンを送り
込み、亀井静香や田中康夫が新党を立ち上げる等一連のワイドショーの好餌となる騒
動がここに来て一段落した。

この騒動の中で、民主党は埋没し、郵政民営化のためなら「殺されてもいい」と言い
切ったと伝えられる小泉率いる自民党は、支持率で民主党を大きく引き離した。
これに危機感を持った小沢は、TV、新聞、雑誌等複数のマスコミに連日登場し、形
勢逆転を図ろうとしている。

両党の党首討論申し入れに対して、小泉の「選挙戦術の一環でしょう。野党は自分た
ちだけだと際立たせたいんでしょう」とのコメントに対し、主要マスコミには同調す
る所が多い。
それを受けながらも、小沢はアメリカ大統領選も泡沫候補抜きに共和・民主両党で何
度も公開討論を行う。それが2大政党制の常識と繰り返し強調し、小泉の逃げの姿勢
を国民に印象付けようとしている。

実際には、郵政民営化で一点突破しようとしている上、年金問題を含め広範で深い政
策論争が得意でない小泉が今後もこの挑発に乗る事はない。
それを百も承知ながら、恐らく小沢は投票日前日までしつこくこれを押して行くつも
りだ。

◆郵政民営化論争
また小沢は、郵政についての自ら属する民主党がマニフェストに書いた政策である公
社制維持、郵貯簡保の規模縮小半減化についても、もっと明確に郵政の将来像・最終
形を示すべきとの指摘を表明している。

郵政改革については、小泉・竹中の3事業分離民営化、亀井等の現公社制維持・財投
資金の使い方側からの見直し、そして民主党の公社制維持、郵貯簡保の規模縮小半減
化と各々の政策がある。

小泉・竹中案は、郵便事業を2兆円の基金を創設して支えたり、郵貯・簡保を新旧勘
定に分ける等の安全装置がついている。
しかし曖昧さが残り、郵便ネットワークが本当にこんな仕組みで維持されるのか、何
の運用ノウハウもない役人上がりや国益意識の希薄な外部コンサルタント企業等に3
40兆円を任せてしまって外資等に騙し取られかねない不安が常に付き纏う。
また、騙し取られないながらも事業で収益を上げて行く事は至難の技であろう。
しかしながら、一番分かり易く、特殊法人の無駄遣いで業を煮やしている国民の溜飲
を下げ現在もっとも支持される案となっている。

亀井案は、過疎地域の郵便局や低所得者への郵貯・簡保サービスを残すには現状最も
有効である。
しかし、将来市場金利が上昇し国債価額が下落した場合のリスクと、国が補償してい
る財投債を残し使い方側からの見直しだけで本当に特殊法人が健全化するのか、市場
からの自力の資金調達をさせる必要があるのではないかとの疑問への有効な回答が無
い。
地方では一定の支持をされているが、守旧的イメージにより全国的な大きな支持は得
られないだろう。

民主党案は、郵貯・簡保の資金を預入れ限度額引き下げと名寄せによる規模縮小で半
減させる事により、最もスムーズに民間に資金が流出するだろう。
しかし、そのタイミングと進行速度を常に見張ってコントロールして行かないと、こ
の事自体が原因で国債の暴落を招きかねない。
また、資金規模が縮小し収益が減れば公社職員の人員削減、給与水準引き下げは避け
て通れない。これが連合に支援される民主党に本当に行えるのかの疑問が残る。
天下り先の縮小という意味で総務省の官僚が最も嫌う案ともなっているが、小沢が指
摘する様に公社の最終的な姿が示されず、小泉・竹中案に較べて各段に切れが悪く、
国民の支持では大きく引き離されている。

小沢は、私案と断りながらも郵便事業の公営維持、郵貯・簡保の段階的廃止もしくは
大幅に規模縮小した上での民営化を掲げる。
恐らく、これが小泉・竹中案に唯一対抗できる切れ味を持っているだろう。

なお、筆者は、小沢案に加え郵貯・簡保の廃止と同時に、低所得者や過疎対策として
極く限定された同様のサービスを別途立ち上げ民間に委託し公費で補助する等の仕組
みが必要だと考えるが、これは余談である。

◆9・11の対決
小沢は、投票日までの短い期間にも小泉を追い詰めるために二の矢、三の矢を次々に
繰り出してくるだろう。
小泉には、歌舞伎やオペラで培った外連味と華がある。
一言居士的に一途な姿勢を演出し、一刀両断的な短い言葉で国民とマスコミを惹き付
け流れを作り出す力は永田町で頭抜けており、一種政局の天才である。
また、一言で政敵に打撃を与え葬り去る技術は、政界の狙撃手と言うのに相応しい。
敢えて言えば、同様の能力を持った政治家に野中広務がいたが、対立する小泉の前に
敗れ去り既に政界を去った。
小泉は、言わば孤高の剣術家や芸術家タイプと言える。

これに対して、小沢の行動パターンは、得意とする趣味の囲碁のように方々から手を
回し、敵の外堀を埋めて行くような地道な手を打つ事を基本とする一方、一転閃きに
より軍配一つで戦術を切り替え、あるいは敵を欺くに先ず味方を欺き少数側近にだけ
作戦を知らせ鬼面人を驚かす奇襲を掛けたり、敵を籠絡分断して一方と結んだりする
所にある。
恐らく本人は、良くも悪くも戦国武将のようなノリで政局を作ろうとしている。
と同時に、「国連至上主義者」と揶揄されるような理想主義者的な面と上述の超現実
主義者の面が同居している所に小沢の最大の特徴がある。

亀井静香の新党と田中康夫の新党立ち上げにも、小沢が深く関わっていると一般から
見られている。
筆者は、先日TVで亀井が「政治の要諦は理念と政策」と言っているのを聞いた。何
の変哲の無い言葉だが、これは小沢が最も敏感に反応する言葉の一つだ。
新党立ち上げについてはともかく、選挙後の政局について二人は完全に平仄を合わせ
ていると見て良いだろう。

小沢は、ここ2、3年のうちに国際情勢とそれを受けた内政で大きな変化があると見
ている。
ある筋によると、少し前に小沢は東アジア情勢を分析して、中国大陸で起こるであろ
う分裂状況を前提に「国連待機軍として日本が中国大陸の混乱を収める時の首相で居
たい」と言ったという。
信憑性は不明だが、この発言はその是非を含め注目に値する。

9・11の総選挙投票日は目前に迫った。
ワイドショー的な視点を離れ、明日の日本の国益と世界の行方に関して、小泉率いる
自民・公明党連合が相応しいのか、小沢が結集を目論む民主党始めとする勢力が相応
しいのか国民、マスコミ、識者は重い選択を迫られる。
(敬称略)
                                             以上
佐藤 鴻全
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片岡鉄哉のアメリカ通信【LITE版】

絶大な力をもっていた橋本派を、その力の源を絶って追い詰め、今
回の選挙で、抵抗勢力の一掃に絞って大勝負に出た小泉総理の
この大勝負について、8月16日の朝日新聞の以下の記事を紹介し解説
しています。

              「ここで話は、郵政法案の参院採決のほぼ1時間前
、8日昼の官邸執務室の場面となる。首相と二人で向き合った麻生
氏はまさに緒方(竹虎)氏の役回りだろう。……反対派が時流に乗
っているとは思えない。だから首相にただすべきは、選挙で民主党
に勝てる自信があるかどうか。
       「当然『勝てる』という言葉が返ってくると思ったが、予
想は大きく外れた。『それは博打(ばくち)だよ』。麻生氏は驚き
、確認せざるを得なかった。……では、選挙に踏み切るのは民主党
と政権を争うというより、内なる抵抗勢力を一掃するためのものな
のですか。『うん』。続けて声を強めて首相は言ったという。『麻
生さんは明智光秀にならないでくれよな』」。
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財投債               YS  

 「財投債は、財政投融資制度改革に伴い、特殊法人にお金を流す
新たな入口として用意された国債のこと。」ですよ。

それにしても小泉とメディアが作り上げた賛成派、反対派の構図は
極めて疑わしいですな。
下記野田聖子の最近のコメントがキャッシュでしか読めないのも不
思議。念のため貼り付けておきます。

(貼り付け開始)
その2 公約1『ゆるがぬ信念 日本の再建』 

日本の再建で一番大切なことは国の借金を減らすこと。
現在 一人あたり800万円の借金を国民全員が背負っている。
この借金の返済、つまり財政再建・財政構造改革こそが構造改革の
本丸。

1.『官から民へ』の疑問
小泉政権の下、今年度は41兆3000億円の財投債が発行。財投
債は、財政投融資制度改革に伴い、特殊法人にお金を流す新たな入
口として用意された国債のこと。

今年は、この財投債が去年よりも10兆円多く発行された。
郵貯・簡保は、平成13年度から7年間、それまでの財政投融資制
度の廃止に伴う影響を考え、激変緩和措置として、この財投債を購
入しなければならない。
他方、民間金融機関も毎年、10兆円を超える財投債を引き受けて
いる。
公社であっても、民間であっても、政府保証のついた財投債が発行
される限り、民(国民)の資金が財投債の購入を仲介して、特殊法
人に流れ続けることに変わりない。
民から官への流れを逆転させ、民から民に資金を流すもっとも効果
的な方法は、財投債という入口をなくしてしまうこと。
                           
2.『民ができることは民に』の疑問
民ができることを民で行うという基本は正しい。
公務員は民間人と争うために働く必要はない。民営化ありきの経営
手法に傾き、いまの日本郵政公社は、銀行、生命保険会社、物流会
社ができることに手を出しすぎる気がする。本来は、民間企業が利
益第一の観点からできないことをするのが、公社の存在理由。

いざというときの最低限の備えとして、貯蓄したり保険をかける。
投資もいいが、守りのお金を必要とする人のための窓口が郵貯であ
り、簡保であるべき。
どんな分野でも、ライフラインやセーフティーネットは公が提供す
べき重要な役割。金融分野について、日本郵政公社がその使命を果
たすことは今後、不要なのか。

公社が民営化されれば、金融分野最大のメガ企業となる。それとの
競争に、地元密着型の中小金融機関は生き残れるか。民間企業の市
場競争さえ行われれば、身近なライフラインの選択肢や万一のセー
フティーネットを国民はいらないと考えるのか。

3.公と民の共生システムにむけた構造改革の提案
日本郵政公社は、民にはできない、する義務のない公共の役割を担
っている。
だからといって、今のままのあり方でいいわけがない。郵便事業の
先細りからみても、公社の今までどおりの運営では厳しさが増すの
は自明のことだ。
だからこそ、今、考えなくてはいけないのは、この公社をどう改革
し、公共の役割を担わせつつ、これまで通り、国民の税金を一切使
うことなく運営していくかということだ。
政府の郵政民営化関連6法案の対案として、今年の6月、亀井久興
および藤井孝男の両(前)衆議院議員を提出者として、『日本郵政
公社改革法案』を提出した。残念ながら、自民党国会対策委員会に
おいて、同法案は郵政民営化特別委員会で議論されることもなく封
印。自民党現執行部の典型的なやり方であった。

来年をピークに、日本の人口が減り始める。若い世代が漸減し、高
齢者の比率がますます増大。放置すれば、現役世代の負担が過重に
増えることは避けられない。
しかも、長らく一億総中流意識を分かち合ってきた日本社会の中に
、人々のあいだの「格差」の広がりが同時進行しつつある。それも
、若い世代に。
そんな時代だからこそ、『公』の役割が期待される。すべての国民
に対して最低限の安心と安全の提供をする公が必要。公の日本郵政
公社と、民の銀行、生命保険、物流会社がそれぞれに健全に自立し
、互いの役割分担の上に互いを補完しあい、全体として力強い社会
を作るべき時代に、日本は他国に先駆けて突入した。
世界に前例のない人口減少国家となる日本に今、必要な構造改革は
、公と民が共生する社会システムの構築を目指すものであると、私
は強く主張したい。

1.財投債の発行をやめる。 
→ 特殊法人は自前の財投機関債発行を中心に運営。
住宅や教育、中小企業育成、NPO育成のための証券化を進め、財
投債購入に充てられていた民間資金を証券化市場に流す。民が潤う
証券化を促進。                   
2.日本郵政公社改革案を同時に議論、実現する。
→ 民業圧迫業務分野の縮小と、ワンストップ行政サービス拠点化
の推進。

今後、10年間も様子を見たり、場合によっては抜本的な見直しさ
え強要されかねない郵政民営化6法案の対案として、私は有権者の
皆さんに上記2案を提案します。

(貼り付け終了) 
==============================
そうそう、郵便金融会社について、株式の連続保有について、
誤解しておるかもおられるかもしれないから、少し書いておこう。

連続保有は、金融会社の株を国(正式には郵政持ち株会社)が全部
売却するのではなく、一部を持っていてもいいのではないかという
議論が自民党内にあった。
しかし、これは、一度完全売却することが、「絶対に譲れない」と
いう線が、竹中郵政民営化案の中心でじゃった。
そして、竹中の答弁では、<10年間>で、<完全に売却>した後
に、持ち株会社等が、資金の運用上、ポートフォリオ的投資として
、株式を買い戻して所有しても構いませんよという意味の修正を加
えたんじゃったな。つまり、経営権に関与するのではなく、それの
売買から利益を上げたり、配当を受ける分はかまいませんよちゅう
もんじゃった。
こんどは、買い戻し資金はどこからでるんじゃろうね?

つまり、国が、経営に関与すると、国の信用がそのまま民営会社に
残るので、他の民間会社との競争上不利益になるので、それを<絶
対に遮断>しなければならないというのが竹中の正式な答弁じゃっ
た。

そういえば、この前、3兆は国庫に入ると書いたが、あれは間違い
かもしれぬ。なぜなら、預金保険機構にお金を積まなきゃならんし
、払い戻し準備金もいるし、民営化に伴う諸費用。本部費。コンピ
ューターシステム費、プログラム費。。。なんやかんやで数兆かか
るかもしれんのう。で、それらが整ったところで、本格的に売りに
だされる。

これは、おいしいぞ〜。
今は、国と一体だから、政府・特殊法人内の不良債権と、預かりは
いわば表面化しないでちゃらであるが、民営化すると、まったく不
良債権・資産の無い(全部政府保証付き=国債=国民の未来の税金
じゃからね)最新システムの銀行が誕生する。で、不良資産化した
モノは、政府内に残る(この銀行の債務として)

どちらかといえば、明治期にあった、「国有物の払い下げ」に似ち
ゃおらんかね。(外資の持ち株比率を20%以下にするなんて案も
でたが、当然これは認められなかったがね)

               虚風老

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