1418.米国の戦略検討



アメリカの対テロ戦略論の見直しと政権転覆

                2003.10.12
                DOMOTO

 9.11以降、戦争空間に新たな次元軸が現出した。
 非対称戦争、非対称軸だ。この次元軸を再発見し、戦争戦略とし
て重点をおいて立案した戦争計画は高い効果を収める。
 仮に国家間戦争の展開を2次元空間での展開としてみる。すると
ネオコンはレーガン主義を発展させたにとどまるもので、2次元空
間(国家間戦略論)での戦争戦略を展開している事においては、従
来のペンタゴンのそれと異なるところが一切ない。 

 イラクの現状を見るまでもなく、9.11以降、アメリカを敵とす
る国家、テロ組織は非対称戦争(テロ戦、ゲリラ戦)を計画的に組
み込んだ戦争計画を立案している(アルカイダ、イラク、イラン、
サウジアラビア、シリアなど)。このボーダーレスな組織による戦
争戦略は、いわば国家間戦略論という2次元空間を超えた3次元空
間での戦争なので、リチャード・パールなどに代表される20世紀型
のオールド・タイプの戦略家に対処能力はない。 
 というよりは、対テロ戦略論自体、確立された方法論は軍事的に
未知の領域であり、軍事力のみを駆使してそれを考究するのは不可
能、限界だ。アメリカ・ブッシュ政権は中東戦略を根底からその方
向で再構築する必要がある。結論として、対テロ戦略では軍事力の
みの解決は不可能だ。 

 アメリカが中東を改造しようと考えるのなら、「軍事力による政
権転覆」ではなくて、「国民内部からの政権転覆」をCIAなどを使っ
て行うべきだろう。中東地域での専制国家政府による国民への情報
操作に対抗する、アメリカによる大規模な情報操作、あらゆる手段
を使っての大衆操作など、この点からすれば、冷戦時代に共産圏の
拡大を狙った旧ソ連KGBの情報工作に学ぶべきものが大きいはずだ。
今度は「共産化」ではなく「民主化」を狙う。
 「軍事力による政権転覆」よりもこの方法の方がはるかに低コス
トで、時間的に比較した場合、社会秩序の混乱・膠着状態を避け、
短くて済むのではないか。
 先に挙げたリチャード・パールは北朝鮮攻略で「国民内部からの
政権転覆」としての情報工作、情報操作を画策しているといわれる
。もちろんCIAにもそのノウハウの蓄積はある。 

 対テロ戦略とは、基本的にはテロリズムに対抗することではなく
、テロの温床を作り出しているアラブ専制国家群の政権転覆を図る
ものだろう。アメリカによるイラクでの失敗は、「軍事力による政
権転覆」は中東では不可能なことを教えている。  

DOMOTO
http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html
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シリア空爆に見るイスラエル・米国の中東戦略
 
                  2003.10.16
                  DOMOTO

 1996年に、リチャード・パール、David Wurmser(ボルトン国務次
官の補佐官)ら現在のブッシュ政権周辺の要職にある8人によって、
イスラエルの研究機関から “A Clean Break”というタイトルの提
言書が、当時のネタニヤフ首相に出ていた。この “A Clean Break
” はアメリカが画策する中東での「民主化ドミノ理論」の原案とさ
れている。この論文の中ではシリア攻略に多くを割いている。
 中東改造を目的とするこの論文は、イラクにおけるサダム・フセ
イン失脚とハシミテ王制樹立を第1段階として、次にトルコとヨル
ダンとの協力によってシリアを弱体化させ、イスラエルにとって周
辺国での戦略的環境を形成しようというものだ。 

Israel can shape its strategic environment, in cooperation with 
Turkey and Jordan, by weakening, containing, and even rolling 
back Syria.
http://www.israeleconomy.org/strat1.htm 

 今年3月、トルコ国会はイラク攻撃のための米軍の国内駐留を認
める政府案を否決したが、結果的に、期待していた米軍のトルコ側
からのイラクへの軍展開は実現せず、作戦の大幅な変更を余儀なく
された。これはウォルフォウィッツなどにもかなりの誤算であった
ようで、アメリカは同盟国トルコを中東における戦略上の要として
いた。 

 トルコ政府は10月6日、イラク派兵を閣議決定し、国会が翌7日
これを承認した。トルコ軍はイラク中部地域に派遣される予定。
今回の派兵要請に絡み、ブッシュ政権は経済支援名目で総額85億ド
ルの融資をトルコに行う事で合意しており、トルコ軍がイラク駐留
の英軍とポーランド軍に続く第三の主軸部隊を形成するとの期待を
している。(10.9 産経) 

 これとほぼ同時的に、イスラエル軍は10月5日、シリア領内にあ
るパレスチナ過激派の訓練キャンプを空爆した。

 ハシミテ王制樹立はなかったが、フセイン政権崩壊後、「トルコ
とヨルダンとの協力によってシリアを弱体化させる」という 
“A Clean Break” のシナリオは実現可能になった。シリアの次は
その支配下にあるレバノンを叩く。
 イスラエルは、トルコ、インドとともに、
“The New Triple Alliance” (「新しい3国同盟」)を外交政策
として掲げているが、下記の中東地図を見ても明らかなように、ト
ルコが動くことにより、シリアはイスラエル、トルコ、イラク、ヨ
ルダンと、イスラエル・アメリカによる包囲網の中に完全に封じ込
められる。

 http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/tyuto.2.jpg (地図)

 私は、10月13日付け共同通信の記事についての、神浦さんのシリ
ア空爆のコメントで “A Clean Break” を思い出したが、イラクの
次はシリアというのは7年以上も前からリチャード・パール達の頭
の中にあった。
 http://www.kamiura.com/new.html 

 また、イラク戦争前からブッシュ大統領はシャロン首相とともに
、イラク戦争後としてシリアとイランへの強硬策を考えた発言をし
ている。
 http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/tyuto.2.html 

 米下院外交委員会は10月8日、「テロ支援国家」シリアに対する
制裁法案を可決した。制裁の内容は、武器と武器製造に使用される
可能性のある製品の輸出の全面禁止のほか、6項目より成る。

 シリアはイランとともに、“Iran,Syria:axis of terror”「テ
ロの枢軸」(ワシントンタイムズ)と呼ばれている。
                             

参考文献

“A Clean Break”    The Institute for Advanced Strategic 
and Political Studies (1996)
http://www.israeleconomy.org/strat1.htm

“Playing skittles with Saddam”    Brian Whitaker  (2002.9.3)
http://www.guardian.co.uk/elsewhere/journalist/story/0,7792,785394,00.html
 
DOMOTO
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件名:「悪夢」のただ中にある韓国  

米政権の“空想の産物”の犠牲に・誤った対北政策が及ぼす重大な影響
官僚たちが作り上げた世界観

 自分が作り上げた空想にとらわれてしまって、身動きができなく
なってしまう、ということはあるだろう。だが、他人が作り出した
空想にとらわれるとなると話は違ってくる。
 状況ははるかに悪くなる。今の韓国はその悪夢のただ中にある。

 米政権の世界観、つまり官僚が作り上げた空想の産物の犠牲とな
っているのだ。ブッシュ大統領と新保守主義者(ネオコン)が政権
入りするずっと前、ワシントンはカンパニ
 ータウン(企業城下町)だった。当時は小さなカンパニータウン
だった。ところが、ネオコンは立派な帝国の首都にしようと考えた
。それでも依然、カンパニータウンだった。

 このカンパニーとは政府のことだ。ここで作り出されるのは、資
金と権力。両者は密接に絡み合い、ブッシュ政権になってからは、
どちらがどちらか全く区別がつかなくなってしまった。

 町の情報源が、年を追うごとに確実に少なくなっている。高級な
新聞が消え、ニュース放送は娯楽放送になり、雑誌は情報を伝える
というよりも、イデオロギーの伝達手段となった。米国以外からの
情報には、ほとんど誰も関心を払わなくなり、「敵対的なもの」と
さえ見なされるようになった。

 その結果、世界で何が起きているのか、本当のところを知る者は
いなくなってしまった。
 この分野で働いてきた外交官、知識人、経験豊かなジャーナリス
トらは、政策立案のプロセスからますます切り離されている。(崩
壊してしまったソ連を専門とする大学事務官だったライス大統領補
佐官が急きょ、ラムズフェルド国防長官に代わりイラクとアフガニ
スタンを取り仕切るようになっているようだが、偶然とはいえ、こ
のことも非常に重要なことだ。残念なことと言わざるを得ない。
冷酷な官僚主義をうまく切り抜けられる人物、イスラム世界に直接
触れ、その事情に通じた人物をどうして据えられないのか)

北の「軟着陸」を望む近隣諸国

 ワシントンにいる人々は、自分たちは情報に通じていると思って
いる。だが本当は、それは「作り話」で、国際情勢に関する情報は
限られ、思想の影響を受けている。しかも、ステレオタイプ(紋切
り型)で先入観に満ち満ちており、事実に基づいてきちんとしたチ
ェックを受けることはほとんどない(官僚制の中で、ますます政治
化の度合いを強め、危険でもある)。

 その最新版が、イラクで徘徊(はいかい)する大量破壊兵器の亡
霊、半ば押し付けられたような民主化の夢だ。いずれも、ブッシュ
政権を支配する「作り話」から生まれたものだ。その「作り話」と
は、テロの脅威が至る所にあるという主張、悪の枢軸、ならず者国
家だ。これを基に、政策が作られ、時にはまったく異質のものが生
まれたりする。

 韓国は五十年間、厳しい地政学的状況にある。その問題点は韓国
自身が、誰よりもよく分かっている。北朝鮮は、偏執狂的全体主義
国家であり、経済は崩壊の危機にある。核兵器製造能力があるとも
っともらしく主張し、弾道ミサイル製造能力のあることは実証済み
だ。

 韓国は、核兵器の攻撃を受けることはまずないとみている。攻撃
があるとすれば、北が攻撃を受け、それに対して報復する時しか考
えられないからだ。

 北朝鮮政府は、思想的に孤立し、米国を極度に恐れ、国外で起き
ていることに関してあまり知らされていない。だが、自暴自棄にな
るとは考えられない。国家挙げて、支配層の生き残りのために奮闘
しているからだ。韓国は、北朝鮮政権が崩壊することを恐れている
。これは、中国も日本も同じだ。

 空腹を抱え、破れかぶれになった数百万人の難民が押し寄せ、国
内が無政府状態になる可能性があるからだ。このような格好で「統
一」がなされることは、とてつもなく恐ろしいことであり、韓国の
安定を損ない、現状が維持できなくなることもあり得る。これは地
域内の他の国々にとっても同様だ。韓国は、北朝鮮の政権と経済が
解放されることを望んでいるが、それが徐々に起きることを望んで
いる。近隣諸国が、穏やかで思いやりのある姿勢を見せながら、経
済的、政治的影響力を行使し、それを受ける形で解放はなされるべ
きであり、国際的には、北の改革への意欲を高めさせながら、政権
への圧力を減じていくという方法が取られるべきだと考えているの
だ。

交渉のテーブルを蹴散らす

 しかし、韓国政府もアジアの近隣諸国も現状を掌握していない。
だが米政府は結局、現状を掌握することになった。これは、米国が
望んだからではなく、米国のならず者国家の「作り話」の一部に北
が含まれ、三万人以上の米兵が駐留しているからだ。

 クリントン政権は、韓国が、日本、中国とともに、自ら判断を下
し、アメ(「太陽政策」ともいう)とムチを適当にミックスして、
金正日氏に対処させた。成果はほとんどなかった。北が、言い逃れ
をしながら、合意をかいくぐってきたからだ。それでも、それ以前
よりは良くなっている。確かに良くなっている。

 そしてブッシュ政権となり、交渉のテーブルを蹴(け)散らして
しまった。米国は脅しに屈することはないと言い、金正日氏の容姿
が気に入らない、とまで言い放った。北を悪の枢軸と呼び、イラク
が片付けば、次は北朝鮮に行く、とほのめかした。

 米国は、北に対して防波堤の役割を果たし、韓国を守ってきたが
、北朝鮮国境からの撤退を計画し始めている。その上、米国は一個
師団をイラクに送り、米軍を補助するよう韓国に求めた。韓国人は
、何とかしてこの悪夢から目覚めたいと願っている。
在仏米コラムニスト ウィリアム・ファフ・世界日報 ▽掲載許可済です
Kenzo Yamaoka
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件名:イラク戦争の是非めぐり議論噴出−米国  

あくまで強気の大統領/対テロ戦争勝利へ決意揺るがず
「WMDはなかった」報道が独り歩き
 米国では改めて、イラク戦争の是非をめぐる論議が活発になって
いる。イラクの大量破壊兵器(WMD)の捜索に責任を持つ米調査
団長のデービッド・ケイ中央情報局(CIA)特別顧問はこのほど
、これまでの調査結果をまとめた中間報告書を議会に提出。これを
受け、米主要紙が「WMDは発見されず」などと批判的なトーンで
報道する一方で、ブッシュ米政権首脳も積極的に巻き返しを図って
いる。(ワシントン・三笘義雄・世界日報)

 「われわれはサダム(フセイン大統領)を含む旧フセイン政権幹
部が、将来のある時点でWMD製造を再開する意図があったことを
示す実質的な証拠を発見した」

 二日、議会に中間報告を提出したケイ・CIA特別顧問は語った。

 「現時点では、(大量破壊)兵器の現物を発見していない。だが
、兵器の現物がないと結論づけたのではない。広大な国土で、まだ
たくさんのやるべきことが残っており、現時点でわれわれがまだ発
見していないということだ」と述べ、WMD発見に楽観的な見通し
を示した。

 ところが、中間報告の提出を受け、米主要紙は「イラクでの捜索
で禁止された兵器見つからず」(米紙ワシントン・ポスト)、「イ
ラクの不法兵器は発見されず―米査察官が議会に報告」(米紙ニュ
ーヨーク・タイムズ)などの見出しで報道、「WMDはなかった」
とのイメージが独り歩きした。

 民主党のナンシー・ペロシ下院院内総務は「(イラクの)WMD
の脅威には、根拠がなかったということだ。戦争を始める前に外交
努力を行う余地があったのは明らかだ」と語り、イラク攻撃を決断
したブッシュ大統領を批判した。

 こうした中、米政権サイドも反撃に転じ始めた。

 パウエル国務長官は、七日付ワシントン・ポストに寄稿し、秘密
の生物化学兵器研究施設やミサイル開発計画、WMD開発の証拠隠
滅など、中間報告で明らかになった事実を紹介しながら、「フセイ
ン(政権)は、国連安保理決議に対する重大な違反を続けていた」
と指摘。「(フセイン政権は)悪の政権だった。(化学兵器でクル
ド人五千人を殺すなど)自国民を殺害し、安保理決議に違反し、世
界の平和と安全にとって脅威だった」と述べ、フセイン政権打倒は
「正しかった」と結論づけた。

 ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)も九日に行った講演の
中で、「昨年の冬に、(中間報告で示された事実の)一つでも明ら
かになっていたならば、安保理はブッシュ大統領とまったく同じ選
択をしていただろう」との見方を示し、イラク攻撃を批判する声に
反論した。

 一方、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト両紙は十二
日付社説で、改めてイラク戦争の是非についての見解を明らかにし
た。

 タイムズ紙は「イラクの脅威は差し迫ったものではなかった」と
して、軍事攻撃ではなく国連による査察で十分だったと主張してい
る。

 イラクのミサイル開発について、同紙は、国連査察官に発見され
るのを恐れ、イラク側がミサイルの試験台やエンジンを地中に隠し
たことに触れながら、「大量の土砂に埋もれた設備は、当面の脅威
とはいえない。埋められたという事実からしても、ミサイル開発は
、軍事攻撃がなかったとしても、積極的な査察によって十分阻止さ
れ得るとの見方を補強する」と、非常に物分かりのいい議論を展開
している。

 ポスト紙は、「周辺国に侵攻し、化学兵器を使用し、生物・核兵
器を追求した」イラクは「度重なる脅威」だったとして、「イラク
戦争は必要だった」との立場だ。その一方で、ブッシュ政権のイラ
ク復興策についての注文も忘れていない。

 「ブッシュ政権は、より広く国際的な枠組みをつくることで(イ
ラク復興の)成功の確率は高まるだろう。そのためには、イラクの
政権移行や再建契約などについて、(米国の)独断専行を改めなけ
ればならない」などと“忠告”。イラク再建の成功は、ブッシュ政
権と議会の「政治的な勇気と外交手腕」にかかっていると述べてい
る。

 ところで、ブッシュ大統領はあくまで強気だ。

 「私が行動を起こしたのは、米国民の安全を血迷った男(フセイ
ン元大統領)の手に委ねるつもりはなかったからだ。われわれは、
最も迅速、かつ“思いやり”のある軍事作戦で、脅威を取り除いた
」(九日、ニューハンプシャー州で)と胸を張る。

 また、クリントン前政権下の一九九〇年代、高まるテロの脅威を
放置されていたことを示唆しながら、「私は、問題と正面から立ち
向かうために大統領に就任した。将来の大統領や次の世代に先送り
するためではない」と言明。

 その上で、「殺人に身をささげる者たちと交渉しても無駄だ。道
理の通じる相手ではない」と述べ、テロリストとは決して妥協しな
い姿勢を改めて強調した。
 大統領の「対テロ戦争」勝利への決意は、まったく揺らいではい
ない。▽掲載許可済
Kenzo Yamaoka
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件名:ブッシュ大統領再選の道  

イラク情勢が影落とす/経済回復も不可欠
 衆議院が解散され、わが国も一気に総選挙に向けて政界は走り出
した。とはいっても、選挙戦は向こう一カ月足らずにすぎず、年明
けの予備選から夏場の党大会、さらに十一月の投票日まで一年以上
の選挙戦を戦わなければならないアメリカの大統領候補に比べれば
、日本の政治家たちは極めて短い選挙期間を戦うだけで地位を維持
したり、獲得できるといえるかもしれない。

 ところで、英経済誌「エコノミスト」の九月六日号は、「ジョー
ジ・ブッシュの再選への道」という特集を組んで、ブッシュ大統領
の再選の可能性についての分析記事を掲載している。同誌の表紙に
は、テキサス出身のブッシュ氏が西部の長い道を少しうつむき加減
に歩いている姿があしらってあるのだが、この姿は「偶然、大統領
になった男」という評価を9・11への果敢な対応によって覆し、
アフガン、イラクとつづく対テロ戦争を勝利に導いた戦時大統領と
しての雄姿はうかがえない。

 「前途の道のりは険しい:ブッシュ大統領の再選は危うく見える
が、彼は何ができるか?」と題された巻頭特集で「エコノミスト」
誌は、テロとの戦いの序盤戦において国内で空前の支持を得、国際
的にも多くの国々の支持を取り付けてアフガン戦争を戦ったブッシ
ュ大統領が、今や湾岸戦争後の父親と同様に苦境に陥っていると指
摘している。

 最近の各種世論調査によれば、国民の多数はブッシュ氏の再選を
望まず、このような世論の急激な変化によって、「今回の大統領選
挙はブッシュ氏の不戦勝」と大統領予備選への出馬を尻込みしてい
た民主党の有力政治家たちが、勝機ありと見て本格的に大統領選挙
に取り組み始めている。

 ただ、急速に支持を失いつつあるとはいえ、ブッシュ大統領は彼
の父親が獲得することのできなかった潤沢な政治資金と、米国の保
守層の固い支持を獲得しており、このような政治資源を背景に大統
領選挙を戦うことになる。

 しかし、「エコノミスト」誌は混迷するイラクの現状を正常化す
るために、ブッシュ大統領はさらに軍隊と資金を投入し、その一方
で新たな採択される国連安保理決議案によって新たに組織される多
国籍軍をアメリカ軍が司令官として指揮するという状況を一刻も早
くつくり出すべきだと指摘している。

 さらに、同誌は現在の米国によってつくられた暫定統治機構は、
権威と政治的正統性を欠いており、これまで多くの紛争当事国の戦
後処理を経験してきた国連に、イラクの国づくりを委ねるべきだと
主張している。

 ブッシュ再選のためには、イラク情勢の打開とともに、アメリカ
経済の回復が不可欠だが、この場合も奇をてらうような政策ではな
く、地道な政策の一つ一つを実行に移し、国民が経済が安定したと
実感できるようにすることが不可欠だと同誌は結論づけている。
  

9・11以後の新世界“無秩序”・「暴力の民主化」促す
/民心獲得でテロ根絶を 

 「ニューズウィーク」国際版のファリード・ザカリア編集長は同
誌九月十五日号で、「アメリカの新しい世界無秩序」と題する巻頭
論文で、アメリカが現在直面している事態の深刻さについて論じて
いる。ザカリア氏は、米ソ両国間の戦略兵器制限交渉が象徴してい
た氷河の動きのような国際情勢の展開は、9・11以降、打って変
わって急激な早さで動くようになったと指摘し、世界各地でテロ攻
撃、外交上の危機、さらに武力対立が今や日常茶飯事となり、いわ
ば「世界新“無”秩序」とでも呼ぶべき事態が生まれ、後世の歴史
家は9・11以後の世界を特徴づけるものとしてテロとイスラムの
過激主義を挙げると指摘している。

 冷戦は米ソ両国間における政治闘争という面と核兵器開発という
科学技術の競争という二つの側面で戦われたが、米ソ間の政治面で
の争いは西側とソ連共産主義に支配された東側陣営との政治・イデ
オロギーにおける争いであり、核兵器の使用は考えられなかったた
め、兵器開発競争がいずれかの陣営が勝利するか否かを計る目安に
なった。

 また、核兵器を所有する米ソ両国による直接的な戦争は起きなか
った代わりに、世界各地で起きた地域紛争は、米ソ両大国の対立の
代理戦争という意味をもっていた。

 ところが9・11以後、世界は大規模テロの時代に入り、誰もが
テロ行為を行い得ることを実証してみせたという意味で、9・11
は「暴力の民主化」の時代の到来を告げる大事件だと、ザカリア氏
は述べている。

 「数十年前であれば、三千人もの人を殺害しようとすれば、国家
権力を必要とした。ところが、今や一握りのテロリストでもそのく
らいの人数を殺すことが可能になった」とハーバード大学のステフ
ァン・ボルト氏は述べているが、この指摘こそ「暴力の民主化」の
現実なのである。

 イスラム世界における過激な運動は過去数十年にわたって欧米社
会に挑戦を試み、イスラム社会内部においても紛争を引き起こして
きたが、彼らが大量破壊兵器に関する先端技術を手に入れることで
、世界を相手にした戦争を戦うことができるようになった。

 しかしザカリア氏は、国際化がテロリストたちを利することにな
った事実を認めつつ、その一方で、国際化がテロリズムを世界的に
封じ込めることを可能にすることも可能になったことを強調してい
る。ほとんどの国々がテロリストを捕らえることに協力しており、
だれもアルカイダに力を貸すことに何ら利益を見いだしておらず、
リビヤやシリヤといった国々さえもが、ウサマ・ビンラィデンと戦
うアメリカに協力しているというのである。

 もし、アメリカがもっと説得力のある理由を提示できれば、世界
のほとんどの国々は地球的規模の反テロリズム連合に加わり、共に
戦うことになると、ザカリア氏は指摘している。 

 また、同氏はイスラム根本主義者によるテロを完全に抑止できな
いとしても、彼らを弱体化させることは可能であると主張する。
ゲリラは毛沢東のいうように「人民の海」を泳ぎ回りながら活動す
ることを考慮に入れれば、テロリストに打ち勝つ道は彼らが頼りと
している民衆を彼らから離反させることだとザカリア氏は述べてい
る。

 前線の指令官たちはそのことを良く知っており、北イラクに駐留
するデビッド・ぺトラエウス将軍は、司令部に「我々は民衆の心を
つかむ競争を行っている。君と君の部下たちは、今日この戦いの勝
利に貢献できる何を成し遂げたのか?」という標語を掲げていると
いう。

 ザカリア編集長は、この質問はぺトラエウス将軍は部下よりも
ワシントンにいる上司に対して問うべきかもしれないと述べて、論
文を閉じている。

膨らむ財政赤字・社会保障の基盤揺らぐ/「確固たる選択」で打開を 

 ブッシュ政権について、どちらかといえばこれまで好意的なスタ
ンスの報道の多かった感のある「USニューズ・アンド・ワールド
レポート」誌の発行人兼編集長のマティモアー・ズッカーマン氏は
、アメリカが直面している重大問題の一つである巨額な財政赤字に
ついて論じている。

「『穴』についてのおかしな事」と題する編集長の巻末のコラムは
、異常な勢いで増大を始めたアメリカの財政赤字について考察した
もので、その結論は「確固たる決断が下されなければ、財政赤字は
増加の一途をたどるだけだ」という悲観的なものとなっている。

 今年、4000億j(約44兆円)の財政赤字は来年さらに
800億j(約8兆8000億円)加わることが予想されており、
超党派的で独立した機関である議会予算局も、今のままでは膨大な
赤字からすぐに脱することはないであろうと予測しているという。

 大幅な減税によって消費を刺激し、経済回復を図ろうとのブッシ
ュ政権の経済政策は、9・11後の社会不安による消費の落ち込み
と膨大な戦費調達という思わぬ要因から大幅な歳入減と歳出の拡大
という事態を招き、総額五兆六千億j(約六百十六兆円)の膨大な
財政赤字という事態に立ち至っている。

 ズッカーマン編集長はこのような事態打開に取り得る方策は、
社会保障費を維持するために増税するか、社会保障を減額すること
によって老人たちが貧しい生活を送ることを余儀なくさせられるか
のいずれかしかないと述べている。

 現在、わが国でも老後を保障する年金への信頼が揺らいでいるが
、わが国の場合は社会保障制度改革が急速に進む少子化と高齢化に
対応するスピードで行われていないために、制度そのものへの信頼
が揺らぎ、保険料の支払いを拒む人たちの数が増大することによっ
て年金制度の根幹が揺らぐという深刻な事態を迎えているのである。

 ズッカーマン編集長は、「『穴』の第一法則を知るべし。『穴の
中にいたら、それ以上掘るな』」という定理でコラムを終えている
が、日米両国それぞれ事情は異なるものの、社会保障の基礎が損な
われれば、国家の安定そのものが危うくなることを考えれば、今こ
そ問題解決の先送りではなく、ズッカーマン氏のいう「確固たる選
択」が求められているといえよう。
三浦祐一郎・世界日報  ▽掲載許可済です
Kenzo Yamaoka
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件名:米国、シリア・イランとの関係悪化  

イラク戦後処理困難に
 米ブッシュ政権は、イラクの戦後処理、復興で困難な状況に直面
しているが、イラクの隣国であるシリア、イランへの対応も迫られ
ている。シリア、イランともに、米国務省によりテロ支援国家に指
定されてきた。(ワシントン・横山裕史・世界日報)

 イラク戦争中および戦争後、シリアには国際テロネットワーク、アルカイダの幹部が逃
 げ込んだ。戦後はシリアを通して、イラク国内にテロリストを含む志願兵が多数潜入し、
 イラク駐留米軍に対するゲリラ戦、テロ攻撃を継続している。米軍がイラク国内で摘発
 した外国人志願兵の約半分がシリア系だった。また米国はイラクの大量破壊兵器をいま
 だに発見できていないが、シリアに持ち込まれ隠匿されているという疑惑が解消されて
 いない。
 さらに最近、フセイン元イラク大統領の巨額の資産がシリア国営銀行に隠匿されている
 という嫌疑が持ち上がり、米政府は九月末に金融専門家などを調査のためダマスカスに
 派遣した。隠し資産は三十億jにも上るとされ、米国はその資産がイラク駐留米軍への
 攻撃に使用される可能性を懸念している。米議会の下院外交委員会は十月八日、武器輸
 出禁や投資禁止、外交関係格下げを大統領に要求するシリア制裁法案を承認し、シリア
 制裁が実施される見通しが強まっている。

 イランについても、アルカイダ幹部に隠れ家を提供しているという疑いがある上、イラ
 ク国内に駐留米軍に敵対するテロリストをシーア派巡礼者に混入させて送り込んでいる
 という疑惑がある。さらに、イランが核兵器を開発しているという疑惑が強まっており、
 米政府はこれを重大視している。米政府内では、イランに対して、イラク同様に武力行
 使のオプションを採択することを含めて、どう対応するかで議論が強まっている。

 米国からの強い意向を受けて、国際原子力機関(IAEA)は九月十二日の理事会で、
 十月末までに核開発計画の全容を提示し、ウラン濃縮技術の開発計画を停止するようイ
 ランに要求する決議を採択した。さらにIAEAは十月二日、査察団をイランに派遣し、
 核開発計画の真相解明に向けてイラン政府との協議に入った。イランは当面、IAEA
 に協力する姿勢だが、イラン外務省はウラン濃縮を含む核開発計画を放棄するつもりは
 ないと公言しており、イラン保守派の間では査察受け入れに対して強い抵抗がある。問
 題がIAEAで解決しない場合は、国連安全保障理事会に問題が持ち込まれる可能性が
 あり、国連安保理制裁という事態もあり得る。

 米国のシリア、イランとの関係は今後一層悪化することが考えられる。イスラエルは十
 月五日、前日ハイファで発生した自爆テロへの報復で、ダマスカス近郊のイスラム聖戦
 訓練キャンプを空爆した。

 シリアとイスラエルの関係が緊張し、イスラエルと同盟関係にある米国も難しい立場に
 立たされている。米国は今後、イラク復興を進めていくためには、シリア、イランの協
 力が必要だが、両国との関係悪化はイラク戦後処理を一層困難にする恐れがある。
                    ▽掲載許可済です
Kenzo Yamaoka


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