YS/2003.03.18 キリスト教原理主義の危険な旅立ち−2− ■旋回するハイジャック機 「今まさにバランスを失ったハイジャック機の中では、映画のクラ イマックスさながらに、パウエル国務長官が機体を懸命に立て直そ うとしている。」 (拙稿『キリスト教原理主義の危険な旅立ち』より) 現在のイラクめぐる構図が、いつのまにか、「米タカ派+ネオコ ン」対「世界」の構図に見えてくる。特にキリスト教原理主義者を 率いて暴走するネオコンに対して、世界のリーダー達は、驚くほど に協調しているのである。ここでは、米欧の対立もなければ、欧州 の分裂も存在しない。 しかし、パウエルだけの力では、彼らを止めることが出来なかっ たようだ。そのために、世界の力を頼りに国連の場に強引に持ち込 んだのである。 全世界の人々が固唾をのんで見守る中、ハイジャック機は、イラ ク上空で激しく両翼を上下に揺さぶりながら旋回を続けている。 最右翼には、最近日本でもようやくメジャーになりつつある米ネ オコン(新保守主義=ネオ・コンサーバティズム)が、星条旗とイ スラエル国旗を振りかざしている。彼らのすぐ手前には、タカ派が 腕組みをして、にらみを利かせている。そして、ネオコン最大のス ポンサーであるメディア王マードックの地元オーストラリアが、国 内世論の反発覚悟でしがみついている。 最左翼には、ドイツがどっしり陣取り、フランス・ベルギー・ロ シア・中国が、平和を武器に国際世論に訴えかける。世界中で高ま る反戦運動を味方につけている。 国内外メディアの解説では、イギリス・スペインは、右翼側に位 置しているように書かれているが、実際には中央右寄りあたりで、 バランサーの役割を演じているようだ。彼らの姿勢が、左翼ではな く右翼側に向いている点が興味深い。右翼側の様子をうかがいなが ら、時には左サイドにまで移動して来ることもある。 この21世紀を担う主要国の思惑が、国連安全保障理事会の場に 持ち込まれ、対イラク新決議日替わり修正案の採決を待っていたが、 今はもう静まりかえっている。 ■スペイン・アスナール首相の本音 アスナール首相は、米ニューズウィーク誌とのインタビューで 「欧州には米国への知的優越感のようなものがあり、米大統領をあ まり評価しない。共和党なら評価は下がるし、それにテキサス州出 身とくればさらにマイナスだ」と発言している。 そして3月10日夜には地元のテレビ番組に出演し、「フランス もロシアも中国もイラクに利権がある。スペインには何もない」と 述べ、石油利権が反対の背景にあるとの認識を示唆する。 2001年10月の拙稿「ニュー・グレート・ゲーム」で触れた とおり、フランスを代表する石油メジャー、トタルフィナ・エルフ は、フランス・ベルギーの連合体であり、ドイツも深く関わってい る。従ってロシア・中国も含めてイラク既得権益国が左翼側に仲良 く並んでいるのである。 このアスナール首相が「ラムズフェルド米国防長官を黙らせてほ しい」と2月末の米ウォールストリート・ジャーナル誌で発言し、 「私たちにはパウエル国務長官が大いに必要だ。ラムズフェルドは あまり必要ない」と心情を吐露する。 どこかの哀れな国のように、必ずしもアメリカを全面的に支持し ていたわけではない。 ■イギリス・ストロー外相の"we will reap a whirlwind" 常にアメリカと行動を共にしてきた英ブレア政権も与党労働党下 院議員の半数近い200人前後が政府に反旗を翻し、ブレア政権は 瀬戸際に立たされている。人気の高い女性閣僚ショート国際開発相 は、国連の承認なしに開戦した場合、国際法違反、国連軽視で是認 できないと抗議の辞任を警告する。そして、与党・労働党の下院議 員40人余がブレア首相に退陣を迫る声明を発表する。 昨年10月のコラム「油屋さんの危険なセールス・トーク」で 「ブッシュの忠実なプードル」との批判を浴びる中、ブレア首相率 いるイギリスが、アメリカから離れようとしないのは、米単独での 攻撃を阻止するためのコバンザメ戦略だと書いたが、さすがにもう 付き合いきれないと言い始めたようだ。 3月4日、英ストロー外相は非常に意味深い発言をしている。ヨ ーロッパが歩調を合わせることを拒否するなら、ワシントンが、国 連とNATOのようなマルチラテラル(多国間協調的)な機関を放 棄するであろうと語り、フランスとドイツに対して「アメリカ人を 一極世界の中心にあるユニラテラリスト(アメリカ単独主導主義者) のポジションに追い込むことになれば、我々欧州は、ひどい罰を受 けることになるだろう。」と警告したのだ。 ストロー外相は、「ひどい罰を受けることになるだろう」を"we will reapa whirlwind"と表現している。ことわざにもなっている "Sowing the windthey reap the whirlwind=風を蒔いてつむじ 風を刈り取る"から引用しているが、旧約聖書の小預言書とよばれる ホセア書が原典である。ホセア書は、罪深い人間を愛してやまない 神様の愛を描いている。イギリスにとっての罪深い相手とは、スト ロー発言を見る限りフセインではなく、やはり最右翼に座る方々の ようだ。 ■衝突 シラク首相 VS ネオコン・パール フランスのシラク大統領は、3月10日夜、テレビTF1などと 会見、対イラク武力行使容認の決議案について「どんな状況であっ ても、フランスは受け入れず拒否する」と言明、拒否権行使も辞さ ない姿勢を大統領として初めて表明した。 シラク大統領は米国一極ではない「多極的な世界」の構築を目指 し、ブッシュ政権の独走に歯止めをかけたい考えを示しながら、戦 争に反対する理由として、「イラクでの戦争は、反テロの国際協調 を破壊し、文明と『宗教』の衝突を急ぐ者を助けるだけだ。」と語 っている。 これに対し、またしても猛反撃を繰り広げたのは、ネオコンの親 分リチャード・"プリンス・オブ・ダークネス"・パール国防政策委 員会委員長である。13日の仏ラジオのインタビューで「今やフラ ンスはサダム・フセインの側についた。シラク仏大統領にはサダム と個人的つながりがあるからだ」と発言。また、フランスを支持す る反戦デモも「参加者数は世界人口のたかだか1%かそれ以下だ」 とバッサリ切り捨てた。 ■ネオコンを利用する現実主義者 スペイン・アスナール首相の「黙らせてほしい」発言にも関わら ず、ラムズフェルド国防長官は11日の記者会見で、イギリス抜き の戦争遂行計画を策定中であることを明らかにした。会見の4時間 後に発言の取り消しに出たが、イギリス国内での「攻撃には新決議 が欠かせない」という最近の動きに情勢待ちを余儀なくさせられて いるアメリカの“本音”が垣間見えたようだ。 事実、着々とアメリカ政府はイラク戦後までの計画を入念に練れ 上げており、3月6日には、米国防総省筋はイラクの油田の消火を 監督する業者に、米油田サービス会社ハリバートン傘下のケロッグ ・ブラウン・アンド・ルート(KBR)が選定されたことを明らか にしている。 そして、10日付けの米ウォールストリート・ジャーナル誌によ れば、米政府は、対イラク戦終了後の「戦後復興」をにらみ、道路、 橋、病院、学校などのインフラストラクチャー建設について、総額 9億ドルにのぼる契約案件をすでに米国の会社5社に提示、入札手 続きを開始したとのことである。 ゼネコン5社とは、油田消火業者にも選定されたハリバートン傘 下のケロッグ・ブラウン・アンド・ルート(KBR)、フルア・コ ーポレーション、ルイス・バーグ・コーポレーション、パーソンズ ・コーポレーション、そして、ベクテルである。 ハリバートンは、チェイニー副大統領がCEO(経営最高責任者) を務めていた。また、エンジニアリング大手のベクテルは、パウエ ル国務長官がエグゼクティブを務めており、2008年の大統領選 へのパウエルのしたたかな計算もあるようだ。 つまり、現在、ブッシュ大統領の傍らでコックピットに入ってい るのは、このふたりとライス国家安全保障問題担当大統領補佐官あ たりであろう。 ■ハイジャック機の行方 ブッシュ大統領とブレア首相、アスナール首相の3人が、場所を ポルトガル領アゾレス諸島に移して、最後の調整を行う。ブッシュ 大統領の背後には、チェイニー副大統領率いるタカ派とネオコンが 取りついている。ブレア首相、アスナール首相の背後にはパウエル 国務長官や欧州勢の首脳が寄り添っている。 ブレア首相、アスナール首相の援軍にブッシュ・パパも加わった ことから、戦争回避に向けた最後の努力を期待したが、ハイジャッ ク機はバグダッドを目前に控え、もはや引き返すことはできなかっ たようだ。チェイニー、パウエルなどの現実主義者達は、すでに、 対イラク戦の利害の調整作業を始めているのかもしれない。そして、 ハイエナのように群がる人々の中にドイツ人やフランス人に混じっ て、イラク復興新法を手にした日本人の姿も多数確認できる。 腹黒い現実主義者達が醜い争いを続ける中で、ブッシュ大統領は、 こっそり抜け出してハイジャック機の行く先を微妙に修正するのか もしれない。 米上院のパトリック・リーヒー、エドワード・ケネディ両民主党 有力議員が、上院本会議でブッシュ大統領を救世主的な狂信的熱情 に取りつかれていると批判した。この狂信的救世主は、ネオコンの 意向を受けて首都バグダッドの南およそ80kmの地点にターゲッ トを合わせる。そこに、バビロンがある。 バビロンには、残虐な異民族で統治勢力だったアッシリアを追い 出し、シリアとパレスチナを征服、そして「エルサレム王国」を破 壊したネブカドネザル王(紀元前605−562)の再来を自称し ているサダム・フセインが待っているはずだ。そんなハリウッド映 画のような結末が用意されているのかもしれない。 まもなく、とても厄介な戦争が始まろうとしている。 ▼引用・参考 Aznar Tells Bush: Allies Need Political Cover-WSJ http://abcnews.go.com/wire/Politics/reuters20030227_58.html Don't snub US, Straw warns Nicholas Watt and Anne Perkins http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,907763,00.html ホセア―愛されない者への愛 http://www.aquila-priscilla.com/Hosea/ http://www.aquila-priscilla.com/Hosea/8.htm Bush Sr warning over unilateral action From Roland Watson in Washington http://www.timesonline.co.uk/article/0,,3-605441,00.html Senior Lawmakers Attack Bush Administration's "Messianic Zeal" on Iraq http://www.commondreams.org/headlines03/0314-02.htm 【噴水台】バビロニア http://japanese.joins.com/html/2003/0310/20030310215506100.html Inside Saddam's mind By Pepe Escobar http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/EC14Ak05.html War with Iraq is 'dress rehearsal for Armageddon' says head of Evangelical Israel Broadcasting Network http://www.workingforchange.com/article.cfm?ItemID=14656