907.迫り来る午前零時



YS/2002.05.25
   Dropping the big one 2 迫り来る午前零時
■終末時計
 5月24日、ブッシュ、プーチン両大統領は、クレムリンで双
方の戦略核弾頭の配備数を今後10年でそれぞれ現状の3分の1
程度へ削減する「戦略攻撃戦力削減条約(モスクワ条約)」に調
印した。

 それでも、「終末時計」を管理している米誌「ブレティン・オ
ブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ」は、今またその針を動
かそうとしているに違いない。

 今年2月27日、核の脅威による地球最後の日までの時間を示
す「終末時計」の針が2分進められ、終末を示す午前零時の7分
前になった。前回、針が動かされたのは1998年である。この
時、インド、パキスタンが核実験を相次いで実施したことなどを
受け、零時14分前から9分前まで進められた。そして今回もそ
のインド、パキスタンが強引に針を進めようとしている。

■1999年の事実
 インド、パキスタン両国は、イスラム教徒が住民の多数を占め
るジャム・カシミール州の領有をめぐって何度も衝突を繰り返し
てきたが、昨年12月にパキスタンのイスラム過激派がインド国
会を襲撃、12人が死亡する事件が起きて以来、状況は悪化して
いた。

 そして今年5月14日には、インドのジャム・カシミール州で
虐殺テロ事件が起こる。インド軍兵士を装ったパキスタン側のイ
スラム過激派3人組が、インド軍治安部隊の駐屯地や路線バスを
襲撃し、インド軍兵士の妻、子供など34人が死亡した。

 この直後から欧米メディアで「Nuclear」の文字が連日登場す
ることとなる。欧米メディアが「Nuclear」を取り上げた理由は、
事件発生直後の米ワシントン・ポストの記事が発端となっている。

 虐殺テロ事件発生直後の5月15日付けワシントン・ポストは、
クリントン前政権の国家安全保障会議(NSC)の上級南アジア
部長を務めたブルース・リーデル氏の論文を掲載し、1999年
のカシミール紛争は、パキスタンによる核兵器使用寸前まで至っ
ていたと伝えた。

 当時米政権内では、パキスタンが核を使うならミサイルでなく
航空機を使った爆撃になるとの見方が支配的であった。しかし、
パキスタン軍が核弾頭搭載可能な国産中距離ミサイル「ガウリ」
を格納庫から出し、配備先へ移動させていることを探知した米政
権に衝撃が走る。

 クリントン前大統領は同年7月4日のナワズ・シャリフ・パキ
スタン首相(当時)との会談で、軍を撤退するよう強力な圧力を
かけた。シャリフ首相が要求を受け入れて軍を撤退させたため、
核危機は回避されたという。

 1999年のカシミール紛争は、1962年のキューバ・ミサ
イル危機以来、世界が最も核戦争の瀬戸際に立たされていたので
ある。この時のデータでは、ボンベイに核爆弾が落とされた場合
の犠牲者は最大85万人としている。

■最悪のシナリオ
 5月22日、インドのジャム・カシミール州を訪問中のバジパ
イ首相は、前線の兵士を前に「決戦の時が来た。この戦争に勝利
する」と宣言する。かつてない強い口調でパキスタンとの対決姿
勢を鮮明にした。インド海軍報道官は、インド南東部のアンドラ
・プラデシュ州の基地を母港とする軍艦5隻を、パキスタンに近
いインド西岸のアラビア海に移動させたことを明らかにした。駆
逐艦、フリゲート艦などで構成する艦隊は、一週間以内に作戦海
域に到着するという。

 こうしたインド側の動きに対し、パキスタンのムシャラフ大統
領は「戦争の準備はできている」と反発し、「わが国が戦闘を決
意すれば、最後の血の一滴を流すまで戦う」と牽制した。今年4
月には、パキスタンのムシャラフ大統領本人が、ドイツシュピー
ゲル誌のインタビューで、カシミールの帰属をめぐり軍事的緊張
が続くインドとの紛争では「最後の手段」として核兵器の使用も
辞さないと言明していたことが気にかかる。パキスタン側も中距
離弾道ミサイルを配備するなど、緊張は激化の一途をたどってい
る。

 EUのパッテン欧州委員会委員(対外問題、共通外交政策担当)
は、5月23日、パキスタンの首都イスラマバードから空路ニュ
ーデリー入りした。インドのシンハ外相と会談したパッテン委員
は、「インド政府は我慢の限界に達しつつある」と語る。

 インド・パキスタンの旧宗主国である英政府も北大西洋条約機
構(NATO)・ロシア首脳会議で両国に自制を求めるメッセー
ジを打ち出す考えを表明し、ブレア英首相は米欧ロの首脳と事前
の調整を進めている。先頃、イスラエル・パレスチナ問題でも渋
い役割を演じたストロー外相も来週派遣される。

 これに対して、米政府はアーミテージ米国務副長官を派遣する
が、イスラエル・パレスチナ問題で露呈したジグザグ外交が見え
隠れしている。ラムズフェルド国防長官は、5月24日の記者会
見で、核戦争の危険に懸念を表明したが、対応が遅いとの批判が
内外から相次いで出されている。

 戦争が大好きなネオコンの最大のスポンサーであるメディア王
マードック傘下の英タイムズ紙が、5月22日に政府高官から情
報として報じた最悪のシナリオは次のようなものである。

(1)インド軍がパキスタンのテロに通常部隊で報復
(2)パキスタン軍がインド軍をいったん撃退
(3)インド軍は通常部隊を大量投入
(4)パキスタン軍は核を使用
(5)インド軍は壊滅せず、核反撃

 また同紙は、24日には英軍事当局がインドとパキスタンの「
核戦争」の可能性が現実味を帯びてきたと判断し、インド、パキ
スタン両国から在留英国人を緊急避難させるなどの対応策の検討
に入ったと報じた。

 なおストロー外相は22日に声明を発表し、パキスタンに駐在
する英外交官の大半とその家族を同国内から退去させることを明
らかにしており、同国内に滞在する一般の英国民に対しても、不
要な国内旅行の中止を求め、また国外への退去を検討するよう勧
告している。

 仏政府も24日、必要最低限のスタッフを除き、パキスタンか
ら外交官を出国させると発表し、同国内の仏国民にも国外退避を
呼びかけた。こうした動きは、EU加盟15カ国に拡大しており、
在パキスタンの公館の入館規制など警備態勢の強化を決定した。

 そして5月25日、パキスタンは、3回目の「ガウリ2」の発
射実験を行う。北朝鮮のテポドン・ミサイルをベースに開発され
たとみられる「ガウリ2」の推定射程は約2000キロで、イン
ドのほぼ全域を射程圏内に収めることに成功した。

 発射実験後にムシャラフ大統領は、「戦争は望まないが、戦争
の準備は整った。」との声明を出す。

 この緊急事態にどこを探してもJAPANの文字がみつからな
い。

■ヒロシマ・ナガサキ・オキナワ
 今年3月5日、広島平和記念公園内にある原爆慰霊碑に赤色の
ペンキがかけられる事件があった。「安らかに眠って下さい 過
ちは繰返しませぬから」と刻まれた石碑の左半分が赤いペンキに
染まっていた。

 広島平和記念公園では、昨年12月には世界遺産の原爆ドーム
の壁面に木炭のようなもので落書きされた事件があり、今年2月
17日未明には原爆の子の像の折り鶴約5万羽が放火された事件
も起こっている。

 僕はこの事件のことを知らなかった。教えてくれたのは英イン
デペンデント誌のリチャード・ロイド・パリーのレポート「ニュ
ー・アタック・オン・ヒロシマ」であった。このレポートには、
日本のどのメディアより詳細に事件のことが書かれている。

 僕は今、BEGINの新曲「島人ぬ宝(シマンチュヌタカラ)
」を聞きながらこれを書いている。昨年のNHK沖縄主催「新し
い沖縄のうた」コンサートのために書下ろした沖縄本土復帰30
周年を記念した曲である。

 スピーカーから流れてくる「大切なものがここにある。大切な
ものをもっと深く知っていたい」の詩になぜか僕は項垂れてしま
うのである。

 まもなく全世界の熱い視線を集める旧宗主国の宴が日本と韓国
で開催される。ここで日本だけが発信できるメッセージがあるは
ずだ。幸運にもチケットが手に入った人は、ぜひ思い思いの表現
でアピールして欲しいものだ。

 「日本人の『落とし物』は、もっとでかいものかもしれない」
などと、僕は断じて書きたくない。

▼参考・引用

American Diplomacy and the 1999 Kargil Summit at Blair House 
BRUCE RIEDEL http://www.sas.upenn.edu/casi/reports/RiedelPaper051302.htm

Report: India, Pakistan Were Near Nuclear War in '99
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A17398-2002May14.html

Indian Strikes Could Escalate Into War With Pakistan 
http://www.stratfor.com/fib/topStory_view.php?ID=204553

Nuclear war threat over Kashmir crisis
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,2-303716,00.html

Dicing with Armageddon
http://www.economist.com/agenda/displayStory.cfm?story_id=1130906

Rallying the troops
http://www.economist.com/agenda/displayStory.cfm?story_id=1141697

Fear of nuclear war over Kashmir
http://www.guardian.co.uk/kashmir/Story/0,2763,719961,00.html

Vajpayee rallies Kashmir troops
http://news.bbc.co.uk/hi/english/world/south_asia/newsid_2001000/2001727.stm

Indian PM Tells Troops Time for 'Decisive Fight'
http://story.news.yahoo.com/news?tmpl=story&cid=586&ncid=586&e=4&u=/nm/
20020522/wl_nm/southasia_dc_67

India/Pakistan: Last chances 
http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c
=StoryFT&cid=1021990934545&p=1012571727126

Once again, the US must take the lead through a diplomatic minefield
http://argument.independent.co.uk/leading_articles/story.jsp?story=297214

Nuclear fallout: The new attack on Hiroshima
http://news.independent.co.uk/world/pacific_rim/story.jsp?story=298050

原爆慰霊碑にペンキ 器物損壊の容疑で捜査
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn02030601.html
==============================
BEGIN「島人ぬ宝(シマンチュヌタカラ)」  YS
2002.5.22発売/TECN-12788/\1,200(税抜)/シングル

昨年のNHK沖縄主催「新しい沖縄のうた」コンサートのために書下ろ
し、CD化が待ち望まれていた。島人とは沖縄の人のことで、故郷で
ある沖縄本土復帰30周年を祝う楽曲。

島人ぬ宝(しまんちゅぬたから)
(作詞・作曲・編曲:BEGIN)

僕が生まれた この島の空を
僕はどれくらい 知ってるんだろう
輝く星も 流れる雲も
名前を聞かれても わからない
でも誰より 誰よりも知っている
悲しい時も 嬉しい時も
何度も見上げていた この空を
教科書に書いてある事だけじゃわからない
大切な物がきっと ここに有るはずさ
それが島人ぬ宝

僕が生まれた この島の海を
僕はどれくらい 知ってるんだろう
汚れてくサンゴも 減って行く魚も
どうしたらいいのか わからない
でも誰より 誰よりも知っている
砂にまみれて 波にゆられて
少しずつ変わっていく この海を
テレビでは映せない ラジオでも流せない
大切な物がきっと ここに有るはずさ
それが島人ぬ宝

僕が生まれた この島の唄を
僕はどれくらい 知ってるんだろう
トゥバラーマも テンサー節も
言葉の意味さえ わからない
でも誰より 誰よりも知っている
祝いの夜も 祭りの朝も
何処からか聞こえてくる この唄を
いつの日かこの島を離れてく その日まで
大切な物をもっと 深く知っていたい
それが島人ぬ宝
それが島人ぬ宝 
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(Fのコメント)
いい歌ですね。この島を日本と代えても、通じる感じがする。

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