800−2.文化には高等と一般の差はない



文化の定義 文化には高等と一般の差はない
得丸です。文化の定義について調べてみました。タイラーさんの定
義が、もっとも一般的に受け入れられているのですが、その受け入
れ方、あるいは意味づけが人によって異なっているので、私なりに
考えを整理して、皆様のご批判を受けたいと思います。

−1− タイラーの文化の定義
さまざまな本を読んでみたが、文化の定義としてもっともひろく受
け入れられているのは、エドワード・タイラーが1871年に出版
した「原始的文化(Primitive Culture)」の中で行ったものである。
文化とは「社会の構成員として人間が獲得する知識、信仰、技能、
法、道徳、しきたり、その他の能力や習性を含む複合体」とする。
(タイラーは文化と文明をほぼ同義に扱っているようであるが、
その点には同意しかねるが。)

(culture or civilization,.....) is that complex whole which 
includes knowledge, belief, art, law, morals, custom, and 
any other capabilities and habits acquired by man as a member 
of society.

この定義からいえることは、
文化は、
1) 獲得されるもの。後天的に獲得されるものである。先天的な
ものや本能の働きとは別である。

2) 社会(一定の広がりをもつ時空間)によって共有されるもの
である。個々人と社会との関係性が問われる。個人の好き勝手なふ
るまいは許されない。

3) あくまで個々の人間が獲得するのである。そして、伝達する
責任も負うのだ。獲得して初めて文化は文化たりうる。獲得と伝達
のメカニズムなしには文化は断絶する。そのメカニズムを明らかに
しなければならない。

4) 意識活動である。文化は、知識、信仰、技能、法、道徳、し
きたり、その他の能力や習性といった広範囲なものと関わるが、そ
れらはすべて人間の意識活動とそれに付随する具体的行動に関わる。
意識的であろうが無意識的であろうが、獲得されて意識に組み込ま
れて、必要に応じて機能するものが文化である。

さらにいえば、
5) 文化は、特定の社会と結びつくが、必ずしもそれが国家や民
族とは限らない。

6) 複数の社会にまたがる人間が、複数の文化を獲得することも
可能である。実際に海外生活者や帰国子女は現地の文化を身につけ
ている。

7) 文化は人間の行動を規定するプログラム、人間が社会生活を
送るための智恵といえるが、それ自体に排他的要素はない。異文化
との遭遇は、文化の定義には予定されていない。これは文化の

8) この複合体とは、個々の人間の意識だと考えられないか。

9) この定義では、人間が獲得するものが文化であり、文化財、
文化遺産、文物を文化だとは認めていない。

−2− 同じ定義を紹介していても、ぜんぜん違う理解がある
「異文化コミュニケーションキーワード」(有斐閣双書)によれば
、文化は「高等文化と一般文化に分けられ、前者は後者の基盤の上
に成立し、機能すると考えられる。
高等文化は、高度の思想、科学、芸術の活動と成果を意味し、長年
の研究は修練を積んだ一部の学者や芸術家などが関与する文化であ
る。」

一般文化は、文化人類学的な文化の概念によるもので、上のタイラ
ーの定義を拙訳とは少し違った訳で紹介する。「知識、信仰、芸術
、道徳、法律、慣習、その他社会の構成員としての人間によって習
得されたすべての能力と習慣の複合総体」というのだが、おそらく
「芸術」よりは「技能」のほうが正確であろうし、「慣習」は単な
る生活慣習というよりは法や儀礼の慣習を指すのであろう。また、
「社会の構成員として」は全体にかかるべきだと思う。

この高等文化と一般文化という区分は不明確であり、不必要だと思
う。タイラーの定義する文化で人間のすべての文化活動は説明でき
るのではないか。

また一般文化の具体例として、「具体的には、われわれが朝起きて
、顔を洗い、家族に挨拶をして、テレビを見ながら朝食をとり、
学校や職場に出かけることが文化なのである。この意味で、われわ
れはすべて『文化人』なのである。」をあげるが、果たしてこのよ
うな日常的出勤風景を文化と認めることは適当であろうか。どうし
てタイラーの文化の定義から、このような安易な具体例が導かれる
のだろうか。この言い方をすれば、人間がただ茫然とマンネリ生活
を送っていてもそれは文化であるということになりはしないか。

意識が活動しない人間は、非文化的であると思う。上の具体例を文
化とすることは、文化の尊厳、文化のダイナミズムを否定すること
にならないか。
得丸久文(2002.02.02)

The theses of early anthropology are evident in Edward Tylor's
 1871 work, Primitive Culture, which includes the first formal
 definition of culture: Culture or Civilization, .... is that 
complex whole which includes knowledge, belief, art, morals, 
law, custom and any other capabilities and habits acquired by 
man as a member of society.

The telling point of this definition is that, although labelled 
a whole, culture is actually treated as a list of elements. 
In effect, culture traits were understood as representing one 
of a series of stages of mental and moral progress culminating 
in the rational society of industrializing England.


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