5886.資本主義の劣化で民主主義の危機に



今、イノベーションが起こらずに、既存製品の値下げ競争を強いら
れ、この利益を確保するのに労働賃金を下げたが、この労働者階級
の政治的反撃によりトランプ政権ができた。しかし、公約したこと
が実行できずにいる。そうすると、どうなるのかを検討しよう。
                  津田より

0.社会状況
資本主義では、投資して利益を得て、それをまた投資して拡大再生
産することで、社会が発展すると思われたが、イノベーションが起
きないことで、競合する企業が類似する既存製品を出し、このため
先行企業も既存製品の値下げ競争することになる。

よって、利益を確保するためには労働賃金を下げていくことが必要
になる。しかし、この結果、労働者の消費が減り、消費が減るので
需要が落ち、生産が縮小するという縮小再生産になった。

労働賃金を下げるために、大企業は新興国の安い労働力を使い、先
進国の高い労働者を使わなくなった。このため、先進諸国の労働者
が困窮して、政治的な反撃に出てきた。

労働者階級の方が資本家より数段数が多いので、政治的に纏まれば
その政治力は大きい。トランプ候補は、この階層の支持を受けて当
選した。しかし、トランプ政権は、労働者階層との公約を実現でき
ないでいる。

従来から共和党は資本家の党であり、資本家が資金を投入して政治
に介入してきた。その一番の目的は減税であり、規制緩和であるし
、資本家は企業経営者でもあり、新興国での生産を推し進めてもい
る。

また、財政赤字も将来に増税する可能性があり、財政均衡を唱える。

ということで、資本家は国際化、規制緩和、減税を求めている。し
かし、労働者階級は仕事を奪われるので、反国際化、保護貿易など
の規制を求め、社会的な再分配を求めている。というように、資本
家と逆の立場なはずである。

しかし、そこをトランプ氏は、資本家の要求と労働者の要求のどち
らもかなえると公約して当選した。このため、ポピュリズムと言わ
れている。

しかし、現実には公約実現は無理であることが分かり始めた。この
ため、公約が実現できず、また、今後も公約の実現は難しい。

共和党の大統領で、共和党が議会の過半数を押さえても公約ができ
ないことになっている。共和党内で基本政策の分裂が起きているた
めである。

このため、現実的な政策を志向するようになってきた。民主党とも
政策の一致を得て、共和党穏健派+民主党で法案を通すとも述べて
いる。

しかし、このためにはトランプ支持率を上げる必要がある。

1.外交で点数を稼ぐ
このため、トランプ政権は安全保障分野で支持率を上げようとして
いる。支持率がアップする米国の軍事力を使い、強いアメリカを演
出し始めた。

バノン上級顧問を外交政策から外して、クシュナー上級顧問を中心
に、元軍幹部を起用して安全保障から政権を立て直す方向である。

シリアでは、裏でロシアと交渉して化学兵器を使用したことで、攻
撃したことを納得させて、シリアが化学兵器を使用しない限り、攻
撃しないとトランプ氏は言ったようである。ここでトランプ大統領
の好きなディール(取引)ができた。

続いて、中国とは、北朝鮮への石油禁輸を行えば、中国への関税UP
をしないが、行わないなら中国を為替操作国にして、輸入を止める
と脅し、ディール(取引)が成立したようである。

中国は北朝鮮に対して、核実験をしたら石油禁輸を行うと宣言して
、その後のことを交渉したいので幹部を送るとしたが、北朝鮮は拒
否している。

しかし、この一連の外交により、トランプ支持率が上昇して50%
以上になっている。

そして、トランプ政権で政策実現したのは、この安全保障分野しか
ないが、この成功は下手をすると戦争になりかねない危険が伴う。
そして、悪いことに、戦争は国民を歓喜させるので、支持率が上昇
しやすい。支持率が低いトランプ大統領は、一貫した戦略を持たな
いで、支持率のアップに軍事行動を用いる誘惑を持ち続けることに
なる。これが、ハルマゲドンの誘因になる可能性が出てきた。

だが、米国第一主義で国益外のことには関係しないという外交方針
とは違う一連の動きは、トランプ氏が言う予測不可能な状態にして
いる。また、トランプ支持の労働者階級は、裏切られたと反対デモ
が起きている。

2.2017年度予算
2017年度予算が決まらない。米国の年度は10月から翌年9月
までであるが、現時点で今年度予算が成立せずに、暫定予算のまま
になっている。この期限は4月28日であり、何とかやり繰りして
も5月末には、政府機関を閉鎖することになる。

このため、今年度予算の成立を急ぐ必要があるが、規模は小さくて
も減税する方向であり、その資金を他の予算項目の削減で調達する
必要がある。国防費を6兆ドルUPさせるが、国務省や環境省予算を
30%程度減らし、オバマケアの経費も落とす予算を作った。

この攻防が始まる。外交で稼いだ政治資源で、この予算の成立がで
きるかどうかである。できないと、政府機関が止まり、政府の手続
等もできなくなり、政権発足から続いている期待相場が崩れること
にもなる。

3.今後の展望
このトランプ政権の混乱が、フランスの大統領選挙に影響している。
極右のルペン候補から極左のメランション候補に支持が移り始めて
いる。資本家を味方につけ、海外を敵にしたトランプ政権の政策実
行能力が疑われ始めたことによる。このため、ルペン氏より中道マ
クロン氏の方が支持率では高い状態になっている。

もし、労働者階級の期待する政策がトランプ政権で実現しないと、
民主党のサンダース氏が出てくる。トランプ政権の支持基盤は、資
本家と労働者階級という状態で敵を海外に求めたが、この基盤で政
策実現ができないと、今度は、社会主義者サンダース氏が出てきて
、移民+労働者階級になり、資本家を敵にしていくことになる。

サンダース政権ができると、今以上に資本家の抵抗が大きくなり、
軍幹部を味方につけてクーデターなどということになりかねない。
民主主義を破壊してしまうことになる。米国は、独裁主義か社会主
義か、少なくとも比較的自由な資本主義ではなくなる。

というように、米国は恐ろしいことになり、民主主義の崩壊した社
会が世界に広がる可能がある。ロシア、中国、米国という巨大国家
がすべて社会主義か少なくとも独裁主義になる。

新自由主義社会思想が、自由を奪うことになると言っていたが、現
実化することになる。トリクルダウンなどありえないということだ
。貧富の差を大きくしてはいけないということでもある。

この時、できかどうかは別にしても、世界を主導する国家は、資本
主義で民主主義国家である日本とドイツしかないような気がする。

もう1つが、より高度なイノベーションが起きる可能性が出てきた。
AIやロボット、IOTの発展により、労働を必要としない社会に
なることで、クリエターなどの知的労働か接客業しか必要ない社会
になる。

AI・ロボット・IOT革命が起きると、投資が起きて生産設備は
一新する。生産コストを劇的に下げる。この工場は再度、先進諸国
に戻るが、労働者を必要としない。キャノンが完全無人化工場を日
本に建てるというが、新興国の労働者も首になってしまう。世界的
な工場労働者の失業となり、需要の重要な柱がなくなる。

そうすると、需要を確保するために国民全員に一定額を配るベーシ
ック・インカム政策が必要なってくる。それ以上は自分のクリエタ
ー能力や技術能力、経営能力で稼ぐことになるが、大多数は低賃金
の接客業、販売員や保育士、介護士をするしかない。

利益が積み増す資本家・経営者と低賃金な労働階級が完全分離して
しまうことになる。サンダース政権のような社会主義ができやすい
社会になることを意味している。

どちらにしても、資本主義の劣化により、民主主義が危機になる可
能性が出てきた。

これは資本家と労働者階層の格差が大きく、その差を埋めることが
できないことによる当然の結果である。

日本は、この資本家・経営者と労働者階層の格差が大きくないこと
がメリットになって、社会の混乱を抑えることができた。

しかし、今後はどうなりますか?



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