6055.国民の足となった台湾新幹線



     国民の足となった台湾新幹線
                平成31年(2019)3月20日(水)
    地球に謙虚に運動 代表  楽酔会 会員  仲津 英治
            ekovogel-nakatsu@kbh.biglobe.ne.jp

 日本では早春の候ですが、彼岸が近づくと盛春の気配がして参り
ました。冬の水鳥が北帰行し、ツバメの姿を見かけるようになりま
した。今日、暖かき中、ウグイスの初啼を聴くことが出来ました。

 さて、去る3月2日(土)から4日(日)まで、私も属している楽酔会(
会長 斎藤 麻奈さん)という異業種交流会の方々と共に、台湾に旅行
して参りました。総員11名で、私は女房と共に参加させて頂きまし
た。
 楽酔会は、文楽、歌舞伎といった古典芸能を愛する人が多い有志
の集まりで、主な活動は国内での見学、鑑賞ですが、一度海外に出
て台湾新幹線に乗りに行こうという提案があり、今回の台湾旅行と
なったものです。
 実は、平成13年(2001)から平成17年(2005)まで、私は台湾高速鐵
路の建設段階から関わっており、後半の2年間は実際台湾高速鐵路公
司に勤務しておりました。そして平成27年(2015)11月、夫婦で台湾
旅行に参り、その時の知見を踏まえ、「快走する台湾新幹線」と言
う一文を私が主宰する「地球に謙虚に運動」の代表発信蘭N0.118に
掲載させて戴いております。
 今回はそれから4年たち、ますます人々から利用され、今や台湾国
民に取って、欠かせない交通機関になっている台湾新幹線を見出し
ました。台湾新幹線は日本での呼び名であり、台湾では台湾高鐵と
愛称されています。

1.台北国際空港(桃園空港)から台北まで
 3月2日朝、関空を飛び立った中華航空(CAL)は、昼前台北国際空
港(台湾新幹線の台北駅より二つ目の桃園駅に隣接)に着陸、出迎
えの台湾高速鐵路公司の社員(私が台湾高鐵安全部に在任中、当時
の課員)の案内で、桃園大衆捷運股?公司(大衆捷運=MRT(Mass Rapid 
Transit=地下鉄に相当)の空港内線に乗って台湾高鐵桃園駅に向か
いました。 
 
 4年前、台北に来た時は、このMRT空港線はまだ開通していません
でした(2017年03月02日運行開始)。そして台北捷運公司=台北MRTと
は別会社による運営のようですね。
 桃園大衆捷運股?有限公司(沿線三市の桃園市、新北市&台北市の共同出資)
 https://www.tymetro.com.tw/tymetro-new/jp/_pages/about/index.html
 この会社が空港内MRT&台北市と空港を結ぶMRTを運営しています
。そして桃園国際機場公司は、日本の関西エアポートと提携してお
り、同公司は、南海電鉄、京成電鉄&阪神電鉄との連携協定を締結
しているようです。
 朝の6時台から夜の22時台まで1時間に8本の電車を運転しています
。朝夕のラッシュ時増発が無い、ユニークなダイヤです。Wikipedia
によれば、路線延長54■、駅数24駅で、空港客だけでなく、通勤通
学路線としても利用されているようで、年間利用客数は2,000万人を
超えているとか。発展している台湾の一面を見たような気がします。

2.台湾高鐵探索館(台湾高鉄博物館)見学(3月2日(土)午後)  
 桃園駅に隣接して、台湾高鐵探索館と称する台湾高鉄の博物館が
設置されていました。清国時代からの台湾北部の鉄道整備、1894~
1945年の日本時代における鉄道路線網の発達、そして台湾高鉄の開
通による台湾鉄道網のほぼ完成した姿を同探索館で見ることが出来
ました。世界の高速鉄道は、日本の東海道新幹線を嚆矢として整備
されて行ったことを強調し、そのシンボルとしてゼロ系新幹線の写
真が大きく展示されていました。ゼロ系新幹線の車両の検査を行な
い、運転士見習いを体験した者として、嬉しく拝見しました。

3.台湾新幹線で台北へ
台湾高鐵探索館を見学した後、台湾新幹線桃園駅15時38分発の648列
車(高雄市内の左営駅始発)に乗り、台北駅まで参りました。定時
運転で乗り心地も上々でした。台湾では島の西側に大都市は北から
南へ台北、台中、台南&高雄と並んでおり、そこに新幹線が整備さ
れ、在来線もほぼ並行して走っています。
 桃園駅のホームは結構乗降客で混雑していました。2月28日(水)
(平和記念日,二・二八事件=1947年2月28日以降国民党政権が台湾の
民衆を弾圧・虐殺した一連の事件を象徴する日)に続いて、3月3日
(日)まで4連休のためだったようです。  

 駅で頂いた時刻表を見ますと、この時期には台中~台北間を(最速
列車で54分、各駅停車では81分)定期列車は60往復、週末臨時列車が
40往復ほど運転されており、日本の山陽新幹線とほぼ同じ規模の列
車が運転されているようです。編成両数は全て12両です。16両と8両
編成の列車が走る山陽新幹線と比べると、輸送力は同規模ですが、
観光客に対応した週末運転が多い波動性の高いダイヤと言えましょ
う。
 台湾高鉄プロジェクトがスタートしたころ、台北~左営(高雄市内
北部)間(約345■)で一日18万の乗客&88往復の列車運転計画が立
てられ、32編成の車両が発注されることになっていましたが、その
レベルを凌駕する水準までお客様が増えたということでしょう。

4.台中観光&日帰り往復 (3月3日(日))
 今回の旅行は2泊3日の日程でしたので、台北・高雄間を往復する
と時間的に苦しいところ、中日の3月3日(日)に中間の台中市を往
復することとし、同地を頻度多く訪問しているご夫婦のセッテイン
グで、台中国家歌劇院、国立台湾美術館、宮原眼科(かつての医院を
改造した土産物店)などを見学&見物しました。女性で食通の方が
おられ、「無為草堂」という和中折衷のレストランで美味しい台湾
料理も頂けました。緑薫る庭園と錦鯉を眺めつつ頂く、アルコール
抜きの烏龍茶で味わうランチメニューでした。
往きは、台北9時31分発117列車で中間停車は台北市内の板橋駅のみ
、台中には10時20分定時到着。列車は連休中とあって満席でした。

 台中に着くまで、私は車内の様子を観たかったので、全車両を隈
なく歩いて回りました。
                               
これは素晴らしいと思ったのは、編成の中ほどに設けられていた車
椅子置き場と身体障害者用の座席です。前回乗った時は、このよう
な設備はありませんでした。台湾高鉄の姿勢を示すものでしょう。
また、カンガルーが前の座席の上に足を載せ上げるような姿勢で乗
る場面の絵図がありました。マナーの悪い乗客への警告掲示でしょ
う。他に大蛸が方向転換した向い座席を占領する場面、兎が列車に
無理に乗ろうとする場面&ライオンが吠えている場面の絵図がいず
れもデッキにありました。こういう低レベルマナーの乗客も台湾に
はいるのでしょうか。文章だけでなく、漫画で掲示するセンスが良
いですね。
 
 車内販売は、日本と同様に行われており、ワゴン車を押しながら
二人の女性アテンダントが車内巡回販売していました。アテンダン
トは全部で3人乗務しており、もう一人の女性は、クルー室で、準備
、整理に当たっていたようです。台湾語にもなっている弁当も売っ
ています。
運転士と車掌は一名づつ乗務で、交代は無く、全区間乗務するとの
ことでした。この乗組み基準は以前と同じようです。

 座席については日本出発前に私は、週末に重なる所、座席予約を
勧めており、幹事の方が列車予約を行なってくれていましたので、
助かりました。僅か40~50分でも70歳を超えた我々には立ちん坊は
疲れます。
問題は帰りでした。台中駅で幹事が指定席を求めたところ、4連休の
最終日で全部売り切れと言うのです。そこで私はすかさず提案しま
した。「台中始発の列車が1時間に一本あるところ、丁度夕方17時4
分発の1550列車があります。10~12号車が自由席ですから、30分前の
16時半にホームに並びましょうと」。果たして11人全員が座れて、
台北に帰り着くことが出来ました。夕食の席で皆さんから感謝の弁
を頂きました。
 1550列車は台中始発ですが、12号車(先頭車・自由席)の車内通路
は立ち客で一杯、デッキもぎゅうぎゅう詰めでありました。台湾新
幹線が、台湾国民にとって欠かせない国民の足となっているなと実
感した次第です。
    
 台湾高速鐵路公司は、都心部に高速鉄道を通すと、用地費が掛か
り、工事期間も長期化するので、台北市内を除いて、中間駅は都市
郊外に設けています。台湾高鉄台中駅は都心部の台鐵台中駅(台湾鐵
路管理局が運営する在来線の駅)から、7.4■も離れています。我々
一行は、タクシーに分乗して台中市西屯区の再開発エリアにある台
中国家歌劇院(繁体字: 臺中國家歌劇院)に向かいました。同歌劇院
は日本の建築家伊東 豊雄氏が設計した斬新なレイアウトの劇場です。

 その歌劇院の広場から見た再開発エリアを眺めますと、多数の高
層ビルが林立し、よく観るとオフィスビルと高層マンションが混淆
していました。職住接近の都市再開発が実施されたようです。2003
年頃の台中市の記憶が残っている私には、その発展振りに驚きの思
いを持ちました。軌道系の台中捷運MRTも4路線計画され、一部工事
中とのことでした。

 台北中央駅の夜景は眩いばかりの綺麗さでした。豊かになった台
湾を目の当りにした感じがしました。
 平成30年(2018)の訪日外国人数の三傑は、中国、韓国&台湾の順
で、それぞれ838万人、754万人&475万人です。人口比から見ますと
、0.6%、14.7%&20.2%の順となります。昨今確かに訪日中国人が増
加していることは実感し、よく報道もされていますが、人口割合か
らすれば、台湾が一位なのです(人口;中国13億9千万人、韓国5,145
万人、台湾(中華民国)2,357万人、2017年世界経済のネタ帳より
(https://ecodb.net/ranking/imf_lp.html)。
 親日でリッチな台湾の方が何度も来てくれることは有難いことです。
 尤も人口比からすると香港が、来日数221万人/人口805万人=27.5%
とダントツですが、香港は1997年英国から中国に返還されており、
中国の一部として統計されている場合が多いようですね。

5.台湾高鉄の運営姿勢
 最後に台湾高速鐵路公司が、高速鉄道の運営に当り、どういう姿
勢で臨んでいるか、その一端を示す事例を申し上げましょう。私の
台湾高鉄在任当時の安全部長で現在も中枢の職務を担っておられる
方から安全重視&規程の遵守のスタンスを伺いました。台北駅の運
転事務室で規程類のファイル群を見かけました。

  台湾高鉄の開業前に、当時のJR東海 &JR西日本は台湾高速鐵路
公司に対し、88本もの規程類を無償で提供しました。国鉄時代から
受け継がれて来た、新幹線の建設、運転、営業、保守等に関する網
羅的な規程類です。私は台湾高鉄在任中、これら規程類の中で、列
車の運転&安全に関する規程類を台湾高鉄社員に徹底的に講習しま
した。台湾高鉄に在任したJR 社員は皆、その方面で尽力したはずで
す。そして台湾高鉄社員はそれら日本語の規程類を、中国語に翻訳
し、かつ自らの諸規定を定め、それらを自分達のものとして消化・
吸収して日々安全かつ正確な高速鉄道を運営しているのです。その
一端をこの駅の運転事務室の机の上の規程類抄が表していると思い
ます。

 その成果として、台湾高鉄は、世界トップクラスの安全・正確で
、高サービス水準の高速鉄道を具現しています。2007年3月の本格開
業以来、台湾新幹線は、無事故で、平均遅延時分=13.6秒(2014年)
という驚異的な列車運転水準を達成しています。

 日本の新幹線で一番高い平均遅延時分は、東海道新幹線の24秒
(2016年)です。これは東海道新幹線が米原~関ケ原間の豪雪地帯
を走行しているためで、山陽新幹線、東北・上越新幹線、九州新幹
線はこれより平均遅延時分は低いようです。2015年長野駅 - 金沢駅
間が開業した北陸新幹線は、北陸の豪雪地帯を走っていますが、雪
害に悩まされた東海道新幹線の経験を踏まえ、東北・上越新幹線同
様以上の、地上設備を重点に車両も含め対策を講じており、東海道
新幹線より平均遅延時分はさらに低いはずです。

 何故、そんなに正確さを追求するのかと、批判する向きもありま
すが、私は、列車の遅れは、トラブルを起こし&事故を誘発する可
能性があり、運転の正確さは安全レベルを維持向上させることに繋
がると認識しています。というのは、鉄道の現場で働く社員は、列
車ダイヤに基づき職務に付いているからです。遅れが発生すれば、
作業の順番も変わりうるし、作業内容を変更せざるを得ない状況に
なることが起こり得ます。そうした変更&変化が事故につながる可
能性を生じさせましょう。皆さん、いかが思われますか?
                          以上


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