5770.八正道のネットワーク理論



現代という芸術アラカワ 
From: tokumaru

 釈迦という前衛 − 八正道のネットワーク理論

 この一年、道元の「正法眼蔵」75巻本と「道元和尚広録」を繰
り返し読んできた。すると、正法眼蔵随聞記も正法眼蔵12巻本も
偽書ではないかという疑問がわいてきた。あまりに多くの研究者が
、偽書かもしれないものを真に受けている。
 言葉は脊髄反射の回路を使っているから、疑うことが予定されて
いないのだ。反射に迷いは無用である。
 そのために禅問答や現代芸術は、答えの出ない問いを見る者につ
きつけるわけだ。

 こう考えたとき、釈迦の八正道も、言語情報のためのネットワー
ク理論だった可能性に気づいた。言語による知的進化を遂げるため
の一般理論として八正道は考えられた。
「私が六年も修行したのは、涅槃のためじゃない。人類の前衛たち
のためだ」と釈迦はいうだろう。「やっとわかってくれたか」と。

 「正見」とは、先入観にとらわれずにあるがままに見ること。つ
まり意味のメカニズムだ。正しく見るためには、正しい概念を身に
つけ(「正念」)、正しい思考を行い(「正思惟」)、正しい公理や脳
内図式(「正定」)を身につける必要がある。
 それを、できるだけ正確に表現し、改ざんが行われたり偽書がつ
くられる可能性があれば、符号化を行って何が正しいテキストかわ
かるようにする。(「正語」)
 先を行く前衛の言葉を正しく身につけるのが「正業(正行)」であ
り、丁寧に繰り返し読み解くことが求められる。すると先行者の命
は、後続する者の中で蘇る。(「正命」)
 こうして精進することによって、先行者の到達点を一歩でも先に
進めることが、人類の叡智の前衛として求められている。(「正精進」)
 
 道元が正法眼蔵の75巻に連番を振り、示衆日や清書日を書き入
れたのは、将来登場する偽書に対抗するためだ。広録の各巻の上堂
数と頌古数を数えたのも、改ざんされないための正語の措置だった
。永平寺の不勉強で怠け気な弟子たちのおかげで、道元は人類史上
初めて、テキストの前方誤り訂正を可能にする符号化を行った著者
になった。
 いつかこれが言葉の情報理論の教科書に載り、道元が顕彰される
日がくることを祈る。

得丸

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