5662.シリア問題とトルコの対応



先週金曜日、トルコ共和国のメスット・オズジャン首相補佐官の講
演会を聞きに、虎ノ門に行ってきた。トルコが孤立している可能性
があり、今後の展望を聞きに行った。

(オズジャンの講演)
中東情勢は、「アラブの春」から混乱している。トルコも大きな政
治的な影響を受けている。

中東地域各国は、3つの変革が必要であり、1つ目は国民が政治参
加できる政治改革であり、2つ目は2008年の世界的な不況の影
響で経済的な問題が起こり、この解決が必要であり、3つ目には、
若者がSNSで他国の状況を知り、不満が拡大している社会的な問題の
解決をすることである。

トルコは、各国国民の要求を知り、この改革を支援した。そのため
に中東各国との関係を深めて、国民と政治家の政治対話の場を作り
、経済的な関係を強化するためにFTAを結んだ。もちろん、レバノン
やシリアでも行なった。

経済関係は、ビザを無くして人の交流を促進した。それと各国に対
して信用を供与し、政治プロセスの変革をお手伝いした。
しかし、チェニジア以外ではほとんどの国で失敗した。
政権が変われば、すぐに問題が解決すると期待したが、ダメであっ
た。

シリア、イエメンなどは内戦になり、破綻国家になった。そして、
難民が劇的に増加した。問題の規模が大きく難しく、当事者間での
将来像が大きく違っていたことで、失敗した。紛争が激化したこと
で、国家ではない民兵やテロリストのISが台頭してきた。

このような状況で、トルコはどうしたか?
近隣諸国の問題で、トルコの貿易が大幅な減少し、経済的なマイナ
スになっている。シリアとイラクから300万人(270万人シリ
ア、30万人イラク)難民がトルコに来た。その後、長く解決でき
ないとしてEUに向かい始めた。

このため、国際社会に難民問題が持ち上がったのである。トルコは
100億米ドルの費用がかかっている。しかし、国際社会からは、
たった50万ドルの支援があるだけだ。トルコには、大きな経済的
負担になっている。

また、トルコ南東部ではISのテロ攻撃があり、治安問題になって
いる。この解決は短期的には無理である。域内だけでは解決が無理
であり、国際社会の関与を必要としている。

地域の安定化のために、シリアでは平和交渉を国連が中心で進めて
いる。リビアでは新しい政権を作る動きが有り、イエメンでは停戦
が実現している。

しかし、まだ中東には経済的な問題がある。経済的な問題解決には
技術などの援助が必要であり、若者の要望を叶える必要がある。テ
ロリストは国家が提供しない若者の要望を提供して、大きくなって
いる。このため、テロリストを蔓延らせないためには、国家が、基
礎的な要望を提供するべきなのである。

ということで、トルコは、周辺国の課題克服を支援する方向である。
このため、トルコでは、難民がトルコで仕事をできるようにしてい
る。

次に(ウフク・ウルタシュSETA外交部長の講演)
シリアは内戦が始まった6ケ月で、代理戦争になってしまった。
アサド政権にイランとロシアが直接介入し、湾岸諸国とトルコが反
体制派を支援した。このため、シリアの選択肢は狭くなった。この
ため、地域レベルでは解決できずに、国際社会に持ち込んだ。トル
コは政治解決を望んでいる。軍事的な解決を目指さない。
ロシアは軍事的な直接介入したが、トルコは軍事的な介入をしない。
このため、政治的な解決にもロシア・イランが介入してきている。

次に(クルチェ・カイナット准教授の講演)
難民が国境の町で住民が8万人程度なのに、25万人も押しかけて
いる。このため、公共サービスが充分できないことになっている。
難民に無料の手当をしているが、間に合っていない。

(Q&A)
Q1.シリアISの領土が狭まっている。ISは衰退し始めたのか?
A1.(オズ)ISの勢いは下がっている。空爆の効果である。外国
人戦闘員の流入を止めたことも影響している。しかし、ISを滅亡
させるには、地上作戦が必要である。現状では、イラクのモスルを
攻撃する能力もない。また、国民の間で、国の将来の形で合意でき
ていないことも、大きな問題である。
(ウフタ)ISは弱くなったら、また地下に潜る。スンニ派住民の
怒りや若者の要求を利用して復活してくる。このため、国民の要求
を実現しないとテロ組織根絶はできない。
(カナイ)テロ組織は、いろいろな攻撃をしてくる。ベルギーやフ
ランスなどの攻撃でわかったと思う。

Q2.トルコは、外人戦闘員を国境で止めないと批判されているが、
どうであろうか?
A2.(オズ)2011年でも、37000人を止めている。情報が重要であり
、インターポールからの連絡があれば逮捕できるが、今までは、そ
のような連絡がなかった。EU諸国もテロリストを送り出していた
が、それを非難しないのは片手落ちである。連絡があれば、ベスト
を尽くすのが、トルコの立場である。
(ウフタ)シリア国境は、トルコの一部地域を自国領土と主張して
いる。このため、その地域に行かれると逮捕は難しい。

Q3.トルコはISから石油を買っているのか?
A3.(オズ)ロシアのプロパガンダである。ありえない。

Q4.キリスト教とイスラム教の対立が根底に有るのではないか?
2004年のアンマン・メッセージはその後、どうなっているのか?
また、2008年マドリードの宗教対話のその後は
A4.(オズ)ムスリムの国際社会へのテロ活動では、宗教対立を利
用しているが、これは宗教教育が必要であり、穏健な社会にする必
要がある。
また、テロリストはうらみを利用しているので、欧米でもムスリム
の社会的経済的な問題を解決する必要がある。

Q7.トルコは地上部隊をシリアに送るのか?
A7.(オズ)地上軍は送らない。国連軍ができたら、それには参加
する可能性はある。

Q8.ISへの入国は、前は止めていないと思うがどうか?
A8.(オズ)ISは、イラクではイラク人だけであり、シリアは反
対に、外国人だけである。当初、外国人がISの戦闘員かどうかの
リストを持っていなかった。このため、情報がないので止めること
ができなかった。この面でも国際協力が必要である。
(カイ)諜報の協力が必要であるが、もう1つ、シリア国境線は
900キロもあり、国境線には障害物がない。国境地域の人の移動
を自由化していたのでない。このため、限界はある。

Q9.将来のシリアをどうしたいか?
A9.(オズ)ジュネーブでの平和交渉に委ねるが、移行期間後の体
制は、シリア人が決めることである。連邦制もその選択肢であろう
。しかし、それぞれに国を分けるべきではない。統一シリアであっ
てほしい。アサド追放は、今後1年半後なのであろうか?

Q10.クルド族の統一については、トルコとしてはどうみていますか?
A10.(オズ)イラクとシリアのクルド人は、政治的にも違い、統一
の機運はないと見ている。KPGでも複数の政治グループがあり、対立
している。
(カイ)トルコのクルド人が、この地域で一番多い。このクルド人
が過激化してきている。それが心配である。

Q11.トルコ政府は、PKKと戦闘をしているが、和平は可能か?
A11.(カイ)PKKとは、7/11停戦合意したが、8月にPKKが戦闘をして
きた。PKK党内事情であろうか、クルド人は自治を宣言して攻撃して
きたので、トルコ軍が応戦したのである。PKKは停戦するべきである。
トルコとしては、治安を優先していくしかない。
(オズ)PKKは、シリア紛争で優位な立場になっている。このため、
武力行使したのであろう。
(ウフタ)現実問題として、トルコ国民が多数殺されている。国内
テロ活動をするPKKを叩くことは、優先的な課題である。

(感想)
やはり、最後はクルド人問題になって終わった。中東問題は、ムス
リム、国家、民族など多様な問題が重なっていて、難しいのであろ
う。

トルコの民主的ムスリム国としての立場で、中東問題を主導したい
のであろうが、ロシアやイランなどの大国が介入してきて、希望ど
うりにはできないジレンマを感じた。





コラム目次に戻る
トップページに戻る