5558.ロシアとトルコ紛争で複雑さが増す世界



ロシアの戦闘爆撃機を撃墜したトルコ、トルコに対して制裁を行う
ロシア、イスラム国攻撃で協調したいEU、シーア派とスンニ派を
分裂させたいイスラエル、イランの地域覇権を阻止したいサウジア
ラビア、シーア派を守りたいイランなど複雑さを増す中東情勢を考
察したい。   津田より

0.米国の立場は
米国のポジションが、はっきりしない。米軍はトルコにインシルリ
ク空軍基地を持ち、ここからイスラム国への爆撃をしているし、ロ
シア空軍がラタキラに入った時点で、F−15対戦闘機空中戦部隊
を配備している。もちろん、ロシアのSUー34などの戦闘爆撃機
対応であることは自明だ。

トルコ基地を使用しているので、トルコ政府の意向を尊重する立場
であるが、今回のロシア戦闘爆撃機の撃墜では中間的な立場を表明
している。17秒間の上空侵犯で撃墜は基本的にできないので、待
ち伏せ攻撃だった可能性があり、また撃墜したパイロットを殺害し
たことで、国際法上、トルコの行為は違反している。このため、ト
ルコに全面的に加担はできない。

米国は中東から撤退したいので、ロシアが米国の代わりにイスラム
国を倒すのは歓迎であるが、シリアのアサド政権をサポートするこ
とは、イスラエルやサウジ、トルコなど米国の同盟国が反対なので
反対している。米国は、この地域での戦闘をしたくないのである。

イスラム国を倒すには、地上軍が必要であるが、その地上軍として
強いクルド人部隊しかいない。しかし、トルコのエルドアン大統領
はクルド人を敵視している。

フランスはパリの同時多発テロの復讐のために、イスラム国を倒す
ロシア+NATOの国連軍を形成したいのであるが、その運動をし
ている時にトルコがロシア機を撃墜したのである。この撃墜は計画
されたものである可能性が高い。待ち伏せ攻撃をするためには、計
画ができている必要がある。

エルドアン大統領の激憤から撃墜が起こったというが、どうも米国
とイスラエル、サウジなどもトルコと一緒になって計画した可能性
を指摘されている。フランスが運動する国連軍形成を阻止するため
にである。

この撃墜で国連軍形成はできなくなった。NATO全体ではロシア
と組めないし、米国も拒否できる理由ができたことになる。

1.ロシアとトルコの紛争はどうなる
このため、現在、ロシア+イラン+EUが共同でイスラム国を倒す
軍事的な協働体制を引き、トルコ+米国+イスラエル+サウジがア
サド政権打倒を優先する体制になり、イスラム国の打倒を優先する
か、シリア政権打倒を優先するかの分裂が起きている。2つの戦争
が起きていて、そのどちらを優先するかの戦いになっている。

このため、イスラム国を打倒することで世界は共同の体制ができな
いことになる。

ロシアは、地上軍をすでに入れているが、トルコとの紛争が起きて
地上軍を増強して、トルコが支援する反政府軍を打倒する方向にな
るし、ロシアはトルコの敵であるPKK、に対して、武器を大量に供与
するかもしれない。

旧約聖書のエゼキエル書では、ロシアがペルシャと一緒に攻めて来
ると述べているが、その状況が出現して、トルコとの紛争の関係か
らロシアは地上軍を増強することになる。

ロシアはすでにトルコに経済的制裁処置を取っているが、トルコの
輸出先一位であるロシアから輸入禁止されるので、大きな経済的ダ
メージを受けるが、エルドアン大統領は、ロシアへの謝罪を拒否し
ている。

しかし、ロシアは、一層トルコを締め上げるかというと、トルコは
ボスボラス海峡を封鎖してロシアの黒海艦隊が出て来れないように
できるので、あまり締め上げることもできない。もちろん、トルコ
との戦争はできない。

ロシアの目標は、西側を説得して対ロ制裁を解除させることである
からNATOとは問題を起こせない。

このため、プーチンは外交面でも譲歩を始めた。パリのテロ事件の
2日後の11月15日のウィーンでの会議ではロシアと米国が、シリア
騒乱に関する立場の違いを完全に越えて、2017年の早い段階でシリ
アの新政権を選挙によって樹立するとの流れに同意した。立場の違
いを埋めてきた。しかし、これでも合意ができなかった。トルコや
サウジが反対したからである。

NATOとしてもロシアとトルコの紛争で、NATO全体の問題に
されると大変なので、EU諸国は、これ以上の緊張を避けるように
トルコに圧力をかけることになる。

2.各国の思惑
米国とイスラエルは、現時点で同盟関係を修復している。イスラエ
ルはこの地域一体にスパイ網を確立しているので、米国としてもイ
スラエルの情報がないと動けない。

ロシアはイランの情報網がないと動けいないので、シーア派とスン
ニ派の対立では中立ではあるが、イランとの同盟関係が重要である。

サウジは、この地域に金をばらまいているので、いろいろな情報を
ある。しかし、シーア派イランの地域覇権を阻止するために、いろ
いろなことを行っているが、自国軍はほとんどいない。

トルコは、民主化したイスラム主義であり、独自のポジションから
地域覇権を確立したいと思っている。

このようにイスラエル、イラン、サウジ、トルコのこの地域大国4
ケ国のそれぞれの思惑があり、その上にロシアと米国がいるので、
複雑な利害が絡み、イスラム国を倒す連合ができないことになる。
イスラム国にとっても、非常に好ましい状況である。

3.米国はどうする
イスラム国は、米国でのテロを計画していない可能性がある。米軍
の空爆は、空爆地点が事前に分かり、対策が取れるようであるが、
ロシアの空爆は、大量でかつ事前情報がないので大きな被害が出て
いる。米国は、口ではイスラム国打倒をしているが、その気がない
戦闘をしている。

このため、イスラム国も米国を敵とは見ていないようである。また
は敵にすると、地上軍を大量投入されて、イラク・フセイン軍のよ
うに負けることがわかっているからである。

欧州は、米国のやる気なさを見て、ロシアを頼るしかない。ロシア
は大型の爆撃機で、大量の爆弾をイスラム国に落としている。
また、大量の地上軍も入れる可能性が高い。その意味はEUの意向
を体して動き、EUのロシアへの制裁を中止させるためである。

米国は中東の同盟国の意向で、ロシアとは協働体制はできない。

というように、米国とEUの利害が一致しなくなってきたことで、
米国はEUの意向とは違う動きになる。NATO内での意向の違い
が表面化してくることで、NATO自体が分解する可能性が出てき
た。

米国は世界の警察を降りて、次の世界の警察にロシアが名乗りを上
げたが、しかし、中東の複雑な利害に、ロシアは足を取られたよう
な感じがする。

プーチンは、偉大な戦術家ではなるが、戦略家としては失格である
とストローブ・タルボット氏は言ったが、その通りであるかもしれ
ない。

しかし、徐々に中東大戦争になる雰囲気になってきた。各国の思惑
の違いから計算ミスを起こし、その計算ミスが次の計算ミスを起こ
して、徐々に戦争が大きくなるという状態になってきたようである。

さあ、どうなりますか?


参考資料:
Syria’s Two Wars
http://www.project-syndicate.org/commentary/syria-strategy-islamic-state-by-christopher-r-hill-2015-11

The Trouble with International Policy Coordination
http://www.project-syndicate.org/commentary/international-policy-coordination-constraints-by-jeffrey-frankel-2015-11

Obama has uses for Turkey-Russia tensions
http://atimes.com/2015/11/obama-has-uses-for-turkey-russia-tensions/

Chief Of Russian Air Force Accuses Turkey Of Coordinated Ambush On Downed Jet
http://www.zerohedge.com/news/2015-11-27/chief-russian-air-force-accuses-turkey-coordinated-ambush-downed-warplane

Putin’s Syrian Roulette
http://www.project-syndicate.org/commentary/russia-military-intervention-syria-by-omar-ashour-2015-11

Why Paris attacks won't transform U.S.-Russia cooperation
http://edition.cnn.com/2015/11/16/opinions/oliker-russia-us-relations-isis/

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対トルコ制裁命令=緊張長期化辞さず−ロ大統領
 【モスクワ時事】ロシアのプーチン大統領は28日、トルコによ
るロシア軍機撃墜を受けて(1)禁輸(2)経済活動制限(3)ビザな
し渡航停止(来年1月以降)−を柱とする対トルコ制裁を科す大統
領令に署名した。圧力をかけトルコに非を認めさせるだけでなく、
シリア和平で対立するトルコに譲歩を迫るため緊張の長期化も辞さ
ない構えだ。
 大統領令によると、トルコからの特定品目の輸入禁止・制限の措
置を近く発動。ロシア国内でトルコ法人の活動を制限し、来年1月
からは企業のトルコ人労働者雇用を禁止する。トルコへのチャータ
ー便運航を禁じた上で、旅行会社にトルコ向けツアーの取り扱い自
粛を求める。トルコの陸運・海運会社への規制も強化する。
(2015/11/29-07:08)
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2015年11月28日nevada
トルコ経済への打撃とトルコ国債
今回のロシア軍機撃墜を受けてロシアはトルコとの貿易を縮小させ
、かつトルコにいる ロシア人に対して帰国を促す命令を出していま
す。
トルコにとりロシアは最大の輸入国であり(年間250億ドル)、
かつ年間数百万人のロシア人が観光・保養に訪れており、このロシ
アを怒らせてトルコ経済が無事であるはずがありません。
また第二の輸入相手国は中国となっており、仮に中国もロシアに同
調した場合、トルコは輸入先1位、2位を失うとなるのです。
特にトルコは観光で稼いでいる国でもあり、テロがあるとしてロシ
ア人が引き揚げ実際にテロが起こればトルコの観光産業は大打撃を
受けることになります。
今回のたった一発の空対空ミサイルがトルコ経済を危機に陥れるこ
とになりかねないのです。
今回の撃墜を受けてロシアはシリア内にいるトルコ系の反政府ゲリ
ラを殲滅するお墨付きを得た訳であり、この地域、即ちトルコとシ
リア国境付近となりますが、トルコ側を挑発する軍事的活動を行い
、今度は配備したロシア製の地対空ミサイルでトルコ軍機を撃墜す
ることになるはずです。
シリア情勢は新たな局面に入ってきたとも言えますが、トルコは果
たして西側の常識が通用する国なのかどうか、アメリカはじめNA
TOは今一度検討した方がよいと言えます。
軍事援助・支援を西側は行っていますが下手しますとその軍備が西
側に向けられる事態に陥るかも知れず、¨飼い犬¨にかまれる事態
にならないとも限りません。
そして高利回り債としてトルコ国債を日本人は大量に保有していま
すが果たして償還されるのかどうか?
トルコを信用してもよいのかどうか。
今一度考えた方がよいかも知れません。
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『ロシアのトルコに対する報復は何か』
 [2015年11月28日(Sat)]中東TODAY
トルコがロシアの戦闘機を撃墜して、既に数日が経過している。撃
墜後の両国の動きを見ていると、トルコはエルドアン大統領がロシ
アに対して『火遊びはするな』といってはいるものの、相当の不安
を抱いているようだ。
トルコ政府はヨーロッパで開催される会議に、エルドアン・プーチ
ン両大統領が出席予定であることから、エルドアン大統領のプーチ
ン大統領との会談を、セットしようと努力している。しかし、今迄
のところロシア側は、これに何の返答も、していないようだ。
それは当然であろう、撃墜された戦闘機から脱出したパイロットを
、トルコの仲間が地上から発砲、し一人を殺害しているのだ。これ
は述べるまでも無く、国際法に違反する行為だ。
そもそも、今回の撃墜劇は、以前から周到に用意されてあったもの
だ、としか考えられないことも、プーチン大統領をして、激怒させ
ているのであろう。短い領空侵犯の距離を、17秒かけてロシアの戦
闘機が飛んだ、というのは計算してみれば。すぐ嘘だとわかろう。
また、トルコが主張する、パイロットの発した警告テープなど、簡
単に偽造できよう。
さて激怒したプーチン大統領は、即座に報復を口にしているが、ど
のような報復をするのであろうか。これまで発表されたのは、トル
コ人に対するビザ免除を、来年1月から廃止する、トルコの生鮮野菜
果物は輸入しない、ロシア人観光客をトルコに行かせないといった
ものだが、これだけでも相当の経済的ダメージとなろう。
加えて、ロシアのガスをヨーロッパに輸出する、トルコ・ストリー
ム計画を中止することや、トルコでの原発建設を凍結するといった
ことが、具体化してきている。トルコのロシア・ガスに対する依存
度は、きわめて高いことを考えると、そのようなことは起こらない
とは思うが、ガスが止まればトルコの今年から来年にかけての冬は
、相当に寒いものとなろう。
野菜や果物の輸出をしている生産者や、輸出業者にとっては、まさ
に死を待つ状況となろう。トルコ政府はガスの輸入についても、生
鮮野菜果物類の輸出についても、楽観視しているが、案外厳しい状
態になるのではないのか。
加えて、ロシアはトルコの敵であるPKK、に対して、武器を大量に供
与するかもしれない。シリアにいるクルド人に対しても、同様のこ
とが起こる可能性はある。加えて、ロシアはトルコとシリアの国境
に近い、トルコの軍事基地に対して、攻撃を加える可能性も、高い
だろう。
トルコはいまのところ、シリアへの戦闘機の飛行を止めているよう
だが、シリア領空に入れば、空中戦が起こることを、想定しなけれ
ばなるまい。そうなればロシアにとって有利なのではないか。パイ
ロット錬度が数段高い、と思われるからだ。
もうひとつの懸念は、シリア国内に居住する、トルコマン人に対す
る、ロシア軍の攻撃が、増すのではないか、ということだ。トルコ
本土に対する直接的な攻撃は、控えめにしながらも、シリア国内の
トルコマン人に対する攻撃では、遠慮が要るまい。
ロシアはトルコマン人をテロリストの一味、と認識しているからで
あり、彼らはロシアが支援する、アサド大統領の敵だからだ。結局
、この場合も一番苦しい思いをするのは、在外のトルコ人(トルコマ
ン人)ということになりそうだ。
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西側が対テロでロシアと組むべき合理的理由
フルシチョフの孫娘が分析
ニーナ・フルシチョワ :世界政策研究所上席研究員 2015年11月28日TK
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、10月に手製爆弾を使用
してエジプト上空でロシアの航空機を墜落させ224人を殺害した首謀
者を「見つけ出して処罰する」と表明した。
この声明がなされたのが、パリでテロリストが自爆やカラシニコフ
銃で129人を殺害した数日後なのは、偶然の一致ではない。プーチン
は、西側との関係改善のために、パリでのテロを利用することを望
んでいる。西側は彼を締め出すべきではない。
ロシア政府は数週間にわたり、同航空機事故に適切に対応すべきか
をためらっていた。シリア騒乱への介入を決断したせいで人命が失
われたのだとされることを案じていたかのようであった。
パリ襲撃が情勢を変えた
しかし、フランスでの惨劇でこの算段は完全に覆り、ロシアと西側
の関係が修復される可能性が出てきた。パリを襲撃することで、過
激派組織のイスラム国(IS)はシリア騒乱を世界規模の紛争へと変
えた。また、トルコで開催されたG-20サミットでのプーチンのパフ
ォーマンスにより、ロシアが確実にその戦いの渦中にあることが示
された。
プーチンがもともと、西側との対立を計画してはいなかった点には
留意する必要がある。プーチンは「ロシアは欧州文化圏の一部だ」
と大統領当選の直後の2000年にBBCに語っている。「わが国が欧州や
、われわれが文明社会とみなす地域から孤立することなどは想像で
きない。私にとって、北大西洋条約機構(NATO)を敵対視すること
は難しい」。
その関係が悪化したのは、NATOがブルガリア、エストニア、ラトビ
ア、リトアニア、ルーマニア、スロバキアならびにスロベニアとの
対話を開始した後の2002年になってからだ。英国のブレア前首相が
、回想録の中でターニングポイントを記している。「ウラジーミル
は後になって、米国人が彼に相応の場所を与えないと考えるように
なった」。
その後、国内景気の深刻な後退で有権者の怒りをそらす必要が生じ
たことから、プーチンの好戦性は強まった。特に米国はそうした姿
勢を蔑視したらしい。オバマ米大統領はかつてプーチンを「教室の
後ろにいるつまらない子供」だと評した。
だが、自国が侵略の犠牲になっているとしてプーチンが闘争の姿勢
を公にしたのは、ロシアがウクライナに干渉し、2014年3月にクリミ
アを併合したときだ。クリミアでの疑惑の住民投票により同地域の
ロシア支配が強く支持された直後にプーチンは、西側が「われわれ
に何度も嘘をついて背後で決定を下し、既成事実を突きつけた」と
テレビ演説で語った。「NATOが東方に拡大して境界に軍事施設を配
置したため、これは起きたのだ」と。
それ以来、プーチンは、クレムリンの世界的な行動力をシリア侵攻
などによって誇示することで、ロシアは単なる「局地的な力」であ
ると評価したオバマに対抗しているように見える。
だがプーチンは、トルコでのG20サミットでは従来とは大いに異なる
態度を見せた。「反テロでの協力を提案した。残念ながら以前は米
国内のパートナーに拒絶されたが、(現在は)手を携えて効果的な
戦いを行うことが可能だとの認識に皆が達しようとしている。パー
トナーたちがわれわれとの関係を変えるべきだと考えるのなら歓迎
する」。
プーチンの提案の裏にあるロジックは明白だ。ロシアはクレムリン
の政治的な主導権をウクライナで確立させるとの目標を達成した。
彼の現在の目標は、西側を説得して対ロ制裁を解除させることだ。
シリアでの「汚れ仕事」引き受けます
パリでのテロ事件は、シリアでの軍事作戦を通じて西側の利益に寄
与する機会をプーチンに与えた。つまり、ロシアは、自国の勢力圏
(であるシリア)でイスラム国を攻撃するという、汚れた役割を担
おうというのだ。
プーチンは外交面でも譲歩を始めている。パリのテロ事件の2日後の
11月15日のウィーンでの会議ではロシアと米国が、シリア騒乱に関
する立場の違いを完全に越えて、2017年の早い段階でシリアの新政
権を選挙によって樹立するとの流れに同意したもようだ。
米国と欧州の同盟国は、クレムリンへの多大な影響力を突然手に入
れて利用することに弱気になるべきではない。西側にとっての健全
な戦略は、直ちに制裁を解除することなしに、自らを世界的に偉大
なパワーだと認めさせたいクレムリンの望みを利用することだ。
ロシアがミンスク合意を遵守して国境から軍を撤退させ、現地で国
際基準に沿った選挙の実施を補助するように仕向ければ、手詰まり
になっているウクライナ東部での紛争は解決する可能性がある。
プーチンがウクライナでの協力を通じて好意的な姿勢を見せた場合
、西側は見返りとして一定の譲歩を考えるだろう。イスラム国との
戦いにロシアが参加するとともに国際社会のルールを守ることに対
して、そうした見返りを与えるのは割に合っているかもしれない。
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『トルコは孤立・英仏独が対ISで露とて連携』
 [2015年11月27日(Fri)]中東TODAY
今回のトルコ軍機による、ロシア軍機撃墜事件は、これまで見え隠
れしていた、不明確だったものを、明確にしたようだ。それはヨー
ロッパの主要諸国が、アメリカを信用せず、ロシアに接近し始めて
いる、ということだった。
トルコがロシア軍機を撃墜するという暴挙はイランの政府高官が語
るようにとんでもないミスであり、それを支持したアメリカはもっ
と国際的信用を失うということであろう。
今回の撃墜事件を巡り、最初に言われたことは、トルコに対してNATO
が支援の体制を、とるだろうということだったが、その予測は外れ
るのではないか。ヨーロッパ諸国はトルコが難民問題でヨーロッパ
諸国を恫喝していると受け止めていたさなかに、今回の露土緊張状
態が発生し、内心ではほくそえんでいるのではないだろうか。
ロシア軍撃墜事件のすぐ後に、オランド大統領はロシアを訪問し、
プーチン大統領と協議している。その結論は、ロシアとフランスが
協力して、IS(ISIL)退治に当たる、というものだった。
同じタイミングでドイツもシリアへの軍の派兵を言い出しているし
、イギリスのキャメロン首相も『参戦する時期が来た』という内容
の発言をしている。つまり、これら3国はロシアと協力して、IS(ISIL)
の掃討作戦に当たる、ということであろう。
アメリカはIS(ISIL)を叩くと言いながら、裏ではIS(ISIL)に有利に
働く作戦を、展開してきたし、IS(ISIL)に対して武器その他の必要
な物資を、空から投下しても来ていたのだ。
トルコがこれまでIS(ISIL)に対して支援を続けてきていたことは誰
もが知るところだ。その結果100万人に近い難民がヨーロッパに流れ
込み、ヨーロッパは大混乱の瀬戸際に立たされている。
そこでヨーロッパ諸国は、ロシアこそがシリア問題、IS(ISIL)問題
を解決できると判断し、アメリカではなく、ロシアと協力すること
を、選択したのであろう。
トルコによるロシア軍機撃墜事件は、こうしたヨーロパの真意を、
表面化させたということであろう。
それに対して、アメリカには何が残されているのであろうか。パリ
・テロの第二幕をヨーロッパのドイツかどこかでやるのか、あるい
はこれとは全く異なる作戦をアメリカ国内で、やるのかは予測でき
ない
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ロシアの対シリア軍事介入はどこまで進むか
2015年11月27日(金)17時17分newsweekjapan
小泉悠
 今年9月30日、ロシアはシリア領内における空爆を開始し、10月
7日には巡航ミサイル攻撃もカスピ海上から実施した。ロシアの中東
への軍事介入としては、冷戦終結後初となるものである。さらに10
月13日、パリでIS(「イスラム国」)シンパによる同時多発テロが
発生すると、ロシア政府はエジプトのシナイ半島上空で発生したロ
シア機墜落事件もISの犯行であったことを突然認め、対IS作戦でフ
ランスなど西側諸国と協力する姿勢を打ち出した。
 ロシアの思惑としては、「対IS」で西側との団結をアピールする
ことでロシアの擁護するアサド政権への退陣要求を緩和し、シリア
内戦を有利な形で終結へ導くとともに、ウクライナ紛争で悪化した
西側との関係を修復するのが狙いであると思われる。
 現在、ロシアはシリア北西部のラタキアに最新型のSu-34戦闘爆撃
機やSu-30SM多用途戦闘機など32機を展開するとともに、11月17日以
降は25機もの大型爆撃機をシリア空爆専任部隊に指定して自国内か
らの空爆も行っている。これはロシア本土から発進した爆撃機がカ
スピ海、イラン領、イラク領を経てシリアまで長距離飛行を行い、
爆弾や巡航ミサイルによる空爆を行うというもので、シリア本土に
展開した航空機のみによる空爆と比べて格段の強化と言える。
 カスピ海からは11月19日に二度目の巡航ミサイル攻撃を実施して
おり、爆撃機による巡航ミサイル攻撃と合わせて100発以上の巡航ミ
サイルをISの「首都」とされるラッカなどに撃ち込んだ。米国やフ
ランスと比べても格段に大規模な攻撃であり、今後、英国が攻撃に
加わるとしてもロシアがシリア内戦における最大の軍事的プレイヤ
ーであることは変わらないだろう。
 だが、プーチン大統領は20日、攻撃の成果を報告したショイグ国
防相に対して、空爆の成果を高く評価しつつも、まだ「不十分」で
あるとの認識を示した。
NATO加盟国のトルコと全面戦争はできない
 さらに24日にはトルコ国境付近でロシア軍の戦闘爆撃機がトルコ
空軍機によって撃墜され、パイロット1名と救出に向かった海軍歩
兵部隊の隊員1名が死亡するという事件が発生し、シリアを巡って
ロシアとトルコの軍事的緊張関係が高まった。ロシアは最新鋭の
S-400防空システムをラタキアの空軍基地に展開させた他、長距離防
空システムを搭載した巡洋艦モスクワをラタキア沿岸に派遣、さら
に戦闘機部隊を増派するなど、防空能力の強化でトルコへの牽制を
強めに掛かっている。
 だが、ロシアの軍事介入はこれに留まらず、質と規模の両面でさ
らに拡大する可能性もある。ロシアとしては自国の軍用機を撃墜さ
れた以上、対内的にも対外的にも何らかの軍事的報復措置をとらな
ければメンツが保てない立場にある。また、今回の撃墜事件前に成
立しかかっていた、ロシアにとって有利な対IS「大連合」へと可能
な限り軌道を回復したいことも容易に想像がつく。そこで問題にな
るのが、ロシアの軍事介入がどこまでエスカレートし、トルコとの
関係やシリア内戦の今後にどのような影響を与えるのか、である。
 とはいえ、ロシアとしては、NATO加盟国であるトルコとの全面戦
争は絶対に避けなければならない。したがって、ロシアの対応は、
NATO全体を敵に回さず、なおかつトルコ軍との直接衝突にも至らな
い規模のものということになろう。
 さしあたり、ロシアは農産物の輸入停止や原発建設の停止といっ
た経済的報復措置に加え、軍事面では、前述した防空態勢の強化を
図っている。
 防空態勢の強化といえばやや受け身にとられるかもしれないが、
ロシアがラタキアに配備したS-400防空システムの射程は250kmに及
び(400kmとする報道も見られるが、これは開発中の新型ミサイルを
使用した場合の数字であり、現行型の最大射程は250kmとなる)、シ
リア北部上空を広くカバーする。これに巡洋艦の防空システムや新
たに増派される戦闘機部隊も加えると、トルコはシリアへの介入を
大幅に制限されることになろう。
トルコを阻むロシア軍の「バブル」
 以前、NATOのブリードラブ欧州連合軍最高司令官は、シリアに展
開するロシア軍はNATOの介入を寄せ付けない「バブル」を形成して
いると述べたことがあるが、その「バブル」がさらに膨らむことに
なる。
 トルコはシリア北部をISの侵入できない「安全地帯」とする構想
を今年7月に立ち上げ、その域内でトルコ系のトルクメン人武装勢力
への支援を行うとともにクルド人勢力を攻撃していたが、ロシアの
強力な「バブル」が展開されている状況では、こうした活動が困難
となろう。
 さらにロシアは撃墜事件の発生する前からラタキア北部でトルク
メン人武装勢力に対する空爆を実施していたほか、撃墜事件後には
トルコからシリア北部に入ってきた援助隊に対する空爆も実施した。
 また、ロシアは現在の主力基地であるラタキア県のアル・フメイ
ミム基地に加え、レバノン国境に近い地中海沿いのホムス県アル・
クサイル市でも航空基地を拡張しつつあると伝えられ、事実であれ
ば二拠点からの航空作戦を展開するようになるかもしれない。
 今後、ロシアの介入を考える上でもうひとつ気になるのは、ロシ
アが地上戦にまで介入するかどうかである。対IS作戦でどれだけ空
爆を強化しても、最終的に地上戦を伴わなければISの壊滅が不可能
であろうことは既に多くの識者が指摘している。
 だが、米国には大規模な地上部隊を派遣する意図は乏しい。かと
いってロシアの支援するアサド政権軍も長年の内戦で疲弊しており
、ロシアの空爆やイランの民兵・特殊部隊の支援を得てもISの壊滅
作戦を行うには戦力不足である。こうしたなかでロシアが地上戦に
より深く関与し、キャスティングボードを握れば、シリア和平をロ
シアにとって有利な形へと導く上で大きな効果があると考えられる。
シリアの地上戦にはどこまで出て行くか
 とはいえ、今回の介入の当初からロシアは地上部隊を派遣しない
と繰り返し、シリアに入っている海軍歩兵部隊などは基地の警備と
軍事顧問団としての任務を持つものであるとしてきた。
 おそらく、この説明自体は事実なのだろうが(基地警備の必要性
はもちろん、壊滅したシリア軍の再建にはかなりの数の軍事顧問団
が必要とされる筈である)、幾つかの気になる兆候もある。
 たとえばSNS上では、ロシア陸軍のT-90A戦車がアレッポ付近で目
撃されたという情報が画像付きで相次いで投稿されるようになった
。シリア周辺でT-90Aを保有するのはロシアだけである。アレッポは
政府軍が攻勢を強めている地域であり、T-90Aをロシア兵でなくシリ
ア兵が操縦しているという可能性もあるが、ひとつの興味深い動き
ではある。
 また、18日にプーチン大統領が国防相の会議に参加した際、背景
のスクリーンに映し出されたシリアの作戦地図に「第120親衛砲兵旅
団」との文字が入っていたことも話題になった。調べてみると、同
旅団は中央軍管区の第41軍に所属する砲兵部隊であるという。
 このようにしてみると、ロシアは最前線に歩兵を送り込むことま
ではしないにせよ、「警備部隊」や「軍事顧問団」の一部を後方か
らの火力支援に投入している可能性は否定できない。もし、このよ
うな形でロシアが地上戦に参加しているのだとすれば、その規模が
増強されることはあるのか、さらに踏み込んだ地上戦への介入は本
当に行われないのか、などが今後の焦点となろう。
 トルコとの関係悪化によって霞んでしまっている感があるものの
、本来の焦点であるロシアの対シリア介入からも目を離さずにおき
たい。
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ロシア機撃墜に2つの理由 
エルドアンの深謀遠慮
2015年11月27日(Fri)  佐々木伸 (星槎大学客員教授)
トルコによるロシア軍機撃墜は両国の対立を激化させ、シリアをめ
ぐる軍事的な緊張が高まっている。撃墜に至った背景には、トルコ
の”皇帝”と呼ばれるエルドアン大統領の深謀遠慮がある。しかし
過激派組織「イスラム国」(IS)を攻撃する側のこうした分裂で、IS
だけが独り、ほくそ笑んでいる。
アサド退陣棚上げ論つぶし?
 エルドアン大統領はシリアのアサド大統領の追放を長らく求め、
反体制派を支援してきた。シリアとの国境管理や物資の補給、石油
の不正密売などでISに比較的緩やかな対応を取ってきたのも、ISよ
りもアサド政権の打倒を優先させていたからだ。
 しかし、シリアに軍事介入し、ISよりも反体制派への攻撃を続け
ていたロシアは10月末のエジプトでのロシア旅客機爆破テロ、パリ
の同時爆破テロを受けて、方針を修正しIS攻撃を本格化させた。米
国のオバマ大統領やフランスのオランド大統領はロシアを取り込ん
でIS攻撃を一体化させようという絵を描いた。米主導の有志連合と
ロシアとの共闘である。
 こうした空気を反映し、シリアの紛争で欧米とロシアの最大の対
立点だったアサド大統領の扱いをめぐって、アサド氏の処遇を一時
棚上げにして、ISに米欧ロで一致して当たろうという機運が急速に
高まった。これに危機感を深めたのがエルドアン大統領である。
 アサド退陣棚上げ論が既定路線になれば、アサド政権を追放し、
トルコ寄りの新政権を樹立することを第1に掲げてきたエルドアン氏
の戦略は大きく狂ってしまう。ベイルートの消息筋は「アサド棚上
げ論では、結果的にロシアやイランの要求が通り、アサド氏が移行
政権でも生き残ってしまう。これを恐れて棚上げ論をつぶしにかか
ったのがロシア機撃墜の理由の一端だ」と指摘する。
 確かに撃墜事件の後、米欧ロの共闘の雰囲気は一変し、冷戦時代
の再来を思わせるような対立状況となった。米国とロシアのISに対
する戦果をめぐる応酬も激しくなった。米国防総省は、ISのタンク
ローリー1000台を破壊したといったロシア側の発表を誇張しすぎと
批判、これにロシアも米国を嘘つき呼ばわりするなどとげとげしい
やり取りを繰り広げており、”棚上げ論つぶし”ということであれ
ば、エルドアン氏の狙いはうまくいったことになる。
 もう1つ、撃墜の理由はシリアの少数民族の反体制派、トルコ系の
トルクメン人をロシアが攻撃したことに対する怒りである。トルク
メン人はトルコ国境に近いシリア北部を居住地区とする少数民族で
、エルドアン氏が”親類”と呼び、トルコの庇護下にあると見なす
部族だ。アサド政権の打倒を目指す反体制派として戦闘に加わって
きたが、このところ、ロシア軍機によるトルクメン人攻撃が目立っ
ていた。
 トルコ政府はロシア大使を呼んで再三注意したが、ロシア側がこ
れを軽視したような姿勢を示していたため、愛国主義者にして民族
主義者のエルドアン氏が激怒し、ロシア機の領空侵犯には撃墜もや
むなし、との決定になったようだ。
NATOの介入を回避
 プーチン氏は「背後から刺された」「謝罪の一言もない」などと
トルコを非難、最新の地対空ミサイル・システムをシリアに配備す
る一方で、ロシアからの天然ガスパイプラインの建設の見直しも含
め経済制裁を発動する構えだ。
 エルドアン氏は「再び領空侵犯があれば、同じように対応する」
と強気の姿勢を崩していないが、実際のところ、プーチン氏がこれ
ほど強く反発するとは予想していなかったようで、計算違いとの見
方も強い。特にロシアはトルコにとって最大の輸入先。全輸入量の
10%(2014年)を依存、輸出も4%を占めている上、ロシアがトルコ旅行
の禁止を打ち出したのが打撃だ。
 北大西洋条約機構(NATO)はトルコの要請を受けて緊急理事会を開
催し、加盟国であるトルコとの連帯を強調した。しかし今回の撃墜
事件をロシアとNATOの問題にはしたくない、というのが本音で、エ
ルドアン政権に対して自制を強く促している。オランド仏大統領は
26日モスクワでプーチン氏と会談し、ロシア側にもトルコとの対立
をエスカレートさせないよう求めた。
 トルコとロシアの緊張が高まる中、エジプトやチュニジアではIS
の分派によると見られるテロが続発するなど、パリの同時多発テロ
以降も各地でISの活動が活発化しており、国際的なIS包囲網の亀裂
を尻目にISが欧州で新たなテロを画策しているとの懸念も浮上して
いる。
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トルコが黒海の海峡封鎖となれば、海洋法の基本原則に違反、ロシ
ア人専門家の見解 
2015年11月27日 19:30(アップデート 2015年11月27日 19:33) sputniknews
ロシアのスホイ24の撃墜事件後、ロシアとトルコの関係は急速に
緊張化している。トルコは更に状況をエスカレートさせ、ロシアに
対し、黒海のダーダネルス海峡、ボスフォラス海峡を封鎖するので
はないかとの懸念がささやかれている。だが海上の権利に詳しい専
門家らは、こうした事態の発展は非常に考えにくいとの見解を表し
ている。
ロシア科学アカデミー国家と権利研究所の主任学術研究員、ヴァシ
ーリー・グツリャク教授はラジオ「スプートニク」からのインタビ
ューに答え、トルコは黒海の海峡封鎖には走らないだろうとして、
次のように語っている。
「理論上はこうしたことは確かに可能だ。つまり物理的にはトルコ
は、トルコの海峡だと自負する黒海の海峡を封鎖することはできる
。これに相当するのはボスフォラス海峡とダーダネルス海峡、それ
をつなぐマルマラ海だ。
だが黒海の海峡の『鍵』、その法体制を調整しているのは1936
年に採択されたモントルー条約だ。(この問題についての)モント
ルー条約の意義は、トルコは自己裁量で黒海海峡を取り上げ、封鎖
してしまうことが出来ない点にある。それはモントルー条約がこう
した事態の可能性を明確に見越しており、トルコが黒海海峡を通過
しようという船舶の帰属する国家と戦争当事者である場合のみ、封
鎖が可能だとしているからだ。これが1点。
見方を変えれば、モントルー条約が失効したとしても、これは形成
された国際法の実践や国際的な習慣に合わせて効力を持ち続けてお
り、黒海の海峡は国際的な海峡だと捉えられている。それは自国領
内にこの海峡がある諸国は自国の裁量でこれを取り上げ、封鎖する
ことはできない。最悪の場合、これは国際的な航行にとっての損失
を意味する。いかなる国もこういう行動はとらない。それは報復を
受けかねないからだ。
私はトルコが一方的にこうした行為に及ぶとは思わない。それは、
繰り返すが、これは単なる条約違反をこえて、国際的な海洋法の基
本原則に違反するからだ。」
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2015年 11月 27日 15:40 JST 
コラム:緊迫するロシアとトルコ、「第3次大戦」防ぐ処方箋
Joshua W. Walker
[25日 ロイター] - 加盟国のトルコが24日、ロシア軍機を撃
墜したことで、北大西洋条約機構(NATO)は未知の領域へと足
を踏み入れた。第3次世界大戦を防ぐために、米国政府が双方を和
解させることが急務である。
トルコ政府の「ロシア機は、繰り返し警告を与えたにもかかわらず
、シリア国境に近いトルコ領空を侵犯した」という主張の裏付けと
なる詳細はこれから明らかになるところだ。
はっきりしているのは、この事件には長い前触れがあるということ
だ。シリア政策をめぐって、トルコとロシア両政府のあいだでは対
立が急激に高まっていた。ロシアがアサド政権支援のためにシリア
領内での空爆を開始して以来、ロシア軍機は繰り返しトルコ領空を
侵犯してきた。
過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出したアンカラ、シナイ半
島、パリでの爆弾攻撃以降、同組織に対する「大連合」への希望が
生まれていたというのに、今や中東にほとんど残されていない平和
と安定を救うための緊張緩和が急務になってしまった。
ロシア政府がただちに、同国機撃墜は「背信行為」でありイスラム
国への支援になるとしてトルコ政府を非難し、プーチン大統領が「
重大な影響」をもたらすと警告したことは、シリア情勢がすべての
当事者にとっていかに重要であるかを却って浮き彫りにしている。
シリア情勢の波及を食い止められるかもしれないという希望は霧散
してしまった。
ロシア機のパイロットはシリア北部地域に脱出降下した可能性が高
いが、トルコが同地に暮らすトルクメン人住民を民族的なつながり
ゆえに支援していることも、現場での状況をさらに複雑にしている。
シリアのアサド大統領及びロシアやイランの支援を受けた政権側部
隊と戦っているクルド人部隊、イスラム主義者、反政府グループの
あいだには対立があり、地上での勝利は期待できない。
空におけるこれ以上の衝突を避け、ロシアによる何らかの報復措置
を防ぐために、NATOはトルコへの支持を再確認するとともに、
ただちにシリア上空での一時飛行停止を呼びかけなければならない。
シリアで何が起こっているか
米国にとってトルコはNATOの同盟国、ロシアはライバルだが、
仲裁役として米国の独自の立場がこれほどふさわしい例は過去に見
られない。
先日のパリ同時攻撃と、先週トルコで開催されたG20首脳会議で
の進捗によって、イスラム国打倒に向けた共同アプローチが発展す
るのではないかと期待していた米政府関係者は多い。トルコは、首
都アンカラでの爆弾テロの後でさえ、アサド政権排除につながらな
い形で中東地域に外国が干渉することを懸念している。地域の混乱
の収拾を押しつけられるのは自分たちではないかという恐れがある
からだ。
現時点でさえ、トルコは世界で最も多くの難民を受け入れている。
またシリア内戦は、トルコ政府が数十年にわたり続けているクルド
人武装勢力との戦いとも絡んできつつある。クルド人武装勢力の一
部は現在、米国からの支援を受けている。
望みうる最善の状況は、トルコとロシア両政府が、お互いの依存関
係と対立激化がもたらす高い代償を現実的に注視し、シリア情勢を
契機として両国が直接戦火を交える事態に至るのを避けることだ。
アサド政権の将来を軸とする幅広い地域的・政治的な妥協の一環と
して、今、ロシアとトルコを同じテーブルにつかせなければならな
い。
短期的にはアサド政権の存在を含んではいるが、長期的にはその体
制を変革していくことを可能とするような出口戦略を考案すること
は、困難ではあるが不可能ではなかろう。
そのような解決策があれば、ロシア政府もイラン政府もメンツを保
ち、さまざまな同盟国を再結集することが可能になる。トルコが「
地域の問題は地域で解決」することを求めていることを踏まえて、
NATO諸国はトルコ政府を支え、同国を宗派性のない地域のリー
ダーにしていくべきである。
その一環として、イラン及びロシアの影響力に対抗すべく、シリア
政府にとって必要不可欠な開発援助を提供させるようアラブ諸国及
びスンニ派勢力にプレッシャーをかけなければならない。
これと平行して、「アサド後」のシリアがどのようになろうと、シ
リアの地中海沿岸のラタキアにロシアが持つ拠点は維持されるとい
う安心感をロシアに与えなければならない。
今年前半の激しい選挙戦の影響で、これまでトルコ政府の動きは鈍
かった。だが、プーチン氏はトルコのエルドアン大統領を軽視して
いた可能性がある。エルドアン氏率いる与党・公正発展党の政治課
題は今や明確になった。「力による安定」である。
かつてはお互いを友人と認め合っていた双方の首脳の「顔を立てる
」ためには、オバマ米大統領とオランド仏大統領から自制を求める
ことが必要不可欠であり、かつ最も効果が高いだろう。イスラム国
掃討を目指す大連合について協議するためにモスクワとワシントン
を行き来するのであれば、そこにトルコを加えなければ今や成功は
不可能である。
経済力、軍事力、情報力のいずれをとっても中東地域最大であり、
同地域唯一のNATO加盟国であるトルコがロシアと対立したまま
では、中東の混乱が加速するばかりだ。
さらなる戦いを避けるには、すべての関係国が状況をエスカレート
させないという共通の関心事に集中する必要がある。共通の敵であ
るイスラム国に集中しなければならない。 シリア、イラクを主権国
家として政治的に再編するという戦略を促進するためには、イスラ
ム国を軍事的に打倒することだ。
オバマ氏はイラクにおけるジョージ・W・ブッシュ前大統領の行動
を繰り返すことを慎重に避けてきたが、今こそ米国は、さらなる戦
いを防ぐために持てる力を尽くさなければならない。
中東の真ん中での「権力の空白」は、ほぼ必ずと言っていいほど、
より悪い結果につながってきた。今、地域が主体となる平和を準備
することがすべての当事者にとって必須であり、相互の合意を得る
べき分野である。
トルコとロシアを含む地域首脳会議の開催をNATOが呼びかけれ
ば、両国が今週の事件を意識の隅に追いやることができ、すべての
関係者が共通の敵に集中しやすくなるだろう。
トルコのロシア軍機撃墜をめぐり、両国の非難合戦がますます熱を
帯びている。
*筆者は米ジャーマン・マーシャル基金のトランスアトランティッ
ク・フェロー。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
(翻訳:エァクレーレン)
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対ISISで「不可欠な国」に、プーチン流政治の落とし穴
対テロ戦争で存在感を高めているが、チェチェン紛争などのリスク
は抱えたまま
2015年11月27日(金)10時17分newsweekjapan
 プーチン大統領は、シリアに介入することで、比較的孤立してい
た状態からロシアを脱却させることに成功。そして米国がさらなる
関与に二の足を踏むなか、シリアやウクライナ情勢、過激派組織「
イスラム国(IS)」との戦いにおいて、同国を「不可欠な国」に
しようとしている。
 しかしこのような地政学的なポーカーゲームで、プーチン氏が勝
ったままゲームをやめられるかは分からない。とりわけ、24日に
発生したトルコ空軍によるロシア軍機撃墜のような予期せぬ事態が
起きた場合はなおさらだ。
 空爆などによるロシアのシリア介入は、アサド政権側を再び優位
に立たせ、イスラム国に対する空爆作戦を行う米国主導の有志連合
は劣勢を強いられていた。
 しかし130人が犠牲となったパリ同時多発攻撃と乗客乗員224
人全員が死亡したロシア旅客機墜落事件を受け、プーチン氏は狙い
の的をイスラム国に移し、フランスに協力を申し出た。ロシア国防
省は、シリア国内の標的に落とされる、「パリのために」と書かれ
た爆弾の写真を公開した。
「フランスは戦う意思はあっても能力を出し切れず、米国は能力が
あるのにやる気に欠けた状態のなか、ロシアにはISに対して大規
模な武力行使を行う意思と能力がある」と、パリにある戦略研究財
団でシニアリサーチフェローを務めるブルーノ・テルトレ氏は指摘
する。
 ウクライナ情勢をめぐる行動で西側諸国からのけ者扱いされてい
たプーチン氏だが、ハードパワーと外交力を組み合わせた「レアル
ポリティーク(現実政治)」のおかげで、同氏は今や国際舞台の場
で人気者となっている。
 だからと言って、クリミア併合などで受ける西側からの経済制裁
をプーチン氏が免れるわけではない。トルコで先週末開催された
20カ国・地域(G20)首脳会議に出席した西側諸国の首脳らは
、ロシアに対する経済制裁をさらに半年間延長し、来年7月までと
することで合意した。
 シリアへの介入も成功を収める保証はない。軍事介入は意気揚々
と始まっても、失敗に終わることが往々にしてある。英米はそれを
イラクとアフガニスタンで学び、旧ソ連も1980年代にアフガニ
スタンで経験した。
 1990年代後半に当時のオルブライト米国務長官が自国を「不
可欠な国」と主張したが、その地位にロシアを押し上げたとプーチ
ン氏は考えている。
 だが、プーチン氏は背伸びし過ぎており、国内の武装勢力や中東
産油国からもたらされる安全保障上の、そして経済上の危険を蓄積
させていると、一部の専門家は指摘する。
 他の大国との関係に影響しかねないのは、プーチン氏が「背後か
ら刺された」と表現したトルコによるロシア軍機撃墜だけとは限ら
ない。西側諸国の部隊が関与する「誤射」や多数の民間人が犠牲と
なるような攻撃も、プーチン氏の作戦をコースから外れさせる可能
性を秘めている。
優れた戦術家
「地政学的に見て、プーチン氏は優れた戦術家だ。私は嫌いだが、
好き嫌いは別にすれば『プーチン流政治』はかなりうまくいってい
る」と、かつて駐ロシア欧州連合(EU)大使を務めたマイケル・
エマーソン氏は語った。
 同氏によれば、プーチン氏がシリアで主導権を握ることで米国に
不意打ちを食らわせたのはこれが2度目。プーチン氏は、軍事的敗
北を喫する可能性からアサド政権を救い出し、自身をシリア問題の
いかなる解決にも不可避のパートナーとさせた。
 1度目は2013年8月、シリアが化学兵器を使用したことを受
け、オバマ米大統領が「越えてはならない一線」を越えたとして空
爆を検討していた際、プーチン大統領がオバマ大統領に外交的手段
を取るよう説得したときだ。
 空爆をしないという米国のこの決定は「外交的な大きな過ち」で
あり、同国の中東疲れを暗示していたと、デ・ホープ・スケッフェ
ル元北大西洋条約機構(NATO)事務総長は指摘する。
 ロシアの大国としての地位を取り戻そうとするなか、欧米の弱さ
を感じ取り、それを利用するというプーチン氏の生まれ持った才能
は、同氏の精力的な外交政策の特徴の1つだと言える。
 「彼(プーチン氏)は政治的機会だけでなく、権力にも驚くほど
鼻が利く」と、シンクタンク「欧州外交評議会(ECFR)」のデ
ィレクター、マーク・レナード氏は指摘。「ウクライナで身動きで
きなくなり、そこから抜け出す方法を見つけられないでいた。ロシ
アは当初、アサド政権が窮地に陥っているのでシリアへの介入を強
化したが、そこへパリで事件が起き、驚くべき方針転換をしてみせ
た」。
 米主導の対イスラム国空爆作戦では小さな役割しか担っていない
フランスのオランド大統領は、シリアでの同組織掃討のためロシア
を含む1つの連合を形成するよう訴えている。同大統領は26日、
ロシアを訪問し、プーチン大統領と協力に向け会談を行う。
 パリ同時攻撃とロシア旅客機墜落事件が起きる以前は、ロシアに
よる空爆の約90%が、西側の支援するシリア反体制派に対するも
ので、残りのわずか10%がイスラム国に対するものだったとフラ
ンスは考えていたと、前述の戦略研究財団のテルトレ氏は述べた。
だが先週、その比率はほぼ逆転したという。
 西側が支援する、特に米国製の対戦車ミサイルTOWを手に入れ
た反体制派への攻撃をロシアは続けているが、少なくともその半分
は現在、シリアのイスラム国拠点を標的にしていると、西側の他の
専門家たちも指摘する。
 報道によると、ロシアとフランスはイスラム国が資金源とする石
油精製施設を攻撃した。
下手な戦術家か
 プーチン氏がシリアで政策を転換し、4年にわたる内戦終結に向
け交渉の余地をつくる可能性がある一方で、旧ソ連国境を越えての
武力行使はロシアにとってリスクを高める結果となっている。
 「プーチン氏は優れた戦術家ではない。イスラム教スンニ派を敵
に回している。彼らは同氏に恨みを抱くだろう」と、ロシア専門家
で米シンクタンク、ブルッキングス研究所所長のストローブ・タル
ボット氏は指摘。「国内ではすでに、イスラム過激派との問題を抱
えていた。それがロシア旅客機墜落事件以降、国外でもISという
問題に対処しなくてはならなくなった」
  同氏によると、プーチン氏はシーア派が多数を占めるイランやレ
バノンのシーア派組織「ヒズボラ」と協調することで、西側による
制裁でロシア経済が依存する石油の価格を引き下げているサウジア
ラビアなどスンニ派諸国を敵に回すリスクを負っているという。
 欧州の外交官らは、たとえロシアや欧米諸国がイスラム国掃討で
団結し、シリア問題の解決に共通の利益を抱くとしても、トルコや
サウジ、そして恐らくイランはシリアで内戦が続くことに利益を見
いだす可能性があるとみている。
 「プーチン氏は、アサド政権を継続させるか、ISを壊滅させる
かの選択に直面するという、自身が招いた状況で板挟みにあってい
る」とタルボット氏は指摘。「ISは勢力を拡大しているため、ア
サド政権退陣の先延ばしはロシアにとって大きな代償となっている」
 ロシア国内では、1990年代のチェチェン紛争以来、モスクワ
や他の都市で攻撃を繰り返すカフカス地方のイスラム武装勢力が急
速に台頭する可能性に直面していると、タルボット氏は付け加えた。
 (Paul Taylor記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
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ドイツ、対「イスラム国」作戦支援へ フランスの要請受け
2015年11月27日(金)11時27分
[ベルリン 26日 ロイター] - ドイツはフランスの要請を受け
、シリアで展開されている過激派組織「イスラム国」に対する軍事
作戦に参加する。偵察を任務とするトーネード戦闘機や空中給油機
、フリゲート艦を派遣する。
こうした直接的な軍事作戦への関与に後ろ向きだったドイツにとっ
ては方針転換となる。仏米ロが実施しているシリアでの空爆に参加
する計画はない。
フォンデアライエン独国防相は議員との会合後、記者団に対し「政
府は本日、困難だが重要かつ必要な決断を下した」と説明。「IS
(イスラム国)から非人道的な攻撃を受けたフランスを支援する」
と述べた。
メルケル独首相は25日、パリでオランド仏大統領と会談した際、
支援を約束していた。対仏支援には議会の承認が必要となる。
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「トルコ謝罪なし」と不快感=経済制裁、農産品も輸入規制−ロシ
ア大統領
 【モスクワ時事】ロシアのプーチン大統領は26日、トルコによ
るロシア軍機撃墜について「トルコは謝罪も補償もしていない」と
強い不快感を示した。メドベージェフ首相は「侵略」と非難し、対
トルコ経済制裁を準備するよう関係省庁に指示。「ロシアの軍事・
外交的な対抗措置は続く」と述べた。
 関係悪化を受け、ロシア当局はトルコ産農産品の輸入規制を強化
すると発表。表向きは「品質上の問題」を指摘しているが、撃墜を
受けた事実上の制裁とみられる。(2015/11/26-22:59)
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仏ロ、空爆情報交換で一致 対「イスラム国」掃討
2015/11/27 08:13   【共同通信】
 【モスクワ共同】ロシアのプーチン大統領とフランスのオランド
大統領は26日、モスクワで会談し、過激派組織「イスラム国」掃
討に向けた空爆作戦時に標的の位置情報を交換することで一致した
。対テロ作戦に関わる各国が全て参加する大連合の必要性について
も合意したが、軍事行動の連携の在り方などには踏み込まず、大連
合の具体化には至らなかった。
 トルコによるロシア軍機撃墜が協調の機運をそいだほか、シリア
のアサド大統領の処遇をめぐる溝も埋まらなかった。
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2015.11.26BBC
「ロシアは我々の親戚を攻撃」 トルコのエルドアン大統領が演説 
トルコのエルドアン大統領は24日の演説で、同国軍がロシア軍機を
撃墜したことについて「隣国に敵意はいだいていない」と述べ、ロ
シアとの緊張を緩和しようとしたが、一方で、ロシアがシリア領内
のトルコ系民族トルクメン人を攻撃していると非難。シリアをめぐ
る複雑な利害関係が浮き彫りになっている。
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米 アサド政権支援のロシア人など資産凍結へ
11月26日 5時58分NHK
内戦が続くシリア情勢を巡り、アサド政権の退陣を求めているアメ
リカ政府は25日、アサド政権を支援するロシア人富豪や所有して
いる銀行などを金融制裁の対象に加え、資産の凍結を実施すると発
表しました。
アメリカ財務省によりますと、制裁の対象に指定されたのはシリア
やロシアなど個人4人と6つの企業で、アサド政権の金融取引を手
助けしていたロシア人の富豪ビジネスマンや、その富豪が所有する
ロシアの銀行が含まれます。
また、アサド政権から原油の調達を任され、過激派組織IS=イス
ラミックステートから原油を買い付けていたシリア人の仲買人や関
連企業も対象です。
制裁によって、これらの個人や企業、それに銀行がアメリカ国内に
持つ資産は凍結され、金融取引も禁止されます。
内戦が続くシリア情勢の打開に向けアサド政権の退陣を求めるアメ
リカ政府は、制裁の強化によって資金面から政権に圧力をかけるね
らいがあり、アメリカ財務省は「あらゆる資金源を断つため制裁を
拡大していく」とコメントしています。



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