5516.ロシアが中東に出て世界が危機に?



ロシアが米国に変わって中東の秩序回復に貢献するというが、それ
が核戦争になり、イスラエルを滅亡に追いやることになるストーリ
ーが徐々に見えてきている。その検討。   津田より

0.米国の撤退とロシアの進出
米国は自国でシェール革命で十分な石油が出て、中東から撤退する
方向である。現時点、世界最大の原油産出国はサウジではなく、米
国である。このため、数年もすれば米国は石油輸入国から輸出国に
なる。自国石油の輸出規制を緩和することが確定的である。

このため、石油輸入でつながっていたサウジとの関係も見直しが起
きている。米国はイランとの正常化をして、中東に対しては中立的
な立場に立つ方向だ。

このため、サウジが実施していた「ペトロダラーシステム」。つま
り、「原油は、ドルでしか売らない」もなくなる。中国が最大のお
客様になれば、人民元とのリンクも行う可能性がある。人民元をIMF
はバケット通貨にする方向であるが、人民元とリンクされたら、世
界の基軸通貨なる可能性もあるので、欧州では仕方がないと見てい
る。今まで、イランは石油をユーロとリンクしていたが、今後は人
民元になる可能性が高い。

しかし、ドルが基軸通貨である理由は、ドルでしか石油を買えない
ことでしたから、ドル基軸通貨も崩壊することになる。

というように、米国オバマは中東には関わらない方向であり、ロシ
アが中東の面倒を見るのなら、どうぞという気持ちである。シリア
反政府軍の訓練も中止するという。このため、民主派は崩壊して、
シリア・ロシア・イラン連合軍とイスラム国との戦いになる。

5月に来日したアンドリュー・クレピネビッチCSBA所長に次のよう
な質問をした。米国はイランの核協議を行い、サウジがそれを批判
している。米国の中東戦略は、どうなのであろうか?
その答えは、オバマ大統領は、イランとの関係を構築して、スンニ
派とシーア派を仲介しようとしている。うまく行かないと思うが、
イランが核で脅した時に、米国は核をアラブで使用するのか?また
、今後、イランの代理戦争が拡大した時どうするか?核が使われる
と、攻撃までの時間が短い。
サウジも核を持つことになる可能性が高い。パキスタンがそのとき
はサウジに提供することが約束されている。
米国はトルコに核を持ち込んでいる。アラブに抑止力がある。しか
し、イランが核を持つと核戦争に直面する可能性が高い。当面はイ
ランの核を防止することであると思うが、難しい。

と、米国はシーア派とスンニ派を仲介しようとしたが、うまくいか
ない。核戦争を防止しようともしていた。しかし、この仲介をプー
チンが目指しているようである。どうも、プーチンは戦術核をイス
ラム国攻撃に使用する可能性が高いようである。

ここまでは現時点で確定したことになる。今後はどうなるのであろ
うか?

1.ロシアの目的
ロシアのプーチンは、米国に変わって、米国の戦略を引き継いだこ
とになるし、「アラブの春」批判を国連でも行い、独裁政権でも混
乱より良いということのようだ。

「アラブの春」を嫌うのは、ロシアの同盟国であるカザフスタンや
ウズベキスタンでは独立以来の大統領による終身独裁体制が続いて
おり、これら諸国が次の「民主化」のターゲットになりかねないと
の懸念をロシアは持ち続けてきたことによる。

また、多くの旧ソ連国民がイスラム国に身を投じ、グルジア出身の
アル・シシャニのような人物がイスラム国高官の地位にある状況は
、北カフカスや中央アジアの不安定化を恐れるロシアにとってリア
ルな安全保障上の脅威であることもまた事実である。

この防止をロシア主導で行わないと、中央アジア諸国に対するロシ
アの優位性が失うことになり、中国や米国にその地位を奪われかね
ない。

このため、中東の秩序回復、特にスンニ派過激組織の抑制が必要な
のである。よって、国際社会、欧米とロシアは、その面で共同で対
応できる分野でもある。このため、国連でもロシアは世界共通の敵
であるイスラム国に共同戦線を引こうという演説になったのだ。

しかし、アサド政権がシリア難民の原因でもあるので、欧米諸国は
ロシアの共同戦線には参加はしないが、シリア領空における軍用機
同士の偶発的衝突の回避策を話し合うロシアとの協議を行うことに
なる。放置するしかないようだ。

米国などのイスラム国への空爆が効果がないことは、イスラム国に
空爆地点を教える湾岸諸国の軍隊がいるためであるが、強力な爆弾
を使わないことにもよる。

ロシアは、最初にクラスター爆弾を使うだろうし、それでも効果が
ないなら戦術核も使用する方向である。ここで核戦争が起こる。

2.ロシアの秘密非正規軍とは
ナショナルインタレスト誌に「Revealed: Russia's Shadowy 'SEAL 
Team 6' Operates in Syria」が乗っている。非正規軍とは、Zaslon
のことであるが、存在しないことになっている。Zaslonは、GRU参謀
本部情報総局に所属しているが、公式的な文書にはないが、シリア
のロシア大使館には記述があるという。

この軍はシリア軍に助言したり、モスクワに情報を送ったりしてい
る。もう1つの目的はロシア国益や資産、秘密情報を守るためにい
ろいろなことをする。

この部隊は、イラクのサダムフセインの最後の時にバクダッドにい
て、ロシアの情報が米国に渡らないように処分したようである。

この軍が現在、ダマスカスにいる。ロシアは本格的にシリアを支援
していることになる。

また、私の見解では、ウクライナでも活躍したチェチェン共和国内
務省部隊もいると見ている。このイスラム教徒でもあるチェチェン
内務省軍は敵の気持ちが読める。しかし、この内務省軍を予算削減
で失くすことになっていたが、何をするかわからないので、シリア
に持ってきたようだ。

というように、ロシアとしてはシリアでの戦争参加は一石二鳥の効
果がある。国内の安定と海外利権の獲得である。

3.今後の見通し
ナショナルインタレスト誌に「After Iran: Repairing U.S. Relations 
with Israel」が載っている。

一番の問題は、ロシアが中東諸国、特にシーア派とスンニ派をまと
める時に、イスラエルをスケープゴートにすることである。

米国も中東での位置がなくなるのは、避けたいとするなら、イスラ
エルと同盟を復活することであり、また米国にいるユダヤ人を味方
に着けるためにもイスラルとの同盟を復活するしかない。

ということで、米国の新大統領は再度、イスラエルとの関係正常化
、同盟関係の再構築を行うようである。クリントンであろうと、共
和党候補であろうと、ユダヤ人のカネと票が必要だからである。

しかし、イランやロシアの核がイスラム国に使われると同時に、イ
スラエルにも使われることになるとエゼキエル書、ヨハネの黙示録
では言っているのであろう。

そして、世界的な核戦争になる前に、米ロが協議して核戦争の拡大
を止められるのかが問題になるはず。黙示録には世界戦争になると
は書いていないので、そうなることを願うしかない。

さあ、どうなりますか?


参考資料:
5515.ロシアのシリア支援でどうなるか
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/271010.htm

5511.ロシアがシリア領内の反政府軍を空爆
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/271001.htm

5502.ロシア軍の行動の背景は
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/270925.htm

5492.ロシアが中東の意味
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/270913.htm

5382.アンドリュー・クレピネビッチCSBA所長講演会
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/270521.htm

5331.世界はどう変わるのか?
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/270402.htm

With Naval Strikes into Syria, Russia Is Now Messaging with Missiles
http://blogs.cfr.org/davidson/2015/10/08/with-naval-strikes-into-syria-russia-is-now-messaging-with-missiles/

The Background to Putin’s Actions in Syria and the UN
https://csis.org/publication/background-putins-actions-syria-and-un-russias-new-view-us-and-western-strategy-color-re

White House Is Weighing a Syria Retreat
http://www.bloombergview.com/articles/2015-10-09/white-house-is-weighing-a-syria-retreat

Who Is a Better Strategist: Obama or Putin?
http://foreignpolicy.com/2015/10/09/who-is-a-better-strategist-obama-or-putin/

Down but not yet out
http://www.economist.com/news/middle-east-and-africa/21672031-what-russian-intervention-means-opposition-down-not-yet-out?fsrc=scn/tw/te/pe/ed/downbutnotyetout

Revealed: Russia's Shadowy 'SEAL Team 6' Operates in Syria
http://nationalinterest.org/blog/the-buzz/revealed-russias-shadowy-seal-team-6-operates-syria-14040

After Iran: Repairing U.S. Relations with Israel
http://nationalinterest.org/feature/after-iran-repairing-us-relations-israel-14034

==============================
5382.アンドリュー・クレピネビッチCSBA所長講演会
質問2:米国はイランの核協議を行い、サウジがそれを批判してい
る。米国の中東戦略は、どうなのであろうか?
答え2:オバマ大統領は、イランとの関係を構築して、スンニ派と
シーア派を仲介しようとしている。うまく行かないと思うが、イラ
ンが核で脅した時に、米国は核をアラブで使用するのか?また、今
後、イランの代理戦争が拡大した時どうするか?核が使われると、
攻撃までの時間が短い。

サウジも核を持つことになる可能性が高い。パキスタンがそのとき
はサウジに提供することが約束されている。

米国はトルコに核を持ち込んでいる。アラブに抑止力がある。しか
し、イランが核を持つと核戦争に直面する可能性が高い。当面はイ
ランの核を防止することであると思うが、難しい。
==============================
米ロが第2回軍事協議=シリアでの衝突回避で
 【ワシントン時事】米国防総省のクック報道官は10日、シリア
領空における軍用機同士の偶発的衝突の回避策を話し合うロシアと
の2回目の協議を行ったと発表した。会合はビデオ回線を用いて行
われ、米ロの国防当局者が約90分間討議したという。
 報道官は「話し合いは専門的で、具体的な安全手続きの実施に焦
点を絞った。進展が見られた」と説明。さらに、米ロは次回協議を
近く行うことで合意したと述べた。
 シリアではロシアによる空爆開始後、米軍機が経路変更を強いら
れたり、ロシア機が米無人機に接近したりする事態が発生。また、
米国はロシアがシリアの穏健な反体制派を標的にしていることを非
難している。(2015/10/11-05:58)
==============================
「アラブの春」を恐れるロシア 国連総会でプーチンは何を語った
か(前編) - 小泉悠
WEDGE Infinity2015年10月09日 00:00
9月、ニューヨークの国連本部で第70回国連総会が開催された。その
締めくくりとして28日に始まった各国首脳の一般討論演説では10年
振りにプーチン大統領が登壇し、現在の世界や注目されるシリア情
勢について演説を行った。
以下では、その内容から、プーチン大統領の描く現在の世界と今後
の戦略について考えてみたい。
 まずは、その冒頭部分を見てみよう。
(翻訳)
  尊敬する代表の皆さん!尊敬する国連事務総長殿!尊敬する各国
首脳の皆さん!紳士の皆さん!
 国際連合の70周年は、歴史と我ら全員の将来を考えるのによい機
会です。1945年、ナチズムを打倒した諸国は、戦後世界の秩序を築
くべく努力を結集しました。
 思い起こしたいのは、国家間関係の原則に関する重要な決断と、
国際連合の創設に関する決断は、我が国のヤルタにおける反ヒトラ
ー連合の首脳会談で採択されたということです。ヤルタ体制は、こ
の星で20世紀に起こった二度の世界大戦に出征した何千万という人
々の生命に実際に敬意を払ったものであり、過去70年間の過酷で劇
的な出来事の中で客観的に人間性を保つ助けとなり、世界を巨大な
波乱から救ったのです。
 国際連合は、その正当性、代表性及び広範さにおいて比類なきも
のであります。たしかに過去、国連の場においては少なからぬ批判
がありました。これは効率性の不十分さを示すものであり、特に国
連安保理のメンバー国間では重要な決定に関して覆いがたい対立が
あります。
 しかし、申し上げたいのは、国際連合が存続してきた70年間にお
いて、意見の相違は常に存在していたということです。そして拒否
権も常に行使されてきました。米国も、英国も、フランスも、中国
も、ソ連邦も、そして後のロシアもこれを行使してきました。これ
は多面的な代表機関ではごく自然なことです。国際連合の基本とし
て、そこでひとつの意見が圧倒的であるということは想定されてい
なかったし、今後もないのです。この組織の本質とは、妥協を模索
し、生み出すことなのであり、多様な意見や観点を考慮に入れるこ
とがその力になっているのです。
 国際連合の決定を巡る議論は、決議という形で合意されます。合
意に至らない場合については、外交官達の言うところの「うまくい
ったりいかなかったり」ということになります。そして、この手順
を外れれば、いかなる国の行動であっても、それは非合法で、国際
連合憲章と現代の国際法に違反することになります。
(翻訳ここまで)
ロシアが国連を重視する理由
 演説冒頭でプーチン大統領が打ち出して来たのは、国連こそが国
際秩序の主要枠組みであり、今後もそうでなければならないという
テーゼである。ロシアはこれまでも、各種の国家政策文書や首脳の
演説において、一貫して国連の重視を唱えてきた。これには2つの
側面がある。
 第一に、ロシアはソ連から国連安保理の常任理事国という地位を
継承しており、低下した国力に比して大きな政治力を保持すること
ができた。したがって、ロシアが国連を主要な国際秩序の地位に留
めなければならないと主張することはある意味で当然と言える。
 一方、冷戦後の世界では国連の機能不全が叫ばれ、米国やNATOが
その枠外で行動する場面が目立つようになった。特に1999年、NATO
が国連の付託を得ることなくユーゴスラヴィアへの空爆を敢行した
ことはロシアに大きなショックを与えたと言われる。空爆が始まっ
た当時、訪米のために大西洋上にあったプリマコフ首相が、政府専
用機を180度ターンさせて引き返した「プリマコフのループ」は有名
なエピソードである。
 このようなロシアの不満は、2003年のイラク戦争や2011年のリビ
ア空爆でさらに強まった。国連をバイパスし、ロシアの与り知らぬ
ところで軍事力行使が行われることは、ロシアの世界的な大国とし
ての地位を損なう行動と映ったのである。
「我が国のヤルタ」
 また、この演説の冒頭部分には「我が国のヤルタ」という文言が
含まれている。米英ソ三巨頭会談で有名な黒海の保養地ヤルタは、
昨年、ロシアがウクライナから併合したと主張するクリミア半島南
部に位置する。ここで「我が国の」とプーチン大統領が述べたのは
、ただの偶然ではあるまい。これについてカーネギー財団モスクワ
・センターのコレスニコフ主任研究員は、プーチン大統領がロシア
をソ連の後継国家であり、国連生誕の地であると位置づける意図が
あったと10月5日付『ヴェードモスチ』紙で分析している。
 閑話休題。プーチン大統領は、続いて次のように述べている。
(翻訳)
 いわゆる冷戦が終結した後、世界にはひとつの支配的なセンター
が残ったことを我々は知っています。そして、このピラミッドの頂
点に立った者は、次のように考える誘惑に駆られました。いわく、
彼らはかくも強く、特別で、物事をどうすればよいか誰よりもよく
知っているのだと。そして彼らには国際連合を顧みる必要などなく
、国際連合は彼らの決断に判子をついて追認すればいいのだと。こ
の組織はすでに古くなり、歴史的な使命を負えたのだという話も出
ました。
 たしかに世界は変化しており、国際連合はその自然な変容に合わ
せなければなりません。ロシアには、広範な合意に基づき、国際連
合のさらなる発展に関する作業に全てのパートナーとともに関与す
る用意があります。しかし、我々は、国際連合の権威と正統性を損
なう試みは極めて危険なものだと考えます。それは、全ての国際関
係の枠組みの崩壊につながりかねないものです。そうなれば我々に
は力のルール以外、いかなるルールも残らないでしょう。
 それは、エゴイズムが協調に、平等と自由が支配に、真の独立国
家が外から指図される保護領に取って代わられる世界となるでしょ
う。
 では、すでに同僚の皆さん達がここで語った国家主権とはどのよ
うなものでしょうか?これは何よりも自由の問題であり、各人、各
民族、各国家が自らの運命を自由に決せるということであります。
 そこで、尊敬する同僚の皆さん、いわゆる正統な政府というもの
についても語りたいと思います。言葉を弄んではなりません。国際
法及び国際関係においては、それぞれの擁護は明確かつ透明でなけ
ればならず、共通の意味を持ち、共通の基準で定義されなければな
りません。我々はみんな違っているのであり、そのことについて敬
意をもって臨まねばなりません。何人も、誰かが正解だと決めた単
一の発展モデルに従わされる必要はないのです。
 我々は過去の経験を忘れてはなりません。たとえば我々はソ連邦
の経験を援用することができます。ソ連は社会実験を輸出し、イデ
オロギー的な理由から他国の社会変革を推進しましたが、その結果
はときとして進歩ではなく混乱でした。
 しかしながら、誰もがそのような誤りに学ぶわけではなく、それ
を繰り返す者もいます。そしていわゆる「民主的な」革命の輸出を
続けています。
 これ以前の登壇者の方が触れた、中東及び北アフリカの状況を見
れば充分でしょう。たしかにこれらの地域における社会経済的状況
は長らく混乱しており、人々はそれを変革したがっています。です
が、実際の結果はどうでしょうか? 改革をもたらす代わりに、攻
撃的な介入が国家機関と現地の人々の生活を破壊しているではあり
ませんか。民主主義と進歩の代わりに、今そこにあるのは暴力、貧
困、社会不安、そしてただ生きる権利を含めた人権の全くの無視で
はありませんか。
(翻訳ここまで)
この箇所でプーチン大統領が述べているのは、最近のロシアが唱え
てきた反「アラブの春」言説の典型例である。権威主義的な政府(
その多くはロシアと友好的な関係にあり、近年のロシア自身もその
ように見なされつつある)は無政府状態の混沌よりははるかにマシ
なのであり、西側は民主主義的なスローガンの元に結局は秩序を破
壊してまわっているに過ぎない、とロシアは繰り返し主張してきた。
「アラブの春」批判する理由
 実際問題として、一時期は東欧革命の中東版であるかのように言
われた「アラブの春」は、すぐに中東全域を含む巨大な不安定状況
へと転化し、ついに「イスラム国(IS)」の台頭をも招いた。この
意味では、プーチン大統領の指摘には一定の理があろう。
 「アラブの春」批判の締めくくりに、プーチン大統領は次のよう
に述べて西側を強く批判している。
(翻訳)
 そこで、このような状況を作り出した人々に私は問いたい。あな
た方がやったことを少なくとも理解くらいはしているのだろうか、
と。しかし、私が恐れるのは、傲慢と、例外主義と、罪悪感のなさ
ゆえに彼らがその政策を撤回せず、答えがないままこの問いが虚し
く空中に消えることです。
(翻訳ここまで)
 もちろん、その根底には、中東における友好国を失ったこと(ま
たはその危険があること)や、権威主義体制打倒の波が旧ソ連の友
好国にまで波及してくることを恐れるロシア政府の現実的な打算が
ある。特にカザフスタンやウズベキスタンでは独立以来の大統領に
よる終身独裁体制が続いており、これら諸国が次の「民主化」のタ
ーゲットになりかねないとの懸念をロシアは持ち続けてきた。また
、より程度は低いものの、ロシア政府は自国における内政不安も抱
えており、近年、政治的な締め付けがとみに強化されつつある。
 つまり、体制転換の波をシリアで食い止めることが、ロシアの対
内的・対外的安定と連動して捉えられているのである。
 また、プーチン大統領はルールを無視した力の行使を強く非難す
るものの、これもロシアの弱さの裏返しと言える。ロシアの軍事力
は近年、急速な回復を遂げているとはいえ(筆者自身もロシアの軍
事を専門とする身としてその速度には驚くばかりだが)、通常戦力
面では依然、米国をはじめとする西側と比肩できるレベルではない。
政治力、経済力の面では劣勢はさらに大きい。
 こうした劣勢を補うものが、軍事面ではウクライナで見られたよ
うな非正規戦争(いわゆる「ハイブリッド戦」)戦略であり、政治
面では国連を中心とした戦後秩序と見なされている、と整理できよ
う。もっとも、軍事力によってウクライナの領土を強制的に併合し
たロシアの振る舞いはそれ自身が国際秩序に対する挑戦であり、当
のロシアが国家主権や国際法の重要性を説いてみても、ご都合主義
の感は拭えまい。
 以上、国連総会におけるプーチン演説の前半を通じて、現在の国
際情勢一般に対するロシアの基本的立場を確認してみた。これを踏
まえて、次回はシリアなど個別の問題に対するプーチン大統領の発
言を見て行くことにしたい。
==============================
名誉挽回にもがくロシア
国連総会でプーチンは何を語ったか(後編)
2015年10月11日(Sun)小泉悠 (財団法人未来工学研究所客員研究
員)WEDGE
前回の小覧(「アラブの春」を恐れるロシア)では、国連総会にお
けるプーチン大統領の一般討論演説の前半を例に、ロシアが冷戦後
の国際環境に対して抱く不満がどのようなものであったかと見てき
た。続く後編では、現在のロシアが関与している2つの紛争、すな
わち、シリア紛争とウクライナ紛争に関するロシアの立場と戦略に
ついて、プーチン演説の後半を見ながら考えていくことにしたい。
 後半でプーチン大統領が取り上げたのは、まず中東地域の状況で
ある。
(翻訳)
 今日、われわれはイラク、シリア、そしてテロリスト集団との戦
いを行っている他の域内諸国に対して軍事技術上の支援を行ってい
ます。テロリズムと面と向かって戦うシリア政府及びシリア政府軍
との協力を拒むのは、とてつもない誤りだと我々は考えています。
結局、アサド大統領の政府軍とクルド人の反政府部隊以外、シリア
では誰も「イスラム国」とは戦っていないのだということを知るべ
きです。我々はこの地域にありとあらゆる問題が溢れ、ありとあら
ゆる矛盾があることを知っています。しかし、現実から出発するよ
りないのです。
(翻訳ここまで)
プーチン大統領は、現在のシリアではアサド政権とクルド人勢力以
外、「イスラム国(IS)」とは戦っていないのが「現実」であると
する。
 では、反政府勢力が誰と戦っているのかと言えば、ロシアが支援
するアサド政権だ(もちろん、実際には反政府勢力もISとは交戦し
ている)。
 特に今年夏には、アサド政権の支持基盤で後背地と目されるラタ
キア県周辺が反政府勢力の合同部隊「ファタハ軍」の手に落ち、最
後まで抵抗していたイドリブ空軍基地が陥落するなど、アサド政権
は窮地に立たされていた。
 こうした中でロシアによって提起されたのが、アサド政権を含む
対IS「大連合」構想であり、続いてロシアの軍事介入が始まったの
である。ロシア軍が拠点を築いたのがラタキア県であったのも偶然
ではなく、この直後に始まったロシア空軍の空爆も、イドリブ、ハ
マ、ホムスといった非IS系反政府勢力の支配地域を主な攻撃目標と
している。
 また、ここでプーチン大統領は「軍事技術上の援助」について触
れているが、これは武器輸出を指すロシア政府の公式用語である。
ロシアはイランとともに大量の軍事援助を行ってアサド政権を支え
るのはもちろん、イラクに対してもISの侵攻に直面した昨年6月以
降、Su-25攻撃機をはじめとする緊急軍事援助を行い、影響力を拡大
させてきた。
 ロシアの武器輸出政策を規定する「軍事技術協力法」には大統領
大権で通常の許認可手続きをバイパスして武器輸出を行えるとの規
定があり、こうした機動的な軍事援助をイラク政府も高く評価した
と伝えられる(特にロシアとイランが送り込んだSu-25は、まともな
空軍を保有しなかった当時のイラクにとって貴重な航空戦力となっ
た)。
 ロシア軍のシリア介入に際し、イラク政府がロシア空軍機や巡航
ミサイルのイラク領空通過を認めたことや、ロシア、シリア、イラ
ンと合同で情報共有センターの設置に合意した背景にも、こうした
ロシアの影響力拡大戦略があったものと思われる。
 こうした動きに対して西側諸国が募らせ始めたロシアへの不満に
対して、プーチン大統領は次のように述べている。
(翻訳)
 尊敬する同僚のみなさん!我が国のこうした誠実かつ率直なアプ
ローチが、最近、ロシアが野心を募らせているのだという非難の材
料にされていることを指摘せねばなりません。そう言う人々にはま
るで野心など少しもないかのようです。しかし、同僚のみなさん、
核心はロシアの野心などにあるのではなく、現在の世界情勢はもは
や耐え難いものになってきているという点にあるのです。
 実際に我々が提案したいのは、野心ではなく国際法に基づいた共
通の価値や共通の利益によって統治を行い、今目の前に立ちはだか
る新たな問題を解決するために努力を結集して、真に広範な国際反
テロリスト連合を設立することです。反ヒトラー連合がそうだった
ように、反テロリスト連合は大きく立場の異なる勢力を結集し、人
類に害悪と憎悪をばらまくナチスのごとき連中と決然と対抗するこ
とを可能とするでしょう。
 そしてもちろん、このような連合の中でも特に重要な参加国は、
ムスリム諸国でなければなりません。というのも、「イスラム国」
はこれら諸国に対する直接的な脅威であるばかりか、世界で最も偉
大な宗教のひとつであるイスラム教の名誉を汚しているからです。
「イスラム国」のイデオローグたちはイスラムの真似事をやってい
るのであり、その真の人間的な価値を損なっているのです。
 ムスリムの精神的指導者のみなさんに申し上げたい。あなた方の
権威と、あなた方の導きとが、今、とても重要なのです。過激主義
者の勧誘の対象になっている人が軽率な決断をしないようにせねば
なりません。様々な理由からそうした決断をすでに下してしまった
人、すでにテロ組織に参加してしまった人には、通常の生活に戻り
、武器を置き、兄弟殺しの戦争をやめるように救いの手を差し伸べ
てあげなければなりません。
 ロシアは近く、中東地域における脅威の複合的な分析に関する大
臣級会議を、安保理の議長国として招集します。ここではまずもっ
て、「イスラム国」やその他のテロリスト集団と戦う全ての勢力の
活動を調整することについての決議に合意できるかどうかを話し合
うよう提案するつもりです。繰り返しますが、このような調整は国
連憲章の原則に則らなければなりません。
 国際社会は、中東の政治的安定と社会経済的な復興のための総合
的な戦略を策定することができると我々は考えています。尊敬する
友人の皆さん、そうなればもう難民キャンプを作る必要はなくなり
ます。今日、故国を離れねばならない人々の数はまず隣国で、続い
て欧州で膨れ上がっています。その数は数十万になっており、今後
は100万の単位になるかもしれせん。つまり、これは新たな悲劇的な
難民の波であり、欧州を含む我々全てにとっての重い教訓でありま
す。
対IS「大連合」を誘うプーチン
 リビアの国家機構を再建し、イラクの新政府を援助し、シリアの
正統な政府に全面的な支援を行うことは極めて重要であると考えま
す。
 以下の点を強調しておきたいと思います。難民の人々には同情と
支援が絶対に必要とされています。しかしながら、この問題の解決
は、破壊された政府を回復し、まだ残っている、ないし回復されつ
つある機構を強化し、困難な状態にある国及び万策尽きて故国を去
らねばならなくなった人々に、軍事的、経済的、物質的な全面的援
助を提供することによってしか成し遂げられません。もちろん、主
権国家に対するいかなる援助も強制されたものではなく、国連憲章
のみに依拠してこそ可能なのであり、そうでなければなりません。
国際法の規範に従ってこの分野で行われ、あるいは行われるであろ
う全てのことは、国際連合の支援を得ねばならず、国連憲章に違反
する全てのことは拒絶されるべきです。
 尊敬する同僚の皆さん、国連の下における国際社会の枢要な課題
は、平和並びに地域的及びグローバルな安定を維持することです。
 我々の見方によれば、これは平等かつ一体的な安全保障の空間を
つくりあげるということです。この安全保障は全ての人々のための
ものであって、選ばれた人のものであってはなりません。たしかに
労多く、困難な作業ですが、これに代わるものはないのです。
(翻訳ここまで)
 ISの脅威と欧州を悩ませる難民問題を取り上げた上で、対IS「大
連合」の設立を訴えるのがこの箇所の主眼と言えよう。ここで重要
なのは、それをあくまでも国連の枠組み内において行い、かつシリ
アのアサド政権を唯一の正統な政府として支援することが打ち出さ
れている点だ。
 前回のプーチン演説前半でも触れたように、国際的な秩序は(ロ
シアが大きな政治的影響力を発揮できる)国連の枠内で形成されね
ばならないというのがロシアの譲れない立場である。また、これも
前半で触れたように、ロシアとしてはアサド政権こそが国際法的に
正統な唯一のシリアの国家主権の体現者なのであって、「大連合」
にはアサド政権を含み、なおかつその再建を図ることでしかシリア
問題の解決はありえないということになる。
 もっとも、これはロシアの立場であって、異なった見方はもちろ
ん可能である。たとえば前回紹介したカーネギー財団のコレスニコ
フは、対IS大連合を対ヒトラー連合になぞらえるのであれば、アサ
ド政権を「大連合」に引き込むのはフランコやムッソリーニを対ヒ
トラー連合に招待するのと同じだと言う極めて辛辣な批評をこの演
説に加えている。
対IS「大連合」は西側には受け入れられない
 最も多くのシリア国民を殺戮してきたのがISではなくアサド政権
であることを考えれば、アサド政権を含めた対IS「大連合」という
ロシアの主張は、西側には受け入れられるものではない。その一方
、プーチン大統領の強調する国家主権(前回の小覧で触れた)に照
らすならば、アサド政権はたしかにシリアの正統な政府であり、そ
のアサド政権の要請によるロシアの介入を批判することは難しい。
さらに言えば、現在、米国を中心とするシリアへの介入には国連決
議の裏付けが伴っておらず、法的な観点からすれば主権の侵犯とい
うことになる。
 今回の国連総会において、シリアのムアレム外相が米国に対し、
「あなたがたはなぜここにいるのか?」と述べたのは、その端的な
現れと言えよう。
 実際問題として、アサド政権を退陣させたとして、その後に民主
的な政府が成立する見込みは極めて薄く、2013年に米国がシリア空
爆をためらったのもまさにこのような理由による。
 ロシアのシリア介入は、こうした西側の弱みを巧妙に衝いたもの
と言えよう。
 また、これについては機会を改めて述べるが、ロシアにとってIS
の脅威は決してシリア介入のための名目に留まるものでない。多く
の旧ソ連国民がISに身を投じ、グルジア出身のアル・シシャニのよ
うな人物がIS高官の地位にある状況は、北カフカスや中央アジアの
不安定化を恐れるロシアにとってリアルな安全保障上の脅威である
こともまた事実である。
 続いてプーチン大統領は、ウクライナを含む欧州正面へと話題を
転じる。
(翻訳)
 しかしながら、冷戦時代のブロック思考と、新たな地政学的空間
を利用しようという思考に完全に支配されている同僚諸君が、残念
ながら若干存在します。まず、NATOの拡大路線が続いています。問
いたいのですが、ワルシャワ・ブロックが存在しなくなり、ソ連邦
が解体したにも関わらず、これは一体何のためなのでしょうか? 
しかもNATOは単に存続しているだけでなく、その軍事的インフラと
ともに拡大しているのです。
 そして旧ソ連諸国には、西側に加わるか、東側に残るかという偽
りの選択が突きつけられています。このような対立の論理は、遅か
れ早かれ、深刻な地政学的危機に至らざるを得ません。これはまさ
にウクライナで起こったことです。国民の圧倒的多数が政府に対し
て抱く不満を外国が利用してクーデターを起こしたのです。その結
果は内戦でした。
 この流血を止め、八方ふさがりの状況を抜け出す為には、今年2月
12日のミンスク協定を誠実かつ完全に履行するほかないと我々は確
信しています。軍事力の脅しによってはウクライナの一体性を保つ
ことはできません。行動しかないのです。ドンバスの人々の利益と
権利を真に考慮し、彼らの選択を尊重し、ミンスク協定において重
要な国家の政治的要素として規定されている通り、それに同意しな
ければなりません。このようなステップを踏むことで、ウクライナ
は文明国家として、そしてヨーロッパとユーラシアにおける総合的
な安全保障空間を創設する上での最重要の結節点として発展するこ
とになりましょう。
(後略)
 ここでプーチン大統領は、従来通り、冷戦後もNATOが存続し、ロ
シアの勢力圏へと拡大していることを批判している。2004年にウク
ライナで起こった「オレンジ革命」により、反露・親西側のユーシ
ェンコ政権が成立したことを、ロシアは「民主化の名を借りた侵略
」であると見なしてきた。2010年代に中東で連鎖的に発生した「ア
ラブの春」や2014年のウクライナ政変を経て、ロシアはこうした論
調をさらに強めている。
 ロシアにしてみれば、アサド政権の擁護はこうした体制転換の連
鎖を食い止める防波堤としての意義をも持つ。
 また、シリア介入とほぼ時期を同じくしてウクライナ情勢が沈静
化し、ウクライナのポロシェンコ大統領さえもが「真の停戦が始ま
った」と述べる状況になったことは、シリア情勢とは無関係ではあ
るまい。シリア情勢でロシアが大きな影響力を発揮するとともに、
ウクライナ情勢を後継化させることで、昨年から著しく悪化しつつ
あるロシアの国際的立場を回復しようという狙いがそこにはあると
思われる。
==============================
イスラム世界で繰り広げられる戦争
敢然と立ち向かうプーチン大統領、躊躇するオバマ大統領
2015.10.9(金)  The Economist
シリアにロシアが介入し、アフガニスタンで米国がためらう危険性
 ウラジーミル・プーチン氏の話を聞くと、ロシアは新たな対テロ
世界戦争の指導者になった。対照的にバラク・オバマ氏は、米国が
10年以上にわたり戦ってきたイスラム世界での戦争に、日ごとに嫌
気がさしているように見える。
 ロシアの戦闘機は9月30日、窮地に立つバシャル・アル・アサド大
統領の軍隊を支援するために行動を起こした。
 ロシアはイラク、イランとの間で情報共有ネットワークを構築し
つつある。ロシア正教会は聖戦を話題にしている。
米国の撤退が残す空白
 「イスラム国(IS)」と戦っているというプーチン氏の主張は、
控えめに言っても疑問の余地がある。
 ロシアの空爆初日に見られた証拠は、空爆が、米国に支持されて
いる勢力を含めたスンニ派反政府勢力を攻撃していることを示して
いた。たとえそれが政治劇場と大差なかったとしても、ロシアは1970
年代にソ連が追い出されてから米国の領域だった中東で最大の行動
を起こしている。
 一方、アフガニスタンでは、タリバンに対する米国の軍事行動が
打撃を受けている。タリバンは9月28日、同国北部のクンドゥズを制
圧した――2001年にタリバンが権力の座から追い出されてから初め
てその手に落ちた州都だ。アフガニスタンの軍隊は、3日後にクンド
ゥズ中心部を奪還した。だが、たとえアフガニスタン軍が完全な支
配権を確立したとしても、今回の攻撃は屈辱だった。
 クンドゥズもロシアのシリア爆撃も、同じ現象の兆候だ。すなわ
ち、イスラム世界の戦争から身を引こうとするバラク・オバマ氏の
試みによって生じた空白である。
 オバマ大統領は先の国連総会で、米国は「単独で異国の地に安定
をもたらすことはできない」ことを学んだと述べた。イランとロシ
アを含め、他国もシリアで手を貸すべきだという。
 オバマ氏は完全に間違っているわけではない。だが、同氏の提案
は多くの危険を覆い隠している。米国がお手上げだと諦めること。
地域の大国が米国の離脱を感じ取って混乱状態に飲み込まれること
。そして、ロシアの介入が血みどろの戦争をもっと血みどろにする
ことだ。
 オバマ氏が方針を転換しない限り、さらに多くの死者、難民、過
激思想が予想される。
==============================
「イスラム国」、少女引き付ける=外国戦闘員は2万8000人−FBI
 【ワシントン時事】米連邦捜査局(FBI)のコミー長官は8日
、上院国土安全保障・政府活動委員会の公聴会で証言し、過激派組
織「イスラム国」に参加する米国民の年齢は低下傾向にあり、「18
歳未満の女性」がこれまで以上に引き寄せられていると警告した。
 長官は同組織の勧誘手口について、ツイッターなどのソーシャル
メディアで有望な対象者を誘惑し、その後暗号化された通信を使う
よう仕向けるなどと指摘。「ソーシャルメディア上のメッセージに
共感しやすい18歳未満の女性」が一段と引き付けられる傾向にあ
るという見方を示した。
 長官によれば、FBIは今年夏、数十人の過激派分子を24時間
体制で監視し、多数のテロ計画を阻止した。
 一方、同じ公聴会に出席した国家テロ対策センターのラスムセン
所長は、同組織に加わるため「紛争地」に渡った外国人は2012
年以降で最大2万8000人に達するとの推計を公表。このうち西
側各国からは、米国人約250人を含む約5000人が渡航したと
見積もった。(2015/10/09-09:54)
==============================
遂に海軍も参戦。ロシア在住25年の識者が予見する「プーチンの野
望」
 2015年10月10日mag2.
空軍に続き、海軍もシリア領内のイスラム国の攻撃に加わったロシ
ア。プーチンの狙いはどこにあるのでしょうか。無料メルマガ『ロ
シア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係アナリストの北野幸伯
さんは、「プーチンはアメリカの覇権を終わらせたがっている」と
し、これからロシアが取るであろう戦略を大胆予想しています。
プーチンがアメリカにとどめを刺す方法
今日は、「プーチンがアメリカにとどめを刺す方法」についです。
ロシアによるシリア・イスラム国攻撃、真剣度が増してきました。
空爆だけでなく、海軍も攻撃を開始しています。
カスピ海からミサイル発射=シリア攻撃、一気に拡大―ロシア
時事通信 10月7日(水)21時0分配信
【モスクワ時事】ロシアのショイグ国防相は7日、ロシア海軍の4隻
が同日朝にカスピ海から巡航ミサイル26発を発射し、シリア領内の
過激派組織「イスラム国」の11拠点を攻撃したと明らかにした。
南部ソチで、プーチン大統領に報告する様子を国営テレビが伝えた。
これまでの空爆作戦から軍事行動を一気に拡大させた。
ロシアは9月30日、同組織と戦うアサド政権を支援する名目で、シリ
ア西部ラタキアの空港を拠点に空爆を開始。
プーチン大統領は「地上作戦は行わない」と説明しているが、海軍
も参戦させたことで、ロシアの「対テロ」作戦は新たな段階に入っ
た。
プーチンらしいやり方です。
米軍は、1年以上もイスラム国を空爆しつづけ、まったく何の効果も
ありませんでした。むしろイスラム国の支配地域は拡大し、シリア
のアサド政権をおびやかすようになってきた。それでロシアは、「
アメリカは、イスラム国をアサド打倒のために利用している」と見
ているのです。
一方ロシアは、「中東の事実上の同盟者アサドを守る」という目的
がはっきりしているので、ガンガンやっています。
さて、今回は、「こうすればプーチン、アメリカにとどめを刺せる
よね」という方法について。もちろん、私の空想です。空想ですが
、「ありえるシナリオ」でもあります(私自身は、アメリカの完全
没落を願っていません。対中国で日本が困ることになるからです。
世界経済もメチャクチャになるでしょうし)。
第1段階:プーチンは短期間で「イスラム国」を掃討する
圧倒的残酷さで、「世界共通の脅威」になった「イスラム国」。米
軍は「ダラダラ」空爆を1年もつづけ、何の結果も出ていない。「本
気で勝つ気あるの?」と疑いたくなるのは、ロシア人だけではない
でしょう。
プーチンは、世界共通の敵「イスラム国」を3〜4か月で壊滅させ、
世界の英雄になります(「なります」というのは、予測ではなく、
「なりたいです」という意味です。今お話ししていることは、私が
「プーチンの脳内で起こっている」ことを想像しているのです)。
第2段階:プーチンは、アサド政権を守る
ロシアはイスラム国と同時に、シリアの「反アサド派」を攻撃して
いる。それで、シリア国内から「反アサド勢力」は一掃され、アサ
ド政権が盤石になります(ならせたい。―プーチン)。
第3段階:プーチンは、シリア、イランとサウジアラビアを和解させる
「中東」というと、「みんなイスラム教徒」というイメージですが。
シーア派とスンニ派が争っています。もっというとシーア派のイラ
ンと、スンニ派のサウジアラビアを中心とする争い。
プーチンは、イランとサウジアラビアを和解させます。
「不可能だ!」と思いますね。しかし、最近事情が変わってきてい
るのです。というのは、今年7月、アメリカはイランと和解した。
<イラン核交渉>最終合意 ウラン濃縮制限、経済制裁を解除
毎日新聞 7月14日(火)22時1分配信
【ウィーン和田浩明、田中龍士、坂口裕彦】イラン核問題の包括的
解決を目指し、ウィーンで交渉を続けてきた6カ国(米英仏露中独)
とイランは14日、「包括的共同行動計画」で最終合意した。
イランのウラン濃縮能力を大幅に制限し、厳しい監視下に置くこと
で核武装への道を閉ざす一方、対イラン制裁を解除する。
2002年にイランの秘密核開発計画が発覚してから13年。粘り強い国
際的な外交努力によって、核拡散の可能性を減じる歴史的な合意と
なった。
これに衝撃を受けたのがサウジとイスラエルです。「アメリカに見
捨てられた!!!」と感じている。それで彼らは、ロシアに接近しはじ
めている。
なぜアメリカは、イランと和解したのでしょうか?「シェール革命
」で、天然ガス生産でも原油生産でも世界一に浮上したアメリカ。
「自国にたっぷり資源がある」ことを理解したアメリカにとって、
「資源たっぷりの」中東の重要性が薄れたのです。それで、ロシア
が中東で影響力を拡大できる条件が整っている。
「でも、ロシアは中東で影響力を拡大してどうしたいの?」
それは、少し後で。
第4段階:プーチンは中東の覇権を握る
アメリカに捨てられて困っているサウジアラビアとイスラエル
(=ユダヤ教)。
もとから親ロシアのイラン、シリア(アサド政権)。
プーチンは、イスラム教シーア派、スンニ派、ユダヤ教を和解させ
、「中東の覇権」を握ります(握りたいです)。
第5段階:「ペトロダラーシステム」と「ドル崩壊」
アメリカは、世界一の財政赤字国、貿易赤字国、対外債務国。それ
でも、いままで破産していない。その理由は、「ドルが基軸通貨」
(=世界通貨、国際通貨)だからです。
2次大戦以降、ドルと金(ゴールド)はリンクしていた。ところが、
それでドルがどんどんアメリカから流出して困った。そこでニクソ
ンは1971年、「ドルと金(ゴールド)の交換をやめる!」と宣言し
ます(=ニクソンショック)。これで、ドルは「ただの紙切れ」に
なった。
しかし、今にいたるまで「ドル=基軸通貨」の地位を維持していま
す。なぜでしょうか?
その大きな理由が「ペトロダラーシステム」。つまり、「原油は、
ドルでしか売らない」。
ニクソンは、
アメリカはサウジアラビアを守る
サウジ王家を守る
ことを条件に、「石油販売はすべてドルで行う」ことを約束させま
した(1974年)。
OPEC諸国もサウジに従い、「石油の売買はすべてドルで」が世界の
スタンダードになった。この体制は1975年から2000年までつづきま
した。
ところが2000年9月、イラクのフセインが「イラク原油の決済通貨を
ドルからユーロにかえる!」と宣言。同年11月、実際にかえてしま
った。
彼はそれでどうなったか?
皆さんご存知ですね。(イラク戦争の公式理由=「大量破壊兵器」
「アルカイダつながり」はどちらもウソだったことが明らかになっ
ている)。
これをきっかけに「ドル離れ」のトレンドが形成されていきました。
その後起こったこと。
ユーロの流通量がどんどん増え、06年ドルを超えた
イランが原油の決済通貨をドル以外の通貨にかえた
中東産油国が「湾岸共通通貨」の導入を検討しはじめた
原油高で潤っていた時代のプーチンは、「ルーブルを世界通貨にす
る!」と宣言していた
これらが、「100年に1度の大不況」の大きな「裏」要因だったのです。
この話、新しい読者さんには、「トンデモ系」と思えるかもしれま
せん。しかし、証拠は山ほどあります。もっと詳しく知りたい方は
、「完全無料」のこの情報をゲットしてください。
そして、アメリカの息の根が止まる
というわけで、
イスラム国を掃討する
反米親ロ・アサド政権を盤石にする
アメリカに捨てられたサウジと、イランを和解させる
イスラム諸国とイスラエルを和解させる
そして、
ロシアが中東の覇権を握る
その後はどうするか?
アメリカに捨てられたサウジアラビアを説得し、「原油の決済通貨
をドル以外にさせる」。
これで、アメリカの覇権は終わりです。
もちろん、既述のように、これは私の想像にすぎません。しかし、
「ロシアに25年住み、プーチンを観察してきた男(=私)の想像」
なので、全然「ありえない」というわけでもありません。
さらに、仮にプーチンがそう考えていても、「相手がいる」話です
から、うまくいくかもわからない。ロシアも、「制裁」「原油安」
「ルーブル安」で相当苦しいですから。
いずれにしても、「シリア」「ウクライナ」「東、東南アジア」、
どこを見ても、「戦国時代」です。



コラム目次に戻る
トップページに戻る