5506.アベノミクスが第2ステージへ



やはり、このコラムで議論していたポスト・アベノミクスがアベノ
ミクス第2ステージとして安倍首相から発表があった。議論したと
おり、金融政策が削除されていた。大体、思った方向の政策である
が、しかし実現の手段が難しい。検討しよう。  津田より

0.新アベノミクス
安倍晋三首相は24日、「アベノミクスは第2ステージに移る。国
内総生産(GDP)600兆円の達成を明確な目標に掲げたい」と
述べ、経済最優先で臨む方針を表明した。目標達成に向けて誰もが
活躍できる「日本1億総活躍プランをつくる」とし、そのための方
策として、強い経済、子育て支援拡充、社会保障改革の「新三本の
矢」を掲げた。

日本1億総活躍は、高齢者の労働環境を整えるということであり、
賛成である。それと年金の財政負担も軽減されることになる。より
よい人生を送ってもらうことが重要である。

もう1つ、目標に掲げるGDP600兆円の実現のカギを握るのは
、約6割を占める個人消費。11日の経済財政諮問会議で民間議員
は、GDPに占める個人消費の割合を現状の6割程度から、米国並
みの7割程度に引き上げることを提言したようだ。このため、個人
消費の活性化に向け、政府・与党は低所得者対策などに力を入れて
いく方針。

また、政府部内には、日銀が追加緩和に踏み切って円安が進めば、
原油安で利益を享受できる消費者にはマイナスとなり、現在の経済
情勢における追加緩和は不要との見解を示す声も少なくない。

しかし、市場の一部では「金融緩和に代わるエンジンが見当たらな
い。本当に成長できるのか」(国内金融機関の関係者)との声も出
ている。

金融緩和政策は、現状維持ということにようである。テパーリング
すると、またデフレに戻る可能性が高く、それは現時点ではできな
いと麻生財務相も述べている。

そして、麻生財務相は、企業業績が好調であるにもかかわらず内部
留保が拡大している現状に対し、「内部留保のために税金(法人税
)を安くしているのか。おかしい」と述べ、企業行動を批判した。

ということで、法人税の削減もないようである。

日本企業は、人口減少日本では将来への成長が期待できないので、
設備投資をするはずがない。企業は海外投資を積極的に行い、海外
で売上高を増やす方向である。

この現状を変化させるために、GDP600兆円を打ち上げたよう
である。日本も成長するぞという意気込みを示すことが重要という
ことのようであるが、実現する方法が重要である。

1.状況
中国経済の減速または失速、下落で、中国への輸出が大きく落ち込
み、しかし資源価格が下落しているので輸入金額も増えないことに
なる。新興国、資源国の経済も中国の資源輸入が減ることで、景気
は後退することになる。

一方、米国経済は2008年のリーマンショックを乗り越えて、景
気が元に戻り、世界の経済エンジンになり始めている。

日本は、優秀な技術力で輸出が今後も対米、EU分は伸びることにな
る。今後は新興国から輸出が先進国に戻り、その市場開拓には技術
力が重要になる。

ICCTのレポート(下にリンク)を見ればわかるとおり、現時点でユ
ーロ6の排ガス規制をクリアしているのは、マツダのディーゼル乗
用車がほとんどで、他はほとんど全滅である。このレポートから見
るに、ドイツのクリーンディーゼル乗用車は、今後大変なことにな
る。

日本がクリーンディーゼルやガソリン自動車の高性能化技術でドイ
ツを抜かして、今後世界的にガソリン、ディーゼルなどの内燃機関
では敵がいないことになる。デンソーとマツダがディーゼルを制す
る。ターボはIHIなどが独占状態であり、日本の技術をドイツメーカ
ーも使うしかないことになる。

勿論、電気自動車では米国、ドイツも戦いに参加しているし、日本
も最先端にいる。日産のリーフが280KMまで走行距離が伸びてい
る。しかし、まだ、日本が先頭グループにいるだけで他を仰臥して
いない。

もう1つ、燃料電池車ではトヨタとホンダが一歩、抜け出したよう
であるが、まだ規模が小さい。将来的な問題も山とある。

しかし、直近と言う意味では、安倍首相は幸運な首相である。フォ
ルクスワーゲンの不正事件で、日本の内燃機関の技術力がドイツよ
り上であることを証明することになり、日本の一人勝ちになること
が事実上確定したからである。

ということで、企業の技術力が有り、その意味ではGDP600兆
円も不可能ではない。

一番大きな問題は人口減少である。少子高齢化が進むと、消費性向
が減少してしまい、GDPを押し下げることになる。この解決なし
には、GDP600兆円はない。

2.政策は何か?
安倍首相は、2017年4月の消費税率10%への引き上げについ
て、「予定通り実施する考えに変わりはない」と明言した。その場
合、軽減税率を導入することになる。公明党が要求しているので、
実施するしかない。しかし、この軽減税率は企業の事務手続きが煩
雑化して、生産性を下げる事になる。悪い政策である。

GDP600兆円を実現し、消費を活発化させるには、従業員の給
与を上げて、消費できる金を多くしないといけない。しかし、生産
性を下げると、給与は増えないことになる。

これは給付付き税額控除を行い、低所得者にも最低水準の生活がで
きるようにするしかない。これで社会保障と税制が一体化するので
、行政の効率化も図れることになる。

この上に、労働したら、した分だけ所得が増えるように設計して、
労働を高齢者でも少しだけでもできるようにして、体調などに合わ
せた労働ができるようにするべきである。

また、母子家庭では、教育費や子供の分を上乗せして給付すること
を考えて、子供の将来を暗いものにしないことである。

日本1億総活躍の肝は、給付付き税額控除であり、これをしないな
ら、実現は無理であろう。

もう1つが、人口減少の防止をしないといけない。このためには移
民政策を慎重に進めて、日本文化に適合できる文化圏からの移民を
積極的に受け入れるしかない。具体的には、親日仏教国からの移民
である。テロを計画するイスラム教徒を移民で入れることはやめた
ほうが良い。そのような地域には日本企業が工場を作り、地元での
雇用を増やしたほうが良い。

人口減少を防ぐことが最大な政策であり、この政策がないのでは、
実現は無理であろう。

もう1つが、ターゲット戦略である。温暖化問題や地震・噴火など
天変地異が起こる時代になり、今、エネルギー関係の技術を促進す
ることである。日本はその意味では、技術力で他を引き離している
ので、この分野は世界的にない技術になる可能性がある。

というように、成長政策をしっかりしていけば、実現可能性である。

しかし、実現のためには、国民の理解が必要になる。この理解を得
るために、国民に説明することであるが、今回のような政府の説明
が揺れると、理解はできないとみるが、どうであろうか?


参考資料
ICCT:NOx CONTROL TECHNOLOGY FOR EURO6 DIESEL CARS
http://shima5.web.fc2.com/ICCTreport.pdf

==============================
“アベノミクス”第2ステージへ−安倍首相「GDP600兆円、
経済最優先で臨む」
掲載日 2015年09月25日nikkan
 安倍晋三首相は24日、自民党の衆参両院議員総会で総裁再選が
正式決定したのを受けて会見し、「アベノミクスは第2ステージに
移る。国内総生産(GDP)600兆円の達成を明確な目標に掲げ
たい」と述べ、経済最優先で臨む方針を表明した。目標達成に向け
て「新しい“三本の矢”を放つ」とし、強い経済、子育て支援、社
会保障改革を軸に経済再生を実現する考えを強調した。
また、2017年4月の消費税率10%への引き上げについて、「
予定通り実施する考えに変わりはない」と明言した。
 首相は会見で「これまでの(総裁任期の)3年を超える結果を出
すことが求められている」とし、道半ばの政権の経済政策「アベノ
ミクス」を強化する方針を明らかにした。
 誰もが活躍できる「日本1億総活躍プランをつくる」とし、新た
な三本の矢を放つ。強い経済実現に向け、生産性改革や投資・人材
の日本への誘致、多様な働き方改革、地方再生などを推進する。ま
た約1・4にとどまる出生率を1・8まで引き上げるため、保育所
の待機児童ゼロなどを進める子育て支援、さらに介護のため退職す
る介護離職ゼロを実現する社会保障改革にも取り組む。
 ただ会見では数値目標は掲げつつ、目標達成に向けた具体策には
踏み込まなかった。2014年度に約490兆円だった名目GDP
を、例えば20年度に600兆円に引き上げるには毎年度、名目3
%の高成長を継続する必要があり、ハードルは高い。
==============================
「1億総活躍」担当相新設へ=安倍首相
 安倍晋三首相は25日、誰もが家庭や職場などで活躍できる「1
億総活躍社会」を実現させるため、10月に予定している内閣改造
で担当相を新たに設置する意向を固めた。
 首相は24日の記者会見で、「1億総活躍社会」の実現を目指す
考えを表明。そのための方策として、強い経済、子育て支援拡充、
社会保障改革の「新三本の矢」を掲げた。新設する担当相は、これ
らの施策の総合調整に当たるとみられる。 (2015/09/25-11:06)
==============================
消費者物価28カ月ぶり下落 8月、マイナス0・1%
2015/09/25 10:46   【共同通信】
 総務省が25日発表した8月の全国消費者物価指数(生鮮食品を
除く)は前年同月比0・1%下落の103・4で、2013年4月
以来、28カ月ぶりにマイナスとなった。原油価格が下がった影響
で、電気代をはじめとするエネルギー価格が落ち込んだ。
 日銀は16年度前半ごろに2%の物価上昇を達成する目標を掲げ
るが、デフレ脱却には程遠い状況が続いている。日銀の追加金融緩
和への期待が一段と高まりそうだ。
 品目別の前年同月比は、電気・ガス代やガソリンなどのエネルギ
ーが10・5%下落した。一方、生鮮食品を除く食料は1・8%上
がった。テレビなど教養娯楽用耐久財や、宿泊料もプラス。
==============================
新3本の矢の「強い経済」、大胆な金融政策など集約=麻生財務相
 2015年 09月 25日 12:24 JST
[東京 25日 ロイター] - 麻生太郎財務相は25日の閣議後の
会見で、安倍晋三首相が新たに打ち出した3本の矢のうち1本目の
「強い経済」に、大胆な金融政策や機動的な財政政策、成長戦略と
いう従来の柱は集約されていると述べた。
そのうえで、アベノミクス第2ステージでも物価目標2%達成の必
要性は変わらないとの認識を示した。
具体的な政策判断は日銀に委ねられているとし、財政政策について
は「今の段階で補正予算は考えていない」と語った。
<物価2%達成の必要性、新3本の矢でも引き継ぐ>
安倍晋三首相は24日、アベノミクス第2ステージの政策の柱とし
て、強い経済、子育て支援、社会保障の新たな3本の矢を表明した。
麻生財務相は「経済最優先を考えている総理の決意が示された」と
述べ、「引き続き、経済再生・経済成長に全力を挙げる」と語った。
そのうえで新たな3本の矢における財政・金融政策の位置づけにつ
いて、物価目標2%達成の必要性は第2ステージでも変わらないと
の認識かとの質問に「新たな3本の矢の1本目(強い経済)に、(
大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の)今までの3つが
集約されている」と説明し、旧3本の矢は引き継がれていると強調
した。
<追加緩和の是非「日銀に委ねる」>
足元、日本経済は「デフレ不況から脱却しつつある」としつつも、
テーパリングは時期尚早とも指摘。今朝発表された8月の全国消費
者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)が2年4カ月ぶりにマ
イナスとなったことに関しては「エネルギー関連を除くと、先行き
も当面緩やかに上昇していく」と見通した。
そのうえで、物価目標2%達成のための追加緩和の是非については
「日銀に委ねられるべき問題だ」と述べ、「財務省としてコメント
することはない」と述べるにとどめた。
一方で「物価面だけから言えば、2%目標は大きな目標であって、
われわれがPB(基礎的財政収支)目標きちんとしていくうえでも
、ある程度インフレ率確保は重要。関心を持っていかなければなら
ない」と語った。
<補正予算の必要性を否定>
一方、補正予算の是非については、企業収益は好調で「所得・雇用
環境は改善する方向にある」と述べ、「14年度補正や15年度本
予算を完全に使ってもらって、投資が生まれる好循環にもっていく
のが最初であって、今の段階で補正は考えていない」と否定した。
ただ、企業業績が好調であるにもかかわらず内部留保が拡大してい
る現状に対し、「内部留保のために税金(法人税)を安くしている
のか。おかしい」と述べ、企業行動を批判した。
<名目GDP600兆円、達成可能な目標>
名目国内総生産(GDP)600兆円を目標として掲げたことにつ
いては、2020年度に名目3%程度の成長率とすると「十分達成
可能な目標」と指摘。数字が独り歩きすることに懸念を示しつつも
、「わかりやすい目標」と受け止めた。
(吉川裕子 編集:山川薫)
==============================
「物価の基調しっかり」=黒田日銀総裁、安倍首相と会談
 安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁は25日昼、首相官邸で会談し
た。黒田総裁は会談後、記者団に対し、総務省が同日発表した8月
の全国消費者物価指数(除く生鮮食品)が2年4カ月ぶりに前年同
月比マイナスに転じたことについて「物価の基調はしっかりしてい
る」と述べ、原油価格下落の影響を除けば物価はプラスを維持して
いるとの認識を示した。
 首相と黒田総裁は、国内外の経済情勢や金融市場動向に関し定期
的に意見交換しており、会談は今年6月2日以来。黒田総裁による
と、会談では、安倍首相から金融政策運営などについて「特に要望
はなかった」という。
 安倍首相は今月24日の記者会見で、同政権の経済政策「アベノ
ミクス」の「新たな三本の矢」で、名目GDP(国内総生産)600
兆円の達成などを目指す考えを表明した。政府・日銀の連携を改め
て確認したものとみられる。(2015/09/25-13:44)
==============================
焦点:「新3本の矢」から消えた金融政策、漂う不透明感
2015年 09月 25日 19:13 JST
[東京 25日 ロイター] - アベノミクスの金看板だった金融政
策が、24日公表の「第2ステージ」で示された新3本の矢から消
えた。消費の活性化や低所得者対策の進展を目指す政府・与党内か
らは、日銀が掲げる物価2%実現を急ぐべきではないとの声も漏れ
、金融政策は優先順位のトップから「降板」したもようだ。
今後は、何がアベノミクスのエンジンになるのか、不透明感が漂っ
ている。
安倍首相は24日に自民党本部で会見し「本日からアベノミクスは
第2ステージに入る」と宣言し、新たな「3本の矢」の政策で全て
の人が活躍できる「1億総活躍社会」を目指すと表明した。
経済最優先の姿勢を鮮明にし、具体的には名目国内総生産(GDP
)を600兆円に増やすことを掲げた。
新たな3本の矢は、希望を生み出す強い経済、夢を紡ぐ子育て支援
、安心につながる社会保障━━。これまでの大胆な金融政策、機動
的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略から大きく転換し、軸
足を構造改革に移す姿勢を鮮明にした。
中でも市場の一部で思惑が広がっているのが、「第2ステージ」に
おける金融政策の役割。新3本の矢から金融政策が抜け落ち、市場
では「安倍政権の経済政策における優先順位が変化したことは間違
いない」(国内金融機関)との見方が広がっており、今後の金融政
策運営への影響に関心が高まっている。
麻生太郎財務相は25日の会見で「新たな3本の矢の1本目(強い
経済)に、今までの3つが集約されている」と説明。旧3本の矢は
引き継がれていると強調した。
甘利明経済再生相も、物価2%の目標は変わっていないとし、旧3
本の矢は安倍内閣の至上命題であるデフレ脱却を目的としたもので
あり、新政策発表以降も位置づけは変わらないと語った。
主要閣僚が25日の会見で、そろってデフレ脱却に向けた金融政策
の重要性を強調したが、現在の日銀による量的・質的金融緩和(QQE
)をさらに強化することについては、政府・与党内から慎重な見方
も聞こえてくる。
安倍首相は24日の会見の冒頭、日本経済について「もはやデフレ
ではない、という状態まで来た。デフレ脱却は、もう目の前だ」と
語った。
政府関係者の1人は、この発言の真意について「旧3本の矢によっ
て、デフレ脱却は事実上ほぼ実現したという認識だ」と述べ、金融
政策などは一定の役割をすでに果たしたとの見解を示した。
目標に掲げるGDP600兆円の実現のカギを握るのは、約6割を
占める個人消費。11日の経済財政諮問会議(議長・安倍首相)で
民間議員は、GDPに占める個人消費の割合を現状の6割程度から
、米国並みの7割程度に引き上げることを提言した。
政府・与党内では、消費税率引き上げに伴う反動減の影響一巡後も
、個人消費が低迷を続けている背景として、食料品や日用品などの
物価上昇を指摘する声も多い。
内閣府は諮問会議に提出した資料の中で「身近な食料品等の物価上
昇が相次ぐ中、低所得者層等の消費活動に影響を与える可能性」を
明記した。
個人消費の活性化に向け、政府・与党は低所得者対策などに力を入
れていく方針。ある政府筋は、さらなる円安・物価高を招きやすい
追加金融緩和は「われわれの政策の方向性と整合的ではない。日銀
は物価2%達成を急ぐべきではない」と言い切る。
また、政府部内には、日銀が追加緩和に踏み切って円安が進めば、
原油安で利益を享受できる消費者にはマイナスとなり、現在の経済
情勢における追加緩和は不要との見解を示す声も少なくない。
他方、これまでのアベノミクスの成果を積極的に評価し、今後も金
融政策を政策の中心に据えることを志向している与党議員の一部や
シンクタンク関係者の中には、金融政策の優先度を下げることで、
デフレへの逆戻りを懸念する声も出ている。
また、市場の一部では「金融緩和に代わるエンジンが見当たらない
。本当に成長できるのか」(国内金融機関の関係者)との声も出て
いる。
中国経済の減速懸念などを背景に世界経済の不透明感が強まる中、
原油安を背景に足元で日銀が目安とする生鮮食品を除いた消費者物
価(コアCPI)の前年比上昇率は、マイナスに落ち込んだ。
10月末に日銀が公表する「経済・物価情勢の展望(展望リポート
)」を控えて、市場では追加緩和観測も高まりつつある。
安倍首相がアベノミクス第2ステージ入りを宣言した翌日の25日
昼、黒田総裁が官邸に呼ばれ、予定の1時間程度を超過して安倍・
黒田会談が行われた。その内容は明らかにされていないが、市場で
は金融緩和観測が高まって、日経平均.N225は前日比308円68銭
高の1万7880円51銭に上昇して引けた。
アベノミクスにおける金融政策の位置づけの変化が、今後の金融政
策運営にどのような影響を与えるのか、市場は注視している。
(伊藤純夫 竹本能文 梅川崇 編集:田巻一彦)
==============================
特集:安保法制成立後のアベノミクス論
吉崎達彦(かんべえ)2015年09月25日 22:22
●スロー・トレードを覚悟の上で… 
加えて今後の景気には、「中国経済の不安」がのしかかってくる。
中国人観光客によるインバウンド消費はあいかわらず好調が続いて
いるようだが、少なくとも対中輸出拡大による追い風は、期待でき
ないと心得ておく必要があるだろう。
最近は、貿易の伸び悩み(スロー・トレード)が世界経済の減速の
一因となっている。そのことは、今週のThe Economist誌も取り上げ
るところになっている(本号P7の”Becalmed”を参照)。
さまざまな理由が重なって、21世紀最初の10年間のような「貿易が
世界経済を牽引する時代」は既に去り、今は「世界経済が伸びる程
度にしか貿易量が増えない時代」になってしまった。
思えば、中国が「世界の工場」として成長を続けていく過程では、
中国とそれ以外の国の貿易が順調に伸びた。かくして中国は世界第
2位の経済大国となり、日本も含め約100か国にとって最大の貿易相
手国となった。
ところがサクセスストーリーは無制限には続かない。中国における
資源消費量はさすがにピークを過ぎたらしい。これまで輸入してき
た工業製品の部品も、国内で揃うことが多くなってきた。別の見方
をすると、中国経済はもはや「輸出主導型の成長」を追い求められ
ない。他方、ブラジルや豪州など対中輸出のお蔭で経済成長を続け
てきた資源国は、「冬の時代」を迎えることになる。
こういう時代に突入すると、石油をはじめとする資源価格は低価格
で安定するだろう。それは日本のような資源輸入国にとっては良い
話である。が、工業製品のかなりの部分を輸出している国としては
、外需に期待できない時代の到来ということになる。
上記のような外部環境を前提にして、これからの日本経済をどう運
営していくべきか。思いつくままに、アイデアをメモしておこう。
● 通貨危機に要注意
 「ドル高+円安+人民元切り下げ」という組み合わせは90年代に
もあった。その結果がアジア通貨危機だった。為替の安定に注意が
必要だ。 
● 補正予算の編成を
景気の腰折れを防がなければならない。9月25日発表の月例経済報告
は、基調判断を実質的に下方修正した。臨時国会に合わせて機敏な
予算編成を。 
● 個人消費に優しい税制を
実質賃金は伸びているのに消費が振るわない。将来の負担増におび
えて、マネーが貯蓄に回っている。これから軽減税率やマイナンバ
ー制など、税制の議論が本番を迎えるが、「消費に優しい」制度作
りが欠かせない。 
● 貿易自由化の促進
スロー・トレードの時代だからこそ、貿易の自由化を。TPP交渉も、
今月末に開催されるアトランタでの閣僚会議でワンチャンスを活か
したい。 
● モノからサービスへ 
数少ない好材料はインバウンド消費の好調さ。モノは売れなくなっ
て、思い出に限りはない。観光立国は今後の成長戦略の柱と考えた
い。臨時国会では、IR(統合型リゾート)こと通称カジノ法案が再
提出されるかどうか?
==============================
野党こそ、反転攻勢は経済政策で
玉木雄一郎2015年09月25日 07:19
通常国会会期末に、安倍総理が新しい経済政策を発表した。
その中心は、「新3本の矢」として掲げた「強い経済」、「子育て
支援」、「社会保障」である。
しかし、そもそもなぜ「今日からアベノミクスの第2ステージが始
まる」のかよく分からない。多くの経済専門家も苦笑している。
まず、第1ステージのアベノミクス政策はいつ終わり、どこまで実
現したのか、悪いけれども全く不明である。安保法制から目をそら
す目的にしても、ちょっと出来が悪過ぎる。
国民を惑わす例として分かりやすいのは、「介護離職者ゼロを目指
す」ために特別養護老人ホームの建設を増やすという政策だ。「施
設から在宅へ」というこれまでの政策との関係はどうなっているの
か。矛盾するのではないか。
また、いくら施設を作っても、そこで働く介護人材の確保ができな
ければ絵に描いたモチになる。4月からの介護報酬引き下げで、介
護人材の離職や介護事業所の廃業が増えているが、こうした事態を
是正するのが先だろう。
さらに、安倍総理は名目GDPを600兆円に増やすと発表した。
これもすでに内閣府が7月に公表した「中長期の経済財政に関する
試算」出てくる数字の焼き直しである。
しかも、この試算は極めて楽観的な前提に基づいてつくられていて
、専門家からも実現可能性に疑問が示されている代物である。
例えば、2年後から生産性(TFP)がいきなり現在の3倍
(0.7→2.2)になる跳ね上がることになっている。しかも、
これは昭和58年から平成5年の生産性の平均値で、日本経済がイ
ケイケの時代の数字。楽観的過ぎる前提だ。
また、仮に600兆円を実現した際(2021年)には、名目長期
金利が4.2%に上昇することになっている。経済が成長するのだ
から金利が上がるのが当然だ。しかし、1000兆円以上の借金が
あるので、その時の利子の払いは膨大になる。
実際、内閣府の試算でも、2021年には、借金返しの費用である
「国債費」(39.8兆円)が、年金、医療、介護にかかる費用で
ある「社会保障関係費」(37.9兆円)を上回ることになってい
る。
こんな世界を、安倍総理は目指しているのだろうか。
しかし、これほど支離滅裂な経済政策でも、民主党時代より、安倍
政権の方がちゃんとやっているように国民には映っている。
安保法案の強行採決をしても、安倍政権の支持率がそれほど下がら
ない理由の一つは、経済政策に期待があるためだと思う。
野党の政党支持率が上がらない理由も、安保法制への対応が悪いと
いうよりも、それ以外の政策、とりわけ経済政策についての信頼が
ないからだと思う。
しかし、今回の「新3本の矢」の政策をはじめ、安倍政権の経済政
策は、結局のところ、じゃぶじゃぶの金融政策と、バラマキ的な財
政政策のコンビネーションだ。
民主党政権時代の予算をはるかに超える100兆円規模の概算要求
、基金やファンドという名の”埋蔵金”は増える一方、そして、国
家公務員の天下りは見事なまでに復活している。
第3の矢として期待された規制改革も進んでいない。例えば、全く
中身のない農協改革を「カイカク、カイカク」と叫んでいるが、実
情を知っている関係者は冷笑してる。
確かに株価は上がったが、皆さんの大切な年金保険料が、これまで
の倍の水準で株に突っ込まれていることを、どれだけの国民がご存
知だろうか。
1年間で約15兆円の運用益が出ていると安倍総理は胸を張るが、
この3か月で7〜8兆円程度の運用赤字が出ているはずだ。株は上
がることもあれば下がることもある。年金資金をリスクにさらすべ
きではない。
今、私たちがやるべきは、問題の多いアベノミクスに代わる経済政
策を打ち出していくことだ。あまり難しく考える必要はない。やる
べき方向を3つくらいシンプルに示せばいい。
信頼できる経済政策があれば、今後、安保法制の廃止、見直しを国
民各層に訴えていくうえでも、それは大きな力になるだろう。
そして、皆さんに信頼してもらえる経済政策や哲学を取りまとめる
こと、そのことが、野党結集の一番の近道にもなると考えている。



コラム目次に戻る
トップページに戻る