5333.トルコ総選挙後の内政・外交の展望



昨日は、トルコの外交政治の専門家が来るというので、その講演会
に行った。トルコのエルドアン大統領は、トルコのイスラム化とヒ
ズボラ、ハマス、エジプトの同胞団などを支援している。今までの
政権とは大きく違う外交政治を行ってきた。しかし、イエメンの内
戦では、一転してサウジアラビアとのアラブ統合軍に入り、フージ
派を敵とした。何か、政策の変更があったのか知りたくて、いつも
の日本財団ビルに行った。

まず、ファット・ケイマン教授(サバンジュ大学国際関係)の講演
でトルコ政治の方向を聞いた。
(講演)
6月7日のトルコ総選挙が重要である。AKPが過半数をとることは、
確定的であるが、憲法改正に必要な3分の2を確保できるかどうか
がかかっている。全議席550議席中330議席が必要であり、憲
法改正で、エルドアン大統領は、大統領制強化体制に変更すること
を狙っている。

トルコは、アジアと欧州を結ぶブリッジのキーである。バルカン半
島、コーカサス、中東など近傍に影響が及ぶ。世界が不安定化して
いるが、特にこの地域の不安定化が問題であるが、そこに影響する
ことになる。

AKPはトルコの支配政党であるが、この変革がどうなるのかが注目点
である。AKPが支配政党になる理由は、全国民の73%が都市住民と
いう都市化率である。中間層が多くなって、1人当たりの年収が
1万1000ドルになっている。貧困率の低下とも言える。この中
間層に支持されているのがAKPである。

このため、AKPは行政府に強く、それまでの軍政を変えてきた。
そして、新しい市民社会に移ることになる。

今後、クルド平和プロセスが進行し、イスラム化の宗教色が強まり
、保守化していく。国民の大多数がイスラム教を信仰しているので
、アイデンティティとして重要なのである。

しかし、大統領制には、4つの罠がある。1つが民主主義の制限と
して、集会の自由、報道の自由などを制限する可能性がある。2つ
に発展中途国の先に行かないということで、2023年までに2万
ドルを目指しているが、どうなるか?3つには、クルドや今までの
世俗保守党との二極化になり、国内対話ができなくなることである。
4つに破綻国家が周囲にあり、宗派対立が起きて、地域が混乱して
、その影響を受けることである。メナ(中東と南アフリカ)の安定
化と活性化をトルコが行わないといけない。

メナの活性化は、アラブの春以前には、ある程度成功していたが、
アラブの春で、その夢も潰えた。

次に、ビュレント・アラス教授(サバンジュ大学人文社会)がトル
コ外交を講演した。
(講演)
2002年にAKPが政権を取り、しかし、その同じ年に米国がイラク
に侵攻して混乱が続いている。トルコは冷戦後5つの外交原則で外
交を行っている。1つに民主主義と安全保障をつなげていく。ソフ
ト・パワーで強化する。2つに近傍諸国の問題をゼロにする。3つ
に、積極外交。4つに多面外交である。5にトータル外交で国民の
多くを巻き込んで効果を上げている。

この原則により、10ケ国との外交関係を作り、バルカン、コーカ
サス、中央アジア諸国である。イスラエルとシリアの関係正常化を
仲介したりした。グローバルな取り組みとして大使館を270ケ国
に作り、世界7位に多い。

しかし、「アラブの春」で状況が一変した。問題ゼロ外交は無理に
なり、地域の改革に非国家主体が出てきた。この非国家主体をサポ
ートしたが、失敗して、より地域が不安定化してしまった。今は、
「アラブの春」以前の状態に戻すことが重要になっている。

ハマス・ヒズボラを支援したが、ヒズボラがシリアの戦闘に参加し
て、サウジアラビアを攻撃する可能性もあるという。このようなこ
とは今までに考えられなかった。その後、ISが出てきてテロを行っ
ている。

大衆の改革を阻止しているサウジとの間が悪くなり、同胞団をサポ
ートしたのでエジプトとの関係も悪くなった。

民主主義が中東にはない。武力だけである。トルコは民主化を助け
るために、ソフトパワーを使った外交をしてきた。

新しい状況で新しい外交が必要になってきた。
現在、同盟関係の組み換えをしている。サウジと同盟関係に入る。
まずは、各国の武力を使ってテロを抑えることにしたのである。

現在、問題ゼロ外交は無理である。近隣外交は中立路線にするしか
ない。宗派間の代理戦争になってきた。サウジもイランもその内、
困る事になる。そこまで待つしかない。中東は限界がある。

それより、アジアに向かうほうが良い。このアジアにはイスラム教
徒が6億人いる。

(Q&A)
Q1.自民党には党内に派閥があるが、AKPはどうなのか?
A1.(ケイマン)
  AKPには派閥はない。均一である。今問題なのが、大統領制にす
  るとチェックアンドバランスができなくなることである。
Q2.AIIBに参加するのであるか?、対中外交は?
A2.(アラス)
  アジア回帰は、時間がかかる。対中関係は困難である。東トル
  キスタン(ウイグル)人はトルコ系民族であり、差別されてい
  る。緊張関係にある。このため、中国以外のアジア関係を作る
  ことにしている。中国とはアフリカでも競合している。
  (キム)
  上海共同機構をトルコはEUに対するバランサーに使うことが
  できる。トルコはアジアに対して戦略的な取り組みをしていな
  い。
Q3.アラブ統合軍にトルコは入ったが、どうなるのであろうか?
A3.(ケイマン)
  イエメンの将来を見通すことはできない。トルコはソフトパワ
  ーであり、軍事力を使わない。
  (アラス)
  トルコはサウジを支持して、イエメンの秩序を取り戻す。
Q4.中東の10年後はどうなっていくのか?
A4.(アラス)
  アラブの人たちは尊厳を求めて、テロ活動をしている。統治者
  を変える希望を持っている。しかし、人道的な悲劇が起きてい
  る。しかし、10年か20年で変革が起きる。1994年東欧
  で内紛が起きたが失敗したが、それが1999年に成功を呼ぶ
  ことになる。中東もそれと同じことになると見る。
  (キム)
  トルコは大国を目指している。しかし、10年後は複雑である。
  国家主体から非国家主体になる。


講演会を終わって思ったことは、トルコは西洋的な考え方で、民主
主義を広めようとしたが、失敗したということである。アラブの春
を仕掛けたのは、トルコかもしれないと思った。中東の混乱を作っ
た可能性もあると見た。欧州だけではなく、トルコが音頭をとった
ので欧州は武力を使った感じもしてきた。



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