【修正版】サマーズについて修正。 DOMOTO F氏のサマーズ記事の要約上の誤りと反論 4849.サマーズの「3本の矢」政策 4850.サマーズ理論が世界に波及 2013.11.24. DOMOTO http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735 国際戦略コラムのFさんが、IMFで先ごろ講演をしたラリー・サ マーズに関する記事を書かれていました。Fさんの記事は下記の記 事について書かれたものです。サマーズについては興味を持ってい たので私も読んでみました。 The Slump That Never Ends: Does the US face “secular stagnation”? (11月18日 AEI) http://www.aei-ideas.org/2013/11/larry-summers-fears-the-new-normal/ 以下はこの英文記事について書かれた、Fさんの記事の要約上の誤 りと内容上の誤りを反論として挙げてみました。それらは重要な部 分に当たるものなので指摘させてもらいました。 「>>」の印の右の文がFさんの記事の引用になります。 4849.サマーズの「3本の矢」政策 http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/251120.htm >>雇用と賃金の増加がない間、金利は普通に戻らないし、インフレも起 >>こらない。金利は今後10年間に2%、3%に落ちると推測している。 サマーズは「金利は今後10年間に2%、3%に落ちると推測している」 とはこの記事のどこでも言っていません。今、米国の長期金利は2%後半 です。「完全雇用を満たす「自然利子率」が5年ぐらい前(リーマン・シ ョック時)からマイナス2%かマイナス3%へ落ちたとサマーズは推測し ている」という文意です。“natural interest rate”(自然利子率)は 経済用語です。 Summers speculates that the natural interest rate “consistent with full employment” fell “to negative 2% or negative 3% sometime in the middle of the last decade.” >>イノベーションが起きるまで、財政出動で繋ぐしかない。 このあと挙げるFさんの書かれた「サマーズ理論が世界に波及」と いう記事でもそうですが、イノベーションが必要と言っているのは 、記事中に出てくるアルビン・ハンセンとこの記事の執筆者 のJames Pethokoukis 氏であり、サマーズがイノベーションを主張 したとは書かれていません。 >>日本と同じような3本の矢政策が必要で1つはNGDP目標値、2 つに労働者の移民政策、3つにイノベーション政策であると。 この部分の「3本の矢政策が必要」と言っているのも執筆者の Pethokoukis 氏の意見であり、Fさんが付けた『サマーズの「3本 の矢」政策』という表現は誤りで、サマーズが「3本の矢」政策を 主張したなどとはどこにも書かれていません。 “ — than I can provide a single blog post, but a few observations:”とあるのでそれ以後は執筆者の所見を述べたものです。 4850.サマーズ理論が世界に波及 http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/251121.htm >>世界経済の不均衡是正には、金融量的緩和の縮小が必要であり、そ >>れと新規需要の創造が必要になる。イノベーションである。 >>このサマーズ理論により、金融量的緩和政策が見直し機運にある。 サマーズはこの夏以降、量的緩和に否定的・懐疑的と市場やマスコミなど から見られていましたが、11月のこのIMFの講演について、ウォール ストリート・ジャーナルは、バーナンキのQEをさらにいっそう積極的 なものにしたQEをサマーズは考えているといった意味の見方をしてい ます。これと同様な見方が、このAEIの記事でも、サマーズの共著者 のブラッド・デロングのブログから引用されて述べられています(ブラ ッド・デロングのブログへリンクが張られています)。 What Many More Years of Easy Money Could Do to the World Economy (11月20日 WSJ) http://blogs.wsj.com/moneybeat/2013/11/20/what-many-more-years-of-easy-money-could-do-to-the-world-economy/ >>今後数回内の会合で量的緩和縮小を決定できる」と述べて >>、金融量的緩和の縮小策を支持していることが明らかになった。 >>投票権のない参加者も含めると、おおむね「数カ月以内の縮小が正 >>当化される」との見方が示された。 >>というように、米国内でもサマーズ理論が支持を得る方向である。 10月29、30日のFOMCの金融量的緩和の縮小の動きは、11月中旬 のサマーズの発言とは関係ありません。 別のコラム記事でもFさんは「サマーズ、ルービニ、ラジャンなど一流の 経済学者が徐々にタカ派的な意見を述べている」と書いていますが、サマ ーズは「量的緩和をしてきても効果が上がらないのは名目GDPをレベル ・ターゲットとしていないからだ」と言っているので、GDPをターゲッ トとした量的緩和を推進すると考えている点からもハト派です(タカ派的 イメージを抱いていた市場関係者は、IMFでの講演は意外であったので はないでしょうか)。 またサマーズの考え方がハト派であるのは前述のWSJの記事が、「サマ ーズの発言はニューヨークタイムズでクルーグマンに暖かく迎えられた」 と伝えていることからも明らかでしょう。 そもそもサマーズはクリントン政権以来、民主党の所属ですから共和党の ようなタカ派的な金融政策にはなりえません。米国の借金を膨張拡大させ たオバマにFRB議長にと気に入られたのもうなずけます。 また、Fさんは「現在の米国の状況では、借りに借りるしかない。そして 、刺激策しかない」と解説していますが、それだったら量的緩和を拡大す るしかなく、サマーズについてのFさんの論旨は全く矛盾しています。 >>FEDDの非伝統的な金融政策QEが間違えで、金利を下げると社会活動 が落ちる。(4849.サマーズの「3本の矢」政策) サマーズは2008年の金融危機後の数年の対処的な「FEDの非伝統的なQE 」は高く評価しています(ブルームバーグ)。しかし、米国が長期的な経済 停滞に陥っているいま、QEの手法をさらに大きく修正してQEを推進する べきであるとサマーズは考えているのではないかというのが、このAEIの 記事の執筆者Pethokoukis 氏とウォールストリート・ジャーナルの見方です。 サマーズは現在の米国経済が「長期的停滞」(“secular stagnation”)に 陥っていると考えていますが、そこで量的緩和の縮小を推し進めればそれこ そ「長期的停滞」は更なる悪化に陥ります。量的緩和の縮小というのは経済 の好転の認識があってはじめて選択できるものです。 サマーズの金融政策について、もう少し踏み込んだものを述べてみたいので すが、それはまた、稿を改めます。 name=DOMOTO