3828.アーティキュレーション



アーティキュレーション
From: 小川

得丸さん
 
得丸さんの論文と井筒先生の本を読むにつれ言葉の文節とデジタル
のことがずいぶん気になっていています。
 
先日、音楽番組を見ていたら、ピアノ演奏者のアーティキュレーシ
ョンの説明があって”あたかも話すかのように弾く。
音をくっつけて弾くか、切り離して弾くかはっきりさせることによ
って、話すように演奏をすることができる。表情をつけることがで
きる。”と説明していました。
これこそが音からさえずり、さらに言葉の発生の現象であると思い
ました。
音素の離散とつながりを明確に表現し、組み合わせパターンによる
意味や文法が生み出される過程ではないか。
ここで大事な要素は音を離散的にとらえること、すなわちデジタル
に捉えることで概念の体系が獲得していけたということになるので
はないでしょうか? この符号化はアナログ状態だけではできません。 
 
「概念は”符号語が記憶および記憶の体系と結びついたもの”」で
あるならば、アーティキュレションによる”符号化がデジタル信号
を増やすことによって、符号の種類をよりダイナミックに増やし音
韻符号と記憶が結合”したとする貴論の考察がより明確になると思
います。
これと同様の仕組みがて空の記号が分節によって表情を持ち意味が
形成されるようになったと考えられないでしょうか?
 
ちなみにWikiでは
”アーティキュレーション(articulation)とは、音楽の演奏技法
において、音の形を整え、音や音のつながりに様々な強弱や表情を
つけることで旋律などを区分すること。
フレーズより短い単位で使われることが多い。スラー、スタッカー
ト、アクセントなどの記号やそれによる表現のことを指すこともあ
る。アーティキュレーションの付けかたによって音のつながりに異
なる意味を与え、異なる表現をすることができる。”
 
*情報理論におけるエントロピーの概念は熱力学とはことなり”乱
雑さ”をしめすというより情報量の”平等さ”を示すようです。こ
の点もう少し考えて見ます。学会発表がんばってください。

小川
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小川さん、

昨日お配りした12月20日の「音声言語シンポジウム」の予稿をお読
みいただきありがとうございます。

図2の雑音とエントロピーについて、時間をとってご説明すればよか
ったかもしれないなと反省してます。
もし言葉で説明が必要ならメールでいたしますので、ご質問ください。

> あたかも話すかのように弾く。
> 音をくっつけて弾くか、切り離して弾くかはっきりさせることに
> よって、話すように演奏をすることができる。表情をつけること
> ができる。”と説明していました。

アーティキュレーションは音楽の演奏法でもあるのですね。

> 音素の離散とつながりを明確に表現し、
> 組み合わせパターンによる意味や文法が生み出される過程ではな
> いか。

語彙数の多さを裏付けているのがデジタルですので、「組み合わせ
パターンによる意味や文法と結びつく」単語や活用が「生み出され
る過程」というのが正確かもしれません。

> 「概念は”符号語が記憶および記憶の体系と結びついたもの”」
> であるならば、アーティキュレションによる”符号化がデジタル
> 信号を増やすことによって、符号の種類をよりダイナミックに増
> やし音韻符号と記憶が結合”したとする貴論の考察がより明確に
> なると思います。

音節はデジタルですから、ダイナミック・レンジが大きいのです。
ダイナミック・レンジとは、100種類に分類することができるという
ことです。
つまり、1音節が7ビットの情報量をもっていることになります。

> これと同様の仕組みで空の記号が分節によって表情を持ち意味が
> 形成されるようになったと考えられないでしょうか?

「空の記号」がつむがれて表情をもつ「単語」をつくります。
それが生命論理によって、意味と結び付けられます。

> *情報理論におけるエントロピーの概念は熱力学とはことなり”
> 乱雑さ”をしめすというより情報量の”平等さ”を示すようです
> 。この点もう少し考えて見ます。学会発表がんばってください。

ご声援ありがとうございます。

情報理論のエントロピーは、熱力学そのものであると思います。
たまたまシャノンがそうではないと言っただけで、実はシャノンが
間違っているのです。
といっても、まだ誰も賛成してくれていませんが。

http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN4-00-006902-0

ご参考まで、今日、図書館で「岩波講座 言語の科学 2 音声」
というのを読んできました。

井筒先生の影響かどうかわかりませんが、「音声の特徴を分節的特
徴(segmental feature)」と呼んでいました。アルティキュレという
言葉をもう使わなくなっているようです。

井筒先生の独自の方言的な「分節」で初期化された言語学者は、ア
ーティキュレーションという言葉を使わず、セグメンタルと呼ぶの
でしょうか。

それとも、いまや、世界の学会は、ランガージュ・アルティキュレ
の代わりに、ランガージュ・セグモンテというようになったのでし
ょうか。

悩ましい用語法ですね。

これが井筒言語学の影響であるのか、そうでないのか、鈴木先生に
お伺いしてみたいところです。

得丸公明
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言語のセグメント特性
From: tokumaru

各位、

言語の分節的特徴を「セグメント」と呼ぶ人は、外国にもいました。

きちんと調べたわけではありませんが、このとき、「構音」(発音
するために発声器官の調整をする)をarticulateとして、「なんら
かの離散的特徴をもつ単位に分割できること」をsegmentと呼んでい
るように感じました。

つまり、「分節言語」として呼ばれていた特徴を2つに分けたよう
な感じです。詳しいことは調べてみないとわかりません。もし何か
お気づきの方は教えてください。

言いたいことは、「セグメント」という言葉は、岩波の「言語の科
学2 音声」のオリジナルではないということです。

ちなみに「言語の科学2 音声」では、分節的特徴(segmental 
feature)と「分節言語」(articulated language)の関係には触れて
いません。

取り急ぎ、ご報告いたします。

得丸
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言語アプリオリ
From: tokumaru

松本さん、皆様

> 井筒が説いてやまなかった意味分節理論と
> それをベースに展開した彼の言語哲学は

つきつめていくと、「言語アプリオリ」、
つまり「はじめに言葉ありき」という考え方が正しいのか
という問題に行きつくのではないでしょうか。

 言語が生まれる前に世界は存在したのか、

あるいは

 言語が生まれたから、その後で世界も生まれたのか、

という問いの答え次第で、井筒の言語学の評価が
下されるのではないでしょうか。

言語の起源やメカニズムが明らかにならなかったのは、
文科系の学者がこの問題を解けなかったからだと思います。

ニールス・イエルネという免疫学者の1984年のノーベル講演
「免疫学の生成文法」の結語をご紹介しましょう。

 「小さな子供たちが、彼らの生まれ落ちたどのような環境においても
 言語を習得することは、奇跡である。

  チョムスキーが先駆けた文法への生成的アプローチは、この深遠で
 普遍的な特徴である能力は、人間の脳が生まれながらにしてもってい
 るものであると説明する以外に説明のしようがないという。

  生物学的にいえば、どのような言語でも学ぶ能力が遺伝すると仮説
 することは、それは我々の染色体DNAの中に符号化されていなければ
 ならないということを意味する。

  もしこの仮説がいつか立証されたならば、そのときから言語学は生
 物学の一分野ということになり、人間性もいつかおそらく科学の一部
 となるであろう。」

はじめてイエルネの言葉に接したときには、彼が何を言いたいのかが
さっぱりわからなかったのですが、ここにきて、少し共感するように
なってきました。

今の鈴木先生だったら、井筒先生の言葉をとるのでしょうか、それとも、
イエルネの言葉をとるでしょうか。

お伺いしてみたいところです。

とくまる


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