3342.ドイツにおける鉄道復権の歩み その3



ドイツにおける鉄道復権の歩み その3
                   平成21年(2009)7月11日(土)
                  「地球に謙虚に運動」代表 仲津 英治
ライプチッヒ市
 ドイツはザクセン州の州都ドレスデンに次ぐ第2の都会であるライプチッヒに
滞在したのは4月13日と14日の両日でした。ハレの友人から、「欧州一大きな
中央駅と路面電車が発達しているのには驚きますよ」という言葉を念頭にライ
プチッヒに向かいました。

中央駅前にあったライプチッヒ交通事業(株)(LVB)の案内所でもらった
2008年のデータ冊子とホームページなどによると、次のような人口、面積規
模の都市です。
 ライプチッヒ市   人口50.7万人 面積 298平方キロ
 周辺地区      人口17.5万人 面積 769平方キロ
 LVBサービスエリア  人口68.2万人 面積1,067平方キロ

人口規模からすると近畿では東大阪市、姫路市に相当しますが、田園部を持
っている姫路市の方がイメージに近いでしょうか。ちなみに我大津市の人口
は、33.2万人、面積は464平方キロです。ライプチッヒ市は地下鉄を整備す
るには人口規模が小さく、集積度も低いので、勢い路面電車が発達し、今も
維持発展させているのでしょう。

ライプチッヒ中央駅と駅前路面電車群
 ライプチッヒ中央駅は、ヨーロッパ最大の床面積を誇る典型的な頭端駅です。
到着後、駅構内にある列車発車&到着表を見ると、一日700本以上の列車が発
着しており、26番線までありました。6連ある大きなドーム屋根は壮観です。
ICE特急、RE地域急行、S−バーンも発着しています。しかし列車本数は、
11番線しかないJR大阪駅よりは少ないですね。頭端駅の宿命でしょう。

写真1ライプチッヒ中央駅俯瞰
 写真1は、ライプチッヒ中央駅を泊まった高層ホテルからの撮ったものです。
朝日による逆光のため、見難いですが、6連あるドーム駅を俯瞰できると思い
ます。
写真2 ライプチッヒ中央駅と路面電車
 中央駅前には路面電車の停留所が2箇所ほどあり、多数の路面電車が停車し、
次から次へと発着していました。停留所も合計6面あったように記憶していま
す。
写真3 ライプチッヒ中央駅前トラム群

 電車の色と編成両数は様々でしたが、路線別によって分けているようでした。
中央駅前停留所には路線案内図を見ますと14路線中12路線が集中しており、
それぞれが10−15分間隔で運転しているので、まさに連続的に電車が行き
交うように見えました。最大編成長のものは中間車も入れて5両編成で、全長
35m位、106座席ある2005年以降製造の最新型車両のようです。
写真4写真ライプチッヒ5両編成のトラム

ライプチッヒ交通事業(株)(LVB)の概要
 中央駅前のライプチッヒ交通事業(株)(LVB)の案内所で、色々質問して
みました。当方の熱心さに答えてくれたのか、7種類もの小冊子(2007−2008
版)とボールペンを頂きました。

 それらの資料と同社のHPによると、ライプチッヒ市の路面電車が開設された
のが1872年、第二次大戦前には路線網の骨格ができていたようですね。戦後
東ドイツ時代にも新車投入など改良がなされていましたが、1990年ドイツ統一
後の改善には目覚しいものがあります。どんどん新車投入が行なわれ、2005年
には新線の15号線が開業しています。ネットワーク規模は下記URLをご覧に
なると判ります。

ライプチッヒ交通事業(株)(LVB)の路線図
=

 営業キロは、14路線の合計で148.3kmあり、殆どが複線です。2本の路線
が欠番になっており、廃線になったそうです。営業用電車は338両を有し、
路線バス110両と共に有機的な路線ネットワークを形成しているようです。
切符は4停留所内の一区間切符から、4枚の回数券、1週間切符、1ヶ月定期、
1年定期など様々なサービスが用意され、自転車用チケットもあります。学割
ももちろんあります。初乗り運賃は1.4ユーロ。ドイツの他の主要都市同様ドイ
ツ鉄道=DBのS-バーンとも共通運賃制度設け、ゾーン制度を採用しています。
ライプチッヒ市内は2ユーロ、市の外側のゾーン1まで乗ると2.5ユーロという
ような運賃設定です。

写真5ライプチッヒ中心部と路線図
 停留所は515個所(ダブルカウント)、平均停留所間隔は533mです。
歩いて6−7分の距離で、すぐ近くに停留所がある感じ距離ですね。他に大事
なのは運転間隔と到達時間ですが、郊外からの2−4本の路線が都心では1本
の線路に乗り入れており、高頻度運転を実現しています。1路線の運転間隔が
10―15分ですが、都心部では3−5分で次の電車が来るわけです。到達時
間に関しては平均速度のデータがありました。路面電車=20.66km/h、路線バ
ス=24.36km/hです。厳密好きのドイツ人らしく、小数点2位まで算出してい
ますが、平均時速20キロなら、徒歩の4−5倍ですね。これなら利用される
でしょう。もっともバスより遅いのは何故か解りません。

 ドイツではドライバーのマナーが良く、軌道上を走るのは殆ど見かけません。
これが安全にも繋がっていることでしょう。深夜運転も中央駅から3〜5便行
なっています。これらの結果、年間利用客はバスも含め124百万人、中々の
数字です。ドレスデンのような収入と原価カバー率の数字は、発見できません
でした。日本の中都市でこれほどの軌道交通機関を持っている都市はありませ
んが、地方鉄道で最大の広島電鉄は、営業キロが軌道を含め34.9キロ有り、
年間利用者数は約60百万人(数字で見る鉄道国土交通省2002年)です。LVB
の職員数は2,436人で、これは京阪電鉄の鉄道従事員数に近い数です(同)。
これだけの雇用を提供できているとの見方もできましょう。

ライプチッヒ中央駅内の大改造と地下鉄道工事
巨大なライプチッヒ中央駅は大規模な内装工事を最近行なったようで、プロ
ムナードと名付けられた駅舎内には、飲食、物販の店舗群が展開しておりま
した。スーパー、コンビニ、書店、電器店などがあり、生活物資は殆ど駅で
手に入る感があります。センスも中々良いようです。ただ、これら駅中店舗
群の展開は民営化後のJRを大いに参考にしているとの話も伺いました。
写真6ライプチッヒ中央駅プロミナード
写真7ライプチッヒ中央駅駅中店舗群

また、駅前から路面電車線を渡った空き地で大掛かりな工事が行なわれており、
ライプチッヒ交通事業やDBの社員に伺ってみました。
「何の工事をしているのだ」
「地下トンネルだよ」
「何の地下トンネルか、道路用か」
「鉄道用だよ。中央駅を一部地下駅にし、街中をぶち抜いて、南側のDB線に
つなぐのさ。これからは鉄道の時代だよ。街中に行って御覧。そこでも大き
な穴をほっているよ」
 驚きました。国を挙げて鉄軌道優先策に切り替えつつある現場をみたような
気がします。
写真8中央駅付近工事(写真右上の辺り)

都心部の歩行者地域の賑わい
4月14日朝ホテルから歩いて都心見物に出かけました。古典的な建物の多い
マルクトプラッツには朝市が開かれるところでした。火曜日に野菜、果物、
花卉類、肉、ハムソーセージ、卵などを郊外の農家が専用車で持ち込んで
売っているのです。値段も手ごろ。女房と娘は大喜びでした。マルクトプラ
ッツは歩行者地域ですが、許可をもらった人が時折自動車を乗り入れて商売
できるようです。隣では確かに大掛かりな地下トンネル工事が行なわれてい
ました。
写真9ライプチッヒ都心部地下鉄道工事

そしてマルクトプラッツに繋がる一帯は殆ど歩行者地域のようで、歩行者以
外、自転車、車椅子、乳母車などOKですが、自動車は許可されたもののみ
です。地図を見るとCityと称する街の中心部はかつての城壁に囲まれた1キ
ロ四方位の広さです。外側を巡る道路には路面電車が走り、市民の足として
機能しています。
写真10ライプチッヒ都心部歩行者地域

 博物館、教会、旧市庁舎、大学などを訪れる観光客、百貨店、専門店、洒落
たアーケード街などを訪れる買い物客などで、午後から夕方にかけて人出で賑
わってきました。自動車を都心に入れず、歩行者地域と商店街などを組み合
わせることによって、街中は繁栄しているのです。交通機関としては、路面
電車がDBの中央駅などとの接続していることも大きいと思いました。

日本の実情
 日本では、自民党政権がETC利用者に週末の高速道料金を一律1000円にする
など、鉄道事業者を圧迫し、地方鉄道、路線バスの経営を窮地に陥れる政策
を取っています。民主党に至っては高速道路無料政策をマニフェストに掲げ
るとか。自動車会社と、石油会社そしてタイヤ会社が結託して路面電車を廃止
させたアメリカの愚を犯すのでしょうか。

 環境問題、オイルピークを迎えつつあるときのエネルギー問題、交通弱者が
増える高齢化社会などを考えると、私は既成政党による交通政策、都市政策に
失望感を持っています。
 国産エネルギーで動く交通機関を充実させるハード、ソフト政策が、これか
ら求められているのです。皆さまいかがでしょうか。
 長文にお付き合い、有難うございました。

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仲津英治
「地球に謙虚に」運動代表


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