『自閉症の評価〜診断とアセスメント』
E.ショプラー、G.B.メジボブ編著
黎明書房、1995年

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自閉症の分類、公共政策と自閉症の繋がりへの視点を中心に抜き出しました。
公共政策については、多分にアメリカの福祉政策に依拠しているため、詳細に考察はできないが、新しい病気あるいは障害をどう定義し、どのように政策に位置づけようとするのかそのスタンスを大ざっぱに抜き出しました。政策、運動、行政の関係は後に少しづつ集めていきたいと思います。

目次

公共政策とそれが自閉症に及ぼす影響
専門家に対する政策の影響
将来の政策ニーズ
臨床家のための診断分類


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公的政策とそれが自閉症に及ぼす影響

はじめに
政治は、現実には際限のない要求に応じて、我々の社会の限られた資源や予算の分配を決めていくいわば芸術とも言えるものである。
公共政策の法律によって、予算の配分が決められ、ある場合には予算を使用するルールや範囲をも決めることになる。
政策に影響を与える援護力は、精神遅滞者のための国民連合や自閉症児親の会や同類の団体などの持続的な活動を行っている組織力である。さて、これらの組織の指導者が政策決定者と接触したときに気づくことは、一度障害児の福祉問題が公的な表舞台にまで持ち込まれると、障害者たちがこの社会で「そのことを実行」するための公平なチャンスを与えることを反対したり、そのために財政節減のスローガンを持ち出す政治家はいないということである。
必要とされる予算の対策が個別の診断単位でなく、障害者全体について必要であることが示されたら、支持団体や支持してくれるであろう組織の総体として、議会でその力が発揮されるようになる。
障害児に対するサービスを提供するのに役立ってきているもう一つの大きな政策決定源として、法廷がある。
この20年以上の間、一連の法廷の判例は、この種の子供が専門的なサービスや地域社会資源から利益を受ける権利を保障してきた
障害児の権利の決定に重要な先導役を果たしたのは、親の会などの組織力であった。


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専門家に対する政策の影響
立法化や判決により与えられた多額の予算は、無条件に使用できるものではない。このような条件とは、専門家がなし得ることについて予算や実施場所をも同時に限定する規制や規定である。
我々の仕事は、予算に付属して与えられる避けがたい規制が、専門的にみて適切であるかどうかを見守ることである。

適格性
最近の法律による一つの明らかな効果は、我々の自閉症診断方法に変化をもたらしたということである。
具体的にいえば、多くの教育分野の法律では、自閉症は診断分類上ハンディキャップ児と呼ばれる子供の群に含まれない。そこで問題なのは、自閉症児はハンディキャップ児に入るのかどうか、もしはいるならば、どのような既存分類に組み入れるのか?ということである。自閉症児は、当初重度の情緒障害に分類されていた。ところが、今では他の健康障害群の分類に入れられている。
→援助に対する適格性の否定。
自閉症児や自閉症様反応を示す児童の概念をコミュニケーション障害にまで広げようとする人は誰もいないだろう。だから、疫学上「自閉症」が学習障害のように増加することはあり得ないだろう。変化したのは子供の状態ではなく、彼らが助けようとするサービス制度と、その援助のために予算を分配する政治的制度が変化したのである。

ラベリング
ギャラハーにおけるラベリングの理由
ショプラー、自閉症診断の目的でのラベリングの混乱について
ある症候群ないし状態の原因が分かり、他の原因とは異なるというときに、その症候群の命名の基礎ができる。ところが、こういった子供たちに選択しより分ける作業自体が難しい。というのは、発達的視点に立てば、その症候群と類似していたり関連した状態の連続性が存在するからである。
有意味な分類の基本とは、他の児童に役に立たないが、ある限定した子供には役立つ特別な治療があるということである。
もし、明白な原因が分からず、特定の治療法を我々が持たないのなら、ある特徴ある症候群として行動記述だけをしておく段階にとどめておくべきであろう。

プログラムの内容
立法化により、環境作りが達成される。特別な権限付与や予算の獲得を通じて、研究、発達、指導者の育成、実習、プログラムの改革、宣伝といった、質的に高いプログラム内容の基礎作りになる。支援体制の各要素を充実させることが可能となる。これらの要素を充実させることは、健全な専門性の姿勢を追求し、任務の分担を分かち合うといった見識ある雰囲気を作り出すことができる。
政策発議権を通じてプログラムの目標と質を示す方法で、法文それ自体の中に独自の方法と、それが期待される成果を書くことである。

質を高めるための支援サービス
政策に対する両親の圧力は、ほとんどが子供と家族へのサービスを獲得することに向けられている。専門家による、質の良いプログラムを作成するための大切な支援サービスは、直接的なサービス実施問題の圧力の元で見逃されていることが多い。
プログラムの質を高める今ひとつの課題は、専門家領域で適応される論理的基準、すなわち運営・管理に関する専門的基準の作成である。自閉症の場合、特にこれとの関係が深い。というのは、処遇・治療上多くの異なった原則が持ち込まれているし、その中には、好ましくないと思われる治療法も散在しているからである。

プログラムの継続性
公共政策の目標となるものの一つは、異なった時期に作成され異なった目的で発展してきたプログラムや法律を連動させることである。
法文は時期や目的によりバラバラに立法化されているので、ハンディキャップ児が人生の重要な節目を迎えるたびに、うまく処遇が運んだり中断したりする。子供や、家族にとって、援助はまさにつぎはぎ作業となっている。


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将来の政策ニーズ

適格性
ハンディキャップ児と正常児との鑑別を鮮明にすることと、ハンディキャップ児間の鑑別を明瞭にすることである。
ラベリングに付随する問題は、サービスをうける必要のない対象者にまで、ラベリングをしてしまうことである。このやりかたを選べば、何らかの援助が必要なすべての子供に支援サービスを与えてしまい、過度に専門的予算を食いつぶし、適格条項の必要性を台無しにしてしまう。
最近の傾向だが、特別な診断範囲を明らかにするのではなく、ある問題や状態に対する適格性についての総括的な陳述を書き込むことである。

将来のプログラム内容
将来のプログラム内容を考えるのには、法文よりも予算問題にもっと焦点を当てるべきである。現在研究・課題・実施に関する法文化は、すでに十分な内容が設けられている。問題は、すでに与えられている予算に比べて、あるいはすでに明らかとなったニーズに比べて、適切な予算かが実行されているかどうかである。

政策に提案する必要性
公共政策の分野では、このボールゲームに終わりはない。1年また1年と進み続ける。もし、あまりにも長い休暇を取ると一時的な勝利を祝うことさえできないので、勝利とはに常に一時的なものだと思う方がよい。我々は、自由の代償には常に耐えざる警戒がいることを知っている。ハンディキャップ児のために好ましいサービスと予算を獲得し続けることがその代償である。もし、この仕事を放って置いたり、やめたりするのなら、我々が慣れ親しんできた予算や政策立案も、他の社会のニーズに取って代わられてしまうであろう、


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臨床家のための診断分類(主に、分類の必要について)


なぜ分類するのか
なぜ分類するのかという最も重要な理由は、分類が、経験したものを形あるものに残し、それを次に起こる例に当てはめるために、不可欠なものであるからだ。あるグループの類似性に注目することから、全ての科学は始まるのだ。こうすることにより、次には類似性の本質についての仮説へと導く。それかこれらの仮説をきちんと検証することにより、その分類を取り下げたり、逆にさらに磨きをかけるといったことが生じてくるのだ。人間の歴史を振り返ってみると、分類が人間の努力してきた他の領域に果たした役割同様、臨床家の需要に応えてくれるものだろうという推測がつく。
臨床分類には、他の分類とは異なった目的があるが、この分野に密接な関係がある、少なくとも3つの異なったタイプの分類があることを心に留めておく必要がある。

適切な分類の特性
一般的価値

信頼性
診断というものは、異なった医師、場所、及び時間の間でも一致しなければならない。そうすれば、どんな場所で、異なった医者によって診てもらうことができ、かついつも同じ診断を受けることができる。
そのためには、徴候や症状の特徴を定義する際に、できるだけ操作的に定義付けをし、かつ客観的に観察できる内容にしなければならない。
しかし、自閉症の診断がきわめてよくなったとはいえ、私たちは自閉症の本質については、基本的には分かっておらず、行動の評価の方法も粗雑であり、かつそれらが脳の機能不全を直接には反映していないので、私たちが、自閉症をたとえば高血圧の定義のように厳密に定義できないままでいるのも当然である。
しかしながら医学の歴史を見ると、粗雑な臨床方法でさえも、私たちは障害をほぼ十分に定義できるようになっており、それは有益で堅実な出発点になりそうである。それは、私たちがしっかりとした診断を持つに至る途中であることを示しているからである。

鑑別性
自閉症の診断基準とは、何が自閉症かということだけでなく、かつ、何が自閉症でないかも説明しなければならない。ある専門家は広義にある人は狭義に自閉症を診断する。そのため一人の自閉症の患者が驚くほど主種の診断名をうける可能性があるし、全く矛盾する診断名をうけるかもしれない。これは、特に診断名が乱雑に適用されたときに、各々の診断の鑑別性がかけているために起こることである。

妥当性
妥当性とは診断をした方法とは独立した別の方法で、その診断を確認することができる特性である。この確認を行うための客観的な因子はたくさんあるが、臨床家である私たちにとって大切なのは、原因を明らかにし、正しい治療が選択でき、正確に予後を予見することができる因子である。


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