自閉症の理解
(G.Bメジボブほか。学苑社1999)



目次
歴史的背景
最新の医学研究
言語と認知
治療、教育
治療法を巡る論争


ホームインデックス




歴史的背景
1943年のカナーの論文以来、自閉症児や家族問題に対し、いろいろな方策が生まれた。最初は、自閉症が情緒の問題と考えられ、家族にはグループ治療法が、子供には遊戯療法が行われた。両親が子供の思い発達障害であるという理由で、自閉症児は家族から引き離された。1960年代には、精神分析理論は排斥され、生物学的研究に焦点が移った。自閉症児の両親について、他の両親と何ら変わらないという結果が報告された。また、自閉症児の兄弟も正常であることが示された。生物学的な研究も進み、てんかん、脳は、眼振、出産前や出産時の傷害、酸素過多、先天性風疹、奇形に関する知見から、自閉症児が生物的障害を持っていることが明らかにされた。精神分析理論が駆逐され、遺伝子や神経学によって現在に至っているが、それに伴って、精神分析的治療に変わる治療法の必要性が叫ばれる。行動療法が脚光を浴びたが、これは礎となって今日の治療法が築かれる。

自閉症候群の定義
1981年、DSM-3で、はじめて自閉症という障害が公認された。その後15年以上にわたり、傷害の細分、基本事項、早期の発症。社会的な困難、コミュニケーション障害、興味の狭小化、変化への抵抗など自閉勝者の生涯にわたる問題を包含して定義づけようと努力が続けられている。自閉症を定義するには、研究手続きを一定にして、経験データを適格に収集しなければならない。自閉症は、精神発達遅滞、学習障害・注意障害・強迫性障害・発達性障害・精神分裂病、その他特定不能の発達障害などと重複している面もあり、似ている面もある。このような相違をきちんと理解しておく必要がある。


ホームインデックス目次




原因に関する最新の医学的研究
遺伝的知見
自閉症は遺伝的な疾患だという証拠は数多く挙げられているが、どの染色体の異常なのか、1つの遺伝子なのか複数の遺伝子の組み合わせによるかも不明である、考えられるのが、認知の以上や、社会性の異常を生じる可能性を持ったいくつかの遺伝子があり、最も重い障害を起こす組み合わせができてしまうのが自閉症であろうということ。最近では、認知や社会性の面で異常を引き起こす遺伝子を分離しようと、家族全員を調べる研究がなされている。
神経学的知見
ある研究者は神経が発達しないと考えているのにたいし、別の研究者は神経の過剰発達を指摘している。このように、正反対の所見が出ている者の、自閉症の原因となる神経系の異常に関しては、一つに集約することができる。すなわち、胎生初期の脳細胞の発達に異常があるということである。正常の発達では、脳細胞画像女串、相互の結びつきができ、ある特定の回路をよく使うとその結びつきが強まって、徐々に大きさと数が減少して、整理されていく。この神経の発達と現象のプロセスが、自閉症では異常であり、脳のある部分では神経細胞が多く残り、ある部分では少なすぎるのであろう。
研究報告の多くは、胎生期の神経系の発達にゆがみが生じ、以後脳の発達が偏ってくるのだろうと推測している。なぜ、このような異常の起こるのかについてはまだ分からないが、遺伝的な形質や胎生期の障害が関係しているものと考えられる。
脳波所見
自閉症児には、大脳皮質の機能に障害があるが、これはある能力についての測性化や活動部位、てんかんなどを調べた脳波研究から明らかになった。脳波研究では、ある特定部位が障害されているものではなく、もっと、広範囲の、皮質−皮質下(例:辺縁系)の連絡に発達異常があることが示唆されている。
神経化学的所見
すべての自閉症児に当てはまる神経化学物質の異常は見つかっていない。ただ、自閉症児の中には、血中のセロトニン濃度が高くなっている者がいるということは、一致した見解である。セロトニン濃度の高い自閉症児には特殊な行動が見られるという関連もあるが、まだはっきりとしていない。また、セロトニン濃度が高いということも自閉症特有のことではなく、自閉症か否かを判別する医学的根拠とは言えない。
結論
自閉症の原因はまだ解明されていないが、いくつか明らかになった点もある。自閉症は、生物的な原因によって起こるものであり、同一家族内に、二人目の自閉症児が生まれる可能性はほとんどない。両親の扱いが悪かったから、自閉症になったのではないということは断言できる。


ホームインデックス目次




言語と認知
言語発達
において、自閉症児は発音や文法の理解(文中の単語の順序など)は良好である。しかし、意味の理解や語用の面になると困難が生じる。つまり、自閉症児は単語は知っていても、それを使わないし、他の人々と会話するために社会的に言語を使いこなすことができない。従って、自閉症児に発音矯正をしたり、新しい単語を教え込もうとすることは、自閉症児の根本的な問題に対処することになはならない。むしろ、知っている単語を有効に使い、ことばのやりとりができて会話が続くようにすることに焦点を当てるべきであろう。
知覚面
についていうと、自閉症児は他人の感情を見て理解することができないのに、視覚の別の側面には全く問題がないのである。また、長期記憶には優れた能力を示す一方で、別のタイプの記憶、つまり、意味過程や複雑な情報を整理統合して覚えるということには困難である。言語機能に限界があるものの、このような記憶の障害が関係しているのかも知れない。
注意の側面
では、注意を集中することは良好であるが、注意を移すという面に障害がある。だから、自閉症児はある特殊なものに過剰に注意を集中したり、他の対象には注意が向かなかったりする。注意を移すことも健常児に比べ、遅かったり無駄が多かったりする。
また、人によって信じているものや感情が違うといったことを理解する能力を示す「心の理論」についても、自閉症児は障害があり、これは認知面・社会面・人間関係などの問題によって起こると考えられている。この心の理論が苦手なのに対し、視覚に関するある側面は良好である。
自閉症児は、他人の考えや感情を理解することをのぞけば、他人の外観などを述べることはできる。その他に計画を立てること、統合力、柔軟性、衝動のコントロールなど、いろいろな面には障害があり、これらは情報を自分の中で整理統合する力に障害があることと関連している。
我々は、自閉症児に表情を読むことを指導したり、自閉症児が思っていることと我々が考えていることとは違うのだということを教える必要がある。


ホームインデックス目次




治療、教育
薬物における治療は、自閉症治療の中心になるものとは言えず、あくまで補足的に用いるべきであるが、近年ではとみに研究が進んでいる。単一の薬で効果が出ることは期待できないが、自閉症患者の症状に合わせて(多動、自傷など)いくつかの薬を組み合わせて使うことがある。副作用夜行かを定期的に調べるのであれば、一部の自閉症に効果が見られる場合がある。
抗てんかん薬、神経弛緩剤、興奮剤、抗鬱剤、ベータブロッカー(攻撃性、不安)、リチウム(躁鬱)、フェンフルラミン(セロトニン濃度を下げる)、ナルトレクソン(自傷)、メガビタミン剤
治療において、自閉症を治す魔法の薬は存在しないが、治療法はこの50年の間にずいぶん進歩してきた。初期は、力動精神医学的な遊戯療法やグループ治療が行われたが、現在のところ行動療法が最も効果的な方法である。かつての治療法は条件付けを利用し、非常に効果があった。近年では認知訓練(TEACCH)がよいとされ、一般化や柔軟性を高めるために効果があるという実績が積み重ねられつつある。「社会性学習理論」も、健常児と一緒に構造化された活動をする中で社会技能を学習させていくのに効果がある。


ホームインデックス目次




治療法を巡る論争
早期治療
:早期から強力に、一貫した治療を行えばめざましい効果が得られることは確かである。しかし、治療時間は長い方がよいか否かという問題。早期でなくても適切な治療を受ければ、遅くても十分であるという報告などもある。
ノーマライゼーション
:確かに地域に根ざした援助を行っていくことは大切なことであるが、障害者、特に自閉症などの重度の障害者にとっては、それだけではなく別の援助も必要なのである。問題は、普通でないように見える援助が必要なこともあるということである。それゆえ、我々は見方を変え、多様性や地域に根ざしたサービスばかりを追い求めることをやめにした。
インクルージョン
:障害児も普通教育の中に組み入れるべきだという考え。全面統合の議論では、教育の内容よりも権利の方が先に立っている。自閉症児は特別な援助が必要であるが、それが忘れられて権利ばかりがクローズアップされがちである。自閉症児には、教材でもスケジュールでも視覚的に提示し、当面のことに関係した概念だけを強調し、感覚経路をかき乱すような刺激を排除した構造化した教え方をしなければならない。
:行動変容プログラムの一環として不快な刺激を使うかどうか。生命を脅かすような危険があるときに強い罰を与えてもやむを得ないかどうかということである。人道的には避難されがちな項目ではあるが、今後も考えていかなければいけないとしても、「世界保健機構」で出された合意文書では、極端な行動に対してはいろいろな方法によるアプローチが必要だ、と結論づけている。現在、生命に関わるような自照など、極端な行動上の問題については、状況を十分に注意した上で罰を与えることも許可されている。
診断名
:診断名をつけることに対して抵抗がある人もいるが、診断名をつけることによるメリットの方が遙かに大きい。効果的な治療を受ける。専門家も子供たちの変化や概念形成・遊び・コミュニケーション・社会的交流などの問題を学ぶことができる。
ホームインデックス目次