学生実習生の意識調査
アンケートを下に

1.目的
前年度のアンケートの自由記述から、いくつかの要素が検出された。それらを分類し、体験実習と保育実習の意識の違いについて明確化する。

2.方法
それぞれの要素を5件法の尺度でアンケートを実施する。5件法では、1は「思わない」、2は「あまり思わない」、3は「どちらでもない」、4は「やや思う」、5は「思う」である。
体験実習は、A大学医学部(1日)、A大学看護学(2日)そのほか、2日以内で行われ、実習記録など直接職員が継続的に指導を要する形態ではない実習を指す。(25名)
保育実習は10日間の実習記録の記載など継続的に職員が関わる実習である。(10名)
要素については、
  1. 接触体験から抱いた利用者のイメージや感想(接触体験)
  2. 実習を通しての利用者に対する内省や実感(内省)
  3. 実習そのものの学習機会や利用者以外での感想(学習的要素)で分類し、以下の要素をプラス要因とマイナス要因に当てはめている。
プラス要因

マイナス要因
これらの要素が体験実習と保育実習ではどのような違いがあるのかなどを明らかにする。

3.結果
3-1.標準偏差から
標準偏差
標準偏差とは、どのくらいの広い範囲で答えたのかを指し示す数値である。値が大きいと、多様な答え方をした(1〜5まで)事を指し示している。逆に値が少ないとその平均値付近で答えた人が多かったことを指し示している。
左の表は、体験実習と保育実習で偏差が0.3以上開いた項目を列挙している。特に大きな開きがあったのは、「ほぐれる」、「分からない」、「理解する」、「職員気を遣う」、「働きがい」、「アドバイス」、「学習機会」、「戸惑う」である。総じて「学習的要素」に面での開きが見られる。
右の表は、体験実習で1以上の偏差が出たものを比較している。保育実習との比較では、いくつかの項目で同じような偏差が認められるものの、総じて保育実習の方が偏差は少ない傾向にある。このことは、同じようなプロセスを経て実感や感想を抱いていることが分かる。逆に言うと体験実習では多様な感想を抱いていることを指し示している。

3-2.項目別の平均
プラス要因平均
太字は、標準偏差が0.5以下のものであり、かなりの人が近い値で答えていることを示している。
総じて、利用者に対する「プラス要因」は体験実習、保育実習共に高い傾向にある。
しかし、「学習的要素」では保育実習の方が多くの項目で高い値を出している。あるいは、障害をもっと知る必要があるという意識があることが分かる。また、標準偏差の度合いから保育実習の方は体験実習に比べてばらつきが少ない。保育実習では、体験実習に比べ利用者と関わる時間が長く、そのため「注意できない」と思う傾向が強い。もっと上手く関わればよいが…と躊躇していることが分かる。
体験実習では、「働きがい」などを話される機会が無く、自由記述でもあったが、働いている姿を見ての感想として「どちらでもない」と答えている傾向が強い。「アドバイス」に関しては、保育実習ほどではないが、どう対応するべきなのか、どうしたらよいのかと言った事へのフォローがあったことと推測する。
「マイナス要因」で高い値を出したのは、「分からない」「こわい」「不安」であった。何を言っているのか分からないことと、今まで見たこともない人たちへの恐れがあったといえる。あるいは、突然叩かれたとか腕を捕まれたと言った体験的なことによるものも考えられる。
マイナス要因平均
項目でどちらかといえば低い値を示した物を比較する。すると、「マイナス要因」では、「しつこい」や「かわいそう」と言った項目はどちらとも低く、障害者は「気持ちが悪い」と思うのはさらに低い傾向にある。特に保育実習ではその傾向が強い。また、「内省」面では保育実習では長い期間関わるため、始めは関わりで戸惑っていたと推測するが、期間の間にそうした気持ちが減少したと推測される。「学習的要素」のマイナス要因は低い傾向にある。

3-3.項目の差異について
意識差
各項目の中から平均で0.5以上の開きがある物を抽出している。ちなみに平均の有意さの検定では、独立項目のt検定を行う。0.05以下の有意性が出たのは、「職員迷惑」「話したい」「アドバイス」が0.05、「職員気を遣う」「うれしい」「ほぐれる」が0.01であった。

保育実習は体験実習に比べ、利用者に抱くマイナスイメージ、「気持ち悪い」などは弱い傾向にある。また、それは努力によってなされ、例えば、より深く理解するための障害理解の必要性を感じている。さらに、学習機会やアドバイス、働きがいについて10日間に行われて、より利用者のイメージが肯定的に変化していることが伺える。
その一方で、長い期間実習を行うため、職員の動きにじゃまなのでは等の気兼ねが有意性によってかなり強くでている。逆に言うと、短い期間では、学習機会などの環境が十分ではなく、保育実習よりもイメージの変化の幅が少ないと言える。

3-4.体験実習の男女の意識差
男女差
体験実習における男女の意識差について、平均値で0.5以上開きのあった項目を抽出する。このことから、男性が女性よりも高かったのは利用者を見たときに「かわいそう」と感じたことである。その他は、利用者に話しかけるのは迷惑なのでは、職員に迷惑なのではないかといった気兼ねが女性の方が強くでている。あるいは、推測であるが、利用者との関わりで困ったことやどうして良いか分からないことについて、職員側でフォローしたとか、手持ちぶさたにしていたときに女性職員が話しかけてきたといった機会があったと考えられる。男性が抱く、「かわいそう」は、不憫だとか自分と置き換えたときにいたたまれない気持ちを抱いたのではないかと推測する。

4.考察
総じて、実習後について利用者への肯定的なイメージの値が高いことが分かった。このことは実習が障害者を肯定的に捉える契機になっているといえる。
保育実習と体験実習の比較では、学習的要素の面で大きな開きがあった。これはある程度予測した結果の通りであった。この学習的要素が障害をよりよく知ろうとする動機に差異を与えている(3-3)。また、利用者を気持ちが悪いと思わなくなる傾向がより強まると考える(3-2,3-3)
また、平均値ではあまり差異がなかったが、t検定から、利用者とのふれあいがうれしいとほぐれるに有意さが出た。このことは、保育実習の10日間という期間における達成感や述懐がより強く反映されていると考える。
実習の意義はいくつかあるが、共通して言えることは、障害者とふれあうことにある。そして、ふれあわずに抱いている障害者への無理解の是正が実習においては大きな意味を持つ。
体験実習では、ガイダンスをしっかりと行うことがより障害を理解しようとする動機につながると考える。あるいは、何気ないアドバイスや働きがいなどを伝えることが有効である。もっとも保育実習は10日間という事もあり、その内実は体験実習よりも多くのことを学ぶ。しかし、いずれにしろ、体験実習がより充実したものにするには、学習的要素〜といっても実習生に話しかけることを意識することでずいぶんと障害者への理解が進むものと考える。
保育実習に関しては、実習をこなしていく中で、もっと積極的に関われば良かったとか(3-2の「注意できない」)や何を話したらよいのか不安であると言った平均値の高さがある。これも職員が話しかけるとか実際のふれあい方を教えることで幾分か是正されると考える。

今後の課題として、利用者のイメージについて、実習開始前と開始後の変容について知りうることが出来なかった。こうしたイメージの変容は実際にあるのか。このことを知ることは、より実習の意義を明確にする事が出来ると考える。今後、アンケートの作成と共に実施していきたい。
(2005.10.27)

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