社会福祉に係わる諸法令
目次
コメント
概念
総論および歴史
社会福祉にかかわる法令
コメント
社会福祉法の概論、法的性格について書き出したものです。
実は、これは約7年前(介護保険や社会福祉基礎構造改革の前)なので、かなり、時代にマッチしていない部分もあるかと思います。予定では、違う部分などを書き出していきたいと思っていますが、いまのところは「月刊福祉」などを参照してください。
はじめに〜社会福祉概念
1/法制化された社会福祉としての社会福祉概念
法律、命令、規則、条例などの方法、手段により制度化されたもの。
国民の全体が対象。
福祉サービスを対象とし、住民のための政策を概念とする。
2/社会福祉の実践としての社会福祉概念
ここの具体的なニーズについてどのように具体的な援助を行って行くかの行為
3/今後の社会福祉関連法のあるべき、望ましい姿
・ニーディーな人的、対象別にそのニーズとそれに対応する限定的な、しかも国家財政に配慮かつ慎重な政策に基づいて、対象とされたニーズについての充足を目的とする。
- 中央集権的な縦割りの福祉行政をクライエントに一番身近である地域社会において一体的、総合的かつ計画的に福祉サービスが提供される必要がある。
- 受益者の人権保障を前提にした社会福祉サービスの法体系化
- 行政施策の法的分析
- 法体系の再構築
総論および歴史
日本の社会福祉法制の時代背景
1/近代社会に入り、自由の裏面・・・失業、疾病などの多くの不安を知る。その不安は一定の共同体内での生活保障では十分な対応ができなかった。
2/明治憲法では、国民の人格的基本権の概念が確立されていなかった。したがって、社会事業と公的扶助との区別が無かった。また、社会福祉の対象が貧困からの救済であった。
- 社会事業/公私の主体によって行われる組織的な社会政策
- 公的扶助/公費負担で生活困窮者に対して行われる経済扶助の制度
3/明治期の制度
- 明治期の時代背景
封建制度に生きてきた武士などの不満分子を抑えるため〜五傍の掲示〜による相互扶助の精神を政策にした。
- 明治政府の課題と現状〜財政、外交〜封建的な貢租制度を継承したお陰で財政は不安定であった。そのうえ、貧困は進み、国民は不満を募らせた。国家はそのため統一された組織的な貧困政策が不可欠となった。
恤救規則
幕藩時代の隣保相互扶助の法制化
対象者〜1)廃疾者2)70歳以上の老衰者3)病人
備荒儲蓄法
農民が対象〜災害処置
日清戦争後、大量の失業者を生む。また、犯罪も多く、社会のモラルの低下が著しい。また、小作争議、労働運動も起こるが権力によって押さえ込む。
4/大正期の制度
歴史的背景の概要
- 大戦景気による産業の発展による財政面の余裕が生まれる。貿易面での外交の強化が図られる。
- 労働運動の活発化。普通選挙、民主主義などの高まりがあり、国では内務省にて社会局が設置される。
軍事救護法
遺族に対する国の扶助
5/昭和元年〜WW2終了後
時代的背景の概要
- 大戦景気の反動〜恐慌(S4の世界恐慌がある)
- このころ社会事業の目的は「健兵政策」であり、その一環としての「人的資源の保護育成」にある。そのため、厚生省がS13に設置される。
- 救護法〜救貧制度、公的扶助義務主義の採用。公民権の喪失規定。
- 社会事業法〜民間の社会事業の指導監督。
- 国民健康保険法〜披傭者は健康保険、そのほかは国民健康保険という皆保険体制の確立。
6/昭和20〜29末
時代背景の概要
- WW2の敗北、その後の占領下での社会福祉事業は戦後処理としてのそれであった。
- 戦争によって被った人的被害についての生活の援護や保護ということが急務であった。また犯罪などが多く、秩序の乱れがひどかった。
- これらの福祉事業は占領軍による強力な指導の下で行われることになる。社会福祉事業に関しては、救済並びに福祉計画の件について、無差別平等の最低生活の維持について国が必要な措置を取ることを指示し、国は「生活困窮者緊急生活援護要綱」を実施する。
(旧)生活保護法
- 国家の救済が無差別平等である。
- 全国的単一機関の設置
- 国家責任による生活保護
- その責任を民間に転嫁しては行けない。
- 必要とされる保護費に制限を設けない
特色
- 一般扶助主義
- 保護費の国庫負担率80%
- 欠落条項
- 私的扶助の優先
- 保護請求権の不明確立
- 争訟権の否定
民生委員法
公的扶助を国家責任としたことから、補助機関としてあった民生委員を協力機関とする。
福祉三法
生活保護法、児童福祉法、身体障害者福祉法
(新)生活保護法
・憲法25条の定める理念「健康で文化的な最低限度の生活」の保障の実現を目指す。
特色
- 生活保障目的の明確化
- 保護請求権、不服申し立ての規定
- 欠落事項の廃止
- 社会福祉主事の設置
7/昭和30〜48年
時代的背景の概要
・経済高度成長期とともに生活格差が拡がり固定化するようになる。池田内閣による所得倍増計画による更なる経済成長を遂げる。それに伴う国民の生活を大きく変える。
- 都市の過密化、農山村漁村部の過疎化
- 人口移動による家族形態、機能の変化
- 生活環境の激変によるアノミー的人間の増加
・また福祉三法に付け加えられた
精神薄弱者福祉法、老人福祉法、母子福祉法があり、福祉6法の時代ができあがる。
・皆保険、年金制度の確立→国民健康保険法、国民年金法
8/昭和49〜現在
時代的背景の概要
- オイルショックなどにより社会福祉の費用負担についての問題が出される。(受益者負担が強調される。)
- 老人保険法により、老人医療費の一部自己負担
- 健康保険法の一部改正により、一部負担が成立
- 昭和60年男女機会均等法
- 昭和61年事務合理化法−機関委任事務に関する国と地方との機能の分担の合理化
- 社会福祉士、介護福祉士法−マンパワーの政策
- 平成になると福祉三審議会(厚生省の諮問機関、中央社会福祉、身体障害者福祉、中央児童福祉審議会)において、福祉は市町村の役割を重視し、社会福祉の実施と運営について市町村が主体とするべきで、これまで不統一であった福祉の実施体制を市町村に一本化し、福祉、医療、保健の連携の確立を目指すものとした。
- 平成元年12月21日−高齢者保健福祉推進10カ年戦略
社会福祉にかかわる法令
1/福祉法令は行政と財政との密接な関係をもっている。
社会福祉という言葉は憲法25条2項の規定の中で使用されている。
2/日本の社会福祉概念とその対象
・社会福祉の法制度は社会福祉に関する法令の体系化された制度のことである。
社会福祉の概念
最広義の社会福祉概念
・社会福祉を目的概念とする。それは国民のあるいは社会の福祉であり、より良い状態であることである。
・経済活動を含めた住宅の建築、健康、教育などの社会的諸政策のすべてが対象。
広義の社会福祉概念
・社会福祉を実体概念とする。平均的生活が満たされていない個人、家庭などに対する広範な社会諸サービスを体系的に捉える。
・最広義から、経済政策を区別した福祉。
対象は、上下水道、学校などの国民生活に必要とされる社会資本の整備。
狭義の社会福祉概念
・国家扶助の適応を受けている者、身体障害者、自動その他、援助育成を要するものがその自立して能力を発揮できるよう、必要な生活指導、更生指導、その他の援助育成を行うこと。
・社会福祉とは、援護育成などの「福祉サービス」を必要とする状態にある要保護者に対する諸政策を意味する。
・対象者は、日常的にハンディキャップをもつ人から、それらを軽減、除去する目的として行われる。
・法制での社会福祉の概念は、主にこの狭義の概念である。
・しかし、第2次成果大戦後の狭義の概念が国際的に評価されつつも、国際関係においても広範のが今後、狭義の社会保障と併せて「社会福祉サービス保障」を必要とする時代が到来し、対人的、専門的、総合的サービスの充実が迫られている。
・憲法25条2項の社会福祉概念とその対象
「国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保険、及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」
・社会保健と公衆衛生の規定
社会保険とは「疾病、負傷、分娩、志望、老齢、失業、多子、その他困窮の原因に対し、保険的目的方法または、直接、公の負担により経済保障の途を講じ、生活困窮に陥った者に対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに、公衆衛生及び、社会福祉の向上を図り、すべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることを言う。」
3/社会福祉法制の対象領域の法律
・法源として、憲法、命令、省令、告示、条例、規則、判例、法律
・これらの関連は、憲法と構造的に含み、その最高法規の理念に向けて各種の社会福祉法律の連動がある。
4/社会福祉の法的位置
憲法
・形式−13条;国民の幸福追求権
・実質−25条;国家が国民の幸福のための積極的役割がある。
(生存権保障)
1項−所得、医療保障(社会福祉サービス給付)
(基礎的、緊急的な生存権の保障)
2項−狭義の社会福祉概念
−14条;平等権、差別の禁止
憲法25条1、2項の成立過程とその意義
・占領軍の示した福祉に関する政策に基づき策定されたもの。(マッカーサー草案)
・25条1項は社会党の修正案。国民の幸福追求の国家の積極的役割があることを知らしめる必要があった。
25条1項と2項の関係
・堀木訴訟の判決時
・分断論−1項が救貧規定、2項が防貧規定
つまり、2項は1項の補充的規定とされる。
・ゆえに2項に由来する法律が生存権の保障としての機能が不十分なものであっても憲法に反しない。
*堀木-原告は国民年金法による障害者福祉年金を受給しており、児童扶養手当との併用は却下されても、憲法25条、14条に反しなく、却下した知事に誤りはなく、その処理は合理性がある、
・朝日訴訟の判決時
・1項に基づく生活基準が行政庁の自由裁量である。つまり、生存権の保障が確実に保持できるものとは限らない。
・学説では、1項は生存権保障の目的と理念。
2項は目的達成に必要な方法、手段と定めているものとされる。
25条2項に関する社会福祉、社会保険、公衆衛生の意義
・社会福祉は公的社会福祉、すなわち社会福祉事業サービス給付を意味する。
・所得保障とは別にこれと相互補足するために、日常的ハンディキャップをもつ人に対するサービス。
・医療、職業など対人的なサービス給付を行うこと。
・社会保険は、所得保障を意味する。
・それは、貧困の原因となる社会的事故に対して現金を給付し、その人の経済的社会的生活を維持するものを意味する。
・公衆衛生は、生活関連、環境、並びに健康維持、保全に関係するもののこと。
社会福祉と社会保険の関係
・日本の社会保険制度の中心は社会保険であり、国家扶助は社会保険の補完的制度である。
・その狭義の社会保険に狭義の社会福祉、及び公衆衛生を加えたものを広義の社会保険と考えている。
・以上のことから、社会保険制度とは社会保険、国家扶助、社会福祉、公衆衛生の4つから構成されている。
・それゆえに、社会福祉は社会保険の一領域として社会保険や国家扶助を補完する役割をもっていることになる。
5/社会福祉の法源
・憲法、各種立法など
6/世界人権宣言と国際人権規約と日本憲法
・世界人権宣言と国際人権規約の性格
- 世界人権宣言−一般原則として、人権の基準に規定する文書であるから、法的な性格はもっていない。
- 国際人権規約−具体的な権利とその享受の制限、ないし制約を明確に規定する条約
・昨今、さまざまな国際条約の媒体として世界人権規約の規定の一部、または全部を受容している。
・世界人権宣言は国連の場において条約や宣言の形で採択され、国際社会の法的確立が確認され、しだいに慣習法としての地位が取得されることになる。
・しかしながら世界人権宣言は条約法としての効力をもっていなく、各国は道義的に拘束されるに過ぎない。
国際人権規約は、
- 経済的、社会的、及び文化的権利に関する国際規約の締結についての承認を求める件
- 市民的、及び政治的権利に関する国際規約の締結についての承認を求める件。
- 市民的及び政治的権利に関する国際規約についての選択議定書
・国際人権規約と国内法
・国際人権規約の内容
・A規約;社会権的基本権(生存権などの社会福祉サービス)
・B規約;自由権的基本権
・選定議定書;B規約の目的をさらに実現したその初期的の実施を人事委員会が議定書の定めによってB規約に提示する諸権利の侵害に関する個人情報の受理、審議に関する協定。
・日本ではおおむね承認をしている。
・A規約について;公の休日の報酬支払い、ストライキ権の保障、中高等教育の無償化は未批准である。
・A,B規約;警察の構成について、消防局員も含まれていることを上げている。
・A規約とB規約との間の義務を実現する形態の相違
・A規約は、権利の実現という結果を義務づけたものであって、その実現のための手段については各国の選択に任されている。
・B規約は、その性質上即適用される。
・A規約はその権利についての措置及ぶ権利の実現に関する報告を国連に提出義務が各国に課されている。しかしながら、日本では未批准となっている。
・今後日本の問題点としては、社会保険、社会福祉、教育、雇用、その他について、内外人平等処遇規定の実施についてどのように配慮して行くかである。
・国際の動きとして、権利としての国民の生存権や生活保障のための諸制度の整備が迫られている。
・したがって、日本も徐々に世界へと均一な社会が形成されて行こうとしている。
・また、法学的には、根源が欧米諸国と同一のものをもっているのであるから、制度と我が国の風土的、精神的な伝統的特色と融合し、形成していくことになる。