法学
行政法についての概略を述べよ

行政の公的活動は、法に則って行われるのが原則(法治主義の原則)で、とりわけ国民に対する強制措置をはじめ行政による正式な個別決定(行政処分)については、国民が選挙で代表を決める議会立法の根拠規定が是非必要である。これが「法律による行政の原理」である。地方自治に置いては、「条例に基づく行政」となる。
ところが現代の行政にあって臨機のケースに応じた処理も大事であり、議員立法で内容を規定しきれないため行政機関が任されて法規を作ることが多くなっている(行政立法と呼ばれる)この場合、行政はしかるべき手順を必要とする(審議会などの国民参加手続き)
この他、行政の行動基準を定める(行政内規)なども法規づくりの一場面となっている。

法令のタイプは、憲法や国内的効力を持つ条約、【議員立法】法律、【行政立法】政令(内閣)省令(大臣)令・規則(委員会・庁)などが法規である。これが(法令)と総称される。自治体の自治行政に影響を及ぼす。
自治体で作り原則として自治体の区域内だけ通用する法規がある(自治法規・自治立法)自治法規は裁判所で「現行法」としての影響力がある。中身は【自治立法】条例、【行政立法】規則(委員会・自治体の長)である〜例規集

この他、
告示(官報・公報)〜省令や規則より細目の行政立法、行政内規である要綱の公表
行政内規〜国の内規として「訓令」、「通達」、自治体は「規程」、「要綱」である。

条例は、国の法令には違反できないが、自治事務については立法化でき、取り締まり条例には一定限度の罰則も付される。また、国の法令よりも福祉的給付を多くしようとする等の上積み条例もあり得る。また、法令にはない部分で作る必要のある条例がある(必要的条例事項)〜強制措置・取り締まり条例、施設使用料・手数料の徴収、公の施設の設置などである。他、法令によって委託される条例もある。例えば社会福祉法人助成手続き条例など。
規程と要綱の関係では、規程は条文の形を取り、上級機関が行政の現場に向けて示す「訓令」の性質を持つ。要綱は、一般住民に公に知らせる「告示」となっているものである。この要綱は社会福祉では深く関係している。
通達は行政内規として住民を拘束せず、自治体に対しても自治事務については指導通達に止まり、機関委任事務に関する指示通達だけが自治体の期間を拘束する。

行政の行為に関しては、「事実行為」と「法的行為」に大別される。事実行為は、特に新たな法的効果をもたらさず、事実上行われて行政の目的を達するというもの。最もそこで違法行政によって個人に損害を与えると、行政法的に国家賠償責任が問われる。
法的行為としては、国や自治体と行政事務の民間委託や用地の任意取得その他で契約を取り結ぶことがある。こうした行為が新たな法的行為を作り出すことを指す。社会福祉では、措置がそれにあたり、入所措置の決定が行政処分に該当する。法律、条例に基づく正式な個別決定として国民・住民に通知される行政処分である。行政処分は議会立法に基づいて権力的に強い効力を持って法的効果(公定力)を生ずるので、対等なもの同士の契約とは違う(不可争力)。

行政処分に対して、その正式決定を機に国民・住民からの「不服申し立て」や訴訟と正式の争いの手続きを受けてたつ。それは、行政争訟の対象としての行政処分である。そのための法律として「行政不服審査法」と「行政事件訴訟法」(1962)がある。それに「国家賠償法」がある。これらは、処分された後の救済措置である。その一方で、行政と取り結ぶ際の入り口として「行政手続き法」(1993)がある。

行政手続き法は、申請処分手続きと不利益処分手続きがある。
申請処分とは、国民からの申請を行政庁が審査して、あらかじめ原則公表しておくべき審査基準と標準処理期間に則って応諾か拒否可の処分を決め、拒否処分の通知には理由を付記する。(生活保護申請の場合は、決定通知は14日以内、最大30日とする。)
不利益処分手続きでは、行政庁の職権による調査の後、原則として処分原案を通知し、相手方国民に意見陳述のチャンスを保障してから、利用付記の処分を処分決定する。(給付や許認可の取り消し、費用徴収の納入通知など〜通知書の到達敏はじめて効力を発揮する)
申請拒否と不利益処分の文書通知には文書による理由の提示が原則的なされる。なぜなら、法的に必要な記載がなされていないと、処分の形式に関する違法として、取り消し訴訟で争われることがあり得る。

行政不服法については、単なる窓口相談とは違い、行政処分を巡る住民からの正式の争いの手続きが行政機関あてに取られるもの。訴訟と比べると時間的にも経済的にも便利な制度であり、社会福祉においては訴訟以上に重要である。
原則としてすべての行政処分に不服申し立ての道を開いて(一般概括主義)、その旨処分通知の際に住民に教示することとしている。また、上の役所があればその上級行政庁への審査請求、それ以外は当の役所である処分庁あての異議申し立てを定めている。原則として文書による申し立てとし、代理人は自由に認めている。ただし、不服申立期間が原則60日以内である。また、申立人・代理人には口頭意見陳述権が保障され、理由付記の裁決・決定書で決着づけられることになっている。
審査請求については、自治事務であればその長が最上位であり、異議申し立てとなる。機関委任事務の場合は、各省大臣、都道府県知事、市町村長の間に法的な上下関係があり、審査請求となる、
口頭意見陳述については、代理人の他、補佐人として学識者や団体役員のような人も出席できる。公開や正式記録の作成は任意である。
審査請求に対して審査庁がした裁決が係争処分の取り消しである場合、処分庁はこれに拘束され、処分庁の方からこれを争うようなことは出来ない。反対に、決定・裁決が違法に不服申立人の申し立て・請求を退けていると思うときは、不服申立人は元の処分の取り消しを求めて訴訟を起こすことが出来る。(特に法律で認められていれば「再審査請求」もできる)

行政事件訴訟については、種類として抗告訴訟(行政処分)、当事者訴訟(行政処分によらない)、民衆訴訟(参政権など)、機関訴訟(公的機関同士)当事者訴訟は、公務員の給与請求や損失補償金の請求などの訴訟であり、手続きは普通の民事訴訟と変わらない。
一般に使われる行政事件訴訟は、行政処分に関する不服の訴訟(抗告訴訟)である。分けても処分取り消しの訴え(違法な不利益的行政処分の取り消し訴訟)と無効など確認の訴え、取り消し訴訟の出祖期間が過ぎた後でも起こせる。あと、不作為の違法確認の訴え(利益的行政処分を求める申請をしているのに行政庁が長いこと放置している不作為を争う)である。
国家賠償請求は、民事訴訟である。公務員の不作為に対して個人が賠償金を支払うのではなく、国が賠償する性質である。薬害訴訟が有名である。あるいは、公立福祉施設の活動に不幸にして伴った人身事故について自治体の賠償責任が生じる(そこに勤める職員はその過失は問われない)。
不服申し立てと訴訟は、そのどちらも選択できる自由選択主義であるが、すぐに訴訟できない特例がある。生活保護や児童手当の場合は審査請求の裁決を経た後でなければ提訴できないとされている。最も裁判が待たされるのは3ヶ月だけで、不服申し立て後3ヶ月経っても裁決・決定のない時は訴訟を起こせる。そして、訴訟は処分庁を被告とする当初処分の取り消しの訴えが原則である。しかし、取り消し訴訟の出訴期間で3ヶ月以内に提訴しなければ行政処分は争えない(不可争力)。弁護士を用意し、訴訟の準備をするには短い期間である。
福祉行政において給付・入所申請の却下や措置・決定の取り消しなど不利益処分の相手方・名宛人である本人は、不服申し立ての資格を持つと共に当然取り消し訴訟の原告資格を持つ。しかし、支援する人々や団体が出訴することは普通は出来ない。また原告が死亡したりした場合も訴えの利益がなくなる場合もある。
しかし、訴訟を起こしている間は取消処分の効力を停止しても良い(裁判所)。あるいは、訴訟に原告が勝ったときは、その取消処分がなかったことになる。また、法的関わりを持つ訴訟外の第三者にも通用する効力を示し、また法的関わりを持つすべての「関係行政庁を拘束」する。いずれにしろどちらが負けた場合も控訴して争うことは自由である。
2005.12.3

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