医学生ガイダンス

前振り
 みなさんこんにちは。私はW学園で働いているkumaと申します。W学園とはテキストの方にも簡単に書いておりますが、知的障害児が入所し、生活をしている福祉施設です。人数や年齢構成のことも書いていますが、下は小学校1年生、上は30過ぎまで雑多に56人がおります。 


 (前振りのあと)今回はみなさんには色々なイメージを中心にお話しします。(以下、板書)

1.施設

2.障害者
a.知的障害
b.自閉症

1.実習を通して知って欲しいこと
2.福祉と医療はどう関わっているか
3.実習に際しての留意点です。

1.施設のイメージについてお話しします。
 施設と聞くと、良いイメージを持つ人は少ない傾向にあります。例えば施設は、どこか閉鎖的で、利用者は強制的に入れられているとか、管理されてそうとか、中にいる障害者はかわいそうとか。(中には精神病院の保護室とか鉄格子を思い浮かべる人もいます)
 皆さんの中で施設に訪問あるいはボランティアで行ったことのある人はいるでしょうか。
(ここで手を挙げさせてみるで、余裕があれば、どこの施設に行っていたのか聞けたら聞く)
 行ったことのない人は、施設がどういう目的であるのかとか、施設って何と思うかと思います。
 なぜ施設に利用者が入所するのかは、理由は様々ですが、たいていは母親が養育困難になったとか親の経済的、社会的理由が背景にあります。経済的理由など親の都合で子どもが入所していることに対して反感を持つ方もいるか中にはおります。が、例えば親が離婚してシングルマザーになった場合、まずその母親はフルタイムで働かなければ生きていけません。
 その時、子どもを見てくれるおじいさんとかおばあさん、あるいは親類などが周りにいればよいのですが、そうした協力がないときどうすればよいでしょうか。
 例えば、普通なら小学校でも3年生くらいにもならば、家でお留守番をしたり身の回りのことができます。しかし、その子が障害児で、中学生にもなっても一人で着替えが出来ない、排泄も自立していない。あるいは、交通ルールが分からず飛び出したりする場合どうでしょう。最近は在宅福祉といって、一定の時間そうした障害児を見てくれるサービスや状況によっては一泊などさせてくれるサービスがありますが、まだまだ十分とは言えません。その上、そうした一泊サービスが出来るのは施設という箱があるから出来ると言えます。
 そういう意味で、施設がその子を預かり、生活全般を支え、学校へ送り届けます。そして、お母さんは仕事の合間に面会に来たり、仕事で休みが出来た日には家に連れて帰るといったように利用をしてもらっています。
これはほんの一例ですが、いずれにしろ施設があることでお互い(児童と親)が生活できるという意味で、施設には大事な役割があると思います。

2.次に障害についてお話しします。最初は知的障害についてです。
 皆さんの中で小中高とボランティア活動などで知的障害の方や自閉症と呼ばれる大人や子どもの方とふれあったり、関わったりしたことのある人はいるでしょうか。あるいは、小学校とか中学校の時、同じクラスとか学校でそういう人がいて見たことがあるという人はいるでしょうか。あるいは最近はドラマとかでも知的障害が主人公のもありましたし、メディアでも取り上げられていますが、そういうのを見たことがあるという人はいるでしょうか。
(と、ここで挙手させる)
ボランティアで関わったことがある
学校にいた
街でそれらしい人を見たことがある
ドラマやテレビで見たことがある。

 皆さんは知的障害と聞くと、どのような人物を想像するでしょうか。

 以前に皆さんの先輩が若竹学園に体験実習に来たとき、「知的障害って何と」わたしが質問をしたことがありました。多くはテレビで見たことがあるとか小学校の時に知的障害児の人がクラスにいたなど何かしらの関わりや見たり聴いたりしていることが分かりました。
 では知的障害って何と聞くと、同じクラスにいた障害児の突拍子のない行動、例えば、授業中にいきなり大声を上げるとか、先生がその子に付きっきりで、周りに対してあまり配慮されなかったと言ったその子に対する反感をもっていたり。あるいは、まちで見かけたときに、バス停で突然話しかけられたとか、場所に配慮しないで大声で話すとか泣くとか。いずれにしろあまり良いイメージはありませんでした。あとダイレクトに何を言っているのか分からないとか、不憫と思っている人もいました。中には、純粋と思っている方もいましたが、何を持って純粋なのでしょうか。
 これらのことは実は問いそのもの、知的障害って何には何一つ答えていません。文献では、大脳のどこかに異常があって、たいていの人が分かることが理解できないとかIQが低いからということは書いています(そう答えた人もいました)。
 体験実習では、たいていの人が分かることの「何が」分からないのか。あるいはIQが低いとはどのような「状態」なのか、実際に見て、関わっていく中で、考えて欲しいと思います。

 次に自閉症についてですが、若竹学園には知的障害の他、自閉症という症状を持っている児童が多くいます。自閉症もまたメディアなどでも目にすることがある人もいるかと思います。また精神医学などに興味がある方は読んだこともあるかと思います。
 皆さんの中で自閉症と思われるあるいはそうした人と関わったことのある方はいるでしょうか。主に、自閉症の方と関わったことがあるという場合、ボランティア活動以外、明確に自閉症とかかわっという体験は少ないかと思います。ただ中には学校にそれらしい人がいたんではないかと思う事もあるようです。

皆さんでそういう人はいませんか?
学校でそれらしい人がいた
ボランティアで関わったことがある(ともに挙手)

 これもまた皆さんの先輩が実習に来たときにどんなイメージがあるのか尋ねたことがあります。知的障害同様あまり良いイメージは持っていなかったようで、ひきこもりと同列に思っている人、対人恐怖症みたいな人、同じ事を繰り返している人などでした。中にはテレビで見て、数年前の日にちの曜日をあてる(例えば2000年の5月20日は何曜日とか)など答えていた方もいました。
 まず自閉症というネーミングから来る物だと思いますが、知的障害よりも答えるのに苦労をすることが多いという私の印象でした。
普通に考えて知的障害と聞くと、知能とかの障害(端的に極端に頭が悪い)と単純にイメージできますが、自閉症って何と聞かれると、普段にそんなことを考えたこともない人にとっては、何をどうイメージしていいのか分からないのではないでしょうか。実際、皆さんの先輩の中に分からないと答えた人も割合おりました。
 実は自閉症でも大学教授がいます。またこれは受け売りですが、何かのフォーラムでお医者さんが、アインシュタインもノーベル賞を取った田中耕一さんも自閉症だとおっしゃっていました。
 つまり、自閉症であっても皆さんや私よりも遙かに頭脳明晰なかたがいらっしゃり、学会での発表など人前に出て立派な業績を積んでいる方がいます。対人恐怖症とか引きこもりなどではないことが明らかです。
ただ、若竹学園にいる大半の自閉症の方は重い知的障害を合併していることが多く、半日の実習の中で何が知的障害でどこが自閉症なのか、その区別は難しいかと思います。もし機会があれば、その違いを実際の中で説明できるかと思いますが、いずれにしろ、私たちは何となく知っていることは案外間違ってイメージしていることの方が多いと言えそうです。

 次に実習をとおして知って欲しいことについてお話しします。
 ここまで聞いてくれた皆さんに、実習を通して知って欲しいことは何か、分かってくれるかと思います。
 一つは、イメージの更新やイメージ作りです。
体験実習では、否が応でも知的障害児と同じ空間で一定の時間(半日)過ごさないといけません。ただ過ごすだけではなく、実習なので関わっていかないといけません。嫌だからと固まってこっそり隠れるわけにはいかないのです。
 まちで見かけたあるいは小学校の時に一人二人いたというレベルではなく、利用者が56人に対して、皆さんは5人一グループできます。その意味でマイノリティは実習生の皆さんです。是非、逆転した立場から生身の関わりを通して、イメージの更新なりを体験して欲しいと思います。
 実際、皆さんの先輩でも体験実習をしたあとに、どうでしたと聞くと、普通の人とあまり変わらなかったとか、みんな明るかったとか、楽しく生きているのが分かったと感想を持ってくれる人が多かったし、イメージが変わることの方が多かったようです。
 そんなことをいっても関わったことのない人には、今はピンと来ないかもしれません。しかし、確実に関わらないといけない状況の中で何かしらのイメージは持つことになるかと思います。また、関わったことがある人は、子どもの時に思ったイメージと、大人になってから関わったあとのイメージは違う物になると思います。さらに大人になってから関わった事のある人も回数を重ねることでイメージが変わることもあります。
 体験実習とはそうしたフィールドの提供だと思ってください。

 もう一つは、その関わりはどうしたらよいのかを考えて欲しいです。実習生の皆さんは、体験実習に来る日が初めての関わりになります。当然W学園に足を運ぶのも初めてになりますし、知的障害の例えばAさんと関わるのも初めてです。普通、初対面の人同士、皆さんもそうだと思いますが、最初からうち解けるわけはありません。しかし、くどいようですが否が応でも利用者の皆さんと関わらないといけません。言ったことを理解してくれるだろうか、話しかけても良いのか迷うことも多々あるかと思います。とはいえ、利用者の中に毎年来る医学生のお兄さんという認識は皆さん持っているので、気安く話しかけてくる人も多くいます。そのような人達をきっかけにコミュニケーションを多くとって、一緒に遊んだりして出来れば実習をして良かったと思えたら私は嬉しいです。

次に福祉が医療とどう関わっているのかについてお話しします。
 この体験実習の意義についてはすでにお話しがあったかもしれませんが、医療と福祉は密接に関わっています。具体的には、福祉の扱う範囲が病状者、障害者など何かしらの生活上あるいは心や体に困難な人を対象にしているからです。
 例えば知的障害と自閉症が合併していて、日常の生活での行動がうまく出来ないとか、すぐに興奮して自分を傷つけたりしているという場合は、気持ちを落ち着けるために精神薬を服用します。またてんかんを持っていれば定期検診、脳波測定、血液検査などで病院へ行きます。
 また普通に利用者の皆さんは風邪をひいたり怪我をしたりもします(中には病弱な人もいます)。その時、その人が知的障害でうまくコミュニケーションが取れないとか言語がなくてもお医者さんは診察をしないといけません。診察には福祉職員が付き添うことが多いのですが、医療に関しては全くの素人なので、やはりお医者さんの適切な見立てと判断を必要とします。
 その意味で言葉がない人、コミュニケーションが難しい知的障害児が世の中に一杯いること。そしてそうした人達に対しても正確な診断が下せるような観察力を持って欲しいと思います。とはいえ、とりあえず、そうした人達がいることを知ってもらうということが実習の一番の目的なような気がします。

 最後に実習に来る際に気をつけて欲しいことについて述べていきます。
 実務的な話しになりますが、若竹学園の体験実習は土曜日に行います。土曜日それも午前中はW学園の職員がかなり少ないです。時には3人くらいしかいない場合があります(多くて5人)。
 なので皆さんが来ていただいたときに、これから話すことは説明できないことがあるかと思いますので、メモを取るなど自己責任でお願いします。

 実習時間は11時から17時まで。車は乗り合いならば大丈夫です。動きやすい格好で上履き持参でお願いします。着替えでも可です。昼ご飯は自分たちで用意をしてください。休憩時間は12時?12時45分です。
 
 さらに留意事項として3点述べます。

 貴重品について、関わりについて、振る舞いについてです。(板書)

 貴重品の管理についてですが、ずっと前、皆さんの先輩で携帯電話を持ち歩きながら実習を行って落としてしまい、見つかるまで探していたことがありました。結局、利用者が拾っていたのですが、まさか利用者が拾っているとは思わず、1週間近く探していました。荷物の置く場所などはこちらで指定しますので、実習中は財布などの貴重品は持ち歩かないようにしたほうがよいです。同様に、マスターキーといって、どこでも開けられる鍵を皆さんに実習中にお渡しします。何を落としてもこれだけは落としたり無くさないようにしてください。

 利用者との関わりで、少なくても出来ない約束をしないとか利用者の要望に安易に応えないでください。中に電話番号を聞いてくる人もいるかと思いますが、あとからしつこく電話をしてくる場合もあるので、後々のためにみなさんの個人情報はある程度コントロールしてください。また、安易にリクエストに応えたものの実現不可能だったり実習終了後も続くような約束はしない方がよいです。もしそのような微妙な要望があったら遠慮なく職員に尋ねるなどして下さい。

 振る舞いについてですが、最後にあなた達がお客さんであり、新参者です。そこには遠慮とか節度があります。まったくかしこまっているのも不自然ですが、なれなれしいのも考えものです。おそらく初めての実習で勝手が違うかと思いますが、これからも実習はたくさん行っていくことを考えると、どう振る舞ったらいいのかを考えて下さい。

 以上で説明を終わります。


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