福祉施設職員の自律性獲得についての一考察
−労働者意識・専門性・倫理の連関を目指して−

w学園 kuma(6256)
〔キーワード〕社会福祉施設,援助者,自律性

1. 研究目的
 福祉施設は従来から,利用者にとって発達権・生存権保障の場である.昨今では,そればかりではなく,人権思想の深化や様々な理論の発展から,福祉サービスの質を高めることが福祉施設に強く要請されている.それは福祉マインドをもった専門性の高い援助者が求められているといえる.
しかし実際の日常業務は,基本的な日常生活の支援・介護〜排泄,入浴,食事に大半が費やされ,毎日が単調に繰り返され,そこに専門性があるのかどうか曖昧になっている.また,少ない人員配置によって,利用者を集団的・管理的に扱わざるを得ない場合が多く,その上,考える余裕もなく,その日をこなすことで精一杯になる.
福祉施設に就職したて新人は何かしらの希望や「やりがい」を抱いていたはずである.しかし,このような環境にあって,いつしか現状を追認し,流されていく.本研究では,福祉施設職員が流されがちな自分の現状をいかに打破し,希望を取り戻せるのかについて考察することを目的としている.

2. 研究の視点および方法
 福祉施設は組織という運動体である.そのため福祉施設で働くとは,利用者と自分のあり方を求めるだけではなく,上司と部下,雇用者と被雇用者の関係にも目配せする必要がある.その上,組織には多様な言説が取り巻いている.よって現状に流されずに働くには,多様な言説や関係を自分なりに再構築することが必要になる.
 本研究では,多様な言説の中から,1.福祉労働者としての自分(労働者意識),2.専門職としての自分(専門性),3.自分がいまここで働く根拠として倫理を取り上げる.その上で1〜3がどのように連関するかを考察する.つまり,一職業人として自律性を獲得するには,専門性の追求だけではなく,より包括的に思考し行動する必要があることを研究の視点としている.  研究方法は,文献研究を中心に言説を編み,モデルとして提示する.また,私が勤務する職場の同僚,後輩,先輩との対話を通じて言説の吟味を行う.

3. 研究結果
 1について,いまの労働環境にどこか不満や疑問を持っていながらも,変えようがないとあきらめている人が多い.まずもって,労働者側は現在の労働権でどこまで自己の生活が守れるのかを学ぶ必要がある.その上で,自分たちの手で労働環境を改善するために職員が団結し,声を挙げ,行動しないといけない.そのためには,労使間で何でも話し合える民主的な職場を形成することが大切である.その形成過程で,一福祉労働者としての自律的精神が醸成される.
 2について,働いてからも勉強は必要だと思っても,福祉施設現場をどう考えて自分の言葉にすればよいのか分からないのが実情である.本研究では,自分なりの枠組みを作り,その一つ一つを深めていくことを提案している.その上で,福祉施設では組織で利用者に関わるため,個人での学習と共に,集団が発展的業務を指向していることが大切である.個人と集団の相互作用を通じて,一専門職としての自分の成長がある.
 3について,福祉に携わる人は倫理観が大切であることよく説かれる.しかし,具体的に何を指して倫理とするのか分からない場合が多い.本研究では,倫理は,自分の行為が他者に開かれていること.他者の承認などを必要としない人間が持っている主体的欲求とする.倫理を身近な出来事と結びつけ,倫理に向かっていこうとする態度の中に一職員へ自律性が与えられることを確認する.
 1〜3の連関について,【倫理−労働者意識】は,自分の生活を守る行為(労働者意識)そのものが倫理に適っていること,そして福祉労働そのものが倫理によって価値づけられる.【労働者意識−専門性】は,発展的業務を指向するため,サービスの豊富化と過重労働を防ぐバランス〜労働環境の健全化が図られる.【専門性−倫理】は,福祉施設における専門的実践とは,常に利用者に関わるが故に,倫理が要請される.倫理的態度を指向することは,自己の業務遂行に対して主体性と批判的肯定感を与えるという連関がそれぞれにある.
 結論として,福祉施設職員が自律性を獲得するとは,手探りであっても,まずは自らの手でいま働いている職場を考え,その都度,ある一定の見通しを立てることである.そして深いところで自己を肯定することである.そこにこそ,仕事へのやりがいや誇りを感じることが出来ると言える.
2007.6.20

ホームインデックス