薬 草 & 漢 方 薬
(1998.6.12)
 
 薬草というと、すぐに漢方薬を思い浮かべる人は多いと思う。薬草と漢方は切っても切れない関係にあるから当然のことだが、中には野草を煎じて飲めば何でも漢方薬だと思っている人もいるそうで、実は私もついこの間まではその一人だった。ところが、薬草の本を読んでみるとこれが大間違い。漢方薬として使われる薬草もあれば、そうでない薬草もあって、すべてが漢方薬というわけではないのだ。そこで、受け売りではあるが薬草についての蘊蓄を少々・・・

 薬草を薬として使う場合、採取したものをそのままということは少ない。普通は生薬と呼ばれるものに加工してから使う。薬草はすべての部分が有効とは限らないから、薬効成分を多く含む部分だけ分離して乾燥させ、さらに大きなものは裁断するなどの加工を施す。これが生薬である。乾燥させることによって長期間の保存が可能になり、適当な大きさに裁断することによって扱いが容易になる。生薬は植物性のものに限るわけではなく、動物性のものや鉱物も含まれる。生薬はさらに散剤、薬酒、あるいは煎じ薬などにされ、そこではじめて最終的な薬となる。

 漢方薬とは、漢方で使用される薬のことを言う。漢方は古代中国で発達した投薬を中心とする医学で、日本においては、独自の臨床経験が加えられるなど日本に適した治療体系に作り直された。したがって、中国の漢方と日本の漢方とでは異なる部分がかなりあるとのことである。
 漢方には長い年月の積み重ねの中で作り上げられた医学書があって、病気の症状に対する薬の処方などがきちんと決められている。その医学書に基づいて専門の漢方医が病気を診断し、薬を処方する。それが漢方薬であって、薬草を煎じて飲めば何でも漢方薬になるというものではない。
 西洋医学では症状から病名が決まり、その病名に合わせて様々な薬が処方されるが、漢方では症状に合わせて最も良いと思われる薬が処方され、その薬の名前が診断名(病名)となる。例えば葛根湯(写真のクズの根を乾燥して裁断した葛根と呼ばれる生薬に他の生薬数種類を加えた煎じ薬で、風邪の症状などに対して使用される)の投与が良いとされる症状であれば、診断名は葛根湯症となる。何か洋の東西の考え方の違いが現れているようで、なかなか興味深い。

 漢方とは別に、それぞれの地方で言い伝えられている治療法があって、そこで使われる薬を民間薬と呼ぶ。長い年月の経験によって得られた治療法である点は漢方と似ているが、漢方のようにきちんとした医学書があるわけではなく、薬の処方や用法もはっきりとは決まっていないのが普通である。中にはただの迷信に過ぎないようなものまであるそうで、薬草を適当に煎じて飲むというのは、この民間薬のイメージなのである。しかし、民間薬だからと言って馬鹿にしたものではなく、確かな薬効のあるものも決して少なくない。
 民間薬に使用される薬草とし有名なのはセンブリやゲンノショウコなどで、両方とも全草を乾燥させたものを煎じ薬にして服用する。

 薬草と言えども使い方を誤れば毒になる。漢方薬も民間薬もそういう草から薬をつくる。特に民間薬は医者でもない者が処方するわけだから、十分な注意が必要なことは言うまでもない。民間薬を用いるなら、日頃から薬草の本などをよく読んで、十分な勉強をしておくことが大切である。事故を起こしてからでは取り返しがつかない。


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