ツクシが載ってない!
(1998.5.24)
 
 この春、ツクシを春の野草のページに掲載しようとしたときのことである。 コメントを付けなければならないので、分布だとか胞子の時期だとかを調べようと手持ちの野草の本を開いてみた。ところが、何故かその本にはツクシは載っていなかった。 そこで書店へ行って、棚に並んでいる二、三種類の野草の本を見てみたのだが、やっぱりツクシは載っていない。 ツクシは春の野草としてその知名度は抜群である。おそらくツクシを知らない人はいないのではないかと思う。 それほど有名なツクシのことだから、どんな野草の本にも必ず紹介されているはずだと思い込んでいたのだが、これがとんだ誤りだったのだ。

 ツクシに関する情報は図書館の植物図鑑で調べて何とか得ることができたが、ついでに他の何種類かの野草を扱った本も調べてみた。 すると、やはりツクシが載っていない本がある。なんとも不思議な思いがして、その理由を考えてみた。そして何日か後に思い当たった。 ツクシが花ではないからである。ツクシがスギナの胞子茎であることは大抵の人はご存じだと思う。スギナはシダの仲間で、シダは胞子で増殖する胞子植物。 花は咲かず、したがって種子もできない。

 大抵の野草の本は花に焦点を合わせている。本の題名の中に「花」という言葉が含まれている場合はもちろんだが、含まれていなくてもそうである場合が多い。 そういう本では、花ではないツクシは掲載していないのだ。私は無知なるがゆえに何でも一緒くたにして考えていたのだが、 本を書くような専門家は、花が咲く種子植物と花の咲かない胞子植物を厳密に区別していたのである。 当然のことだが、ツクシだけでなくゼンマイだとかワラビだとか言った他のシダ類も取り上げられていない。 分かって見れば至極当たり前の話で、何の不思議もない。

 花の咲く野草と一緒にシダ類を取り上げている本もあるにはある。それらは花にはこだわらず、別の観点から野草を取り上げたものである。 たとえば、食べられる野草に的を絞っている場合がそうである。そういう本では、種子植物と胞子植物を区別する必要がないから、ツクシの次にタンポポが載っていたりする 。因みに、ツクシもタンポポもお浸しにするのが定番のようだが、十分にアク抜きをすることが美味しく食べるコツだそうだ。

 ツクシの写真一枚で、私にとってはちょっとした騒動が起こったわけだが、そのお陰で思わぬ勉強をさせてもらった。


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