タケニグサの食害
(1998.9.20)
 
 先日、散歩に出たときのことである。我が家にほど近いところで、食害にあったタケニグサ(写真)に出会った。葉という葉はすべて食い荒らされ、茎と葉脈を残すのみと言うひどい状況である。近くにあった他の株も同じ状況であった。多分ご存じだと思うが、タケニグサはアルカロイドという神経に作用する毒素を含んでいる毒草である。人が食べると嘔吐や体温低下などの症状が現れるほかに、呼吸麻痺や心臓麻痺が起こって死に至ることもあるそうである。その猛毒のタケニグサを食い荒らす虫がいようとは・・・
 タケニグサは我が家の近辺ではよく見掛ける草だが、これまでに葉が食い荒らされたものを見たことがなかった。だから、毒草は食害に遭うことはないのだと思い込んでいたのだが、どうやらこれはとんでもない間違いだったようである。

 では一体どんな虫がこのタケニグサを食い荒らしたのだろうか? 興味津々だったので、食害に遭ったタケニグサはもとより、その近辺も念入りに調べてみたのだが、残念なことにそれらしい虫に出会うことは出来なかった。多分、葉を食い尽くしたので他へ移っていたのだろうが、このタケニグサを食い荒らした虫はアルカロイドが毒として作用しないか、あるいは極めて緩慢にしか作用しない体質を持っているものと想像される。もし毒として作用するなら、これほどまでに徹底して食い荒らすことは出来ないだろうから。

 考えて見れば、アルカロイドがある種の昆虫にとっては無毒であったとしても何の不思議もない。人にとって猛毒なものが昆虫にとっても猛毒とは限らないからだ。たとえば市販の殺虫剤は、害虫にはよく効く(猛毒である)が人には無毒または低毒性というのが普通であり、その逆があってもしかるべきである。またその殺虫剤にしても、一種類ですべての害虫に効果があるわけではなく、効果的な害虫駆除を望むなら目的とする害虫に合わせて何種類かを使い分ける必要がある。つまり、ある種の昆虫に毒性があるからといって、すべての昆虫に毒性があるとは限らないのである。

 タケニグサの食害に似たようなことは他にも何度か経験している。たとえば、蚊取り線香の原料として使われる除虫菊の葉や、昔はタンスに入れる防虫剤として使われていた樟脳の原料となる楠の葉が虫食いになっているのを見て、虫を殺したり追い払ったりする効果のあるものがどうして虫に食い荒らされるのだろうと首を捻ったことがある。
 話しが野草から外れて恐縮だが、高速道路などで照明用として使用されているオレンジ色の光のナトリウム灯をご存じだろうか。あのオレンジ色の光を昆虫が嫌うので、防虫用として使用される。ところがどこにもへそ曲がりはいるもので、中には逆にオレンジ色の光を好む昆虫もいて、その防虫効果は100%とは行かないのだそうだ。

 今回はタケニグサの食害で、何事にも例外はあるものだ、ということを改めて勉強させてもらった。


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