タカサゴユリの災難
(1998.5.22)
 
 野草観察をしていて、これまでに見かけたことのない野草に出会えるのは喜びの一つだが、一方でせっかく見つけた野草が次の日には影も形もない、と言ったことにもしばしば出くわす。

 昨年の夏のことである。道路脇の植え込みの中にすでに蕾を付けている一株のユリを見つけた。しかし、初心者の悲しさで葉や蕾を見ただけでは、どんなユリかまでは分からない。そこで、次の日から蕾が開くのを楽しみに日参すること一週間あまり。やっと蕾が開いた。写真を撮り、図書館に駆け込んで野草図鑑を調べてみると、そのユリは台湾原産の「タカサゴユリ」であるらしいことが分かった。初めてお目にかかる野草なので、もっと写真を撮っておこうと次の日も朝早くから同じ場所に出掛けた。ところが、どうしたことかタカサゴユリの姿が見あたらない。確かこの辺だったはずだと探し直してみると、昨日には花が咲いていたと思われる辺りに大きな穴凹が出来ている。それを見てすべてが納得できた。誰かに持ち去られたのである。

 同じようなことは、他の野草でも経験している。タカサゴユリと同様に道路脇でミズヒキを見つけた。見事に叢生した大株のミズヒキである。さっそく写真を撮ろうとしたのだが、生憎持参のデジタルカメラの電池が切れていてる。慌てて電気店へ電池を買いに走ったのだが、戻ってみると影も形もない。言うまでもなく掘り取られてしまっていたのである。
 ミズヒキの場合もタカサゴユリの場合も、近くの他の場所で何株かが花を咲かせていて、いずれも道路から外れていたためか、それらが掘り取られることはなかった。掘り取られたタカサゴユリとミズヒキにとっては飛んだ災難と言うわけだが、たまたま人目に付きやすい道路脇で花を咲かせたのが身の不運(?)だったようである。

 ミズヒキもタカサゴユリも一株や二株を掘り取ったからといって今すぐに絶滅の危機に晒されるような稀少種ではない。それに道端で可憐な花を咲かせている野草を見るとつい摘み取ったり、掘り起こして持ち帰りたくなるのは人情というもので、その気持ちは理解できる。野草にまったく興味がなければ初めから見向きもしない。興味があるからこそ目が向くのだし、掘り取って庭に植えようと言う気にもなるのである。掘り取られたタカサゴユリはおそらく庭に植えられ、手厚く管理されているものと思いたい。
 しかし、「やはり野に置け蓮華草」の言葉もあるとおり、野にあってこそ野草である。掘り取ったりすることは出来るだけ慎重にと思う。私も過去に花の咲いた野草を持ち帰った経験は何度もある。しかし今は、たとえ絶滅の心配のない種であっても、摘み取ったり掘り取って持ち帰るようなことは極力慎むようにしている。


目 次 へ 戻 る