七  草 (ななくさ)
(1999.1.1)
 
 我が家では毎年正月の七日に七草粥を食べる。だが、実はこれがまがい物。 粥に入れる本物の七草は大根くらいのもので、あとは白菜とか春菊とかの七草とは縁のない残り物の野菜を放り込む。 一説によると、七草粥を食べる習慣は、酒や餅など正月のご馳走の食べ過ぎで少々くたびれた胃袋を松のとれる七日あたりに消化の良い粥で労ってやろうという 健康上の理由から生じたものだという。その意味からすれば、白菜を入れようと春菊を入れようと七草粥を食べる目的は達せられるはずだと開き直っている。 その七草粥に因んで、七草(ななくさ)という言葉について少しばかり調べてみた。

 「ななくさ」は七草または七種と書き、春の七草あるいは秋の七草を指すほかに、「いろいろ」、「七種類」、「七色」などの意味があり、 日本国語大辞典によるとその語源は日本書紀にまで遡るらしい。かつての昔(垂仁三年三月)、朝鮮から新羅の王子がやってきたときに(手みやげとして?)持参した玉、 小刀、鉾、鏡などが合わせて「七物」(ななくさ)あった、というような意味のことが日本書紀に記されているそうだ。

 辞書を見ると何故か秋の七草の方が春の七草より先に出てくる。多分、秋の「あ」の方が春の「は」より五十音では先になるからであろう。秋の七草は、ハギ(萩)、オバナ(尾花)、クズ(葛)、ナデシコ(撫子)、オミナエシ(女郎花)、フジバカマ(藤袴)、アサガオ(朝顔)の七種類の草を指し、「秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種(ななくさ)の花」という山上憶良の歌で万葉集に登場している。やはり、秋の七草は花を楽しむものらしい。ナデシコはカワラナデシコ(河原撫子:写真)のこと、アサガオとはキキョウ(桔梗)のことだとされ、秋の七草にはキキョウを入れるのが一般的なようだが、アサガオはムクゲ(木槿)あるいはヒルガオ(昼顔)のことだとする説もあるそうである。ムクゲもヒルガオも朝顔型の花だから、そうかも知れないという気もする。

 春の七草は、セリ(芹)、ナズナ(薺)、ゴギョウ(御形)、ハコベ(繁縷)、ホトケノザ(仏の座)、スズナ(菘)、スズシロ(清白)の七種類を指す。ゴギョウはハハコグサ(母子草:写真)の別名、スズナはカブラの別名、スズシロは大根の古名、ホトケノザとはキク科のコオニタビラコ(小鬼田平子)の古名である。春の七草には「七種(ななくさ)の菜」や「七種の若菜」などの別名があり、花より団子とでもいうか、草花と言うよりは野菜として扱われていたようで、セリ、カブラ、ダイコンは現在でも八百屋で売られている紛れもない野菜である。なお、シソ科にホトケノザの名を持つ草があるが、これは春の七草とは縁のない草。

 七草粥(七種粥)は七草の粥(七種の粥)または七草雑炊(七種雑炊)ともいう。いつ頃からかはよく分からないが、正月の七日(七種の節供:ななくさのせっく)に春の七草を入れた粥を食べると万病を退散させるというので七草粥を食べる習慣ができたのだそうだ。後には単にナズナかアブラナだけを入れただけの粥に変わったというから、我が家のニセ七草粥もあながち間違いだとは言えないのかも知れない。最近は懐古趣味とでもいうのか七草粥を食べる人が増えたらしく、七草が近づくと春の七草をセットにしたものをスーパーマーケットなどで売り出すそうだ。
 春の七草の代わりに米、粟、稗(ヒエ)、黍(キビ)など七種類の穀物を入れた粥も同じように七種粥または七種の粥と呼ばれ、こちらは一月十五日に食べる。この粥も後世になって、あずき粥に変わったという。

 上記以外の「ななくさ」の名のつくものとしては、「七草見物」(栽培された春の七草や秋の七草を見物すること)、「七種の宝」、「七種の囃」、「七種菓子」などがある。


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