名  前  調  べ
(1998.11.23)
 
 初心者が野草観察をしていて苦労することの一つに、見つけた野草の同定がある。同定とは生物の属や種を確定すること。要するに名前調べである。野草観察をする以上、名前調べは不可欠だから、写真を撮り、植物図鑑と見比べながらこれは何々科の何々種だと調べていく。ところがこの名前調べ、古参の野草マニアにとっては楽しみの一つなのかも知れないが、初心者にとってはなかなか大変な作業なのである。

 野草観察を始めた当初は本当に大変だった。ほとんどの野草は名前が分からない。名前が分からないくらいだから科名や属名が分かるわけがない。おまけに、野草に関連したどんな本や図鑑があるのか、どういう手順で調べたらいいか、そんなことすらもよく分からない。何にもかもが分からないづくしで名前を調べようというのだから、それこそ雲を掴むような話しだった。
 書店や図書館で野草に関する本を色々と調べ、どの本にどんな野草が載っているか多少は分かるようになったものの、それだけでおいそれと目的の野草の名前にたどり着けるものでもない。確かなのは写真とその写真を撮影をした場所及び年月だけ。それを頼りに図書館へ駆け込んで、ある野草図鑑の始めから終わりまで全ページを捲ったこともある。効率の悪いこと夥しい。
 名前を知っている草だからといっても安心はできない。一地方でしか通用しない方言かも知れないし、間違って覚えているかも知れない。聞き覚えた名前で野草図鑑の索引を調べたものの該当するものが見あたらない、といったことは何度もあった。例えば、サイジ(イタドリのこと)、ウサギノゾウスイ(オオイヌノフグリのこと)、キツネバナ(ヒガンバナのこと)、ガラガラ(ナズナのこと)などがそうで、いずれもある地方でしか通用しない方言を覚えていたのである。

 それでも経験というものは有り難いもので、試行錯誤を繰り返しているうちに目が肥えてくるとでも言うか、花や葉を見てこれは何々科だと推定して的中するといったことが次第に増え、最近は少し楽になってきた。がしかし、それでもやっぱり大変は大変である。
 科名が分かっても、それで終わりになるわけではない。キキョウのように一属一種というような場合はともかく、カヤツリグサのようによく似た種がたくさんあると調べても調べてもすっきりせず、時には虫眼鏡で種子を眺めてみたり、ガクや総ほう片の違いを確かめてみたり、あれでもないこれでもないと大いに悩むことになる。最後は大ざっぱな性格が幸い(災い?)して、エイヤッと決めてしまうことになるのだが、これがまた結構空振りが多い。あとで間違いと分かって、こっそり名前を変更したり、写真を入れ替えたりしたことも一度や二度ではない。恐らく間違っていながら未だに気が付いてないものもあるはずで、当ホームページでは120種余りの野草を掲載しているが、その名前に確たる自信が持てないものも少なくない。正直に言うと、かなり怪しいと分かっていながら、そのままにしているものも何種類かある。再度調べてはみたものの、今もって確信のある同定ができないからである。

 図書館や書店に並んでいる野草関連の本は、私のような素人が野草の名前を調べる際にはまことに有り難い存在で大いに利用させてもらってはいるが、いずれもいささか寸足らずなところがあって、よく似た種が多いときにはなかなか決定打とはなってくれない。葉や花の色や形、葉が互生か対生か輪生かなどといった観察情報から草の名前がたぐり寄せられるよう工夫した野草図鑑もあるが、これとても初心者にとってはまだまだ完璧にはほど遠い。

 結局、確かな同定を期待するなら地道な勉強と経験の積み重ねが不可欠と言うことになるのだろうが、できればもっと簡単でかつ確実に草の名前が判るツールみたいなものがあると有り難いんですけどね。たとえば野草に関するデータを詰め込んだデータベースがあって、調べたい野草の写真をスキャナで読み込ませると、たちどころに名前や花期、分布などの情報がプリントアウトされて出てくるとか・・・こんなことはまだ当分先の話しなんでしょうねぇ・・・


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