毒 草 に ご 用 心 !
(1998.6.1)
 
 何でもない草だと思っていたものが、調べてみると実は毒草だったということは意外に多い。裏返せば、毒草は決して少なくはないと言うことである。 たとえば、田んぼの畦などで普通に見ることができる「ケキツネノボタン」は毒草で、誤って食べると下痢や腹痛を起こすそうだ。 「タケニグサ」、「ヨウシュヤマゴボウ」、「ケチョウセンアサガオ」の仲間なども日頃よく目にする野草だが、有毒である。 七草粥に入れる「セリ」の仲間にも猛毒の「ドクゼリ」がある。
 毒草として特に有名なのが「トリカブト」。根に猛毒があり、これを使って殺人を犯すというストーリーの映画やテレビドラマを見たことがあるし、 実際にトリカブトの毒を使った保険金目当ての殺人事件まで起きて世間を騒がせた。
 毒草を利用した殺人は論外としても、野歩きや山歩きをしていて皮膚がかぶれたり爛れたりすることはよくあるし、 野草を食べたり薬草として服用したりして事故が起こった例もあるから、毒草には十分な注意が必要だ。

 これは、実際に毒草を食べてひどい目にあったという人の話である。
 旧日本軍が中国大陸に展開していた頃のことで、話をしてくれた人も兵隊として中国にいた。 ある時、その人の所属する部隊が訓練か何かで駐屯地を出て野営をすることになった。当時の軍隊では食料の現地調達というのがあったそうで、出先で必要な食料を集める。 その時も兵隊さんたちが食料調達に出かけ、いろいろなもの集めてきた。多分お金を出して買ったのではなくて、どこからか勝手に持ってきたのだろう。 その中には青菜もあった。
 食料が集まったので炊事班が調理し、それをみんなで食べた。もちろん青菜も食べた。ところがその後が大変。だれもかれもが体調の異変を訴え、 先を争ってトイレに駆け込むという騒ぎが起こったのである。と言っても野営中のことだからちゃんとしたトイレがあるはずはなく、 多分思い思いの場所にしゃがみ込んだのだろうと想像する。そして言うまでなく、この話をしてくれた人もその中に入っていた。
 騒ぎの原因は青菜にあった。実はその青菜は食用の菜っ葉ではなく、タバコの葉だった。 何も知らない兵隊さんが畑に植えられているタバコを見て菜っ葉と勘違いし、引っこ抜いて持ってきたのである。 タバコの葉には大量のニコチンが含まれることはみなさんもご存じのことと思う。ニコチンは猛毒で、摂取量によっては死に至ることもある。 要するに、タバコは毒草なのである。ただ不幸中の幸いとでも言うか、兵隊さんたちが食べたタバコの量は少なかったらしく、死者が出るまでには至らなかったそうである。

 毒草で事故を起こさないためには、知らない草を食べたり飲んだりはしないこと、野歩きや山歩きをするときは出来るだけ皮膚を露出させないようにし、 茎や葉を切ったときに出る汁が皮膚についたときはすぐに洗い流すとなどの注意を怠らないことだ。そして何よりも野草のことをよく知ることである。


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