はじめに



 このホームページは1792年から1801年までに、主に欧州で行われた戦争を取り上げるものです。一般に「フランス革命戦争」と呼ばれるこの戦争については、歴史的に重要な意味を持つにもかかわらず詳しく記述した一般向けの日本語文献はほとんど見当たりません。なぜなのでしょうか。

 この時代について記した本は大きく2種類あります。一つは「フランス革命」をテーマとしたもので、もう一つは「ナポレオン」に焦点を絞ったものです。逆に言えば、この時代について上の2種類以外の本は極めて少数しか存在しないのが現状です。

 前者(フランス革命本)が取り上げるのは主に1780年代後半から90年代前半であり、ほとんどは「テルミドールのクーデター」あたりで描写が終わります。この手の本が扱う主題は大半がフランス中央の政治史、もっと言えばパリでの政治闘争の歴史です。三部会からバスチーユ襲撃、そして山岳派独裁に至る過程を、パリというちっぽけな街の中で起きたことだけで説明しようとするのが、この手の本の特徴です。

 一方、後者(ナポレオン本)はその大半が伝記の形式を取っています。当然ながら、そこではナポレオン・ボナパルトという人物の動向ばかりが描かれます。子供時代の話、若いころのコルシカ島での話、フランスへ移ってから権力の頂点へ上り詰める話、そして没落しセント=ヘレナで生涯を終える話。すべて物語の中心にある特定個人がいます。そして、こういった本以外にフランス第一帝制期の歴史について描いたものはほとんどありません。

 フランス革命から第一帝制、そして王政復古に至る歴史を知るうえで研究者でない者が材料にできるのはこの2種類の本だけです。一方は狭い街での権力闘争を主題にした本。もう一方はもっと狭く、特定個人だけを描いた本。こうした本だけで歴史を勉強した人は、この時代についてどう思うでしょうか。前半はパリの政治闘争が歴史の行方全てを決め、後半はある英雄が欧州の運命を丸ごとその手に握った。そんな風に考えてしまう人がいてもおかしくないでしょう。専門家はそうでないことに気づいているのでしょうが、普通の歴史好きな人間の手元にはそうした材料ばかりが揃ってしまうのです。

 どうもこの時代について日本語で簡単に読める本は、いささか偏っているような気がしてなりません。もちろん、最近はそれ以外の視点を持った本も次第に増えてはいますが、教科書レベルの歴史理解はまだ「政治闘争から個人独裁」の水準にとどまっています。しかし、歴史とはそんな一面的でのっぺらぼうなものではないでしょう。

 当ページは、この時代の歴史について極めて一面的な取り上げ方をします。ただし、当ページが焦点を当てるのは日本語文献でしばしば無視されている部分です。フランス革命戦争の細かい動向について、革命軍と欧州の君主国軍との戦闘経過を中心に、私の知っている限りのことを掲載していくつもりです。もちろん、知らないことや間違いも多々あるとは思いますので、お気づきの点がございましたらその際はご連絡いただければ幸いです。

 ただ、このページでは政治闘争史や個人史については、ごくかいつまんだ紹介にとどめるつもりです。あくまで日本語の文献ではほとんど紹介されていない話を中心にしたいと考えていますので。一面的な話が多くなると思いますが、このページをお読みになる方が余り知られていないそういった歴史について知るきっかけになれば幸いです。

R/D   





――ホームに戻る――



 なお、ですます調で書いているのはこのページだけですので悪しからず。