●岩場は地主さんのもの
まず、岩場は地主さんのものです。これは基本中の基本であることをみなさんご理解ください。ですから、地主が「NO」といえばクライマーはそれに従うしかありません。
通常、開拓クライマーがまずすることは、小川山のように以前から登られてきているようなエリア以外の新規なエリアでは、まず地主の調査から着手します。近所の人に、あの岩山はだれのものか聞き、所有者がわかればクライミングのことを説明し、安全確保のためにボルトを打つことを了解してもらい、場合によっては草を刈ったり、木を切ったりすることに対する許可をもらいます。ほとんどの場合は、正式な許可証をもらったりというような法的な手続きは踏みませんが、開拓者がそろって菓子折りを持ってあいさつに行く程度のことは最低やっています。
聞くと鳳来の場合は、エリア全体の中では個人・法人をあわせて16もの地主が存在するらしく、また、それが複雑に入り組んでいるとのこと。そこでめんどうくさくなってかどうかはわかりませんが、十分なあいさつ抜きで岩場は開拓されていき、そして大勢のクライマーが押し寄せ、マナーの低下とかで岩場は滅茶苦茶になっていき、ある地主が「立入禁止」にしてしまったわけです。
そう考えていくと、今回の一件はキジ(大便)の始末もできなくなった一般クライマーも悪いし、所定の手続きを踏まなかった開拓クライマーも悪いし(ボルトや伐採も)、そうとは知らずに(正確にはちゃんと調べずに)そこの岩場のことを広めてしまったクライミングメディアも悪い。また、ボルダリング専門の人も安心はしていられません。栃の木沢方面が立入禁止になったことの最終的な引き金は、ボルダラーの無断立ち入りが原因だという話も聞いています。「俺らはボルト関係ないから!」じゃ済まないわけです。
要するにクライマー全体の責任なのです。
●クライマー全体が責任を負う
さて、話をもとに戻しましょう。こうした状況のなか「岩場をだれが管理するのか?」という問いに対しては、やはりクライミングにたずさわる者全員が、その責任を負うべきだと私は考えます。
もちろん実質的な管理となると、ボルトの打ち替えや終了点の交換などの専門的な作業も出てくるので、そういったことはやはり専門技術や知識を持ち合わせた暇人がやるしかありませんし、アプローチ道のゴミ拾いやキジ場の清掃だってそう。それを「自分たちがやらなければいけない」という意識を持つことや、せめて作業にかかる経費などの金銭的な負担を負うことは、だれにでもできるはずです。
それはクライマー個人が自発的にたどり着かなくてはいけない意識でもあります。また、インストラクターやジム・ショップ経営者、製造業者・輸入業者などクライミングで収入を得ている者は、個人以上に責任を負う必要
(注1)
があると考えます。
(注1) 実際には国内では、ロストアロー、OCS、コサ・リーベルマン、インターティク、アメリカからもREIがJFAの岩場整備への協力を申し出てくれてくれており、すでに実際にいくつかのプログラムがスタートしています。
さらに、極端なことをいうならば、ハーネスやロープ、シューズなどの基本的なクライミングギアを持たない人間がクライミングをすることができないのと同じように、「岩場環境に対する責任意識を持てない者はクライミングをすべきではない」ぐらいにも考えられるわけです。
いままで、自然の片隅でささやかに続けられてきたクライミングの時代は終わり、無知で無秩序なクライマーが岩場に押し寄せる時代が来ています。それでも我々クライマーがクライミングを愛し、続けていくためには、社会的にも認められるクライミングのありかたを考え、世間に認められるような活動を推し進めていく必要があるのです。
しかし、残念ながら我々日本人はこういう社会意識を持つことが苦手なようです。それは先進国でありながら、外国に比べると町(山だってそうか!)は汚いですし、公共の場所でのマナーなどは年齢や性別の隔てなく悪いところなどを見れば納得いくでしょう。また、クライマーにも社会性が欠如したタイプが多いのも確かです。
繰り返しますが、個人でも業者でもクライミングに関係するすべての人がこの問題にしっかりとした意識を持ち、考え、そして責任を分かち合うことが必要です。それによって問題解決の糸口が見えてくるのではないでしょうか?
ただし個人では限界があります。地域単位でも個人よりは仕事が進むとは思いますが、まだまだです。そうすると全国的な活動や組織、場合によっては海外の同じような団体との連携も必要になってくるでしょう。今回の鳳来問題がクライマーの全国規模の意識の高まりにつながっていけば、禁止になった岩場たちも少しは浮かばれるかもしれません(もちろん「開放」を諦めたわけではありませんよ!)