筆者:小粥 康正
掲載:『Free Fan』No.30、2000年9月
 
「資料」Indexへ
最初のページへ

地元への責任と義務

 私自身、開拓は名古屋の宗宮誠祐氏と山岳会の同期だったこともあり、瑞浪の屏風山、豊田の大滝渓谷周辺、豊橋の石巻山、そして鳳来と関わってきました。今まで特に地主さんと交渉などをすることなく、常にどこかに「地主さんや地元に何か言われるのでは」という思いを持ちながら開拓の時を過ごしてきました。しかし時間が経つにつれ「開拓あたりまえ」になり、不安な気持ちも次第に小さくなっていました。
 そして今回、その15年以上に及ぶツケがまわってきてしまったかな、と思っています。
 これから書かせていただく内容は、言ってしまえば至極あたりまえの話ばかりで、あえて書くことに若干の恥ずかしさすら感じます。
 しかし、そのあたりまえのことをしてこなかったのも事実です。今後のために、気持ちの整理をする意味を含め、書かせていただきます。

軍艦岩の「アバウトで行こう★★★」

・新しい岩場を開拓するとき、地元へ配慮しなくてはいけないこと。
・岩場を発表するときに、地元へ配慮しなくてはいけないこと。
・岩場を登りに来たクライマーが、地元へ配慮しなくてはいけないこと。
 それは、なんでしょうか。
 クライミングが地元からどう見られているか、考えてみましょう。クライマーという人間が、地元の人に笑顔で迎えられるためには、どうすればいいのでしょうか。
 小さなコミュニケーションの積み重ね、これが大事ではないでしょうか。たとえば、顔が合ったらあいさつくらいしようじゃありませんか。「私、怪しいものではありません」とわかってもらえるように。
 「みなさん、なにやってるの?」などと聞かれたら、ひとこと岩登りのおもしろさを宣伝しておくのも手のうちだと思います。(しかし、キチンとやらないと危険だと伝える事も忘れずに!)
 だれかの所有物である土地、岩、木などを使わせてもらうのだから、人間として当然の責任と義務があると思います。都会からやってきて、地元の人たちの感情を考えもせず、都会人丸出しの振る舞いは、嫌われて当然でしょう。
 よその土地へ行って長時間、長期間活動するのだから、観光客と同じ気分ではすまないのではないでしょうか。やはり、そこの土地の人たちとある程度溶け込んで、仲良くやっていこうという態度が必要ではないでしょうか。
 クライマーは(観光客と違って)地元にお金を落としていかない、とよく言われます。そういう意味で地元の利益になるかどうかと考えているのは、役場の観光課や民宿のオヤジさんでしょう。山の持ち主はお金のことよりも、もっと別の感情からクライマーを見ているような気がします。
 さらに一歩進めて言えば、もっときびしい話になります。
 つまり、現地に家なり活動拠点をもって、しっかり溶け込んで生活していこうとする人の姿勢です。
 クライマーがクライマー側から、地元に溶け込んでゆく努力をしなくてはいけないのではないでしょうか。そうしなければ、よそ者はいつまでたってもよそ者――本当の意味で地元に認知していただくのは無理なのではないでしょうか。
 地元からぜひ来てほしいといわれるような存在になるには、どうすればいいのでしょうか。クライマーは定着指向はないので(ある意味でずっとよそ者のまま)、現地に生活拠点を持って暮らしていく人間以上の意識が必要なのではないでしょうか。

 地元と共存していくためのいろいろなアイデアを(思いつくままに)提案させていただきます。ただし、これらのことは岩場の管理主体(クライマー側の)がハッキリしていないと、なかなか実現しないと思います。その意味では、将来の課題といえるかもしれませんが。
・清掃ボランティア、クライミング体験会などのイベント。
・地元の岩場を登るクライマーのスライドショー、ビデオショー。
・地元の子供たちがクライミングを体験するための、(あえて)初級エリアの設定。
・写真が取れる人は、きれいな山の写真を撮って、町にパネル写真を寄贈する。
・何かのおりに、役場、観光係、教育委員会、森林事務所、消防署などに、岩場利用のことを説明しておく。
・雑誌などに岩場が載ったら、しかるべき場所へ、本を持ってあいさつに行く。
・岩場の管理はクライマーたちが責任をもって行なう。また、管理方法などを関係者に説明する。
・事故についてはクライマーたちが自主的に対処する(救急車に引き渡すまで)。
・「鳳来クライミングブック」のような小冊子をクライマーたちが自主的に作って頒布し、クライミングを宣伝する。その本のなかで、岩場利用のルール、安全対策、トイレ方法などを明確にする。ジムで販売したり、売店に置いてもらう。

 今回発足した「鳳来湖を愛するクライマーの会」では、これらのことをひとつずつ、できることからやっていこうと話し合っています。
 そして「責任と義務」は当然果たし、さらに地元に理解され歓迎されるクライマーになっていければと思っています。

  TOP

 


 Copyright(C)2000 Ogai Yasumasa
 mailto: webmaster << ご意見・ご感想はこちらまで