---えどめぇるまがじん・sassi_003--- 


 江戸冊子紹介・第3回『SF サムライフィクション』
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                     監督:中野 裕之
 江戸時代の風景って見たことありますか?
 写真でもなく絵画でもない、まぎれもない、江戸時代の風景。現代と
 いう時代に生きる我々には、もう決して見えようもない風景ではあり
 ますが、そんな風景をフッと思い起こさせてくれるような映画があり
 ます。のどかで泰平で、きっと空も海も現代に較べたら広くて深かった
 であろう時代の風景の心情を込めてフィルムに焼き付けてしまった映画。
 それが筆者の観た『SF サムライフィクション』の第一印象だったのです。

       →http://www.asahi-net.or.jp/~UK5T-SHR/sassi_003.html
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気がついてみると、生まれた時から映画は総天然色だったしTVもカラー
だった。「現代っ子」といわれてみればそれまでだけど、筆者はそんな
環境の中で東京という市街に住んでいた。「江戸」といえば水戸黄門が
カンラカンラと笑う総天然色の「紛い物」だったし、カツラの線が見える
ような登場人物と、毎週々々の紋切り台詞に少々飽きていたりもした。また、
自分の住んでいる、この「東京」という市街自体も江戸はおろか、明治、
大正・・・そして昭和初期の趣すら急速に失いつつある。まさに「迷路」
であり「人間の容器」のような代物であまり魅力的に感じなかったのだ。

ある書物で、日本で時代劇を作ることはとても難しいと嘆く時代劇撮影監督の
悲哀を読んだことがある。どんな山奥に行っても何処かに必ず「現代」の
爪痕が必ずフィルムに写り込んでしまう。ネオンサインや電信柱などの
現代の産物が、ことごとく時代劇を撮影する撮影班を邪魔し、そのフィルム
に致命的な「痕跡」を残してしまう(もっとも血気盛んな某監督は
「あの邪魔な電信柱を切ってこい!!」とスタッフに命令したそうだが)。

ふと自分が江戸時代の風景の空気感のようなものを全く知らないでいる
ことに気がついた。たかだか130年前の風景のはずなのに、写真も存在
しない時代だから致し方ないとはいえ我々はあまりに江戸の風景を知らない。

そこで見つけたのが、今回紹介する『SFサムライフィクション』である。
この映画、'98年に公開された、割に新しい映画である。中野 裕之さんと
いう、それまでPV(MusicVideo)の現場においてたくさんの名作のClipを
作ってきた彼が、初めて劇場用公開映画のメガホンをとった処女作である。
彼の映像は"Pop"にして"Cool"、そして"Peace"・・・中野監督の"Peacederic"な
感覚は、彼独自のもので、映像にシャープな感覚を与えている。

あらすじは簡単である。江戸幕府開府より80余年経った時代。長島藩(実在
するか不明・・・多分しないと思います)に代々伝わる徳川家より下賜された
宝刀が、刀番に抜擢された浪人によって持ち去られてしまう。藩は宝刀の
偽物を拵え事態の隠蔽を謀ろうとするも、そこに江戸での剣術修業から
帰ってきた家老の一人息子平四郎が、藩の軟弱な姿勢にキレてしまい、
仲間ふたりを伴って宝刀奪還のため、浪人を追う旅に出る。しかし当の浪人、
風祭は想像以上に強く、彼らは逆に返り討ちに遭い、仲間をひとり殺されて
しまう。そこへ現れたのが溝口と名乗る謎の浪人。彼とその娘小春のの助け
により一命を取り留める平四郎ではあったものの風祭に対する憎悪は消えぬ
まま。しかし溝口は、そんな平四郎を諫め、決して戦ってはいけないと諭す
のであった。彼の真意は何処に? 一方、風祭は自分の前に立ちはだかった
溝口が自分と同等、イヤそれ以上の剣客であること事を感じ、彼と戦いたいと
機会を伺いつつ、宿場町の用心棒となっていた。果たして宝刀の行方は?
風祭と平四郎、そして溝口の決着は? 藩が差し向けた忍も介入し、息もつか
せぬ展開が1時間51分。最後に待つ結末とは如何に? ひとときも目が離せ
ない、新感覚時代劇映画の始まりであります。

まず、この作品を観て思ったのは、その空の広さと海の深さ。モノクロ映画
の画面の中にズ〜ッと広がる砂浜を馬鹿話をしながら宝刀奪還の旅に出る
若者(馬鹿者)3人とか、溝口が暮らす山中の庵、決闘シーンの断崖絶壁、
全てが現在の日本には絶対ないような、まさに「江戸」を感じさせてくれる
風景ばかりなんです。あまりの違和感に最初は「これは海外で撮影している
のではないか?」と思ったほどです。しかし撮影は日光・今市・宇都宮・千葉・伊豆
大島で敢行されたとのこと。そしてその風景作りに一役買ったのがCGです。
邪魔な建造物などは勿論のこと、カツラの線までCGで処理したそうなのです
から大したものです。まさに従来の時代劇映画のノウハウと新しいCG技術
の結晶として、この映画は産み出され、江戸の風景の創造に荷担したのです。

従来の時代劇と一線を画すのは、その"Pop"で"Cool"な世界観。そして"Peace"
な中野ワールドの体現です。人は何故に生きるのか? 人は何故人を斬るのか?
そして斬らない道も存在するのではないか? そんな中野氏が考える"Peace"に
ふと考えさせられます。布袋 寅泰扮する宝刀強奪の浪人も(黒沢 明監督の
「用心棒」そっくり)、常にそれに迷いながら剣の道を歩むしかないキャラ
クターとして描かれています。対する風間 杜夫扮する溝口も剣の達人で
ありながら剣を抜く道を自ら閉ざし山中の庵にこもり娘と暮らす生活を送る。
その対比が、映画を深いものとし、考えさせられると同時に映画の終焉まで
一気に走り続ける原動力にもなっているのです。

キャストも豪華です。夏木 マリ姐が宿場町のヤクザの元締めを妖艶な演技で
熱演し、溝口の娘に扮する緒川 たまき嬢も愛くるしい可愛さと演技力で
映画を盛り立ててくれます。さらに老忍者として登場する谷 啓さんや様々な
場所に登場する意外な人達・・・もう一刻たりとも目が離せません。

江戸時代の、とある宿場町で起こった些細な事件の顛末を、ふと覗き見る
ような感覚で観れると同時に、江戸時代を体感できる映画ではないでしょうか?

追記 最後に、この映画をもしご覧いただけるとしたら、最後の最後のスタッフ
ロールまで見逃してはイケマセン。キャストもスタッフも、その筋では有名な
すごい人達がゲストで多数出演&協力しています。彼らの活躍が映画の何処
だったか?・・・そのために、もう1回劇場に足を運んだり、ビデオを巻き戻したり
してしまうこと間違いありません。観て絶対に損はないと思います。オススメ。

中野裕之監督映画監督作品
『SF サムライフィクション』
『SF ステレオフューチャー』
『赤影 RedShadow』
『PeaceBlue』

中野裕之WWW-Site
http://www.peacedelic.co.jp/


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