投函された一通の手紙
連載第9回 (秩父市 三木久幸)


 たこいさんへ。

 こんにちは。

 糸納豆が届きました。有り難うございました。

 9月の頃にホームページを見たとき、紙版が出たことが書いてあったので楽しみにしていたところでした。今回の糸納豆では、「お楽しみはこれからだッ!!」が面白かったです。因みに、あまり熱心なエヴァンゲリオンのフォロワーではなかった私ですが、この間やっとビデオで最終回を見てすっきりした所です。この最終回、ちょっと「こんな判りやすい話だったっけ?」というシラケ感もありました。そういう脱洗脳の効果も仕掛けてあったような気がしませんか?

 糸納豆が休んでいた30カ月の間に、私は結婚もして住所も変わりました。世間も随分変わってしまって、「投函された一通の手紙」でいろいろ書いてきたことなんか、もう完全な昔話ですね(笑)。ですから、この手紙は「手紙」としての連続性なんか考えずに書いてます。

 因みに「手紙」でウダウダ書いてきた「オリジナルと先行例」の話題に関しては、北村薫の『謎物語』を読めば完全に納得してしまう様に思います。私はこれを読んでる最中、「これだよ、こういう事だよ」と圧倒されっぱなしでした。「ウダウダ言わずに『謎物語』を読め!」(笑)て感じです。北村薫の文章って、ホントに説得力と読ませる技が両立してますね。

 私のコンピュータ環境も変わりました。SE/30はさすがに限界を感じて、会社の先輩からお古のPowerMac7500/100を買い取って使っています。これにモデムをつないで、ホームページを見ることもできるようになりました。糸納豆のホームページも良く見ています。他人の日記で、あれほど飽きずに読ませるのって他にないのでは?

 その他に良くアクセスするのは、宮澤さんのホームページです。文章だけで構成されていて、アクセスの速度が速いのが良いですよね。ミステリーを選ぶときのブックガイドとしても有効に使わせてもらっています。

 世の趨勢に違わず、私もミステリーを選んで読むようになりました。宮澤さんのHPのお陰で、しっかり京極夏彦にもハマっています。私の周辺では「途中で読めた」とかなり評判の良くない『塗仏の宴』ですが、私は頭の悪いのが幸いしてか、けっこうちゃんとビックリしてしまいました(笑)。しかし今後の展開には、ちょっと不安を残す終わり方ですね。私は、あのシリーズでは、『魍魎の匣』が一番好きです。私のミステリーの読み方は、謎の雰囲気を楽み解決の論理性などは二の次、という邪道なのですが、京極夏彦はその辺のバランスが良いですよね。因みに有栖川有栖は、謎に雰囲気がなくて、あっさりしすぎな感じです。逆に、二階堂黎人は「小学生が車を運転してしまう様な、昔の小学生向け探偵小説のノリ」と思って読めたので、わりと好きでした。綾辻行人は、もしかして「下手」なのか?って気がしてします。

 しかし、ミステリーを読み出してみると、SFと銘打たない本に「SFとして」面白い本が、かなり多くあるということが判ってきて複雑な気分です。「帯にSFと書くと売れない」という出版界の戦術なのらしいですね。でも、読んでいて「これはSFだよ」と思う本はけっこう多いです。SFは全然衰退してなくて、SFって書いてある本が少なくなっただけ。SFの拡散と言うヤツですか。これが「SFにとって」良いことなのか悪いことなのか、私が評価する様なことでもないのですけど、ちょっと悔しいなって気は、しますよね。


 最後に、「手紙」から続いてる話を少し書きます。一応、『ハイペリオン』ネタです。(本当は「今度の「手紙」はこのネタで行こう」と2年前くらいから思っていて、すっかりタイムリーじゃなくなってしまったというだけの話です(笑))

 私の新婚旅行はイタリアのローマでした。その旅でのことです。

 旅行も最後に近づいていた頃のこと、ホテルの寝床で、ふとローマのガイドブックを眺めていると、こんな文章が目に留まったのです。

「1820年11月、肺を病んでいた英国の詩人キーツは、」
「友人のセヴァーンとともにスペイン階段の角に建つくすんだ家にやってきた」
「ファニー・ブローンという若い娘への片思いに苦しみながら、」
「25歳で他界した」

 そうです。ローマと言えば、スペイン階段。スペイン階段と言えば、『ハイペリオンの没落』だったんですね。

 『〜没落』に登場した、イギリスの詩人キーツが息を引き取った家が実際にスペイン階段の脇にあって、今は記念図書館として解放されているらしいということでした。

 そこでさっそく翌日、行って来ました。しかし、場所はスペイン階段のとなり。観光地だけあって人が多く、『〜没落』のあのシーンの雰囲気を味わうことはできませんでした。おまけに行った日は図書館がお休みで中にも入れず。しかたがないので、周りをうろちょろして何枚か写真を撮ってきました。(そのときの写真を同封します(笑))しかし「英国の詩人キーツ」ではなく、SF小説に登場したキーツのクローン人間に思いを馳せて写真を撮る人が来るとは、図書館を作った人は思いもよらなかったでしょうね(笑)。

 横からキーツ図書館の写真を撮ってみて気づいたのですが、この家からスペイン階段を眺めることができる窓というのが本当にあって、『〜没落』のあの場面の舞台が実際にここにあるんだなあ、と思いました。不思議な感じでした。(もっとも、『〜没落』に登場したのは正確にはこのローマではないのですけれど)

 蛸井サンももしローマに行くことがあったら、スペイン階段の横っちょにある小さな窓に注目してみて下さい。もし図書館の中に入れたら、キーツの髪の毛や骨壷(!)が見られるらしいですよ。

 うーん、結局めちゃくちゃ時期をはずしてしまったしまったこの話、どうしようもないネタのような気もしてきました(笑)。

 因みにこのとき持ってたガイドブックは同朋舎出版と言うところから出ている「タビト」というシリーズで、マニアックなツボも押さえた、旅行後にも充分読める優れ物です。

 写真を同封することで手紙とする意義も生まれたし、もしかしたら『ハイペリオン』の第3部が出るってあとがきに書いてあったし。いつかこのネタがタイムリーになる可能性にかけることにしましょう。


 それでは、この辺で。

 蛸井サンも健康に気を付けて、お仕事など頑張って下さい。

1998.10.10 三木


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