お楽しみはこれからだッ!!
YOU AIN'T READ NOTHIN' YET !!

第6回 (無題)
 掲載誌 TORANU TあNUKI 118・119号
 (通巻第41号)
 編集/発行 渡辺英樹・渡辺睦夫・原科昌史/アンビヴァレンス
 発行日 1990/8/31


 先日生まれて初めて睦夫さんに電話をかけた。まあ、他愛のない話を延々としてしまったのだけど、その折、睦夫さんに「たこいさんは少女マンガはあまり読まないんですか」とか言われてしまった。

 とおんでもない。はっきり言って僕が最近フォローしている少年マンガなんて荒木飛呂彦(『ジョジョ』)と萩原一至(『バスタード』)とゆうきまさみ(『パトレイバー』)ぐらいなもので、僕の蔵書(笑)の中でも少女マンガの占める割合の方が少年マンガなんぞよりよっぽど高い。

 という訳で、本来ならばこのコラムの1ページ目は必ず荒木飛呂彦をとりあげることになっているのだが、今回はその宗旨(ポリシー)を無理矢理ねじ曲げて、少女マンガをとりあげることとしたい。ま、たまにはこーゆーのもいいでしょ。

「…それを、いいにきたんだ。
 おれが、もうずっと、3か月間、君の姿見つめてたってこと。
 そいで、横顔にみとれながらず──っと考えてた。
 きみはどんなひとなんだろうって」
「期待…、はずしちゃった?」
「ちがうよ。僕の…いいたいのはね。
 そんな風に毎日見つめて、どんなひとだろって想像したのは、マリコさんだけだってこと。
 想像の中身なんてどうだってよかったんだ」

 最近の僕のイチ押し。ぶーけ隔月連載逢坂みえこ『永遠の野原』シリーズ・VII「き・れ・い」より。それにしてもシリーズの3巻目からいきなり単行本(コミックス)の版型(サイズ)を巨大(ワイド版)にしたりするのはやめて欲しいと思っているのは僕だけではないと思ふ。


「まち子先生………。ほんとうはまだ椿先生のこと好きなんじゃないんですか…?
 でなければ……。あなたのいうとおり、わたしがボロボロに傷つくところを見たいんじゃないんですか?」

 実は前回『あどりぶシネ倶楽部』のはなしを書いていた時には、まだ『ママ』を読んでなかったんだけど、自分で指摘した細野不二彦の芸風(?)がこの作品では露骨に顕著だったので、読んでて呆然としてしまった(笑)。

 主人公、萩原行はいきなり高校やめて調理師学校に通い始めたかと思うと、なりゆきで暴走族となぐり合いしてしまったりするし、行が想いを寄せる子持のママ、江夏みさをは中学を卒業してすぐ結婚して子供産んですぐ離婚したというなかなか壮絶な経歴の持ち主だし、中学の時に義理の父親に強姦されそうになったという迫力のある過去も持っている。そのみさをの別れたダンナ、竹林賢はもとツッパリで今はキャバレーの副支配人か何かをしているし、現在みさをと交際中の保育園園長椿達彦は、学生時代、毎回違う女の子をとっかえひっかえ連れ歩いてディスコに通っていたという並大抵ではない遊び人ときた。加うるに主人公の両親はというと、大昔に離婚してるのだけど、父親というのが、泥酔して別れた女房を訪ねてくるや、いきなり「やらせろよ」などと口走る“人間のクズやお払い”だったりする。

 唯一マトモといえるのは、主人公に想いを寄せる元高校の同級生で女子大生の演劇少女、佐倉恵くらいのもの。

 メインキャラのことごとくが社会の底辺を這いずり回っている、考えてみるととんでもないマンガである(笑)。

 とはいえ、この『ママ』が『めぞん一刻』である、というのは読んだ人なら誰でも気づくところだと思う。五代−行、響子−みさを、三鷹−椿、こずえ−恵、といった案配。しかし、一見して『めぞん』を模している風に見えて、実のところ、これは細野不二彦の『めぞん』に対する絶縁状、アンチテーぜであるというのが正直な感想。

 ポルノとは、“信じられないくらいもてなしのよい世界に関するファンタジー”である、という言い方を昔聞いたことがあるが、その伝によるなら、高橋留美子の世界はどれもこれも例外なくポルノであるといっていいと思う。異星人や化物が出てこないから誤解が生じているのであって、『めぞん』の世界と『うる星やつら』の世界には実は毛ほどの差異も存在していない。

 対して、『ママ』の世界は決してもてなしがよいとはいえない。みさをは行の意思表示を拒絶しておいて椿との刹那的な交際の方を選択する。行はというと、恵の一途さにほだされて行きつくとこまで行ってしまう。物語全般を通じて、すんなりうまくいくこと、思い通りになることなんて一つもない。

 ほぼ同時期に同じ少年サンデーから『さすがの猿飛』『うる星やつら』で世に出た細野不二彦と高橋留美子の立場(スタンス)は今や雲と泥ほども違うものになっている。しかし、意地になったように現実を無視して雲の上で現実逃避を続けるよりは、現実を素直に見つめて泥をかぶる方がよほど潔いと、最近僕は考えている。

 台詞は椿に捨てられた保母のまち子とみさをの対決(?)より。この台詞に限らず、細野不二彦の登場人物の台詞には、時々、むき出しのカミソリのようにドキッとさせられることがある。機会があったら、またとりあげてみたいと思う。


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