お楽しみはこれからだッ!!
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第37回 “ドールマスター”
 掲載誌 糸納豆EXPRESS Vol.14. No.1.(通巻第30号)
 編集/発行 たこいきおし/蛸井潔
 発行日 1996/2/29


 どうも。最近インターネットWWWホームページ版の糸納豆にかまけててすっかり紙のメディア(笑)をおざなりにしてました(笑)。電脳化の進んでいない人たちには申し訳ないことです(笑)。

 因みに糸納豆ホームページには「お楽しみはこれからだッ!!」電脳総集編も用意してあります。今まで、毎回掲載誌が違うという発表形態(笑)のために作者以外の人間はほとんど通して読むことの不可能だった「お楽しみはこれからだッ!!」を一気読みすることができます(笑)。

 と、まあ、そういう話はこのくらいにして、久し振りに糸納豆誌上での「お楽しみ」。今回のテーマは「ドールマスター」。

「まあ、不幸な青年でしてね。運が悪いってのかなんてのか、苦労した挙句に難病患っちまいましてね。会社もクビ。ふんだりけったりってのか…。
 だがまあ、死ぬまでの何か月かはおだやかでよく働いてたそうですよ」
「ええ。…お幸せでいらしたのでしょう。
 よくわかります。少女
(プランツ)が荒れておりませんので……。
 さぞや大切に、愛しんでくださったのでしょう」

 台詞は「眠れぬ夜の奇妙な話」に連載中の川原由美子『観用少女(プランツ・ドール)』より。

 おそらく未来と思われる時代も国も不詳の世界。その世界の有閑階級の間には「観用少女(プランツ・ドール)」という娯楽があった。名工の手によって作られる人間とみまごうばかりの精巧な、生きた少女人形。育てるために必要なのものは、1日3回のミルクと週に一回の砂糖菓子、……そして主人となる人間の少女への「愛情」。


 と、まあ、そういう世界の枠組みだけ用意しておいて、あとは「観用少女」をめぐる人間たちの悲喜こもごもを描く。……という趣旨のシリーズな訳で、これが意外といい味出している。

 川原由美子は、どちらかというと長編をじっくり描き込むというよりは、小味の効いた短編の方に才のあるタイプの人だと思ってるんだけど、そのあたりが上手くハマった、という感じ。

 一時期佐藤道明と合作をしていた頃から、川原由美子の絵はなんとなく退廃的な雰囲気を漂わせるようになっていて、それもこの作品世界の雰囲気によくマッチしている。

「だってあいつん家、母親いるんだろ?」
「──いるけど、病気みたいよ。
 その辺の事情はよくわかんないけど。
 精神の病気なんだって。
 貴子の家ね。皆ある日を境におかしくなっちゃったんだって」

 「人形」をネタにしたちょっとオカルト風のシリーズ、と、いうことでもう一つ思い出したのが、LaLaの橘裕『人形師の夜』。この台詞はその第8話「最愛のあなたへ」から。

 『観用少女』では狂言回しとして、その街でただ一軒「観用少女」を扱う店の主人、というのが毎回登場するんだけど、『人形師の夜』ではその役は現世とあの世のはざまのどこかに存在する「人形師」が演じている。

 世界の枠組みは『観用少女』よりもっと直接的にオカルトで(笑)、毎回、何かしら果たせない思いを持った人間が、「人形師」の力でその魂を人形に宿らせて思いを果たす、というもの。魂の宿った人形は人間そのものになって行動するんだけど、依頼人は死者の場合もあれば、生者の場合もあって、けっこうなんでもあり(笑)。

 橘裕という人も大概短編型の人で、単行本で巻を重ねるような長さの長編は不得手、という感じ。

 こういう、狂言回しで世界の統一性だけは押さえてあとは自由に作品を作れるという環境は短編型のマンガ家にはいいのだと思う。川原由美子も講談社や角川を渡り歩いていた時期のなんとなく閉塞感の強い作品(『ペーパームーンにおやすみ』『あなたに逢いたい』など)と比べると『観用少女』は作者本人も楽しんでいる雰囲気がするし、橘裕の場合もデビュー当時から人気につられて現在まで続いてしまっている吸血鬼コメディ『もしかしてヴァンプ』のシリーズよりも、こちらの方がずっといい。

 という訳でその『人形師の夜』。思いを残して死んだ人間、というのが基本コンセプトだけにけっこうえぐい話(笑)が多くて、ここに引用した話も、病気の娘を残して家族旅行に行った一家が帰宅してみると娘は肺炎をこじらせて死んでいて、残された母親、父親、妹は罪の意識にさいなまれて家庭崩壊、死んだ姉は人形師の力で家族を救おうとするが……というような塩梅(笑)。

 しかし、この話でちょっと気になったのは、冒頭、母親がキッチンドランカーになってて台所は荒廃してごみの山、主人公の少女は毎日コンビニで食料を買い込む、という描写……これって、もしかして山本直樹『ありがとう』のパクリなんじゃあ(笑)?

 もちろん単なる偶然という可能性はあるけど、主人公の女の子の名前まで同じ(貴子)となると、流石にちょっと引っかかるぞ(笑)。もし、少女マンガ誌の誌上で意図的に山本直樹の引用をしたんだとしたら、こいつはいい根性してると思うんだけどなあ(笑)。


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