お楽しみはこれからだッ!!
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第31回 (沢千代さんご結婚おめでとうございます)
 掲載誌 沢村さん・範子さん ご結婚記念ファンジン
 編集/発行 森孝博
 発行日 1994/8/31


 えー。本日はお日柄もよろしく…、てな訳で“お楽しみはこれからだッ!!”連載第31回は沢村武結婚ファンジンにお邪魔させていただきます。沢千代さん&範子さんこの度は誠におめでとうございます。

 で、本日のお題ですが、まずは新郎より直々にリクエストのあった『海底人類アンチョビー』から入らせていただきます。

「いやー。あぶないところでしたなー。まさかあのオヤジ飛び道具までもち出すとは…。ケガでもしたらどーするんだ!」
「しゃあねーだろ。こっちは泥棒なんだから」
「泥棒とは何ですか! まるで私たちが悪者みたいじゃないですか!」
「ハマチ泥棒は立派な悪者だよ!」

 安永航一郎が増刊少年サンデーに連載している『海底人類アンチョビー』。あれはちょうど去年の9月のこと、沢千代さんととーるさんと山浦と僕の4人は沢千代さんの部屋で御自慢の100インチビデオプロジェクターなどを肴に宴会をしていた。その折、沢千代さんは部屋に転がっていた『海底人類アンチョビー』の単行本を僕に手渡すと「これは傑作なのでぜひとも“お楽しみはこれからだッ!!”で取り上げるよーに」といつもの調子でのたまったのであった(笑)。

 因みに、沢千代さんと範子さんのお見合いというのがその宴会からわずか1週間後のことであったということは後から知ったことである。人間、人生の岐路というのはどこに転がっているかわかったものではないことであるなあ(笑)。


 『海底人類アンチョビー』は安永航一郎版『海のトリトン』なんだけど、主人公の属するアンチョビー王国と敵側のホンダワラ帝国(このネーミングがな〜(笑))が近所のご町内でほとんどどつき漫才的な低レベルの戦いを繰り広げるという、出世作『県立地球防衛軍』とほとんど同じノリのいつもの安永航一郎のマンガである(笑)。

 ま、安永航一郎にはこの手の作品はいくらでもあって、悪のラーメン屋チェーン店と戦うそば屋の味方『叡智の人エイチマン』とか(笑)、謎の魔人が学問の神菅原道真を祭り帝大の完全破壊をもくろむ「帝大物語─梅と毒薬─」とか(笑)、瀕死の重傷から蘭学の秘術をもってよみがえった大江戸バイオニック与力「六百万石の男」とか(笑)、枚挙に暇がない(笑)。大体がタイトルの元ネタになった作品とは似ても似つかなくて、敵味方がどつき漫才的な低レベルの戦いを繰り広げる作品ばっかりだったりする(笑)。

 しかし今回いろいろ読み返してみて、のーてんきで行き当たりばったりでその場の勢い的な安永航一郎のマンガの主人公のノリって、東北大SF研史にさまざまな形で語り伝えられている沢千代さんの言動とオーヴァーラップする部分がなくもないかな、とちょっと思った(笑)。あ。でもこれは別に沢千代さんがのーてんきで行き当たりばったりだなんていいたい訳では全然なくって(笑)、のーてんきで行き当たりばったりなのはあくまで安永航一郎マンガの主人公たちなので、念のため(笑)。

「…………志穂村! すまん!」
「ど、どーしたのよ、急に!?」
「おれ、実は……、実は…
 地上げ屋なんだ!」

 この会話はやはり安永航一郎の「地上げ屋の女房」より。もちろんタイトルはともかく内容の面では『時代屋の女房』とは全く何の関係もない(笑)。

 就職難でとある不動産屋に就職した主人公夏木はいきなりマンション建設予定地に居残る旧家の立退き交渉を命じられる。ところがその旧家を訪ねてみると顔を出したのは高校時代の同級生志穂村さゆり。「いやー、実は地上げに来ました」などといえる筈もなく、かといって自分が降りればもっと物騒な連中が立ち退き工作に押しかけるだろうし、という訳で今日も志穂村家に出向いては草むしりの手伝いなどしてしまう主人公なのであった(こーゆー優柔不断なタイプの主人公は安永航一郎のマンガでは異色である(笑))。

 そうこうしているうちにさゆりから愛の告白(笑)をされてしまった夏木はついに意を決して自分の正体を告げる、というのがこの会話なんだけど、こりゃどっからみてもウルトラセブン最終回だよなあ(笑)。

 で、このあと志穂村家からはさまざまな遺跡が発掘されて文化財指定を受けてしまい、手も足も出せなくなった地上げ屋はめでたく倒産し(笑)、失業した夏木は今日も志穂村家で草をむしる、という実にほのぼのしたオチがつくのであった(笑)。

 安永航一郎には珍しくほのぼのしたロマンスが楽しめる本作品を新郎新婦にささげ、祝辞の代わりとさせていただきたい。沢千代さん範子さんご結婚おめでとうございます。


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