お楽しみはこれからだッ!!
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第3回 “ルーツ!”
 掲載誌 糸納豆EXPRESS Vol.7. No.1.(通巻第18号)
 編集/発行 たこいきおし/蛸井潔
 発行日 1989/8/19


 描いた時が載る時だッ! と、いう訳で無節操に掲載誌を変えるこのコラムも連載(?)第三回となりました。ぱちぱちぱち……。

 さて、今回のテーマは“ルーツ!”

「くらわしてやらねばならん!
 然るべき報いを!」

 やはり一ページ目は荒木飛呂彦でなくてはいけない(笑)。今回はきっちり10週で打ち切られた初の連載作品『魔少年ビーティー』。さて『ビーティー』のルーツはというと……。

「コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ!」

 言うまでもないですね。決まってますね。あれが『魔太郎がくる!!』のリニューアル以外の何だと言うのだ(笑)。

 もっとも僕もうっかりしてて、つい先日、古本屋で『ビーティー』の単行本を買ってきて読み返すまで、こんな単純な事実に気づかなかったのだからはっきり言って荒木フリーク失格です。僕は今、深く反省しながら『ジョジョ』の10巻を読んでいるところです。

 まあ、魔太郎と比べてみると、ビーティーはいぢめられっこじゃないし、普段弱虫な訳でもないし、金持ちだし、ただの悪党(笑)だけどね。

 しかし『ビーティー』のカバー裏で「ハンサムな主人公を描くと自分に似てしまう」と自信を持って断言している荒木飛呂彦ですが、ジャンプ巻末ページの自画像ははっきり言ってジョナサン・ジョースターその人なんだよね、これが。


 えーと、前回『BASTARD!!』のD・S(ダークシュナイダー)のルーツが岩鬼正美である、と書いたのでしたが、実はもっと露骨な肋骨に『BASTARD!!』の元ネタとなっている作品を見つけたので、早速、ネタにしてみました。

「ワ、ワ、ワ、ワト、和登サン。どーして、どーして、こわくないんだーっ。女のくせにーっ」
「それよりキミは、なんてだらしないのさ。男のくせに!」

 “アブトル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク。われとともにきたり、われとともに滅ぶべし”。いやー。しびれましたねー。少年マガジンを立ち読みして帰る途中、この呪文を唱えてた小学生の頃を思い出します。

「キミって奴は! ハラ立つとかアタマくるとかブチ殺してやるとかそーゆー気持ちが全然ないんだから!!」
「ヨーコさんはそ・ゆのありすぎなんですよ」

 主人公の少年は知恵おくれの精薄児。いつも主人公の世話をやいてる女の子は男まさりのしっかりもの。主人公の覚醒と封印の鍵はその女の子が握ってて、覚醒後の主人公は古代の魔法を操る悪のプリンス! そーですね。これ(『三つ目がとおる』)しかないわけです。

 和登サン、ヨーコが写楽保介、ルーシェを呼ぶ“キミ”という二人称代名詞も同じだし、覚醒後の写楽保介、D・S(ダークシュナイダー)のアナーキーぶりも似てるし、してみると、D・Sが“呪文”を使うってのも案外この辺から来てるのかなあ。

 昔、SFの本の3号で並木陽一郎が第三世代の新人(当時)SF作家の作品は今までの蓄積を使った“消費の文学”だとか何とか書いてたと思ったけど、マンガの世界にも同じ事が言えるのかもしれないね。

 それにしても『ビーティー』といい『BASTARD!!』といい、あれだけ明々白々なルーツを、しばらくの間全然見抜けなかったんだもんなあ。自信なくしちゃいますね(笑)。


「でもウォークマンは好きだがね。ビートルズのゲット・バックでも聴くか」

 来たッ!

 これが“ジョジョ”のルーツだッ!!

 天の配剤というべきか何というべきか、音楽にはまるっきり疎い僕のような人間には、ロックマニアの友人や後輩がいていろいろ教えてくれる訳で、“カーズ(カーズ)”“AC/DC(エシディシ)“ワム!(ワムウ)”“REOスピードワゴン(ロバート・E・O・スピードワゴン)”(連載第1回でレオ・スピードワゴンと書いたのは僕の誤解でした。ごめんなさい(笑))の話をはじめ、なんやかやと聞かせてもらってます。

 まあ“農夫ジェフ・バック”“鋼線(ワイアード)のベック”がジェフ・ベックだとか、師範代のメッシーナとロギンズが“ロギンズ&メッシーナ”だとかいうのは僕でも流石にわかりますけどね。(余談ですが、『BASTARD!!』に“レッド・ツェッペリン(エッド・ツェペリオン)”という魔法が登場してしまいましたね(笑))

 最近のその手の話で最大の大ネタは『ジョジョの奇妙な冒険』の“ジョジョ”の由来(ルーツ)がビートルズの“ゲット・バック”に違いない、という話でして、僕は全然知らなかったんですが、ジョン・レノンがオノ・ヨーコに入れあげてバンドの活動をすっぽかしてた時期があって、その当時楽屋オチ的に“ジョン、戻っておいで(ゲット・バック)”という意味で作られたのが当の“ゲット・バック”である、と。しかしそこはそれ、“ジョン”という名前をそのまま使っては露骨すぎるというか、カドが立つというか、楽屋オチ(シャレ)にならないというか、そういう訳で“ゲット・バック”は、“JOJO、戻っておいで(ゲット・バック)”と呼びかけているのだそーです。

 …と、いう話を聞いて「ほんまかいな」と思ったのはまだ昭和63年の暮れ頃。ところが元号が変わって、圧倒的な盛り上がりのうちに幕を閉じた『ジョジョ』“第二部ジョセフ・ジョースター─その誇り高き血統”のラストページでいきなり年をとったジョセフじいさんがウォークマンで他ならぬ“ゲット・バック”を聴いているではありませんか!

 それはさておき。

 第一部が終わった時同様、僕は第二部終了にあたって予想を立てました。

1 舞台はさらに50年後で現代日本!
2 主人公はジョセフの孫で日系人! 名前は、えーと、“ジョ”のつく名字と“ジョ”のつく名前……之内太郎! これしかないッ!!

 1は的中でしたね。2は、まあ、“じょうたろう”は当たってたからよしとしませう(笑)。しかし“空条承太郎”の父親でジャズ・ミュージシャンの“空条貞夫”ってのはやっぱりナベサダのことなのかなあ(笑)。(“空条”ってのも変な名字だけど、これはやっぱしS・キング『クージョ』なんだらうか)


「ねえ、あんた学校やめない? そしたら学費うくしさ。そのお金でぱーっと…」
「だめ。あたし義務教育中だもん」
「サバよむんじゃないわよ! あんた今度の1月で18でしょ。あたしがあんたの年には……」
「ママが30だってがんばるんならあたしだって13から年とるわけにいかないじゃない。世間体ってもんもあるし」

 くぼた尚子の魅力はやはりあの会話のセンスの良さだと思う。テンポ良くかわされるコミカルな会話と、一転してシリアスになった時の気の利いた台詞とのギャップとバランスが絶妙というか何というか、読んでて快感。この台詞は聖子シリーズ二作目。「自立のすすめ─聖子・17歳・1983冬」(『クリスマスのすすめ』に収録)の冒頭における主人公聖子とその母親にして人気少女小説家、妹尾藍子の間抜けなやりとりですが、てっきりくぼた尚子の創作だとばかり思っていたこの会話には、実はちゃんと原典(ルーツ)があったのでありました。

「君は最近の誕生日二回とも十八歳といったぞ、数学的に正確にいえば」
「だがそれはぼくの責任じゃない。母がいつまでも三十七歳でいる限り、ぼくは断じて十九歳にならないぞ、世間体も考えなけりゃならんし」

 いやー、僕もこの台詞を読んだ時はびっくりしました。これはサンリオSF文庫『ザ・ベスト・オブ・サキII』に収められた(現在はちくま文庫の『ザ・ベスト・オブ・サキI』に収められている)サキの短編「結婚媒介人」の中の一会話。この台詞を口にしているのはサキの一連の短編群に頻出する英国貴族の子息クローヴィス。このクローヴィスというのがとんでもない奴で、いつも他人に一杯喰わせることしか考えてない。口八丁手八丁というか、こいつの舌先三寸の面白さは、未読の方にはぜひ一読といわず再読、再々読をオススメします。(SFじゃあないけど)

 サンリオ版『ザ・ベスト・オブ・サキII』の発行は82年だから、明らかにくぼた尚子はサキを読んだ上でこの会話を流用しているんだろうけど、こういうのは盗作になるのかなあ(笑)。

 因みに前回もくぼた尚子には単行本未収録作が多いと書きましたが、聖子シリーズも、最終作である「春の空の灰色(グレイ)」(LaLa85年4月号)は未収録のまんまです。

 角川から出た短編集『たまさかにロマンチック』はけっこう佳作ぞろいでお買い得だったんだけど、よくよく読んでみるとくぼた尚子がLaLaで82年〜83年頃に発表してた中短編の再生産になってるんだよね(設定、シチュエーション、話の構成とか、どれをとっても)。

 僕の自宅の部屋はとーるさんから平岩を経由して引き継いだLaLaのバックナンバーで埋まりつつあるんだけど、そういう未収録作でおいしいのがけっこう多いのでうかつに捨てられないんだよね。(などといってたら角川から出た『Girls 女子高生危機一髪』に当時の作品の一つ「武蔵野幻想」が再録されてしまった。うれしいかもしんない)


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