お楽しみはこれからだッ!!
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第17回 “はっぴい・ぱらだいす”
 掲載誌 霧笛9
 編集/発行 五×嵐耕/五×嵐耕・五×嵐宏子
 発行日 1992/3/31


 あー、お久し振りです。“お楽しみはこれからだッ!!”連載第17回は御無沙汰の“霧笛”にお邪魔しま──す。

 なお、今回のテーマは“はっぴい・ぱらだいす”。

「OBの出席率がいちばんいいっていうのは、高校の部活としては問題ですよねェ!」

 台詞はもちろん『究極超人あ〜る』。

 春風高校の光画部というのは、サークル活動の理想の姿ではないかと思っていた。毎年個性的な新人が少ないながらも入部してくる。OBは卒業して何年たっても忘れずに顔を見せる。時間の止まった桃源郷なんかとは違って、ちゃんと時間が流れているのに、何年経っても変わらず、夢のように楽しい“ぱらだいす”。そう思っていた。

 ま、現実はキビシい。この僕ですらもはや仙台に帰省してもSF研の部室には顔を出さなくなってしまった。生活の場が変わったOBにはそれぞれ自分の生活があって、そうおいそれと過去の生活との接点を保つことはできない。まして年毎に面識のある後輩が一人また一人と減っていくとなると、その傾向に拍車がかかることはあっても、その逆はない。

 実は、一時期の東北大SF研の状態は、『あ〜る』における光画部の状態ととても似ていた、と僕は思っている。もっとも、ひょっこり顔を出したOBがすんなり現役に溶けこめるのは卒業後2年くらい、世代差にして5年くらいまでがぎりぎり限界のような気がする。そう考えてみれば『あ〜る』の光画部だって理想でも夢でもない。現実にあり得る一サークルの姿といってもいいのかもしれない。


 そんなことを考えてしまったのは、先日、『あ〜る』のOVA化に前後して久し振りに出たイメージ・アルバムを聴いたからだったりする。

 こいつはひどかった。

 かつて『あ〜る』の連載終了間際に作られたイメージ・アルバムは文句ない傑作だった。アレは、ゆうきまさみがマンガというメディアで『あ〜る』を描いたのと同じノリで、音というメディアで『あ〜る』を描くことに成功していたと思う。

 まあ、単行本の最終話のすぐ後という設定のOVAはそこそこ許せる出来だったけど、4年もたった(当時)今になって、何ゆえ『あ〜る』なのか、という印象を受けてしまうのは否めない。

 『あ〜る』の世界はリアルだった。どんな破天荒な展開を見せても、押さえるべき所はちゃんと押さえていた。リアルで常識的な世界の枠組の中で、非常識な事件が次々と起こるからこそ“非常識”の“非常識”さが際立つ。そういう“常識”と“非常識”の落差が『あ〜る』の面白さだったと思う。

 それに対して、今度のCDドラマは非常識な枠組の中で非常識な事件が起こるだけであった。世界そのものが破天荒だから、そこで何が起こっても不思議じゃない。なんでもあり。こーゆー世界観で描かれた作品は、同じ少年サンデーの中にかつて存在していた。『うる星やつら』である。

 新作CDドラマの『あ〜る』が『うる星やつら』化していたのには、脚本をかの千葉繁(メガネ)が書いているという理由もあるとは思う。とはいえ、あまりといえばあまりにも『あ〜る』らしからぬそのドラマを聴いているうちに、今頃になって『あ〜る』でもないもんだろう、という気分が強まってきた。

 『あ〜る』の世界は何年たっても変わらず夢のように楽しい“ぱらだいす”なんかではなく、正しく時間の流れるリアルな世界だった。だから今頃は鳥坂もさんごもあ〜るも、それぞれの生活をしていて、光画部の部室では後輩たちがそれなりに楽しい生活をしている筈なんだと思う。もっとも鳥坂やあ〜るは今でも部室で寝起きしてたりするかもしれないけど(笑)。それでも、4年前と何も変わっていない筈はない。

 サークル活動というのは、自分が現役で活動している時が最高に楽しい。だからその前後の期間、誰にとっても、“ぱらだいす”と呼べるくらいに楽しい時期がある。そこにいる時はそれこそ、その状態がいつまでも続くような気がする、楽しい“ぱらだいす”が。

 『あ〜る』というマンガは、光画部というサークルに託して、そーゆー一番楽しい“ぱらだいす”の時期を断片として切りとって描いた、そんな作品だったと思うのである。

「失礼しまーす。あ、先輩!!」
「…現役がOBの顔を全部覚えてるのって、楽描倶楽部(ウチ)くらいだな」

 台詞はわかつきめぐみ『月は東に日は西に』より。この作品もまた、美術部のはみだし者が集まってできた楽描倶楽部という一サークルを通じて、狂騒的な“ぱらだいす”の時期を描いた作品だと思う。これを読んでると、高校の頃部員3人+αの弱小美術部で部長といて駆け回ってた記憶がむずむずしてくる。こーゆーのには弱いんだよねえ(笑)。スペースがもうないので多くは語らないことにするが、とりわけ愛着の深いマンガの一つである。


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