お楽しみはこれからだッ!!
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第16回 “友情でもない、努力でもない、勝利でもない”
 掲載誌 TORANU TあNUKI 135〜137号
 (通巻第46号)
 編集/発行 渡辺英樹・渡辺睦夫・渡辺啓一・原科昌史
 /アンビヴァレンス
 発行日 1992/1/31


 “お楽しみはこれからだッ!!”の掲載誌でいちばん定期的にちゃんと出ているのはTTである。しかし単発のファンジンとかを渡り歩いてるうちにだんだん訳わかんなくなってきたなあ。ともあれ、連載第16回、今回のテーマは“友情でもない、努力でもない、勝利でもない”。

「そりゃ、あんたが三浦の姫さんで、だからみんな焼かれた!! でもそれがあんたの罪か!? 三浦の血に生まれたのはあんたの罪か!!?」
「そうかもしれないではないか!! 現に罪もない人達を死に巻きこんでしまった…!! 人を喰らわずには生きられない…わたしは…もう…、鬼じゃ!!」
「鬼で、どこが悪い…!
 だったら鬼になれよ!
 人を喰ってでも生きのびろ…!」

 今回は少年マンガです(笑)。

 と、いっても作者はれっきとした女性。岩泉舞「たとえ火の中…」(週刊少年ジャンプ1990年第25号に掲載)より。

 鎌倉幕府により滅ぼされた御家人三浦家の生き残り、出家していたために死を免れた少女、命蓮。幕府は一族を根だやしにするため、他の尼僧もろとも寺に焼きうちをかける。命蓮を救うため文字通り火の中に飛びこんだ少年、放助は、人にはない超常の力を持つが故に人里離れてひっそりと暮す“鬼”の末裔である。

 絵柄といい、話といい、高橋留美子のエピゴーネンといっていい作品ではあるのだが、高橋留美子のシリアスものの短編よりは、僕はこちらの方をかう。根っこにあるものが本家(笑)の高橋留美子より重いような気がするのである。


 少年マンガというのは、結局のところ“ガキ大将の夢”なんじゃないかという気が最近している。拳法ものにしろファンタジーものにしろスポ根ものにしろ、卓抜した能力と人間的魅力を兼ね備えた主人公が次々に敵を倒し成り上がっていくという構図で、ほとんどのマンガをくくることが出来るんじゃないか。何しろ卓抜した能力と人間的魅力を兼ね備えているので(笑)、そこにいるだけで親友や仲間が勝手に集まってくるし、主人公は成長というものを知らない。時折成長することがあるようにみえても、たいていの場合それは過去のトラウマの克服とか、能力の向上であって、非常に大味というか、おおざっぱである。また、この主人公は無垢な少年のような心(笑)を持っていることがよしとされる。“ガキ大将”と呼びたくなる所以である。

 ま、もちろん何事にも例外というのはある訳ですが(笑)。

 少年ジャンプ600万部の秘密、三種の神器ともいわれているのが“友情”“努力”“勝利”という3つのキーワードであるというのは有名な話であろう。それは一度戦った敵はみんな親友(笑)というガキ大将の“友情”であり、敵に勝つために自分の能力を高める“努力”であり、そしてガキ大将がガキ大将であり続けるための“勝利”なのである。なにしろ負けてしまったらもう“大将”じゃないんだから(笑)、ガキ大将は勝ち続けなくてはならないのである(笑)。

 こうして言葉にしてみるとこれがいかに非現実的かわかろうというもので(笑)、実に無邪気なものである。これは夢である。“ガキ大将の夢”である。

「こんな誘惑してさ、…ズルイぞっ!! ぼくは行かない!! 夢は夢だ!! こんなことホントじゃない!!
 ぼく達は今、おなじ夢をみてるだけだ!! 本当のぼくは弱虫で、薬が手離せない皮フ炎で、跳び箱も跳べないユージだ!! 迎えの船なんか来るわけないんだよ!!」

 岩泉舞一年振りの新作、「七つの海」(週刊少年ジャンプ1991年第22号掲載)より。絵柄が少し変わって、鳥山明的ペンタッチになった。独自の画風が確立されつつあるようにみえる。

 主人公の少年ユージは、ある日不思議な少年と出会い、一緒に遊ぶようになる。その少年は、ユージの祖父の少年の頃の願望の具現化した姿で、ユージの目にしか見えない。そんなある日、海から帆船に乗って“使者”がやってくる。使者は、勇敢な少年を「七つの海」の冒険へと誘うためにやってくる。それはユージと現実の(老人の)祖父がよく一緒に遊んでいたファミコンゲームの冒頭(オープニング)シーンそのままだった。

 ユージは大人になりたくなかった。だから祖父の“童心”と遊ぶのも楽しかった。でも優しかった保健の先生が結婚して学校を辞めると聞いた時、先生がとてもきれいだと思った。そして、自分が間違っていたことに気づく。

 ここにいるのは“ガキ大将”ではない。ここにはジャンプ的な“友情”も“努力”も“勝利”もない。あるのは、リアルな少年の一風変わった通過儀礼の物語である。ある意味で非常に反少年ジャンプ的、反少年マンガ的なこんな話をカラーページつきの鳴り物入りで掲載してしまうジャンプという雑誌は、実はものすごく懐の深い雑誌なのかもしれない。そんなことはないか。


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