平湯大滝 [岐阜県吉城郡上宝村]

Hirayu otaki



平湯大滝  明治時代、日本のアルプスを世界に紹介したウェストンは、この温泉にも立ち寄った。 大滝のことも「日本アルプスの登山と探検」に書かれている。 彼の本に出てくるような秘湯の姿は今の平湯にはもうないけれど、滝は昔と変わることなく流れ落ちていることだろう。
平湯大滝

訪問記
 12月に入り、寒い日が続くと、滝に行こうか迷う。思いきって出かけてみれば、来て良かったと思うものである。今年は名古屋から奥飛騨の平湯大滝に 訪問することにした。午後7時43分、名古屋発のワイドビューひだ19号に乗り、飛騨高山で泊まる予定を立てる。高山市から滝のある平湯はそんなに離れていないから、バスで往復し、 夕方には富山に抜けられる。少し遅くなるであろうが、富山から東京にもどるのはそう難しくないだろう。
 混みはしないだろうと油断していて、5分前にホームに駆け登ると、自由席はほぼ埋まっていた。それでも、かろうじて最後列の席が 空いていて座れたのは幸いだった。四両編成の特急であったのはまったく計算違いである。岐阜駅から高山本線に入ると、列車の進行方向が逆転して、 私の席は最前列となった。 高山本線に乗るのは初めてである。昼間なら、初めて見る風景を追いかけるのに忙しいことであろうが、今日は暗やみを進むだけだから退屈このうえない。 さっそく眠気も襲ってきた。温泉で有名な下呂に着いた時、目をさましただけで、次に眠い目を開けたのは終点の高山駅だった。列車を降りて改札を出る時 でもまだ半分夢見心地であった。
 翌朝、バスターミナルから奥穂高ロープウェイ行きのバスに乗る。始発バスで行くつもりでいたのが、もう一眠りと出発を遅らせてしまったのだ。平湯大滝を見て帰るだけ のゆったりとしたスケジュールであるから、今回の旅行にはまったく緊張感がない。定刻にバスは入ってきて、ほとんどいない客を乗せて出発した。 高山は飛騨の小京都、裏通りは古い民家が並んでいた。店頭に並ぶ民芸品に目がいく。高山といえば民芸品という連想によく一致する街ですっかり観光気分に浸った。 市内を流れる宮川の橋を渡り、商店街も終わった。
 国道158号線は高山市を後にして丹生川村に入った。赤トタン屋根の家々の並びは雪深い山村の趣がたっぷりで ある。古くからの建物に限らず、新しい家でも昔風の作りのままだ。もうじきこれらの家々の屋根にも雪の積もる季節が来る。
 バスはぐるっと道路の上の橋を越えて反対側の朴の木平スキー場に立ち寄った。ここまできても、まだ雪は積もるほどは降っていないようで、人工降雪だろうか下部の スキー場のごく一部だけ白くなっていた。朝ホテルを出た時から気になっていた、雨がいよいよ降ってきた。
 バスは平湯峠の下に掘られた平湯トンネルに入った。トンネルを越えると天候は雪に変わっていた。峠を下れば高原川上流に位置する平湯に出る。高原川は、高山市内を流 れる宮川と同じ、神通川の支流であるのだが、いくらか離れた谷を流れてから、富山県境で合流する。人の往来は、峠を越えてつながってきたから、奥飛騨温泉郷と名づけられた 一帯は高山の奥にあるという感じがするのであるが、富山側から登ってくれば、鉱山のある神岡などと同じ谷筋の最奥部となる。
 トンネルから先は急な下り坂となって平湯まで降りていく。まもなく平湯キャンプ場前バス停に着いた。
 バスを降り、雪のちらつく寒い道路へ出る。ここは標高1300mもあり、今の気温はかろうじてプラスだ。 大滝に向かうため道路を横断した。まだ操業していない平湯スキー場のすぐ横が入口となっている。薄く雪のつもった車道を登っていくと 、15分ほどで滝が見えてきた。
 樹木は雪を冠り、河床の石には雪が乗っている。葉も落ち、差し込む陽の光りも弱く、全体に黒っぽい冬景色の山のなかに 雪と滝の水のみが白く明るさを与えている。緊張したような静寂の中で、滝の落ちる音だけが激しく響いている。60mの落水は、もう結氷し はじめてていた。
 写真を撮っていると、だいぶ体が冷えてきた。降りも少し強くなってきてあたりは薄暗くなった。そろそろバス停にもどることにした。 停留所に着いた時、高山に向かうバスはちょうど通りすぎたところだった。追いかけようかと思ったがバスはもう峠に登りはじめている。 次のバスが来るのは、一時間はあとだろう。せっかく温泉まで来たのだから、このまま帰ることもない。 ひとまず温泉街に向かうことにした。雪の積もった車道を歩き始めた。
 バスターミナルは、 アルプス街道平湯というみやげ物屋の前にあった。すぐ手前にはビジターセンターもあり立ち寄りたいが、まずはバスの時刻を確認すること にした。それと、もう昼の時間に近いのだがまだ朝飯を食べていない。
 バスを確認すると、新宿に向かうバスがあることに気づいた。14時55分には松本行きもある。そういえば、さきほど滝からここに来る途中に、安房トンネルの入口があった。 いつだったか忘れてしまったが、このトンネルが開通したというニュースを聞いたような気がする。その時はアルプスのどこかにあるぐらいにしか考えなかったけれど、今まさにその場所 にいたのである。  もうひとつ忘れていたのは、ウェストンは笠ヶ岳の登頂を、地元の協力が得られないために諦め、この峠を越えていることである。そして槍ヶ岳に登った後、松本に下っているのである。 飛騨にいくという心持ちで出かけてきたから、長野のとの地理的関係は頭になかったのだが、峠をひとつ越えれば松本はすぐだったのである。 かつての、アルプス越えの難所も、トンネルができてしまえば難なく通過され、一年中いつでも行き来できるようになった。
 案内所で聞けば、松本まではバスで2時間ほどという。あずさにうまく乗り継げれば、予定よりかなり早い8時ごろには、もう新宿に着いているだろう。
  昨日、名古屋で富山までの切符を買っていたから、残り区間を乗らないのは少し惜しい感じはするけど、家に早く到着できるのに越したことはない。 松本行きのチケットを買い、バスの来るまでの3時間を、食事と入浴にあてることにした。
訪問のために

<地形図> 焼岳(2.5万分の1)
<交通機関>JR高山線、高山駅から濃飛バス新穂高ロープウェイ行きに乗車し約1時間、平湯キャンプ場で下車。徒歩20分。
高山に行く高速バスが新宿から運行されていて平湯にも停まる。1日6往復、所要時間4時間半とのことである。
<WEB> 平湯温泉旅館協同組合 奥飛騨温泉郷観光協会 高山北商工会 上宝支所 濃飛バス  飛騨高山民宿協同組合 高山市 観光情報
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