保育関連投稿アーカイブ

保育を拡充するにあたって一番のネックは、「先立つもの」です。現在以上の財政保障を取り付けるにはとにかく、保育の拡充が重要課題であるという、国民的合意が必要です。という意図でわたしの行なった、ネットニュースへの投稿のバックアップをこのページにアップロードします。(と言っても、1998年7月以降のだけですが) 保育についてあれこれ考えるページに戻る


oz wrote:
> 福祉行政に係わり、エンゼルプランの策定を進めているのですが、

この本は読まれましたか?
「地域からつくる子育てネットワーク」
        吹田の子ども総合政策づくり専門委員会編、自治体研究社
# 監修者が監修者なんで、マルクス主義の香りがぷんぷんするのがやや難

> アンケートを実施したところ、下記のような意見が寄せられました。

アンケート対象を完全に間違っているように見うけられます。結婚前後の
女性や、赤ん坊を抱えて育児期ただなかの母親(つまりエンゼルプランの
ターゲット)が、このようなことをマジで考えているとは思えません。

彼女たちが何で困っているのか、何を心配しているのか、きめこまかく
くみ上げることが、地方版エンゼルプランの鍵を握っています。

産婦人科に行くと、1,2歳児を連れた妊婦を多く見ます。のべつくまなく
甘いものを食べさせて子どもをおとなしくさせたり、母親が内診中に診
察室の外で泣き喚く光景をよく見ました。そんな歳の子供を検診に連れて
行っても、迷惑なだけなことは、当の母親も承知です。

子供を腹の上にのっけたまま歯を削られるなんて当たり前。育児雑誌な
どを見ていると、二歳児の傍らで開腹手術を受けたとかいうとんでもな
い例も出ていました。上の子どもの預け先がなくって、次の子を仕込め
ない、とかいう話も新聞で読んだことがあります。

ましてや、働きたい母親が好きに働けて、好きに子どもを産めるような
保育環境でもない。

> どうしても、母親が働きやすい環境づくりの事業ばかりが先行しつつあるようです
> が、皆様は如何お考えでしょう。ご意見をお伺いしたいと思います。

「母親を育児に専念させよう」という政策を取ってどんどん出生率を下げた、
かつての西独の真似がそんなにしたいのですかねぇ。

# 詳しくは剄草書房刊「なぜ出生率は下ったか-ドイツの場合-」をどうぞ。

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oz wrote:
> 幼稚園になると、お昼過ぎには帰ってくるので母親はどうしても仕事ができなくなる
> らしいですね。

それは昔の話です。私立幼稚園の半数弱が、共働きの親の要請に応えて、
夕方まで預かる「預かり保育」を実施しています。しかも預かり保育をお
こなう幼稚園は、まだ増加する傾向にあります。幼稚園児の八割は私立園
に通っていますから、預かり保育を受けることのできる幼稚園児は60万人
以上います。

このため三歳までは保育園に通い、それ以降は幼稚園に通う、共働きの親
を持つ子が増えています。今年の厚生白書にも出ていますが、三歳児のう
ち保育園に通う子は32%ですが、四歳以上では27%に減っています。

> どうしても、保育園<幼稚園的な思想が根強く残っているようで、仕事を辞めてで
> も、子どもを幼稚園に行かせたいと望む母親が多いようです。

幼稚園と保育園の枠組みはかつて、よほどの金持ちの子だけが幼稚園に通
い、よほどの貧困家庭の子だけが保育園に通っていた時代に作られまし
た。
それから半世紀近くが経過し、幼稚園も保育園も普通の家庭の子が通うよ
うになりました。自治省や総務庁から、「この時代遅れの枠組みを見直
せ」
とせっつかれ、文部省と厚生省は「幼稚園と保育所の在り方に関する検討
会」を発足しました。

いずれはスウェーデンやニュージーランドのように、幼稚園も保育園も統
合されることになるかもしれません。

> やはり、母親が働きやすい環境づくり(延長保育・学童保育など)を充実させること
> が必要なのでしょうか。

重要なのは、「母親だけに育児を押し付けない環境づくり」です。
学童保育も延長保育も、その延長に自然と出てくるものではありますが。

OZさんが、地域(兵庫県みたいですが)の育児事情をよく研究されて、育児
移民が来るような街になりますように。

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toda@med.niigata-u.ac.jp wrote:
>  民間企業である以上、会社の利潤を増やさないことはしたく
> ないでしょう。育児時間を必要とする女性社員は片っ端からク
> ビにしてしまいたい、というのが本音ではないでしょうか。そ
> んな社員に給料払うなら、亭主をサービス残業でこき使った方
> が金になるのですから。

ならば、子持ち女性の就労率の高い米国では、子持ち女性の就労率の
低い日本より、よっぽど企業の収益性が低いんでしょうね。さぞかし
米国の株価は低迷していることでしょう。
 
>  男性社員も「育児時間云々」と言いだしたら、片っ端からク
> ビにしたくなるのでしょうね。

能力が低いのに生活残業をするような社員の方が問題では。

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fj.soc.economyにもふります。

N Taki - Nihon Sun / CNC wrote:

> > ならば、子持ち女性の就労率の高い米国では、子持ち女性の就労率の
> > 低い日本より、よっぽど企業の収益性が低いんでしょうね。さぞかし
> > 米国の株価は低迷していることでしょう。
>
> ある特定の時点をとって、比較をしてもあまり意味はありません。
> 10年前なら「そのとおりです」という答えになりますから。

手元の株関連本をめくってみました。1980年代の株価は、日本で6倍、
米国は5倍になっています。ただし企業の収益は、米国では株価と同
程度伸びていますが、日本は株価の半分も伸びていません。バブルが
なければ日本の株価の伸びは、'80年代も米国に負けていました。

> それより本音はそうであることを前提に、逆に育児にかかる社員
> を雇用し続ける企業が不利にならないようにする策を考える必要
> があるのではないでしょうか?

生産性の低い社員はその分給料を下げる、というのが本筋だと思う
んですが。生産性の低い原因が、育児負担であろうが、本人の能力
であろうが。

社員の生産性を評価するにあたり、労働時間、勤続年数、性別など
の、アテにならない尺度を用いた非効率ぶりが、日本企業の低い
収益力を招いたのではないでしょうか。

> 極端にいうと、「育児休暇中の社員の給料の110% を政府が持つ」
> とかですね。もし、社会全体としてなんとしてでも、出産率を
> 上昇させようというのであれば、そこまで考える必要があるよう
> におもいます。

産休中や育休中の社員に給料を払う会社なんて、ほとんどないはず。
育休中の厚生年金/健康保険の掛金の、雇用主が負担する分を免除
しよう、という提案(本人負担分は既に免除になっている)が進行中
ですが、これが近いですかね。

> もちろん、社会全体と少子化対策に費やす費用の合意が得られな
> ければしょうがないですが。

もちろんです。現状では、少子化対策に税金を使うという合意は
得られていません。少子化対策のコストパフォーマンスに関する
議論も、まだまだ少ないですしね。

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N Taki - Nihon Sun / CNC wrote:

> > 生産性の低い社員はその分給料を下げる、というのが本筋だと思う
> > んですが。生産性の低い原因が、育児負担であろうが、本人の能力
> > であろうが。
>
> 経営的にみれば、それでいいのだとおもいます。
> ただし、その場合出生率の上昇がみこめるとは思えません。

いわゆる先進国の中で出生率が高いのは、北米と北欧です。

北欧の高出生率は、児童福祉に非常に多額の税金を投入してもたらさ
れています。昨秋、日本でスウェーデン並みの児童福祉を行なうと、
いくらぐらいかかるか計算してみたら、年間20兆円になりました。

# おまけにその後、円はスウェーデン・クローナに対して一割安。:-P

一方、北米では、母性保護も児童福祉も非常に貧弱です。その分、市
場原理が強く働きます。乳幼児死亡率は高いし、乳児の母親の過半数
が働いているというのに、保育事情はぼろぼろです。でも出生率は、
2.0程度あります。しかも、米国の白人の出生率も2.0程度あることか
ら、貧乏人の子沢山が出生率を引き上げているわけでもなさそうです。

現在の日本経済の腰の弱さを考えれば、少子化対策を考える上でモデ
ルになるのは、北欧より北米だと思います。ただし、北米の悪いとこ
ろは輸入しない、という条件がつきますが。

> 企業における評価って話はよろしいので、もし続けるのでしたら
> fj.soc.ecomoy に限定して新しくスレッドをたてるのは
> いかがでしょうか?

少子化対策を考える上で、経済ははずせない要因だと考えているので、
ニュースグループはこのままにすることにします。

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Hironobu Takahashi wrote:

> もちろんアメリカの好景気の要因の一つとは思うのだけど、あれだ
> けの株価の上昇がこれだけで支えられるとは思えないんです。どこ
> かに労働生産性についてのデータはないでしょうか?

世界経済白書に出ています。生産性は上がっていないとのこと。
ダイジェスト版はこちら:
http://www.epa.go.jp/j-j/doc/1997kaigai11-28.html

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N Taki - Nihon Sun / CNC wrote:

> よろしければ、なにかよい参考資料を教えていただけませんか?

米国(だけではないが)の出生率に関する研究:
「先進諸国の人口問題 少子化と家族政策」阿藤誠編、東京大学出版会
米国(と日本の)保育事情:
「保育園はいま」前田正子著、岩波書店
米国児童福祉事情:
「家族という神話」ステファニー・クーンツ著、筑摩書房
# 最後の本はまだ読み終わっていません。

> しかし、いったい北米では、どのような保育事情なのでしょう?
> ベビーシッターを雇うというのは聞きますが、フルタイムとい
> うわけにもいかないでしょうし・・

てっとりばやい情報源として、人口問題審議会の議事録を紹介します。

        http://www.mhw.go.jp/shingi/txt/s0926-1.txt

上のURLは、育児世代の母親を何人か呼んだ回の議事録です。ここには、
上に紹介した「保育園はいま」の著者・前田正子さんの発言が載って
います。前田さんは、米国留学中に出産し、保育園に子どもを預けな
がら研究をしました。現在は、第一生命系列のライフデザイン研究所
というシンクタンクで、保育問題を研究しています。

米国では、一部の高給取りの親を持つ子どもは、保育料が月に16万円
くらいで、保育の質もまあ良い(でも日本の認可保育園には劣る)保育
園に。彼女の子どもは、月8万円くらいの保育園に。ろくろく英語も
話せない移民が、保母をやって子供で英語を覚え、話せるようになった
頃には「まとも」な職に転職する。あるいは、不法移民や留学生を住み
込ませ、ベビーシッターをさせる。

彼女は帰国後、また保育園を探します。しかし、認可保育園は希望者
がいっぱいで入れない。川崎市の福祉事務所には、冷たく扱われる。
まともな無認可保育園にも入れない。ベビーシッターをフルタイムで
雇うと、月30万円ぐらいかかり、とても無理。やむなく、質の悪い
無認可保育園に子どもを入れます。

夕方子どもを迎えに行くと、表情が暗い。でも、夫にも実家にも、
「いい保育園だ」と嘘を付き続けました。本当のことを言うと、
「お前が働くから悪い。仕事をやめろ」と言われるのが自明だから。
この発言は、「日本で出生率が低下している背景があの言葉に凝縮
されていた」と、委員達の心を揺さぶったとのことです。

> ひょっとして不法就労などの低賃金労働者がいることが、実際的
> に保育事情をカバーしているのでしょうか?

そうです。

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