お遍路さんと共に

11/22〜25にかけて、久し振りに遠征に行って来ました
日記の更新も久し振りだったりします。


11/23 
  さて、交換用のフックも入手し終わり今度は新たなポイントを探す為に、川沿いに海の方へと車を走らせる。

  15分程走ると大きな水門を発見したので、車を停めて様子を見る事にした。
  すると水門の横で、作業着姿のオバサンが心配そうな顔で沖の方を眺めている。
  訳を尋ねるとオバサンは無言のまま指で川の中ほどを指差した。
  
  そこには誤って落水した一羽のカラスが、岸辺まで戻ろうと必死に泳いでいるのだった。
  話によると3羽のカラスが喧嘩しながら水門の壁に激突し、一羽が落水してしまったらしい。

  カラスは一生懸命もがいているが、水鳥でないカラスには思ったように泳ぐ事は出来ないようだ。
  秋も深まり水は手を切るように冷たい。
  このままではカラスの命もあと僅かの間しか持たないだろう。

  大急ぎでロッドに一番大きなトップウオータープラグを結び付け、フルキャストするがもう少しの所で届かない。
  何度も何度も投げてみるが、どうしても届かない。

  もう少しこちらへ泳いで来るか、流れに乗って近づいてくるのをオバサンと二人でじっと待っていた。
  そのうちカラスの体力も尽きて来たのか、たまに羽根をバタつかせる程度になってしまった。

  まだ届かない。
  もう少しだ。

  この辺りは川の流れが遅く、ジリジリするような時間が流れて行く。
  10分ほど経つと、ようやく届きそうな距離まで近づいて来た。

  渾身のフルキャスト。
  
  狙いが外れた。
  もう一度。そして何度も何度もキャストを繰り返した。
  そしてついにルアーをカラスの尻尾に引っ掛ける事に成功した。

  そおっとそおっとラインを巻き取る。
  少しづつ少しづつカラスを引き寄せる。

  そしてついにネットが届く所まで引き寄せる事が出来た。

  大急ぎで冷たい水から救い上げ、日差しの中にそっと置いてみる。
  大きさはハトを一回り大きくしたくらい。
  おそらく子ガラスだろう。
  
  子カラスは全身を硬直させてピクリとも動かない。
  目をまじまじと見開いたまま、反応する事も無い。
  
  全身ずぶ濡れのままでは体温を回復出来ないと考え、車からタオルを引っ張りだし
  子カラスの体を拭いてやる。
  体はまだ暖かい、まだ大丈夫だろう。
  しかし、全身の硬直は解けず瞬きさえしない。

  冷たい水の中に浸かり過ぎてショックを起こしているのだろうか。
  このままでは危ないと判断し、子カラスを抱えて車に戻り大急ぎで車のエンジンをかけ、ヒーターを最高温度に設定した。

  ヒーターからは猛烈な熱風が噴出す。
  私は子カラスの体をタオルで拭きながら、体全体を熱風で温めてやる。

  試しに人差し指で子カラスの足を開いてみると、ギュッと握り返して来た。
  大丈夫だ。

  しかし、まだ目は虚ろに開かれ体の硬直は取れない。

  まだだ、もっとだ。
  私は指を子カラスに預けたまま、熱風を体中に満遍なく吹き付け子ガラスが元気を取り戻すのを待った。

  そして10分程暖め続けた頃、突然私の人差し指を握る子ガラスの足にギュッと力が入った。
  私は思わず、「やった!!」と車の中で一人叫んだ。
  とうとう助ける事が出来たと私は思った。



  しかしその瞬間、子ガラスは頭をガックリと垂らし、私の手の中で生き絶えていた・・・・・
  あれほど硬直していた体も今はぐったりと柔らかい。
  瞬きさえせず見開いていた真っ黒い目も、今は瞼の下に隠れて見る事も出来ない。

  私は狼狽し、軽く胸を叩いてみたり、頭を撫でてみたりしたが子ガラスが息を吹き返す事はついに無かった。

  私はしばらくの間放心状態のまま子ガラスを抱いていた。
  そしてふと我に帰り、死んでしまっても私の人差し指をギュッと握ったままになっている子ガラスの足の指を
  一つ、一つそっと引き離し、助手席へと静かに横たえた。

  私は先ほどのオバサンにカラスが死んでしまった事を告げ、この不運な子ガラスを埋葬する場所を探す為に
  車を走らせ始めた。

  しばらく行くと、「展望台入り口」の看板を発見し、私はそちらの方へと車を向けた。
  自由に空を飛び回って来たカラスにとって、少しでも高い所が埋葬するのにふさわしいと考えたのだ。

  少しづつ冷たくなって行く子ガラスを抱えて、私は展望台の周りを歩いてみた。
  すると、展望台の一番先端に一本の桜の木が崖から枝を張り出すように生えているのを見つけた。

  私は桜の根元にうずたかく積もっている落ち葉を掻き分け、そっと子ガラスを横たえた。
  そして落ち葉をかけたその子ガラスの墓に、少しだけ祈りをささげその場を後にした。

  ここならば見晴らしも良い。
  子ガラスも満足してくれるだろう。

  不幸にも冷たい水の中で命を落としてしまった子ガラスだが、きっとこの木の栄養となり
  春には綺麗な桜の花になって暖かい日の光を浴びる事も出来るだろう。

  私に出来る事はここまでだ。
  私はゆっくりと展望台を後にし、車を走らせ始めた。
  


結局この事件の後は、釣りはしませんでした。
と言うか釣りをする気にもなれませんでしたね。

動物がけっこう好きなんで・・・

気になるのは、死ぬ間際に目に映った光景が、死ぬ寸前にまで怖い人間に捕まってしまった恐怖なのか
それとも何とか助けようとした人間が居たと思ってくれたのかです。

後者であって欲しいものです。