怪奇な夜


前日にシーバスやったのですが、バラシ一回のみの完敗でした。
本日は再挑戦です。
デジカメの電池が切れてて写真は無しです。


それよりも、ちょっと気になることが・・・・・



3月5日

 24:30 出発である。
       今日は釣りだけでなく、ある一つの目的が有る。
       背筋が寒く感じるが、今日は確かめに行かねばならない。

       外に出て見ると、静かに春の雨が降っている。
       粘りつくような湿気に包まれた暗い夜である。

       首筋を生暖かい風が撫でていく。
       水溜りに浮かぶゴミを吹き寄せ、何かの形に見えるようだ。
       管理人は水面から目をそらして車へと急ぐ。

       近くで、猫が鳴いている。
       街灯がつくる闇の中に、2つの目が煌く。
       近づくと物音も立てずに逃げ出す後姿が不吉である。

       何かを忘れたような思いにかられるが、そのまま出発する。

       かすかな霧の中、目的の場所に到着した。
       川特有の生臭い匂いがあたりに漂っている。
       なにかが腐ったような匂いも混ざっている気がする。

       昨日、この場所で管理人は、暗闇の中、鈴の音を聞いたのだ。
       チリン・・チリン・・・・・・・チリン・・チリンと、近くなり遠くなり、
       途絶えることが無かった。
       最初は猫の鈴かと思ったのだが、あまりに一定なのだ。

       人の気配は無い。
       周りには、鉄骨や鋼材がうず高く積まれ、あちらこちらに暗い影を形作っている。
       暗闇の中、工場の光がわずかに水面を照らし、怪しくうごめくように思われる。

       耳を澄ませてみる・・・・
       聞こえるのは、波にかしぐ船の音、
       わずかにそよぐ風の音だけである。

       鈴の音は聞こえない。

       ほっとして、管理人は釣りを開始した。
       まだ時合には早いのだが、気になって早めに出て来たのだ。
       そして、暗闇の中を一人、黙々とキャストを繰り返した。

       15分ほど釣っていると、後ろから見られているような気配を感じた。
       足音などは聞こえなかった。
       思い切って振りかえる・・・・

       何も居なかった。気配も無い。
       背後には、鋼材の織り成す暗闇が有るだけである。
       神経が高ぶっているようだ。

       雨は降り止まない。
       垂れた雫が、生暖かい生き物のように首筋をつたう。

       そして、間もなく・・・・

       チリン・・チリンと、鈴の音が聞こえだした。

       最初は遠くから、次第に近づく。
       また離れて行き、更に近づく。
       
       背筋を凍らせながら、管理人は音の出所を見定めようとした。
       しかし、暗闇の中、音の正体を見ることはできない。

       背後の鋼材の向こうで、音の出所は止まった。
       チリン・・チリンと音だけが響いてくる。

       管理人は意を決して、音の出所を探ることにした。
       片手に、拾った角材を握り締め、音のする鋼材の山へと向かう。

       すぐそばまでやって来た。
       その角を曲がったところから、鈴の音がする。
       何故か生臭い臭気が漂う気がする。

       角材を握る手に力をこめ、息を止めて一気に角を曲がる。

       とたんに、管理人は何かに足を滑らせてしまった。
       転倒を危うく免れ足元を見ると、辺りになにかヌルヌルしたものがこぼれている。

       鈴の音は・・・・

       今度は、管理人が釣りをしていた辺りから聞こえる。
       その先は小さな防波堤になっていて、その先は行き止まりである。

       そして、一歩を踏み出した。

       と、音が消えてしまった。

       暗闇の中、管理人は呆然と立ち尽くした。
       そして、後始末もそこそこに、別の釣り場への移動を決意したのである。

       次のポイントに到着した。
       ここは、人通りも多く川面を照らすライトも明るい。

       ひとつの橋脚を打ち、更に移動しながら次の橋脚を目指す。

       今日はイナの姿が多い。
       いつもは殆ど見ないのだが・・・・・

       メインの橋脚にたどり着いた。いよいよ本番である。
       周辺で一時間ほどキャストを繰り返していると、一段とイナの姿が増えてきた。
       コツコツとイナのスレの当たりが続く。

       そして10分くらい経過し、深めのレンジをスローに引いていた時にガツンと大きなあたり。
       瞬間にフッキングしファイトに入る。
       なかなか元気である。
       慎重にやりとりを重ね、ネットへと導く。

       58cm。スズキとは呼べないが充分なサイズである。
       そっとリリースする。

       この騒ぎの中でもイナの群は散らない。異様な多さである。

       ホっとした気分で、キャストを繰り返す。
       そしてまた、10分ほど経過した。

       上流から一段と大きなイナの群が下ってきた。
       何か大きなゴミを中心にして、水面が騒がしい。
       ゴミの周りでいくつもの波紋が広がる。
       このゴミをついばんでいるのであろうか。
       なんだか布でできた大きな塊のようにも見える。

       イナの群を目指して、数投キャストしてみた。
       コツコツとイナのスレ当たりを感じる。

       何投目だろうか。モアッとした感触と伴にゴミにルアーが掛かってしまったようだ。
       ルアーを巻き取ろうと引っ張ると、微かに水面にルアーが見える。

       ゴミの一方から、黒い海藻のような物が垂れ下がり、ルアーに巻きついているようだ・・・・・

       強く引っ張ると、ゴソっと抜けてきてルアーが帰ってきた。

       ルアーを手に取ってみようと巻き上げると、
       途端に辺りに腐臭が漂った気がした。
       黒っぽい繊維のようなものがフックに絡みついている。
       
       なんだろう・・・・・・

       はっと、管理人はあることに思い当たった。

       そして呆然としたまま、何も考えることもせずに帰り仕度を始めるのであった。
       


生暖かい春の夜には、いろいろな事が起こります。

一人で夜釣りをされるかたは、周りの気配にも気を配ってください。

鈴の音が近くで聞こえたら水面に浮かぶ怪しい塊にルアーを掛けたりしないように注意してくださいね。