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Higlasi-2Cの評価
個人業者が製造・販売している多機能なポータブル赤道儀。DPPAモードの搭載が特徴。現時点では完売という事で廃番となってる。
http://ndl2000.sakura.ne.jp/higlasi/
【追尾精度】
カタログ数値(±10秒角以下)と実測値との乖離が大きい。
あくまで測定器の値であるとのこと。
ウォームホイールとギアは市販品を使用しており、それらの仕様から想定すると、±10秒角以下というピリオディックモーションは、有り得ないと思うのだが。
バラツキが大きい。
ただしアルカスイス互換のシステムに変更して、長尺プレートでカメラ・レンズのバランスを取ると改善していった。
当初は雲台のカメラ台に直接カメラボディを留めていた。
雲台を一脚用のもの(SIRUI L-20S)に変更して、前後のバランスを取っただけでも大きなズレは無くなり、更に極軸部分のバランス(パンクランプをフリーにした時に回転しないようにする)を取ってやると、それなりの改善があった。
実際にカメラ・レンズを載せた場合に、極軸やウォーム部分、または筐体等の変位が影響しているのかもしれない。
ちなみにポラリエの測定では、Higlasiよりバラツキは小さかった。
カメラ・レンズは同一、三脚・雲台等はより脆弱というか、剛性の低いものであった。
▼平均と標準偏差
数値は半値(±)、単位は秒角
1〜22
雲台のカメラ台にカメラボディ直付け
23〜30
カメラとレンズの前後バランス取り
31〜40
極軸部分のバランス取り
X軸:測定回数、Y軸:ズレ角度(秒角)
明細
▼集計とロス率
[集計]は露光時間毎のズレを計り、所定のズレ角度に分類している。内訳の数字は回数。
[ロス率]は[集計]の結果に基づき、焦点距離別に括弧内の基準に収まっていないものを計算している。
実際の撮影ではインターバールの時間があるので、測定結果と同じにはならない。
Higlasiの雲台取り付け部は、標準仕様(板金加工)のまま。
測定方法は
「赤道儀のピリオディックモーション測定」
に記載した通り。
テスト機材
カメラ:ニコンD7000 → D90、レンズ:トキナーM100
三脚:マンフロット055XB、微動架台:テレスコ工作工房TK-ALZM2、雲台:マンフロット498 → SIRUI L-20S
▼ピリオディックモーション抜粋
X軸:時間((N-1)*10秒)、Y軸:ピクセル
一番上は、雲台のカメラ台に直接カメラボディを載せて南へ向け、子午線と赤道が交差する付近の恒星を撮影したもの。1〜22と同じ。
下三つは、極軸のバランスを取った上で、撮影したもの。31〜40と同じ。
【機能・操作性】
操作は煩雑である。
撮影時に取説持参は必須。
プログラムのバージョンによって若干動作が違う。
更新を自分で出来ないのは残念。
通常追尾時は停止すると開始位置に戻る。
常にホイールの同じところを使っていることになる。
所有している固体は、稀に特定のモードで不安定になることがあり、何がトリガーになっているのかは長らく不明であった。
追尾中シャッターoffから再開する時とタイムラスプモードで、誤って東西微動スイッチを押した場合に
逆転動作
が起こる。 後で気が付くと、撮影が全て無駄になってしまい、精神的にもダメージが大きい。 これがプログラムの特定バージョンに限定されたものかどうかは不明。
製造元には状況を伝えていたのだが、ずっと原因不明ということであった。 偶然測定時に気付き、原因が判明した。
製造元でも再現しているので、個体の問題ではないはず。
追尾中シャッターoff時に、露光時間やインターバル時間を再調整しようとする際、ディスプレイの文字がチラつくため、極めて見難くセットが困難である。
覗き穴の位置が分かり難い。
位置が悪い上(上端に無い)、背面の色が黒なので、暗所では穴を判別し難い。
雲台取り付け部が独特で汎用性に欠ける。
サイズが小さいので、雲台によっては固定ネジと干渉する。
極軸部に固定されており、フリーの状態にならない。
汎用の天文機材を装着できるようにして欲しかった。 改修しようとすると色々やっかい。
オプションのプレート雲台座も、雲台の着脱がし難い。
一定以上の精度で極軸を出そうとすると、DPPA用のスケールは必須。
DPPA後にカメラ・レンズを反転し、対象を導入したりすると極軸がズレるので、極望ステーとポラリエ用極軸望遠鏡も必要。 これが無いとズレの認識・修正ができない。
極望ステーにポラリエ用の極望以外のものを装着すると、鏡筒の保護スリーブが無いので、偏芯する可能性がある。
オプションの極望ステーは、西側にしか取り付けできない。
雲台ステージに取り付けることも可能なようであるが……
ドリフトモードはあまり意味が無い。
【強度・剛性】
テストの状態を鑑みると、剛性が不足しているのかもしれない。
上記のテストとは別に、雲台取り付け部をオプションのプレート雲台座に変更し、雲台を直付けした状態でも複数回測定してみた。 雲台の中心が2cm程度極軸中心からズレた状態である。 雲台の位置でカメラとレンズのバランスを取ってみたのだが、誤差とバラツキは上記の1〜22よりもやや大きくなった。 結果は平均±20.225″、標準偏差6.188″であった。
プレート雲台座にアルカスイス互換のクランプを取り付け、雲台を出来るだけ中心に寄せた状態で測ると改善した。 この場合の結果は平均±15.141″、標準偏差±2.638″であった。
すなわち極軸に掛かる負荷が低減すると、誤差が小さくなっていっている。 単なるウォーム部分の精度不足であれば、このようなことは無いはず。
DPPAをかけた時に
放射方向のブレ
が発生する。 特に外周側の上下のところが顕著。これが追尾にどれだけ影響するかはわからない。
【その他】
ポータブル赤道儀としては、やや重い部類。
極軸の位置が底板から離れていて、筐体の上側にある。 この形状だと荷重がかかった際に、変位が大きくなるのでは?
塗装色が暗色であるのは好ましくない。
ロゴマークの点滅も不要。
造りは簡素である。
塗装が薄く、工具が接触したりすると、すぐに剥げる
底板のネジ穴にカジリ発生。製造元で対処済み。
マンフロット410を使用していた時は問題なかったが、テレスコ工作工房TK-ALZM2のコマを数回脱着するとカジリが生じ、最後にはネジ山が跡形も無く削げ落ちてしまった。
雲台ベースが
変形
した。これはありえない。設計上の瑕疵だろう。
ずっとマンフロットMIDIボール雲台498を使用していたのであるが、これは雲台底部に段差がある。 底部径の小さい一脚用雲台に変更した際に気が付いた。 材の厚みが1mm程度しかなく、アルミ?で強度不足であるため、このようなことになったのだろう。 何故こんな仕様なのか理解できない。 他にも天文機材としては、理解しがたいところが散見される。
価格そのものは安価な方であるが、コストパフォーマンスが良いとは言えない。
WEBサイト、ブログの整理をして欲しいところ。分かり難い。
【まとめ】
追尾精度は焦点距離100mm、露出時間5分前後が限界。ただし少し許容基準を緩める必要がある。
カメラ・レンズのバランスを取っていない状態だと、対象によっては4分くらいの露出時間でも、かなりズレることがある。 バランスをきちんと取ることが肝要。
ズレ方にもよるがスタックすれば、さほど目立たない程度に収まるものと思われる。ただし星像は多少大きくなる。
これ以上の焦点距離になると、オートガイド(一軸)をするか、露出時間を縮める必要がある。
特殊というか独自性が強く、星屋の感覚からすると使い難いところがある。
また設置作業が煩雑なので、移動を繰り返しながら星景写真を撮るような人も向いていない。 星景写真主体ならポラリエのほうが良い。
開発者が充分と思っているであろう強度・剛性・精度等々と、天体写真の撮影で必要とされるそれらがズレているのではないかと思われる。 開発用途以外では、自分で使っていないのではという疑念がある。
購入以来いろいろトラブルがあったが、この手のガレージメーカーの製品だと、止むを得ないのかもしれない。 対処のため製造元と連絡を取り合うのは、企業のサポート部門相手とは違ったストレスがある。
追尾精度に限定すれば、とりあえず購入時の要件は、今のところ何とか満たせている。 ただしこれは、極軸のバランスを取った場合のこと。
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初出:2017-04-12 改訂:2017-04-26
(C)
YamD