■8・11 泊原発3号をめぐる院内集会報告

「稼働」の語義・規定を知らず説明できないのに
北海道知事に、泊3号本格運転開始は「再稼働にはあたらない」と強弁し、
なしくずし再稼働に突き進もうとする保安院―経産省―原発推進派
―――地元で反対する人々を応援し、泊3号本格運転再開を阻止しよう


1.泊3号再稼働に向けた経産相―保安院の策動

 定期検査中の玄海2,3号炉を再稼働しようとする経産省の企ては、首相が、保安院の安全基準だけでは信頼を得られない、と「ストレステスト」を持ち出すことで白紙となりました。

 しかし、玄海を止められた経産省は、泊3号炉が、定期検査中とはいえ「調整運転」を5ヶ月近くに渡って行っているため、これをなし崩し的に本格運転に移行させることに射程をすえることになります。

 ところで、この再稼働画策を地元の頭越しに経産省・保安院―北電の間でったため、無視された北海道知事高橋はるみが怒って、抗議と質問を出しています。

 それに対する8月9日の回答の中で、経産相海江田は、「営業運転に移行することは、運転の継続であり、再稼働にはあたらない」と述べています。

 常識で言えば、あるいは原発関係で普通に使われている語義で言えば「稼働」とは本格運転、営業運転の意味です。試験運転を「稼働」などと言った例を知りません。

 しかし、海江田は、泊3号炉は、すでに調整運転をしているので、そこから本格運転に移行するのは「再稼働」ではないと言明しました。―――そうであると、調整運転も「稼働」ということになります。

 8月11日の、対保安院、安全委との交渉で、「稼働」の意味をただしたところ、保安院は、その意味を説明しようとして自己矛盾に陥ってしまい、「稼働」の言葉は、電気事業法に規定されている正確な用語ではない(ので、この用語をめぐってあれこれ言うことは意味がない)などと言いだしました。しかし、そのあいまいで意味のない言葉をつかって、海江田経産相は、高橋知事に回答をしていることになります。

 ―――泊3号炉は、このようなでたらめな、根拠喪失の状態で、やみくもに本格運転に突入しようとしています。 

 この北海道泊原発3号炉の本格運転開始への動きに対して、上で触れたように、11日、衆議院第二議員会館で緊急の集会と政府交渉が持たれました。

 この日は、午後に原子力安全委員会(以下「安全委」)の会議が開かれて、泊再稼働を承認し、この日にも本格運転が決まるのではないか、という緊迫した情勢でした。

 そのため、この日の午前中に安全委および保安院と交渉をおこなうことを申し入れたものです。

 集会は、前日呼びかけながら、60から70名くらい(?)、関西美浜の会の有力メンバーなども参加して、保安院2名、安全委2名を相手に行われました。

 7月29日に、あまりに下らない発言を繰り返して時間をつぶした安全委の巣瀬もその一人であることが分かり、時間ばかりとられるので巣瀬は相手にしないことが事前の会議で確認されました。

 福島原発事故後、各地の原発が13ヶ月運転後の定期検査で次々に止まり、再稼働に不安を持つ自治体が多いため、商業運転中の原発は54基中16基となっています。原発なしにやってゆけることが、ますます明らかになってきます。

 そのため、焦りに満ちた原発推進派・経産省は、玄海原発再稼働によって、全国原発の再稼働への糸口にすることを目論んだものの、菅が、従来の保安院の基準では安心して貰えない、と「ストレステスト」を持ち出すことで、玄海原発再稼働は頓挫しました。

 その後、経産省が目論んだことは、定期検査中でありながら「調整運転」を続けていた(多分に違法性あり)泊3号炉を、「再稼働ではない」というこじつけで、そのまま本格運転に移行させることでした。この策謀は、菅が「ストレステスト」を持ち出した7月7日の翌日、すでに、経産省が北電に対して本格運転への検査を受けるよう指示していたことことから、玄海原発停止の動きと対立する形で、ほとんど同時期に始まっていたことが明らかになりました。

 九電や保安院の「やらせ」が発覚して行くただ中で、経産省は、北電泊3号再稼働の策動を進めていたことになります。

 泊3号炉再開をめぐって、政府内では、菅が、経産省のみの承認に反対して、経産省と安全委の「ダブルチェック」で抵抗しようとした模様です。泊3号は、「ストレステスト」で止めることが難しかった理由は後に触れます。

 交渉は10時半から12時半頃まで。
 その後、「ダブルチェック」(とマスコミなどにも報道され、多くの人がそう受け止めた)安全委が開かれました。

 ところが、この日の交渉の中で、安全委は、「自分たち安全委は、再稼働をチェックする権限を持っていない。今日の会議は、稼働に許可を与えるかどうかと言う会議ではない。ただ、保安院が出してくるものを見て、検査が厳正であったかどうか意見を述べるだけ」などと、午後の安全委の会議が意味ない会議であることを繰り返し主張し、安全委のチェックなどありえないことが明らかになりました。

 「安全の基準についてどういう考えで望むのか」「泊3号の調整運転についてどうとらえるのか」「泊再稼働をどう考えるのか」など安全委の見解をただしても、「保安院が出してくるペーパーを見て意見を出す。それを見ていないので意見を言えない」と繰り返しました。

 「無責任だ」「自分の意見はないのか」などの声も飛びましたが、いずれにしてもチェック機能があるように世間に対しても騙してきたことになるのだから、それでは、自分たちの会議が意味ないことを冒頭で表明せよ、とつめより、その約束をとっています。
 (発表された速記録を見る限り、このことは、まったく無視されています)

 再稼働については、政府・保安院と北電とが、地元道庁を無視して話を進めたことに、知事―道庁が怒っていて、そのため、稼働への合意に数日かかるということになり、この日の稼働承認は流れました。

 しかし、知事―道庁は、経産省・保安院の地元を無視した手続きに怒っているものの、再稼働を基本的に承認する立場なので、厳しい状況です。見る限りで、知事の抵抗は、自身が反対というよりも、このままでは地元で反発を買うことを怖れてのものに見えます。そのため、数日の時間をおいて(政府に抗議した格好を付けて)承認する危険は極めて高いものです。

 地元では、この8月1日、再稼働差し止めの訴訟を起こし、道庁や北電に対する座り込み、抗議などの闘いが組まれています。

 11日の交渉の場では、保安院の認識や、経産省から高橋知事に当てた回答書がでたらめな内容であることを、十全に暴きつくしました。

 この内容を、再稼働阻止の力にして貰うため、それを道庁に対しても、地元で闘っている団体に対しても直ちに伝え、現地での闘いに期待するところです。

 いずれにしても、泊3号は、5ヶ月近くにも渡って「調整運転」を続けるという異常な状態にありました(普通は一ヶ月ほど)。

 今回、経産省は、そこにつけ込んで、それをなし崩し的に(=「再稼働ではない」と強弁して)本格運転にもちこもうとしています。

 以下、この点をめぐる政府交渉のいくつかのポイントです。

2.8月11日の集会、政府交渉

 8月11日の保安院、安全委との交渉で我々が主張した根幹は単純です。
 定期検査中の玄海原発2,3号炉について、保安院の承認だけでは安心して貰えないという認識から、稼働前に「ストレステスト」を行うことになった。したがって、政府・保安院の見解を前提としても、玄海2,3号炉も、泊3号炉も、同じ定期検査中なのだから、再稼働前に、同じ「ストレステスト」を受けなければならないのは当然である―――こうしたことです。

 この「ストレステスト」は、停止中のものと運転中のものについて、別のものを想定し、前者を「第一次」後者を「第二次」などと区分しています。

 経産省―保安院は、この区分につけ込んで、泊3号は運転中なので、ストレステストは(運転前の「第一次」ではなく)運転しながら「第二次」テストを受ければよい(→事前に受ける必要はない)という論理に持って行きました。

 この論理は、もちろん、無理があります。 
 泊3号は、運転中とはいえ、本格運転ではなく、定期検査中の「調整運転」に過ぎません。

 にもかかわらず、定期検査中の玄海2,3号炉は、本格運転の前にストレステストを受けるため、再稼働を中止したにもかかわらず、同じ定期検査中(その一環として調整運転を行っている)の泊3号は、本格運転前のストレステストを必要としないで本格運転できるというのです。

 それに対する保安院の回答は、泊3号は、すでに運転しているから、というものです。 そして、泊3号を今動かすことは「再稼働に当たらない」ということも言っています。 ということは、今の調整運転も「稼働」なのか、ということになります。

 電気事業法では、13ヶ月原発を運転したら定期検査に入らなければならないと規定しています。これは、もちろん、本格運転開始からの期間で、調整運転の期間は含まれていません。しかし、保安院の言い方は、ときに、調整運転まで、この本格運転と変わらず、その中に含まれるような言い方にまでなってゆきました。

 この矛盾をついて、「『稼働』の意味、規定は何か」「『稼働』の『稼』は、稼ぐという意味だから、商業運転と同義なのではないのか、それとも違うのか」などと追及したところ、保安院は「稼働」の意味を答えられず沈黙してしまう有様でした。

 そして、保安院は、「稼働」という言葉は電気事業法にないもので、正確な意味をもたないので、自分たちは使っていない、というようなことを言いだしたのです。

 とんでもない墓穴を掘ったものです。
 経産相海江田が、北海道知事高橋に送った回答では、泊3号の運転再開は「再稼働に当たらない」という理由づけで正当化しようとしているからです。

 このでたらめさは、(政府の論理からいっても)結局、経産相―保安院が、(玄海を止めた理由を適用すれば)泊3号も、一度調整運転を止めた上で、玄海原発などと同様のテストを受けた上で再開しなければならないのに、それを誤魔化して、「再稼働ではない」といったところからでています。そのため、調整運転が再稼働なのかどうか、という追及にこたえられなくなってしまったのです。

 調整運転が「稼働」だとすると、13ヶ月毎に停止して定期検査を受けるというときに、調整運転の期間も13ヶ月に含まれることになるが、それで良いのか、といった質問などに、保安院は沈黙を繰り返しました。

 この後、別の論点でも保安院、安全委への追及を行っていますが、交渉の後半に福島瑞穂議員が参加し、「前半の論議に参加していないが、概容を聞いた内容から」ということで、保安院に対して、

 「定期検査中の玄海原発は、これまでの検査基準だけでは安全ではないということで再稼働を中止したのだから、定期検査中の泊3号も、再稼働に当たって同じく安全ではないということになります。私の理論はどこか間違っていますか。間違っているところがあれば反論して下さい。反論できないなら、泊3号を、まず一度止めて下さい」 と激しく詰め寄りました。

 福島議員が、幾度も同じ内容で問い詰めても、保安院は、答えることができず、沈黙が繰り返されました。

 そして、後の方で保安院がいったことは、「運転しているということで、玄海原発とは違う」というこの一点だけでした。

 「定期検査中の運転だろう、誤魔化すな」などの声が飛び、福島議員も「ずるして調整運転を5ヶ月もやっていたということなのだから、まず止めるということ以外にないはずです。どこか間違っていますか」と繰り返し追及しました。


 こうして、保安院は、泊3号を、玄海などと同様のテストを受けずに再開する正当な理由を述べられず、沈黙する状況の中で、交渉は時間切れとなりました(30分だけという保安院、安全委の意向を2時間ほどに引き延ばしましたが)
 

3.経産省―保安院が「つけ込んで」来た
  「二つのストレステスト」という「弱点」 


 玄海原発再稼働が問題になっていたときに、菅は、これまでの保安院の定期検査、緊急安全対策だけでは信頼を得られない、と「ストレステスト」を持ち出しました。

 これは、その後、定期検査で停止中の原発への「第一次ストレステスト」と運転中の原発への「第二次ストレステスト」の二種類を行うものとされています。

 ―――しかし、上の内容にはおかしいところがあります。
 停止中の原発について、従来の検査では安全性の信頼を得られない、というなら、従来の検査で動いている原発も、安全の信頼を得られていないことになります。そのため、いずれかの時点で「第二次ストレステスト」を行うことになりますが、それまでは安全の保障がないことになります。

 この矛盾は、菅が、玄海再稼働を止められるなら何でも良い、という感じで、「ストレステスト」の存在に気づき、持ち出したと思われるところにあります。従来の検査で信頼を得られない、と評価した以上は、全原発を止めなければ、一貫性はありません。

 しかし、直ちにここまで課題を広げた場合にどうなるのか、その方が良かったかどうかはさておいて、菅は、この武器を、とりあえず玄海原発を止めるために使いました。

 このとき、運転中の原発をどうするのか、同時に方針化しなかったために、「二つのストレステスト」という矛盾を残してしまったことになります。

 これは自己矛盾であり、敵に付け入る隙をあたえたものです。とはいえ、これは副次的な面で、再稼働について、従来の基準では信頼を得られないとして、より高いハードルをもちだした積極的意義は主要面です。

 今回、経産省―保安院は、この弱点に付け入って、調整運転中の泊3号を、「本格運転させておいて、いずれ第二次ストレステストを受ければよい存在」の側に滑り込ませ、運転再開することを目論んだことになります。

 追及する際に、原発反対の側のこの弱点は残ります。当日、保安院は、このことを念頭に置いて、「ストレステストは電気事業法にあるものではなく、法外の問題なので、最後は政治判断」などと逃げようとしました。

 しかし、それに対して、我々は、「保安院としての考えがあるはずだ。規制機関として、問題があるなら閣僚に対しても意見をいう義務がある。自分の考えを述べよ」と追及し、保安院は沈黙状態になりました。

 この追及の仕方で、上の「弱点」に影響されるところから抜け出たものと思います。
 (ほかの論点を省略しました。あしからず)
                            とりあえず