相対論のほころびに関する最近の議論

 

2001年2月24日

 

最近、御専門の先生方の間でも相対論に破れがあるのではないかというテーマについて、真面目に議論され始めているようである1)。これは、あるべきはずのGZK cutoff2,3)と呼ばれる現象が未だに観測されないからであり、ローレンツ対象性が破れている可能性があるのではないかと指摘されている3)

3K放射」が銀河系外にも存在するのであれば、この3K放射の光子と高エネルギー陽子との反応は、陽子エネルギーが約1020eVで、パイ中間子を作る閾値に達するので、それ以上のエネルギーにおいては、平均自由距離(素粒子が他の物質と反応を起こさずに飛行できる平均距離)が急速に短くなる。このことに注目したKenneth Greisenは、1966年に、「宇宙線のエネルギースペクトルにはカットオフが存在するはずである。」という指摘を行なった4)。その後、ソビエトのGeorge Zatsepin とVadim Kuzminが同じ考え方に至り、今日では、このカットオフ現象は3名の頭文字をとってGreisen-Zatsepin-Kuzmin(GZK) cutoffと呼ばれている。

ところが、あるべきはずのカットオフ現象が観測されないという事態が生じているらしい。低エネルギーで確立されている光核反応が、単に高エネルギーの核反応にローレンツ変換されただけなのに、GZK cutoffが観測されないというのである。したがって、これが成り立たないということから考えると、ローレンツ対称性が破れているのではないかという考え方は非常に妥当である。もしローレンツ対称性が破れているのであれば、「やはり、宇宙は絶対系なのではないか?」という考え方が最有力候補に浮上するのではないだろうか。したがって、絶対静止系上で光速不変を満たす理論について、真剣に議論すべき時期が到来したと考えられる。

 

 

引用文献

1)  手嶋政広:最高エネルギー宇宙線の起源をもとめて(岩波書店、2001年)、科学 Vol.71、No.2、p139

2)  高橋義幸:超高エネルギーのフロンティアはいかに開発されてきたか(岩波書店、2001年)、科学 Vol.71、No.2、p128

3)  佐藤文隆:相対性原理と超高エネルギー宇宙線(岩波書店、2001年)、科学 Vol.71、No.2、p183

4)K.Greisen:End to the Cosmic-Ray Spectrum?、Physical Review Letters、16、748、(1966)

 

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