エスニック

性フエロモンとダイセツドクガ



秋に入ると、登山道のあちこちで、灰褐色の長毛を装った体長約3cmほどの幼虫が、もこもこと歩きまわっているのが観察されます。ダイセツドクガの幼虫です。“毒蛾”といっても、指先ですこし触れるだけで体を丸めて動かなくなる無害の幼虫です。 しかしその繁殖力は達しく、コマクサを唯一の食草としている単食性のウスバキチョウとは違って、ウラシマツツジ、チシマツガザクラなどツツジ料をはじめとするかなりの高山植物がその食卓にのぼっています。 越冬した幼虫は、6月上旬ごろ石裏や側面に繭をつくって蛹化します。6月下旬になると羽化がはじまりますが、この季節になると、花の香りに満ちあふれた礫原地で、すさまじい光景が展開します。どこからともなく出現する雄は羽化したばかりの1頭の雌に次々と飛来して来るのです。私の観察例ですが、わずか10分間たらずで50頭を越す雄の飛来を観察したことがります。時には、まだ繭の状態の雌を執拗にとりまいて興奮して羽ばたく雄を観察することもあります。 これは、雌の蛾の発する性フエロモンによって誘引された雄の生命への限りない自然劇なのです。                          
                             (保田 信紀)


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