| 雲間を飛ぶ紅色の蝶、いかにも高山を優美に舞う蝶にふさわしい名前です。クモマべニヒカゲは、荒涼とした礫原地に住む同じジャノメチョウ科のダイセッタカネヒカゲと異なり、五色ケ原や黒岳9合目のような高山雪潤草原のお花畑を、それこそ流れるように飛翔しています。ヒカゲチョウとは日陰蝶のことで、黒褐色の羽に鮮やかな紅紋を印しています。 本種は大雪山の高山蝶の中で最も遅く出現し、成虫は7月下句〜8月上旬頃に観察されます。その周年経過は、8月上〜中旬に産卵、越冬、翌春にふ化し、ミヤマクロスゲ、リシリスゲ、イワノガリヤスなどを食草として成長し、4齢幼虫(渡辺:1985)で再び越冬、そして3年目にようやく蛹化、羽化して蝶が現われてくるのです。 北海道では大雪山(南限は富良野岳・保田:未発表)と利尻山のみに分布しています。以前には、生活環境全経過を高山帯で過ごす真正高山種と考えられていましたが、最近の調査では、森林帯の高山帯類似の環境の所にも生息していることが判明してきました。その最もよい例が黒岳のリフト周辺です。ここではリフトの開設により、人為的な高山帯的環境(草原)が形成され、過去には存在しなかったクモマべニヒカゲの個体群の定着が観察されるようになりました。 (保田 信紀) |